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#356 海軍

 


 リビングのテーブルに新たに2匹のパンダが座ってる。

 アルトさんよりも背が低いから身長は140cm位なんだろうな。サーシャちゃんとアルトさんの間と、ミーアちゃんとリムちゃんの間にちょこんと座ってるから嬢ちゃん達は満足そうな顔をしている。


 そんなシュールな光景をにこにこ顔で見ていられる姉貴も中々だとおれは思うぞ。

 俺は、唖然として声も出ないけど…。


 「修理技能に特化したオートマタです。体力的には成人男性程度の能力はあると言っていましたが、武器を持たせるのでしたら、クロスボー位でしょう。あまり役には立たないと思います。

 彼等の技能は…。」


 そう言って、ディーが袋からティッシュボックス位の大きさの箱を取り出す。

 テーブルに布を敷いて、その上に箱を乗せるとパンダの前に持っていく…。


 流れるような手付きで箱の中身が分解される。

 爪が少し伸びているように見えるぞ。しかも必要に応じて爪先の形状が変化してる。

 丸い頭は殆ど動かずに短い腕を伸ばして作業しているんだが…。

 腕と手そして爪が作業に合わせて変化出来るようだ。

 腕は伸びるし、手も物を掴む事が出来る。何より爪の数が増減している。俺達は指は5本だけど、このパンダは作業をするときに爪を10本程度に数を増やす事が出来るみたいだ。それに爪に関節があるのかと思うような動きもたまにしている。


 200点以上に分解された箱の中身を布ごと、もう1体のパンダの前に持っていく。

 たちまち、フィルムを逆転してみるような感じで組み立てが始まった。

 10分も経たないで再び箱が完成した。


 呆気に取られて、一同声も出ない。

 しばらくして…。

 「凄いね…。それで、名前は?」

 姉貴にはその性能よりも、名前が気になるようだ。

 皆の視線がディーに集まったが、ディーは首を振った。

 「ありません。型番はMAM-01と02になります。」

 「じゃぁ、ここで決めても良いんだよね。…う~ん、何にしようかな?」

 

 あまり、姉貴には期待しない方が良いんだけどね。

 「よし!決めたわ。…こっちの目元の模様がたれてる方がリンリンでこっちの頭の天辺がモヒカン見たく頭髪が集まってる方がランランね。」

 上野にいそうな名前だけど、姉貴にしてはまともな方だ。

 それにしても、とんでもなく器用だぞ。何か別の用途も出来そうな気がするな。


 「ディー。リンリンとランランは修理以外に製作も出来るのか?」

 「可能です。ただし、限定事項があるようです。銃の製作は不可能との事です。」

 要するに武器でなければ良いんだな。これは意外と役立ちそうだ。


 「ところで、この2匹をどこに住まわせるんだ?」

 「とりあえずは…この館で良いでしょ。通信所を王都に作る事になるから、その一角にリンリンとランランを住まわせれば良いわ。」

 

 とりあえずはこの館という事で、嬢ちゃん達は満足そうだ。

 「2つ質問じゃ。この者達は、何を食べるのじゃ?…それと話は出来るのか?」


 「ウォン!…話せる。そして人と同じ物を食べられる。たまに、鉱物を食べる。」

 パンダが突然話し始めたので、一同吃驚してみている。

 食事が取れるなら問題は無いだろう。

 

 「じゃぁ、エナジーの補給は食事なんだ。」

 「食事は元素抽出に必要。エナジーは太陽光を羽根状の受光素子で変換して蓄える。数時間の日光浴で2週間程活動出来る。我等の活動時間は200万時間。その時間が経過した後は我等を構成するナノマシンが自己崩壊を始める。」


 あらかじめ活動時間を設定されているのか…。死へのカウントダウンはもう始まっているんだな。

 「でも、それって200年以上いられるって事でしょ。一般の人達より長い寿命だよね。」

 姉貴の200年以上に、嬢ちゃん達はほっとした顔付になった。

 直ぐに別れが来るのかと思ったみたいだな。


 そんな訳で、この館には2体のパンダも暮らす事になった。

 2階の客室がとりあえずの住みかになる。

 

 ディーがパンダの荷物箱を持って部屋に連れて行った。

 そしてディーが再びリビングに戻ってくると小型の移動式通信機を取り出した。

 さっき分解した箱がそうらしい。


 蓋を開けると、小さな表示灯が2つに5セグメントのパワー表示が付いている。そしてこの表示灯には表示灯の明かり漏れを防止するための蓋が付いている。

 プラグジャックは3個しかない。その下の箱の上部の半分を占める場所には電鍵が付いていた。

 蓋の中には、イヤホンとアンテナ用のケーブルが付属している。


 「小さいのう…。これで、どの位届くのじゃ?」

 「100M(15km)程です。出力が小さいので、セグメント5個点灯状態であれば1日程度使用出来ると思います。このハンドルを引き出して廻せばパワーを取り戻せます。」

 小さなハンドルが箱の横に折畳まれていた。


 「前の通信機とこの通信機をどう使うのじゃ?」

 「亀兵隊の機動を更に高める為に使うのよ。…前の通信機は大隊指揮所に置くの。この通信機は中隊と偵察部隊に配布する予定。」


 「ふ~む…。やはり部隊編成は急務じゃな。国王達は亀兵隊の人員を3千。歩兵を5千で考えておる。各王宮には500の兵を置くと言っておるが、これは近衛兵じゃから、直接戦闘には加わらんじゃろう。」


 相手は20万…それに対して連合王国は軍縮で1万をきる事になるのか…。問題だな。

 「今、亀兵隊はどの位の規模になってるの?」

 「カナトール戦より、膨れ上がったぞ。我等が狩猟期に出かける前で3千を越えておる。国王達が応募が多すぎて悩んでおった。…アキトの試験は国王達から歓迎されると思う。」


 亀に乗れればそれで良いと言う訳じゃないからな。

 「年明けには試験が出来るよ。」

 そう答えて、サーシャちゃんを安心させる。

               ・

               ・


 その夜。姉貴とリビングのテーブルで試験の内容を考えていると、姉貴が話しかけてきた。


 「やはり、20倍は私達がいないと無理だわ…。」

 「確かに20倍は無理だと思う。俺達がいても共倒れに近い形になるんじゃないか?」

 

 俺の言葉に姉貴が小さく頷く。やはりな…。

 「あれから、俺も考えてみた。敵にあって、俺達に無いもの…。それが、解決策の1つではとね。」

 「それは空軍と海軍ね。…でも、空軍は無理…。となると、海軍ね。」


 「そう、海軍だ。海軍を充実して敵を水際に達する前に沈めれば良い。」

 「でも、商船はあるけど軍船は精々警備船よ。それに船の数だって相手が多いはず。この世界の同じ軍船を作っても…アキトはランチェスターの法則って知ってる?」


 「あぁ、同程度の軍備を持った2つの軍が対峙した時どちらが勝ってどれ位の兵力が残るかを簡単な式で示したやつだよね。」

 「なら、海軍を作ってもどうなるか判るでしょ。」


 「それの前提条件を変える。同じ軍船を作れば結果は見えている。俺が作ろうとしているのは潜水艦だ。」

 「出来るの?」

 

 「Uボートが最初じゃないんだ。南北戦争でも使われたらしい。俺が考えてるのは木造の半潜水艇だ。…こんな感じかな。」

 そう言って、紙に概略図を描く。


 直径2m弱、長さ15m程度。簡単な艦橋と潜望鏡、それに換気用のパイプを付ける。

舵とトリムタンクを2つ持ち、推進力はペダルを漕ぐんだ。シャフトを介してスクリューを廻す。

 武装は、大型のクロスボー。組み立て式だけど、バリスタよりも大型だ。


 「こんな感じかな…。」

 「遍在性ね…。普段は隠れて夜に行動すれば数隻で効果を与えられるわ。3つ位の艦隊が欲しいわね。それと通信手段…。防水性の通信機が欲しいわ。」

 「通信機は発光式でも何とかなるかもしれない。それ程岸から離れられないし、陸に向かって信号を送るからね。」

               ・

               ・


 それから、10日程過ぎると、今年も残りが少なくなる。

 アテーナイ様は、2体のパンダに驚いていたようだが、次の日にはパンダ用の服を持ってきた。短パンとTシャツモドキだが、こいつ等には意外と似合ってる。

 そんなパンダ達は俺の依頼で時計を作っていた。

 10分間が計れて秒針をつけた奴だ。

 スイッチが2つ付いていて、1つを押すと時間を計り始め、もう1つを押すと停止する。最初のスイッチを再度押すとリセットする。

 まぁ、ちょっと大きめのストップウォッチだな。


 ディーは計算しながら潜水艇の設計をしている。意外と水に潜る船は難しそうだ。

 姉貴は隣の館を見に行った。後ろになる館だが、俺達の館よりも遥かに大きい。

 その館を士官学校に出来るかを下見に行っている。


 「中々良い物件だわ。1階には教室位の部屋が3つあるし、2階には部屋が8つもあるのよ。」

 姉貴がはしゃいでいる所を見ると、使えそうなのかな?

 そして、パンダ達に有線式の電鍵通信機を頼んでた。何に使うのかは判らないけど、通信兵の養成には使えそうなので、10セット以上作ってくれるように頼んでおいた。


 通信兵も沢山必要だから、これはこれで養成する必要がある。発光式信号器を使える兵が沢山いる事がせめてもの救いだ。


 そして、新年がやって来る。

 俺達は7人で4つの神殿を廻って初詣を済ませると、リビングに戻って早速ゼンザイを頂く事にする。


 パンダ2体とキャサリンさんも義母さんと一緒にやってきた。タニィさんもテーブルに着いたところで早速頂く事になったが、嬢ちゃん達が大きな入れ物に入れた黒い物体を見て喜んでいるのを不思議そうに見ていた。

 そんな彼女達も、恐る恐るゼンザイをスプーンで食べて納得したようだ。

 「こんな美味しい料理だったんですね。」

 そんな感想を言いながら上品に食べてる傍では、嬢ちゃん達とパンダ達が口の周りを汚しながら食べていた。


 「ミズキ達の士官学校は何時から始まるのじゃ?」

 「10日後になるわ。20人を裏の館で預かる事になるの。調理人が王宮から3人、それに警備兵が5人来るわ。…アキトの方もその頃だよね。」


 「あぁ、でも、準備までにしておけって、アテーナイ様に言われてる。何か思うところがあるらしい。」

 「各国の国王が集まるのを待って始めさせる心算じゃ。全く、祭りと勘違いしておる。」


 確かに、見ものではあるだろうな。

 「それよりも、国王達が集まれば大型の通信機をどこに置くか決まるじゃろう。今年は色々と忙しそうじゃ…。」

 アルトさんの言葉に皆が頷く。

 

 

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