#332 戴冠式
毎夜の昔話は結局10日も続いてしまった。
良くもこんなに昔話を覚えていたと自分でも感心したが、流石にネタ切れになって来た時、御后様が助け舟を出してくれた。
「さても、毎夜は婿殿も大変じゃろう。まだ、聞きたいのは皆も同じじゃろうが、そろそろ色々と準備もせねばなるまい。ここは今夜でお開きとし、婿殿の知る昔話はリムに書き留めて贈って貰おうかの。」
「それは、良いお考えです。今までに数十のお話を伺いましたが、皆我等の教義に外れたものはございません。むしろ広く領民にこの話を聞かせてやりたいと大神官殿も仰っておりました。」
御后様の言葉に老神官が答えた。
俺の昔話をもっと集めたいようだけど、俺にだって限度があるぞ。
「最後に、今までのような子供向けのお話ではなく、長い大人向けのお話を伺っても宜しいでしょうか?」
「それなら、私がお話しましょう。でも、準備が少し要るんです。王宮に楽師がいますよね。楽器を作って頂きたいのですが…。」
老神官の願いは姉貴が対応してくれるようだ。
「楽器を作るのか?それなら王宮の工房に頼むが良い。手配は…アン頼むぞ。」
御后様はアン姫に下駄を預けた。
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老神官の話がヒントになり意外と簡単にアイスキャンディーを作れることが分った。
ノイマン君に頼んで銅製のアイスキャンディーの型と保冷箱の内側部分を鍛冶屋に造って貰った。
保冷箱は、木箱の内側に銅製の箱を納めて、木箱と銅箱の15cm程の空隙に氷を入れる構造だ。銅が腐食しないようにウミウシの体液をたっぷり塗りつけて防水対策してあるから大丈夫だろう。大きさは100ℓのクーラーボックス位だから100本近くアイスキャンディーを入れられるぞ。
アイスキャンディーは銅製の2つの型を合わせることで直径5cm、長さ10cmの穴が10個出来る構造だ。これに果汁を入れて割り箸のように削った棒を入れて、一気に【シュトロー】で凍らせる。
凍った所を木槌でトントンと割れば銅の金型が取り出せる。ちょっと表面を暖炉で炙れば簡単にアイスキャンディーが取り出せる。
嬢ちゃん達が出来立てのアイスキャンディーを齧りながら、今日も練兵場に出掛けて行ったけど、通りを歩く人達がアイスキャンディーをジッと見ていた。
ちょっとしたPRになるかもしれないので、明日も作ってあげよう。
そんな嬢ちゃん達を大通りまで行って見送って、帰ろうとしたらノイマン君達が屋台を引いて帰って来た。
村で使っていた屋台よりも一回り小さい屋台だ。
涼しげな白と水色で塗装されているけど、看板には…『暑い夏には冷たいキャンディー。これで貴方は冷たくなれる!』
何とも恐ろしいキャッチフレーズだぞ。食べたら死んでしまうように聞こえなくも無い。
ブリューさん達の『貴方もイチコロ…』の看板よりはマシかも知れないけど。
「出来たという知らせを受けて取りに行ってきました。支払いは王宮から既になされていましたよ。」
リヤカーのように大きな車輪と引き手が付いているから、1人でも運べそうだ。4つの柱に支えられた布張りの屋根の下には、保冷箱を入れる穴が2つ空いている。これなら200個は一度に売り歩けそうだぞ。
今回は一箇所に腰をすえて店を出すのではなく、移動しながら販売する事を考えているのでこの方が都合が良い。
そして、アイスキャンディーの幟旗と小さなベルも台の上に乗っていた。
完璧な仕上がりじゃないか!…屋台のキャッチフレーズが問題だけど…。
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そして、戴冠式まで後3日と言う所で、俺と姉貴の所に大きな箱が届いた。
開けてみると、大鎧と鎖帷子それに近衛兵用の革鎧が入っていた。
「アキト様の鎧はテーバイ王宮に飾られていますから、これを新たに作りました。強襲部隊と同じ色彩です。ミズキ様の鎧はアルト様の儀礼用鎖帷子です。ミズキ様が亀兵隊の資格を持っておりませんのでアルト様がこれを使ってほしいと…。」
箱を弓兵達に運ばせてきたアン姫が俺達に言った。
「母様と我は、普段の服で良いと言ったのじゃが、周りが満足しなくての。…ならばという事でこれを着用してくれぬか。」
アルトさんが済まなそうな顔をして俺達に言った。
「モスレム国王の戴冠式です。私達に気を使うより、モスレムの恥とならぬようにしなければいけません。」
姉貴がアン姫に答えている。
確かに間違ってはいない。ある意味デモンストレーションと考えられるのが戴冠式だ。どの様な人間が集まるか。どれ程の財力を誇示出来るか…。そんな席に革の上下では問題だと思っていたのだ。
ディーが近衛兵の服装はどうかと思うけど、俺達の近衛兵だと思えば角が立つ事はないだろう。
嬢ちゃん達は例の大鎧を着て出席するようだ。
「大神官が現国王から王冠を受取り新国王に被せるだけじゃ。それが終れば后のティアラも同じように交換するのだが午前中に終るじゃろう。昼食は参加者全員が王宮の中庭でする事になる。
そして次の日からが、チェス大会じゃ。
クオークとブリューが個人参加でサーシャとミーアが団体戦じゃな。
上位に行ければ良いが、アキトがチェスを作ってから、どの王国でも楽しむものが増えて、自称名人が森の立木のようじゃ。」
娯楽に飢えていたような事をジュリーさんが言ってたからな。暇な人間はどこにでもいるから、自称名人が多いんだろう。町内名人ってとこかな。
「あわせて、スゴロク大会もやるようじゃ。これは12歳までじゃから、我には出場出来ぬ。景品も出るという事で王都の子供達が楽しみにしておる。」
結構色々と考えてるみたいだ。クオークさんには人間チェス大会の企画書を渡しただけだろうから、老若を問わず楽しめるようにクオークさんがアレンジしたのだろう。たぶんそんな事に秀でた友人がいるのだろう。
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そして、いよいよ今日は戴冠式の当日だ。
朝食を終えると早速着替えを始める。
嬢ちゃん達の着替えを手伝ってあげると、自分の分を着替えるのだが背中の紐は姉貴に結んで貰った。
今日は箙を背負わないから綺麗に紐は結んで欲しい。嬢ちゃん達にも綺麗な蝶結びに仕上げたぞ。
刀とグルカを腰のベルトに落とし込む。嬢ちゃん達は腰の後ろに斜めに差してある。
姉貴は鎖帷子のベルトに嬢ちゃん達と同じような感じで小太刀を差した。
ディーはブーメランだけを背中に背負っている。そして腰の脇に俺のサバイバルナイフをベルトから吊るしているのが結構似合ってるぞ。
「兜は被らないの?」
「今日は1日座ったり立ったりだから、重いのはちょっとね。これを額に結んで終わりだよ。これも、立派な防具なんだ。」
リムちゃんの質問に答えながら、彼女に鉢金を結んであげる。鉢金は綿布を3cm程の幅に折った真中に、穴あき銀貨6枚を縫い付けたものだ。
これでも近接戦闘では頭を守る事が出来るだろう。しかし、この世界ではこのような防具は見当たらなかった。
「結構、様になるね。鉢金も中々絵になってるよ。」
リビングで俺達の姿を見た姉貴が言った。
「さて、出かけようか。タニィさん後をお願いします。」
そう言って俺達が玄関を出ると、通りを歩いていた人が、全員立止まって俺達を見た。
嬢ちゃん達が2列になって進むから、姉貴とディーが並んで後に続く。そして最後尾は俺1人だ。
カチャ、カチャ…っと大鎧が俺達の歩く振動で音を立てる。
「あれは…亀に乗る兵隊の鎧と似ているぞ。」
「あぁ、だがあの鎧の方が上物だぞ。そして、見たか?…前を歩く娘の着ている鎧の汚れはただの汚れじゃないぞ。あれは、血糊を拭き取ったと俺は思うな。」
「でも、綺麗だな…。」
俺達が近づくと王都の住民が足を止めて、俺達に注目する。そして、周りの者と囁き始める。
かなり目立ってるけど、良いのかな。
嬢ちゃん達は意気揚々と歩いているけど、俺はちょっと恥ずかしくなってきた。
そんな感じで大通りを王宮広場に向かって歩く。
王宮広場には1分隊の近衛兵が警備をしていた。俺達が近づくと左右に分かれて道を開けてくれる。
広場から王宮玄関への道は左右に1分隊ずつの近衛兵が警備をしている。俺達に最敬礼してくれる中を、玄関に向かって進んでいった。
玄関に続く広い階段を進むと大きな扉の前で近衛兵が待っていた。
「ご案内いたします。私の後を付いて来てください。」
そう言って左右の近衛兵に命じて扉を開く。
確かモスレムの謁見の間は3階だったな。
大鎧の重量は結構あるけど嬢ちゃん達大丈夫かな?
俺の心配と同じように前を歩く近衛兵も歩みを緩めている。
3階に上がると、目の前に重厚な扉が現れる。
俺達を案内してくれた近衛兵はここまでだ。扉の左右にいる近衛兵に小さく囁くと俺達に頭を下げて下の階に戻っていく。
そして、俺達を迎え入れる為に2人の近衛兵が扉を開く。
謁見の間には大勢の来客と重臣で溢れている。
「モスレムのハンター、ヨイマチの御一行到着しました。
虹色真珠を得し者。レグナスを狩りし者。スノービューを狩りし者。
そしてカナトールを1月で開放せし稀代の英雄達であります。」
近衛兵の良く通る声が謁見の間に大きく広がると、ざわめいていた人々が一斉に俺達を見つめる。
俺達は5m程の横幅を持つ絨毯を踏みしめ国王の前に行くと横一列に並んだ。
「この度はお招き頂き、有難うございます。」
「うむ。大儀である。」
俺の挨拶に国王は笑顔で簡潔に答える。
「こちらに…。」
侍女の案内でモスレムの軍の上級仕官が並ぶ場所に移動した。そこには既にセリウスさんとミケランさん、それに近衛兵の小さな服装のミクミトがいる。
椅子に座って、しばらくの間は次々と現れる来客の挨拶を見る。
皆、着飾っているな。
そして、最後の来客を見て皆が驚いた。異国の薄い透き通るような絹の衣装を着て現れたのは、数々の宝石を散らばめた銀細工にティアラを被った人物だった。薄い絹をベールのようにして顔をおおって大きな目だけを露出させている。
「テーバイ王国、ラミア女王。到着いたしました。」
女王は2人の従者と共に国王の前に行って挨拶をする。
流石の国王も緊張しているようだ。
そして、短い挨拶を終えて、来客の中に女王は入っていった。
「驚いたな。あれがテーバイの女王なのか。」
「「美人よね(にゃ)。」」
セリウスさんや姉貴達も囁いてる。確かに美人だけど、かなりの政治手腕だぞ。見合う相手がいるのかどうかだな。
「これより戴冠式を行ないます。」
若い近衛兵の透き通るような声が謁見の間に広がる。
そして、純白の絹の衣装を着けた大神官が数人の神官を引き連れて現れた。
国王の前に行くと国王が立ち上がり大神官に頭を下げる。
大神官は国王の頭から王冠を外すとそれを神官の持つ座布団のような物の上にそっと乗せる。
続いて、御后様も同じようにティアラを大神官に差し出した。
国王夫妻は玉座を下りて傍に控える。
「新しき王となりたる者よ。ここに!」
大神官の声にトリスタンさんとイゾルデさんが大神官の前に現れた。
2人が大神官に頭を下げるのを待ってそれぞれに王冠とティアラを載せる。
そして、トリスタンさん夫妻は玉座に上りその席に座る。
と同時に、来客より盛大な拍手が鳴り響いた。
これが、戴冠式らしい。
凄く簡略化されたもののように思えるが、確かに王冠は第3者の手で新しき国王に譲られたのだ。




