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#357 対スマトルの方針

 


 新年早々に、4カ国の国王達が集まった会議室は、オブザーバーの王族を含めて通夜の席のように静寂が漂っている。


 「その話は…真なのか?」

 エントラムズ国王がトリスタンさんに再度確認するように呟いた。

 「間違いありません。スマトル王国は隣国を吸収した後、前にもまして発展しています。その政治形態は戦闘国家として国民皆兵の思想の元に中央に集約されています。」


 「国民皆兵なら…誰が田園を維持しているのですか?」

 「奴隷です。大河の上流に位置する民族を平定して、田園経営をさせているようです。」


 「全く…思いも付かぬ事をする。…で、スマトル50万の大軍を知って、我等は軍縮の相談とはな。ここは軍拡を目指すべきではないのか?」

 アトレイム王は、一気に軍拡を推し進めて、スマトルに攻め入る事を考えているようだ。


 「もう1つの情報は、スマトル海岸線に構築された防壁です。我等が軍拡を進めようとも、精々数万…。強襲してスマトルを下すには防壁を破らねばなりません。敗れねば…我が連合王国は滅びます。」

 「破ったとしても、10倍以上の敵がおる…。」


 「戦を避ける方法は考えられないのですか?」

 サーミスト国王は、和平派だな。

 「スマトルの出方次第だな…。何を我等に要求してくるか…。」


 「…とまぁ、このような話になっておる。ミズキよ。良い案があれば教えて欲しいのじゃが…。」

 収集の付かない会議に嫌気が差したアテーナイ様が姉貴に発言を求めた。

 各国の王族の目が姉貴に集まる。


 「私達の国より遠い国で遥か2千年も前の話です。スパルタと言う王国がありました。その王国は、国民より奴隷の数が多かったのです。反乱を恐れた国王は国民男子を全て兵隊と術く、6歳で親元から離して軍隊の訓練を行ないました。

 小さな国でしたが、長く独立を守っていたのです。

 最後は、数万の敵軍に僅か500で数日間足止めを行なって滅びました。

 その数日間で、周辺諸国が団結して大軍となり、攻め入ろうとした数万の敵軍を退けたのです。

 幼少から厳しい訓練を科したこの国の教育を、今でも私達はスパルタ教育と呼んでいます。

 もし、このようなスパルタ教育をスマトル王が国民に科したとすれば、その軍事力は我等が考えるよりも遥かに高いものになります。

 選択肢は3つ。

 逃げるのも1つの方法でしょう。アクトラス山脈の北に新しい国を作る。

 戦をするのも1つの方法です。血で血を洗う戦争が始まります。

 もう1つは、降伏するのも方法です。ただし、有力者は全て殺戮されるでしょう。彼等には反乱を起こす要因となるものは全て断つと予想できます。そして、新たな征服先の部隊として国民は徴用される事になります。」


 「確かに、その3つの選択肢が我等には残されている。

 じゃが…、ノーランドはノーランドの物じゃ。我等が新たな征服者にはならぬ。

 そして、降伏する事で国民が新たな戦の尖兵となるのは、我等の扶持が許さん。何のための王族ぞ、何のための軍ぞ…。」

 「そう考えれば、我等に残された手は…。迎撃という事になる。海岸に防壁を築いていては、スマトルに攻め入る事は兵を磨り潰す事になりかねない。」


 「では、スマトル軍の攻勢に対して我等は迎撃で措置するとして良いですね。」

 トリスタンさんの言葉に3国王は大きく頷いた。


 「後は、軍の差を如何に縮めるかという事になりますね。

 敵は50万…対する連合王国の全兵力は近衛兵を入れても1万程度になります。

 これでは、戦いの結果はみえておりますわ。」

 「そこじゃ。それについての意見をミズキに聞きたかったのじゃ。」

 イゾルデさんの言葉にアテーナイ様が言葉を重ねた。


 「軍を増やすのは簡単ですが、国力が低下します。折角、連合王国として将来の国造りを始めようとした矢先に大幅な軍拡を行う事は賛成しかねます。

 とは言え、戦は数の勝負とも言われます。1万ではあまりにも少なすぎます。やはり若干の増員が必要と思われます。」


 「やはりのう…。で、増員規模は5万か、それとも10万か?」

 「5千で十分です。」

 

 「何じゃと?…たった、1万5千で何が出来るのじゃ?直ぐに飲み込まれるのがおちぞ!」

 「正規軍の規模は1万5千。でも、民兵を5万程度に増員します。更に、ハンターの動員を行なえば3千人程度の猟兵部隊が出来上がります。

 全部で約8万…スマトルがどの程度の軍で攻め入るかは不明ですが、全軍とはなりません。奴隷の反乱を防ぐ事は大事です。多くて半数…私は20万を想定します。」


 「正規軍は分る。ハンターを軍組織にするのも容易だろう。しかし民兵とは如何なる物だ?」

 「国民男子の20歳から30歳を目安に、クロスボーの訓練を行ないます。弓より扱いは面倒ですが、防衛戦では絶大な威力となるでしょう。これで、町や村の防衛を行なうのです。

 正規軍は敵の背後から奇襲して殲滅する事に特化します。」


 「クロスボーの使い方だけを教える訳じゃな…。1週間もあれば十分じゃ。その後簡易な軍事訓練をしても、農閑期に行なえば容易じゃろう。僅かでも給金を払えば反対する者もいないはずじゃ。」

 「クロスボーとボルトを量産しなければなりませんな。」

 「それは、工房に依頼すれば容易いこと。それで5万の弓兵と同様の働きが出来るなら十分じゃ。」


 「流石ミズキ殿じゃ。我等は覚悟をせねばと思っておったが、今の話を聞いて少しは安心してきた。今の話を直ぐに実行しようと思うが、追加することはあるか?」


 「あります。海軍を作るべきです。少数の海賊取締りや、密輸を防ぐ為の船はありますが、大規模な軍船はありません。

 スマトルはテーバイ戦では1万隻に近い船を持ち出して来ました。

 海上で少しでも数を減らす事が出来れば、陸上での戦いは遥かに容易になります。」


 「我もそれは気に病んでおったのじゃ。商船を改造して数隻の軍船は作れよう…。じゃが、船の戦は数で明確に決まるのじゃ。精々10隻程度を運用しても意味が無い。」


 「足が速い軍船を5隻。敵の追撃を振り切れる船が5隻あれば、アキトが考えた小型の船を15隻造る事で敵の軍船に打撃を与える事が出来ます。」

 「足の速い軍船とは…囮船か。すると、アキト殿の作る船とは…?」


 「水中を進む船です。」

 「「「出来るのか?」」」  

 

 全員が俺を見た。

 「まぁ、出来るかな…。と言うところです。実際には作ってみなければどの程度使えるかが分りません。」

 「是非造ってみてくれ。サーミストが造る手助けをしよう。」


 サーミストが造るとなれば、例のトローリング船も一緒に作ってもらおう。

 そんな事を考えていると、何時の間にか会議は終了していた。

 

 残ったのは、モスレム王家の一族だ。

 「しかし…、アキト殿の忠告が無かったらと思うとぞっとする。何とかなりそうで心強い限りだが、例の歪みの除去をこの戦の後にする訳にはいくまいか?」


 「先行してユング達がククルカンに向かっています。何かと寄り道しながら進んでいますが、歪みの除去は2つ同時で行なう必要があることをバビロンの神官が示唆していました。ユング達と連携を取って我等は歪み除去を優先したいと思っています。」


 「となれば、後数年で軍を編成し直さねばならん…。それは協力して貰えるかい?」

 「もちろんです。その時には優秀な指揮官が誕生していると思いますよ。」


 「それで、そろそろ、亀兵隊をフルイに掛けたいのですが…。」

 「そうじゃったな。場所は前に告げた場所を使用すればよい。教導隊を編成して彼等に協力を頼むが良いじゃろう。婿殿が作ろうとした徽章は出来ておるぞ。複製は出来ぬと工房が自信を持って言いおった。後で館に送るゆえ、上手く使うが良かろう。」


 俺達は、王族に頭を下げると王宮の会議室を退席した。

 そして、早速エイオスに使いをやる。

 後は適当な人選をしてやってくるだろう。


 姉貴の元には、神殿より箱が届いていた。包みを開けると教科書だ。

 姉貴の教えを本に出来るとは思えないけど、一応それらしい事が書いてあるんだろう。

 俺は、読むと混乱しそうだから止めておくけどね。

               ・

               ・


 次の日、姉貴はサーシャちゃんとミーアちゃんを連れて士官学校に出掛けて行った。

 その後ろを重そうに、ノイマン君とカント君が荷物を持って付いていく。

 俺達の警備兵という事だが、何となく便利に使われてる感じだな。


 俺とディーそれにリムちゃんの3人で、のんびりとリビングでお茶を楽しんでると、アテーナイ様とダリオンさんがやって来た。


 アテーナイ様達が席に着くと、タニィさんが早速お茶を出してきた。

 「リムも士官学校に行くが良い。先程トリスタンがモスレムの候補生を選択した。

 サーシャ、ミーア、それにリム。後は、クローネにフェルミじゃ。」

 

 ガタンと椅子を鳴らして、リムちゃんが立ち上がる。

 「行って来ます!」

 タタターっとリビングを駆け抜けていく。

 さっきまでちょっと寂しそうだったからね。やはり何時もの皆と一緒にいたいに違いない。

 「気遣いしてもらって済みません。」

 「何…。リムも大きな戦を2度も経験しておる。戦闘の中を何度も補給の任に付いたのじゃ。そして、確実に荷を届けておる。優秀な士官じゃよ。」

 確かに、仕官には色んな種類の任務がある。意外とアテーナイ様も講師が務まるんじゃないかな。


 「実は、相談があるのだ…。」

 「歩兵の機動性ですね。」

 「流石、婿殿話が早くて助かる。」


 亀兵隊の機動性は高い。平気で1日で500km以上を走破する。しかし、歩兵は1日で30km程度しか進めない。

 敵がどこから上陸するか分らないから、主力軍が来るまで町や村はその場で頑張らねばならない。

 しかし、援軍の到着が数日掛かるのではいささか問題だ。


 「随分前になるが、ミズキに援軍の進軍速度を上げる手を教えられた。確かに手ではあるが、それでも半分になるようなことは無かった。」

 「となれば、馬車もしくは牛の引く荷車で運ぶ事になりますね。」


 「馬は頭数が足りぬ。精々、仕官の運用に使う外はあるまい。荷車に乗せる…。モスレムは穀倉地帯ゆえ多くの荷車があるのう…じゃが、徴発は避けたいのじゃ。」


 聞けば、牛も国内に千頭程度らしい。商人や農家が飼育している他は、軍が数十頭を荷駄の輸送用としているだけとの事だ。

 馬よりは低価格で購入できるが、それも南方諸国からの輸入になるとの事。

 他に利用価値が無ければ、確かに持ち腐れになってしまう。


 「屯田兵に預けてはどうでしょうか?…いざ、大規模な兵員輸送を行なう時に牛と御者、それに荷車を付けて集められるような気がします。」

 「なるほど、普段は開拓用に貸し与えて使わせるのじゃな。それなら無駄な投資にはならぬであろう。」

 

 「それに、荷車の大幅な使用が可能であれば、対空クロスボーを乗せられますよ。」

 「そうじゃった。敵には空が使えるのじゃったな。失念しておった…。とは言え、未だ時間はある。早速準備しようぞ。」


 そんな話を終えると、今度は雑談だ。

 そんな中で興味を引いたのは、テーバイ王国の話だ。

 連合王国に加わりたいとの打診をしてきたという事だ。


 「建国して2年。中々の施政ぞ。緑の田園が広がっておると、定時連絡の者が言うておった。後30年も経てば、我等と堂々と肩を並べるに違いない。」

 「で、連合入りは?」

 「各国とも乗り気じゃ。モスレムとしても屯田兵を開拓に専念させる事が出来る…。とは言ってもじゃ。テーバイに貴族はおらぬ。我等が進めようとした先の姿がそこにある。

 いま、貴族制度を廃止して官僚組織を立ち上げても直ぐにはテーバイのようには行かぬ。新興国とはまこと羨ましい限りじゃ。変に気を使わずに思い切って英断を下せる。

 我等は、我等の官僚組織が動き始めるのを待ってテーバイを迎える心算じゃ。

 もちろん、その間にスマトルの侵攻があった場合には連合国と同様に対処する所存ではあるが…。」


 確かに、テーバイの方が改革はやり易いのだろうな。と言うよりもそうせざる得なかったのが理由かも知れない。

 皆で力を合わせるという事から、自発的な官僚組織が出来上がったのかもしれない。

 しかし、これでテーバイ1国だけ取り残される事は無さそうだ。


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