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#327 恋人なのか?

 


 館をタニィさんに任せて、俺達は王都を後にした。

 季節は5月に入っている。ネウサナトラムの村では畑仕事が忙しい時期だが、平地の王都周辺では青々とした葉が畑から顔を出している。

 俺達7人を乗せた5匹のガルパスは、そんな初夏には少し速い田園風景の広がる街道を、東に向かってひたすら走って行った。


 サナトラムの町の手前で、街道の休憩所にガルパスを止めると小さな焚火でお茶を沸かす。そして、タニィさんが作ってくれた黒パンサンドを頬張った。

 食後のお茶を飲んでいると、リムちゃんがガルパス達に野菜を切り分けて食べさせている。直ぐにサーシャちゃんが手伝いに走って行ったけど、そんな光景は戦に疲れた心を和ませてくれる。

 「リムちゃんは良い子ね…。」

 風下でタバコを吸っていた俺に姉貴がそっと囁いた。

 家の嬢ちゃん達に悪い子はいない。俺は姉貴を見て小さく頷いた。

                ・

                ・


 サナトラムの町を迂回してノーランドに至る峠の街道を走る。夕暮れ前に街道の休息所に入って野宿をし、次の昼近くにネウサナトラムの東の門をくぐる事が出来た。

 嬢ちゃん達にガルパスを頼んで、林の小道を石像の口にカギを入れて開く。

 林が動いて石畳の小道が現れると、久しぶりの我が家に歩いて行った。

 

 家の扉を開くと冷え冷えとしたリビングに入る。早速暖炉脇の薪を使ってディーが暖炉に火を入れる。

 「先ずは掃除だね。まだ水が冷たいから…アキト、【フーター】でお風呂にお湯を張っておいて。そして、私達の到着報告をお願い。」


 姉貴の頼みをこなした後で、俺はギルドに向かった。

 畑仕事は最盛期だし山の獣も動き始めるから、ギルドの依頼書の数も増え出す時期だ。

 テーバイ戦の時には海岸の監視に多くのハンターが動員されてたけど、今はそんな事もないだろう。少しはハンターがやって来てるんじゃないかな。


 ギルドの扉を開いてカウンターのルミナスちゃんに片手を上げて挨拶する。ルミナスちゃんは片手を口に当てて驚いてるぞ。そして、直ぐに事務所にとことこと走って行った。

 

 「大分早く片付いたようですね。そろそろギルドにも依頼が集まり始めましたから助かります。」

 「戻ったのは、俺と姉貴とディー。それに嬢ちゃん達4人だ。…俺としては少し休みたいが嬢ちゃん達は明日から狩りを始めると思うよ。」

 事務所から出てきたシャロンさんにそう告げて、早速に依頼掲示板の様子を見に行く。

 

 掲示板にある依頼書は、例年のように畑の害獣退治と薬草採取だな。

 依頼期限が迫っているのも見当たらないし、依頼書も20枚程だ。

 結構、健全なギルド運営じゃないかな。

 狩るのは、ガトルにマゲリタ、それにカルネルってところか。マゲリタ20匹は大変そうだぞ。嬢ちゃん達にはガトル狩りがあったと報告すれば良さそうだ。


 さて帰ろうと扉に向かったところで、急に扉が開いて4人のハンターが入って来た。

 「よう!…しばらくだな。」

 一瞬、誰かと思ったけど、それは彼が立派になったからだ。

 

 「あぁ、しばらくだ…サラミス。立派になったな!」

 何処の町にもいるようなワルガキのイメージがすっかり無くなり、サラミスの顔付は精悍な顔に変っていた。

 そして、その後ろにいるのはネコ族の女性だな。更に後ろにいるのは…グレイさん達だ。

 

 グレイさんとマチルダさんに握手をして、来村の目的を聞いてみる。

 「サラミスが1度狩猟期に出てみたいと言うんでな。俺も、10年近く出ていないし、いい機会と言うわけだ。先ずは狩場の下調べと言う訳さ。」

 「貴方達の狩りを見てみたいという事もあったけど、ここ3年は狩猟期に出ていないんですって?」

 

 「まぁ、色々ありまして…。どうです。俺の家に行きませんか?皆揃っていますよ。俺達も先程この村に戻ったばかりなんです。」

 「じゃぁ、少し待っててくれ。直ぐに終るから。」

 そう言ってサラミスがカウンターに向かう。どうやら狩りの帰りのようだ。


 そして、俺は4人を連れて家に戻る事になった。

 「剣姫様から別荘を貰ったんだったな。それを見るのも、楽しみだったんだが何処にあるか判らなかったのも事実だ。」


 「特殊な仕掛けがあって、俺達がいない時は誰も別荘に来る事が出来ないんですよ。…ほら、ここが入口です。」

 そう言って通りから入る林の小道を指差した。

 4人が首をかしげているのは、この通りを通っても、林の小道を見つけることが出来なかったからだろう。

 

 「「これか!(これね!)」」

 湖に面した石畳の広い庭と小さな石作りの別荘を見て、グレイさん達は感嘆の声を上げた。


 「結構、魚が豊富なんです。この湖の釣りは楽しいですよ。」

 扉を開けながらまだ湖を見ているグレイさん達に言った。


 「帰ってきたな。して、どうじゃった?」

 雑巾を持ったアルトさんが俺を見て言ったけど、直ぐに俺の後ろにいるグレイさん達に気が付いた。

 「グレイではないか。マチルダも一緒じゃな。そして…サラミスじゃったか。立派に成りおって…む?もう1人おるのか?」


 そんなアルトさんの声を聞きつけて姉貴もやって来た。

 「久しぶりですね。さぁ、どうぞ中へ…。」

 

 テーブルの上にある荷物をサッサと片付けて席を用意する。元々6人以上で食事が出来る大きなテーブルだから、ぐるりとテーブルを取り囲むように椅子を用意して座る。

 早速、ディーが木製取っ手付きのカップにお茶を入れて皆に配り始めた。


 「流石、剣姫様の別荘だけの事はあるな。こじんまりとして、湖の眺めも一番だ。」

 「今では、我等の家になっておる。サラミスの隣の娘は初めて目にするのう…。」

 

 当の本人は、アルトさんの口調に吃驚しているようだ。慌てて自己紹介を始めた。

 「ネコ族のミューレムにゃ。ミューで良いにゃ。…サラミスとチームを組んでるにゃ。」

 ネコ族の女性って、やはり最後はにゃ。になるんだなと感心してると、アルトさんが俺達の紹介をミューさんにし始めた。


 「…という事になる。ここにいるのは全てチームアキトの一員じゃ。」

 「アキトさんの事は前から色々と聞いてるにゃ。今日始めて本人達と会うことが出来たにゃ。」

 変な噂話じゃなければ良いんだけどね。


 「最後に合ったのはテーバイ戦だよな。あれから何があったんだ。セリウスとミケランもいないし、マチルダはセリウスの双子を楽しみにしてたんだが…。」

 グレイさんは暖炉の前の毛皮をジッと見てる。気が付いたのかな?


 「テーバイ戦の後は、バビロンに行って来ました。その後、ジュリーさんの故郷に行って…カナトール戦から今日戻ってきたんです。セリウスさんはまだ王都にいるはずです。」

 「カナトールだと!…あそこはノーランドの連中が跋扈してると聞いたが…。」

 

 「どうにか片付きました。もうカナトールには、ノーランドの兵隊はおりません。今頃は皆で畑仕事に励んでいるでしょう。」

 姉貴が結果だけを教えた。


 「ところで、マケトマムはどうなってます?」

 「賑わってるぞ。たぶん数年の内に町に認定されるだろうな。」

 サラミスが自慢げに言った。

 

 「賑わって来たのは良いんだけど、泉の森に獣が少なくなってきてな。南の遥か遠くの方まで狩りに出かけるようになってきたんだ。

 黒1つ位までなら村の周囲で十分なんだけど、少し冒険をしてみようという事でここに来たようなもんだ。

 それに、こいつが狩猟期に参加したい。って事で…。」


 サラミスが顔をミューさんに向けると、赤い顔をしてミューさんが下を向く。

 それを見た家の嬢ちゃんずの顔がニヤリってなってることは、これはあれなのか?


 「まぁ、まぁ、それはこの秋のお楽しみね。確かに始めて参加するには狩場をよく見ておかなくちゃ。」

 姉貴の言葉はまともだけど、口元が笑ってるぞ。

 「所で、宿代が大変じゃないのか?」

 「ギルドで長屋を紹介してもらった。1月1部屋銀貨5枚だ。2部屋借りてるんだ。」

 サラミスが大きな声で言ったからミューさんが益々顔を下に向けている。

 

 なるほどね。俺にも判ったぞ。ディーはキョトンとしてるけど、これはまぁ、仕方が無い。

 「そういえば、ギルドはどうであった?」

 「例年通りってところかな。依頼書も20枚程度だ。ガトル狩りとマゲリタ狩りがあったよ。」


 「ガトルは明日俺達が狙おうとしてるんだけどなぁ…。」

 サラミスがアルトさんに言っている。

 「我等は、しばらく様子見じゃ。ゆるりと狩りを致すがよい。」

 

 という事は、珍しく嬢ちゃん達は家にいるって事なのかな?雨でも降らなきゃいいけどね。

 俺はのんびり庭で釣りでもしよう。


 「アキト達はしばらく村にいるんだろう?」

 「少なくとも1月はいるよ。2月となると判らなくなる。…モスレムの王位が交代するかも知れないんだ。それを記念してお祭りが始まると思うからね。」

 

 「それは初耳だな。信用できる情報か?」

 「出元は御后様だから、たぶんってところだな。」


 「それなりに信用できるか。だが、…確かにカナトールが片付けば良い機会かもしれん。」

 グレイさんも少し変ったな。昔みたいに少し軽い感じが無くなった。

 

 「私もそう思います。でも、そうなったら国王達は何をするんでしょうね。私はそっちの方が気になります。」

 現国王は、見た目は人の良さそうなおじさんに見えるけど、何といってもあの御后様の旦那だからな。意外とクセモノだと俺は思ってる。

 姉貴もそう思ってるんだろう。山荘の庭の外れに離れを作るような事を言っていたのも気に掛かってきたぞ。

               ・

               ・


 夕暮れ前にサラミス達は帰っていった。

 後は俺達が残ったけど、直ぐに姉貴と嬢ちゃん達はサラミスとミューさんの噂を始める。

 ディーとリムちゃんはそんな姉貴達を放っておいて夕食の準備を始めた。

 俺は、1人外に出て夕暮れに染まるアクトラス山脈を眺めながら一服を楽しむ。

 ホントに綺麗だよな。やはりここが一番良い。


 リビングに戻ると姉貴達はまだやってる。

 「…という事で、余り干渉せずに見てやる事じゃ。」

 アルトさんの言葉にミーアちゃんとサーシャちゃんがうんうんと頷いている。それを姉貴がにこにこしながら見ているぞ。


 「で、どういう結論に達したの?」

 「サラミスさん達の行く末を生暖かく見守るという事みたいよ。変に気を使わない事が大事だってアルトさんが力説してたわ。」

 それが、一番良いと思うぞ。馬に蹴られるって諺もある位だからね。


 でも、あのサラミスがねぇ…。人は変るものなんだな。

 

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