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#355 冬の王都で出会ったものは

 


 アクトラス山脈の峰々が白く覆われて輝きを増している。少しずつ白いベールは麓へと近づいているようだ。

 もう少しでこの村にも初雪が降るだろう。

 そんなある日の早朝、俺達は東門の広場に集結した。今年から冬の間は王都で暮らすのだ。


 嬢ちゃん達の乗った4匹のガルパスの後ろには、アテーナイ様とシュタイン様の乗ったガルパスと、ミケランさんとセリウスさんの乗ったガルパスが続く。最後尾は俺とディーの乗るガルパスだ。

 姉貴はリムちゃんと一緒だし。ミクとミトはサーシャちゃんとミーアちゃんと一緒だ。

そして、アルトさんのガルパスにはロムニーちゃんが乗っている。

 俺達が王都に向かう事を聞きつけて、アルトさんに頼み込んだらしい。

 しばらく王都に帰っていないそうだから、王都の両親もさぞや喜ぶだろう。


 先頭のアルトさんが片手を上げると、準備が出来た合図を次々とガルパスの乗り手が片手を上げて答える。俺が片手を上げると同時に、一気にアルトさんの乗るアルタイルは峠の街道に向かって門を躍り出た。

 次々とアルトさんの後を追ってガルパスが村の門を飛び出していく。そして俺の乗るバジュラも遅れまいと門を飛び出した。


 「時速40km程に達してます。この速度で駆ければ夜には王都に着くでしょう。」

 「あぁ、でも途中の休憩も必要だぞ。」

 「2時間を休憩として計算しました。」


 アルトさんは峠の街道に出ると、進路を南に変えてサナトラムの町に向かって走り抜ける。

 そして、サナトラムの町がみえる休憩所に入っていった。

 軽く、一服程度の休憩だ。水筒の水を飲みながらお菓子を食べる。

 

 「サナトラムの町には入らずに、荒地を横断して王都への街道に出るぞ。」

 アルトさんが俺達に次の道順を告げる。


 そして、再びガルパスを駆る。今度は荒地を進むが、南西方向へと斜めに進路を取っているから時間の節約にもなる。

 俺としては、この暴走族がサナトラムの町の通りを通らないだけでも安心だ。

 

 途中の町を迂回しながら、ひたすら王都を目指して7匹のガルパスは駆け抜ける。

 そして、俺達が王都に着いた時にはとっぷりと日が暮れた後だった。


 光球に照らされた王都の東門に入ると、すぐさま警備の近衛兵がやって来る。

 俺達を確認すると、直ぐに王宮に兵隊が走っていく。

 ここで俺達の部隊は解散してそれぞれの宿に向う事になった。

 ミクとミトはサーシャちゃん達のガルパスを下りてセリウスさんの下りたミケランさんのガルパスに乗り込む。セリウスさんは歩いていくようだ。


 嬢ちゃん達はロムニーちゃんを両親の経営する宿屋に送っていくと言っていた。俺とディーは一足先に館に向う事にする。

 カチャカチャと夜の通りに爪音を立てながら貴族街の外れに向かった。

 そして、突き当りの館に着くとバジュラを専用宿舎に返す。

 ちゃんと、帰れるから不思議だよな…。そんな思いを持ちながら暗闇に消えていくバジュラを見送っていると、ディーが館の玄関扉をトントンと叩いている。


 そっと扉が開かれてタニィさんの顔が片方見えた。そして、「お帰りなさい!」と言いながら扉を開けて俺達を入れてくれる。

 リビングに歩きながら、嬢ちゃん達と姉貴がもう直ぐ来るとタニィさんに話しておいた。


 「お隣のキャサリンさんからもう直ぐやって来ると聞いていましたが、今晩とは思いませんでした。」

 「先に知らせると言う事は、誰も思いつかなかったな。…ゴメンね!」

 俺の言葉に恐縮しているようだが、やはり準備とかはあると思う。次はちゃんと連絡する事にしよう。

 そんな事を考えながらリビングのテーブルでお茶を飲んでいると、玄関の扉を叩く音がする。パタパタとタニィさんが玄関口に走っていった。


 わいわい話しながら嬢ちゃん達がやって来てテーブルに着くと、忙しそうにタニィさんがお茶を運んできた。


 「ロムニーが小さな宿屋と言っていたが、確かに小さな宿屋じゃった。ロムニーの帰宅を母親が喜んでおった。」

 「でも、隅々まで掃除が行き届いた綺麗な宿でしたよ。」

 アルトさんの感想にミーアちゃんが別な感想を付け加える。


 「あれは綺麗と言うよりも、何もないと言った方が良いのでは?」

 そんな話を嬢ちゃん達がしているのを姉貴がにこにこしながら聞いてる。


 要するに小さくて、何も無いような宿屋?…って事だよな。

 それでも、掃除が行き届いているなら旅人には好まれるんじゃないかな。

 俺も、1度両親に会っておいた方が良さそうな気がするぞ。何といってもネウサナトラムに呼ぶ事を考えていた本人だからね。


 「まぁ、ロムニーちゃんの実家の話はその辺にしておいて、明日からの計画を話し合うぞ。」

 「そうね。私は、館で士官学校の準備をしたいわ。アキトは例の試験の準備をするのよね。」


 「あぁ、でも試験会場を作るのはアルトさん達に手伝って貰いたいな。」

 「了解じゃ。ネウサナトラムに作ったような物を作れば良いのであろう。場所はダリオンが確保してくれるじゃろう。」

 

 「それでは、私は出掛けて来ます。…追加する依頼品はありますか?」

 「小型の通信機を50台。それと、望遠鏡を20個追加して欲しいわ。」

 「了解です。…補修用オートマタ2体の搬送も今回実施します。」


 そう言って、ディーは出て行った。

 何時までも、バビロンに頼る事は出来ないが、通信機能の充実については頼るしかなさそうだ。

 これで、200年程度の通信機能の充実が図れるだろう。その後は連合王国の技術の進歩を期待する外はないだろう。

 

 「通信兵の訓練は?」

 「アキトのフルイ掛けが終ってからになるわ。それに発光式信号器があるから、それで最初の訓練は可能でしょう?」

 確かに…。俺は姉貴を見て頷いた。

               ・

               ・


 次の日。朝食を終えると、嬢ちゃん達は早速王宮に出掛けて行く。

 俺と姉貴はペンを握ってテーブルで計画書を作成する。


 亀兵隊の資質とは…。意外と悩む。

 外に出て一服しながら考えようと、玄関の石段に座り込み、早速タバコを取り出した。


 「どうした?…何を悩んでおるのじゃ。」

 ふと、隣を見ると何時の間にかカラメルの長老が石段に座って俺を見ている。

 「スマトルの軍は侮れません。連合王国軍の機動部隊である亀兵隊の精鋭化を目指したいのですが…。そもそも亀兵隊とは何だろうと考えて、答えが出て来なかったのです。」

 

 「機動部隊の構想は面白いの。我が祖国にも軍隊はあった。それなりに抗争はあったのじゃ。

 それを迅速に対処する為の機動部隊は空中を動く船であったよ。素早く展開し、打撃を与える。それが機動部隊であるとワシは思っておるがの。」


 速さと打撃力か…。確かに初期の亀兵隊はそれが全てだった。

 「ありがとうございます。」

 そう言って隣を見ると、そこには誰もいなかった。

 俺が悩み始めたのを見かねて、やって来てくれたのかな。改めて長老が座っていた石段に頭を下げると、リビングに向かった。


 素早く、ノートにペンを走らせる。

 亀兵隊は、機動部隊である。その真髄は速さと打撃力にある。

 よって、以下の事項が亀兵隊の必須の事項になり、これを及第しない者は亀兵隊の兵員たる資格は無い。

 1つ。ガルパスに乗り、標準武装の状態で20M(3km)を5分で走り抜けること。

 2つ。投石具を用いて模擬爆裂球を200D(60m)以上投げる事が出来ること。

 

 次に夜襲部隊の資格を次のように定める。

 1つ。ネコ族もしくはトラ族であること。ただし、ハーフもこの範疇に含める。

 2つ。夜間視力検査で1種を持つ事。

 3つ。弓技能1種を持つ事。

 4つ。クロスボー技能1種を持つ事。

 5つ。薙刀もしくはの技能2種を持ち、どちらかの技能は1種を持つ事。

 

 次に強襲部隊の資格を次のように定める…。


 意外とスムーズに資格が書けるな。

 後は技能検定をどうするかだな。これはアルトさん達と相談してみよう。

 後は、技能検定の合格者に贈るものだが…。徽章でいいか。ボタンのように小さな穴を開けて革の服に縫い付けられるようにすれば良いだろう。

 

 ついでに階級章も作っておくか。兵隊、分隊長、小隊長、中隊長、それに大隊長がいるな。5種類もあれば良いか。

 通信兵は別に作っておいたほうが良いだろう。発光式と無線の操作で分別しておくか…。

 そんな事を考えながら、徽章のデザインを考える。

 基本的にはその形をデフォルメすれば良いから意外と楽だな。1種と2種の区別は縁取りに銀を使う事で一目瞭然だ。


 そんな事をしていると、アテーナイ様が館を訪れた。ダリオンさんも一緒だな。

 俺達が作業しているリビングのテーブルにやって来ると、頼もしそうに頷いている。


 「邪魔をしたようじゃな。まぁ、それ程急がずとも良かろう。休憩に致せ。」

 そんな事を言って、俺達の向かい側に腰を下ろした。


 「そうですね。…一息ついた方が良い考えも生まれます。アキトも良いよね。」

 「あぁ、俺の方は粗方片付いたから大丈夫だ。」


 俺達は筆記用具を脇に片付ける。

 そんな俺達にタニィさんがお茶を運んできた。


 「今朝早くにアルト達がやってきた。亀兵隊達の試験場を作ると言っていたが、エントラムズの国境近くにある荒地を使うが良い。

 あそこなら、エントラムズに拠点を置く亀兵隊達の移動も楽じゃろう。

 早速、アルト達が現地視察に行きおったぞ。」


 「実は…。」

 俺は、資格取得と階級章について話を始めた。

 アテーナイ様は興味深く聞いていた。

 「中々面白い案じゃな。確かに兵隊の区別が付かずに困る事は多いのじゃ。これを預かっても良いかの?…王宮付きの工房に作らせようぞ。」

 

 そう言ってアテーナイ様は、俺の書いた紙を丁寧に破りとってダリオンさんに渡した。 

 

 「そうじゃ…。トリスタンに商人から情報が入ったようじゃ。スマトルの砂浜に長い城壁が作られているとな。

 トリスタンが驚かぬ事を商人達は不思議そうに見ていたと言っていた。

 とうにニードルを派遣しておるからのう。」


 「ニードルの情報は何時頃になりますか?」

 「どんなに急いでも年明けじゃろう。たぶん数回に渡って情報をもたらすじゃろうな。年明けは概略じゃ。春先に詳細が判る。その後は季節毎に知らせが来よう。」


 「ところで、アテーナイ様。教える為の本を作ろうと思うのですが…。確か、王都では本を複製出来るんですよね。どこに頼めば良いのでしょうか?」

 「本の複製は神殿の仕事じゃ。神官だけに伝わる魔法があるらしい。複製をする本と部数をこの館の近衛兵に頼むが良い。我から神殿へ伝えおく。」


 「でしたら、この文章を300枚程作って頂けませんか。試験を行なう前に亀兵隊に知らせておきたいのです。」

 「300枚と言うと分隊に1枚渡すという事か…。見せてみよ。」


 俺が渡したノートの記述を面白そうにアテーナイ様が眺めている。

 「なるほど。先に依頼した徽章と関わるのじゃな。これは見ものじゃのう…。我もどの程度の技量になるか受けねばなるまい。試験の期日は年明けの10日にするがよい。各国の国王達も楽しみじゃろう。」


 そう言って引き受けてくれたけど、何かイベントと勘違いしてるようにも思えるぞ。屋台が並ぶなんて事は無いよな。

               ・

               ・



 それから数日して、ディーが帰ってきた。

 俺達はディーの周囲をきょろきょろと眺めたんだけど、修理をするためのオートマタってどこにいるんだ?

 ディーが不思議そうに俺達を見ているんだけど…。


 「ディー姉様。2人を連れてくると言ってましたが…。」

 リムちゃんが直接聞いてみた。

 その質問で俺達の不思議な挙動を理解したらしく、「判りました。」と言いながら特大の袋をバッグから取り出した。

 あの御風呂が入る程大きい奴だ。

 そして、その中に両手を入れて取り出したものは…。


 パンダだ…。どう見てもパンダにしか見えないぞ。リムちゃんは嬉しそうに1体をハグしたままで毛皮に顔を埋めている。

 続いてもう1体を取り出した。こんどはタニィさんがハグしてる。


 「この2体が修理を行なうオートマタになります。あえて人型にしなかったのは、その身体能力の兵器転用を恐れた為と考えます。」

 

 確かに、パンダを使って戦争しようなんて考えないとは思うけど…。役に立つのだろうか?ちょっと疑問になってきた。

 

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