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#322 王都攻略 7th

 「退け、退け、退けー!!」

 引っ切り無しに怪我人が指揮所の後ろにある救護所に運ばれていく。

 流石に100人を越える怪我人の搬送はサーシャちゃんもショックを受けたようだ。


 遠く、近くで炸裂音が聞えてくる。

 そして、しばらくすると怪我人が搬送されてくるのだ。

 怪我人を運ぶ担架も血塗れだ。担架から血が滴っているから大怪我を負ったのか、と思わず確認するとそれ程の怪我でもない。

 担架の上で恐縮する怪我人を見て思わずホッと胸を撫で下ろす。


 「幸い【サフロナ】を使用するような大怪我を負った者はいない。

 明日には元気に部隊に復帰出来るだろうが…。少し、多すぎるな。」

 「それだけ意気盛んなんでしょう。士気が落ちないのが不思議な位です。」


 「それは、テーバイ戦の功労者が指揮を取っているせいじゃ。攻略戦の作戦を常勝のミズキが謀り、王都の攻略は数千の敵軍を前に一歩も引かなかったアキトが指揮をとっておるのじゃ。

 稀代の勇者としてアキトの名はモスレム以外の王国にも知れ渡っておったぞ。その勇者と共にいると言うだけで、彼等は恐れずに敵の中に飛び込んでおる。」

 少し落着いたのか、従兵の入れてくれたお茶を両手で持って飲んでいたサーシャちゃんが言った。


 「アキト殿のせい…と言うわけか。ワハハハ…。」

 ケイモスさんは面白そうに笑い出したぞ。

 そんなに可笑しいのかな?だが、そうだとしたら問題なんじゃないのか?


 「そう、深刻な顔をするな。ケイモス将軍やサーシャ様それに俺にしても、驚いているのだ。俺達だけでは、これほどの士気を維持する事は出来ん。大したものだよ。」

 俺の肩をポンと叩いてセリウスさんが言った。


 士気が高いのは悪い事ではない。だが、ハイに成っているのではないかと、ちょっと心配になってきた。

 

 「睡眠不足と戦闘の継続で気が高ぶっている訳ではありませんよね。」

 「それは無い。…そんな事ならもっと怪我人が続出する。確かに多い事は事実だが、気が高ぶった兵士共の行動は乱雑になり統制が取れなくなる。今の状況とは、まるで異なるからアキト殿の心配は無用だ。」

 

 ケイモスさんは諭すように俺を向いて言った。

 そこに、エイオスがやって来る。


 「アキト様。指揮所を通り1つ南に移動しても大丈夫です。2つ先の通りまで探索を終えました。」

 「ご苦労。…これで、やっと民家の半分と言う所だな。封鎖線を1つ前に維持して、兵を休ませろ。明朝、一気に探索を終了させる。」

 「了解しました。早速手配します。」


 「やはり、このままでは兵が持たぬか…。」

 「はい。エイオスの顔に隈が出ていました。少し休めば疲れも取れるでしょう。」

 セリウスさんの呟きに、俺が答えると、ケイモスさんがサーシャちゃんと何事か相談を始めた。

 直ぐにサーシャちゃんが部下を王宮跡に走らせる。


 「王宮の広場に展開しているバリスタ部隊を新たな封鎖線の守備に着かせるのじゃ。そうすれば、掃討部隊の全員を休ませる事が出来るじゃろう。」

 「ついでに、朝食も作らせる。少し寝て、暖かいスープを飲めば、残りを一気に掃討出切る気力が維持出来る。」


 少し経つと、王宮広場からサーシャちゃんの部隊が駆け足でやって来た。

 たちまち封鎖線を作り、封鎖線の北側の民家の屋根にまでクロスボーを持った兵隊を待機させている。

 10個近く光球を通りに上げているから、自爆攻撃をする敵兵を離れた位置で発見できるだろう。

 そして、彼等は亀兵隊。クロスボーと長弓の名手揃いだ。


 俺達も、指揮所を設営すると後ろに下がって焚火を囲む。

 何があるか判らないから、俺達は休む訳にはいかないけれど、サーシャちゃんはディーにもたれるようにして眠り込んでいる。

 まぁ、俺達3人がいれば安心だから、朝まで寝かしといてあげよう。


 「マスター。…兵が民家の探索を中止したので、敵兵が活性化しています。」

 「南の楼門前の広場まで300mは無いからな。最後の抵抗を考えてるんだろうけど、組織だった動きなのか?」


 「組織だっているかについては判断しかねます。何人かが敵兵に連絡を取っているようです。連絡を受けた敵兵は数人ずつで行動していますが、その行動に統一性はありません。」


 「何を考えているのだ?」

 セリウスさんがパイプを口にしながら言った。

 「分りません。それに、あれから自爆攻撃が無くなったのも気にはなるんです。」


 「相手もバカではない。幾ら麻薬で洗脳されているとしてもだ。そいつ等の指揮を取る人間がいるはずだ。」

 ケイモスさんが苦そうにお茶を飲んでいる。さっき、目が覚めるようなお茶を従兵に言付けていたからな。

 

 だが、言われてみればその通りで、兵達を指揮している者は余り俺達は注意していなかった。

 いたとしても、偉い者は王宮って先入感を持っていたのかも知れない。

 王宮と貴族街は殆ど破壊と炎上をセットで行なっているから、残りの兵は洗脳が解けなくて投降出来ない兵隊とばかり思っていたのだ。


 だが、もし洗脳された部隊を指揮するものがいるとなれば、厄介なんてものじゃない。

 どんな命令にも忠実に従う兵隊を向うは持っているのだ。

 自爆以上の攻撃を仕掛けて来るとも限らない。

               ・

               ・


 朝焼けが始まる。

 残りの通りは後11だ。東西に伸びる横幅5mに満たない通りだが、通りと通りの間に南北に2軒の民家が建てられている。ここまで来ると、多くが平屋でたまにある2階建ての家は格好の監視台になっている。

 そんな2階の屋根から、光が瞬いた。

 同時にディーが口を開く。


 「来ます。数は20…50…、いえ、数がどんどん増えていきます。東南方向と南西方向の2方向から中央目指しながら数を増やしていきます。現在120を越えました。」


 俺にもその姿が見えてきた。200m程先に10人程度の敵兵がゆっくりと歩いて来る。

 「全員を封鎖線より100D下げて待機しろ。そして民家の屋根にはクロスボーを上げておけ。来るぞ!!」

 俺達も立ち上がると封鎖線付近に設営した指揮所に向かう。ディーが優しくサーシャちゃんを起こしていた。そして、バリスタ部隊の護衛にサーシャちゃんを預けると俺のところに急いで来た。


 ショットガンを片手に持って敵兵の動きを見る。 

 通り2つ程先に来るとそこで止まってこちらを見ているようだ。

 「武器は持っていないのか?」

 「背中に長剣、そして両手に爆裂球です。」

 握った手が異様に大きく見えたのはそのせいか…。


 「部隊配備終了です。全員が爆裂球付きの長弓か、クロスボーを持って封鎖線の通り1つ手前に隠れています。」

 「良し。封鎖線の通り1つ向こう側に来たら一斉に攻撃だ。各、分隊長に攻撃指示は一任する。」

 

 エイオスの報告を聞いて、そう指示するとセリウスさんも長弓を持って頷いている。セリウスさんの弓を持つ姿は初めて見るけど撃てるんだろうか?

 俺の横にはディーが爆裂球を持ってるし、サーシャちゃんはクロスボーだな。動滑車付きのやつだから爆裂球がついたボルトを量産型のクロスボー並みに発射出来る。

 

 前方の敵兵を双眼鏡で見ていると、唐突に視野の中に見知った男の姿が現れた。こちらを睨んだかと思うと直ぐに民家の影に隠れてしまった。


 「セリウスさん。俺の見間違い出なければ、…敵兵を指揮しているのはモスレムの士官学校校長ですよ。」

 「「何だと!」」

 セリウスさんと、俺の言葉を聞いたケイモスさんまでもが俺を振り向く。


 「チラッと姿を見せて引っ込みましたが、あの夜俺と姉貴を睨んでいた顔はまだ忘れてませんよ。」


 「もし、そうだとすればどんな手を使ってくるか分らんぞ。」

 「見敵必殺。…この王都にいるのは我等の軍と敵軍のみと考えましょう。南の楼門を脱出する者は追わずに、今だに王都に在するものは敵と考えて行動する他に無いと思います。」

 セリウスさんにそう答えるとサーシャちゃんとケイモスさんも賛同してくれた。


 ウオオォォー!!と蛮声が大きく上がると敵兵が一斉に封鎖線に突っ込んでくる。


 慎重に狙いを定めてショットガンを放つ。全員が矢やボルトを放っても彼等の流れは止まらない。

 ドオォン!っとそこかしこで炸裂音が木霊して、民家に火が点いた。

 

 従兵の1人に急いで中央阻止線を守る兵隊をこちらに移動させる。

 前方の阻止線は破られていないが、この後の火事を食い止めるために俺達の後ろの通りに面した民家を大至急破壊させて火事を食い止めねばならない。


 ショットガンを全弾発射し終えると、急いでポケットから弾を取り出してマガジンに詰め込む。

 セリウスさんも手持ちの矢を使いきったようで、従兵から矢を受取っている。

 そんな中、阻止線に突っ込んできた敵兵にケイモスさんの投げた槍が当たってその場で爆裂球が炸裂する。

 血に濡れた土砂が臓物の断片と共にここまで飛んできた。


 その後ろから走ってきた敵兵はサーシャちゃんのボルトで足止めされてその場で四散する。

 後ろからも炸裂音が聞こえてきたのは、民家を破壊している音だろう。道幅を広げて【フーター】のお湯を民家の残骸に掛けておけば急場は凌げるに違いない。

 この時代の消火活動って、破壊工作により延焼を食い止めるだけなのだ。


 「もう一団が来るぞ!」

 後ろをみていた俺にセリウスさんが怒鳴る。

 慌てて前を見ると、数人が両手の爆裂球を高く上げながら走ってくる。

 敵兵の直ぐ前でディーの投げた爆裂球が炸裂した。

 倒れた敵兵を踏み越えて走ってくる2人を俺とサーシャちゃんが倒す。

 

 突然に周囲が静まり返る。

 「終ったか?」

 「まだです。半数は集結したままです。」

 俺の呟きにディーが答えた時、一段と大きな蛮声と共に先程に倍する敵兵が俺達目掛けて突っ込んできた。


 一斉に矢が放たれ、次の瞬間に爆裂球が投擲される。

 炸裂する轟音と土煙の中から敵兵が現れ、ボルトが屋根から彼等を襲う。


 その屍を踏み越えて来る敵兵に再度矢が放たれる。

 そして、遂に敵兵の一団が阻止線を踏み越えた。


 ウオオォォ!!

 蛮声を上げて俺とセリウスさんそしてケイモスさんが剣を抜いて彼等に突っ込む。

 ディーはブーメランを握ると、中央通の真中で、走りぬけようとする敵兵を次々に倒している。時折、倒した敵兵の握っていた爆裂球が炸裂するから中央通りは砂塵に覆われて見通しが悪くなってきた。


 民家から持ち出したテーブルを数台並べてサーシャちゃんと従兵達が砂塵から姿を現す敵兵を倒していると、ディーが教えてくれた。

 俺は、ショットガンを阻止線の向こう側に向けて民家の影から現れる敵兵を次々と倒し始める。

 少し離れた場所では、グルカを両手に持ったセリウスさんが一撃離脱を繰り返して敵兵を倒している。


 そして、また静かになった。

 辺りを見渡すと、俺と同じようにキョロキョロと周囲を伺う兵隊の姿が見える。

 「敵の襲撃は終了のようです。まだ潜んでいる者もおりますが残り200を切っています。」

 俺に近づいてディーが報告してくれた。


 急いでセリウスさん達と小隊長を集める。

 「ディーの報告によれば残りは200程度らしい。先行して通りに印をつけて貰っているから、その印を目安に敵の残兵を狩ってくれ。」

 

 俺の指示に直ぐに小隊長は部隊に帰っていく。そして残りの敵兵狩りが始まった。

 

 「50箇所はあるまい。直ぐに終る。」

 「先程の襲撃で怪我人も大分出たようじゃ。【サフロナ】の世話になった者も10人ではきくまい。これで最後だと良いのじゃが…。」

 セリウスさんとサーシャちゃんは対照的だな。

 だが、サーシャちゃんの心配は無いと思うぞ。ディーが残敵のカウントをしているがどんどんとその数が減っていく。


 「残敵、96…87…78…。」

 民家に潜む数は多くても10人以下のようだ。

 

 その時、大きな炸裂音があがり民家に火の手が広がる。

 「まるで【メルダム】じゃな。集積した爆裂球を一気に炸裂させたようじゃ。」

 

 サーシャちゃんの指示で救護部隊が火元に走る。あれだけの爆発だ。怪我人が多数出ているだろう。

 

 「57…36…23…。」

 ディーのカウントダウンが続いている。

 

 「8…2…0。王都内に敵兵は存在しません。」

 「終ったか…。」

 ディーの報告に俺が呟くと同時に民家の先の方から大きな歓声が聞えた。

 

 「どうやら、終了だな。ワシの部隊の半分を残して警戒に当たろう。アキト殿達はこのまま南の楼門を進むが良い。ワシも手筈が整い次第本部に戻る。」

 ケイモスさんはそう言うと部下に小隊長達を集めさせる。


 「さて、俺達も行動に移ろう。俺達が南の楼門を出た時点で第5段階が終了する。」

 セリウスさんは亀兵隊の小隊長を参集させる。


 南門で隊列を整え、セリウスさんの部隊から南の楼門を出て行った。

 サーシャちゃん達の部隊が門を出ると、沢山の負傷者が担架に乗せられて後に続く。

 俺達はその担架を守るようにしてバジュラにディーと共に乗って王都を後にした。


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― 新着の感想 ―
ここで、モスレムの士官学校校長が… 逃亡してなかったんですね でも、この殲滅戦では、校長も戦死するでしょう
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