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#315 作戦は?

 


 姉貴は敵兵が3,000程度だと言うが、それでも俺達の兵力は5,000だぞ。攻撃は守備兵の3倍兵力がいるってさっき言ってたような気がするけど…。

 「問題は、王都の領民です。被害を無くす事は不可能でしょうけど、出来るだけ被害を少なくしたいと思います。」

 「同感じゃ。…じゃが、一番の問題でもある。民を害さず敵兵を撃つ事は極めて難しい。」

 アルトさんが姉貴の言葉に苦い顔をして答えた。


 「全ての領民を救えるとは最初から思っていません。あれから、2年も経過しています。ノーランドと親交を持つ領民も多いでしょう。武器を取って私達に襲い掛かる者もいるでしょう。この見極めをどうするかに懸かっています。」

 「それは、最も難しいぞ。剣を向けて一々問いかけねばならぬ。少なくとも王都には1万を越える領民がいる。それを行うのは、不可能だ。」


 「だから、作戦が必要になります。モスレムの王都はこのような形で楼門は3つですね。カナトールの王都も同じ造りでしょうか?」

 「同じじゃ。ワシは何度か行った事がある。大通りがこのように走っている所まで同じと言って良いだろう。」


 姉貴が書いた簡単な大きな四角にケイモスさんが楼門の位置と通りを書き込む。そして、王宮と貴族街、商人街等をその図に落としていく。


 「王都攻略は5つの段階を踏みます。宜しいですか?」

 そう言って姉貴は俺達を見渡す。

 誰も異を唱えない事を確認すると、ケイモスさんが補足してくれた地図(?)を指差した。そして、手にペンを持ってその地図に書き込みながら話を始めた。


 「第1段階。これは王都東西の楼門を塞ぐものです。戦闘工兵の強襲で王都の東西の楼門に障害物を積上げて下さい。なるべく大量にそして高く積上げます。」

 そう言って俺の顔を見る。俺が大きく頷くのを確認すると、またペンで地図に書き加え始めた。


 「第2段階。王都攻略の布陣を行ないます。

 南楼門から1M(150m)離れてケイモスさんの部隊2,000人で鶴翼の陣をひいて下さい。但し、中心は100D(30m)の距離を開いてください。

 開いた口の南側には、ミーアちゃんとリムちゃんの部隊が待機。

 鶴翼の両側、東西ですが…ここにはアルトさんの部隊が展開してください。東西に2小隊ずつ。予備兵力に1小隊です。

 サーシャちゃんの部隊は2つに分けます。北に70。南に30です。

 そして、アキトの部隊とセリウスさんの部隊、それにケイモスさんの部隊の1,000人は北に待機します。ミケランさんの部隊とディーも同じです。

 私とブリューさん達、それにアン姫は本部という事になりますが、本部はケイモスさんの部隊が作る鶴翼陣に隣接して設置します。」


 「ネズミが飛び出してくるのを待つのか?…ネコはどのように放つのだ?」

 セリウスさんが陣立てを見て姉貴に聞いた。


 「それが第3段階、王都の南楼門の破壊と北の城壁の破壊です。

 南の楼門は楼門から2M(300m)程離れて、バリスタで破壊してください。私も魔法で援護します。

 北の城壁を破る前に、バリスタ70台で王宮を攻撃します。王宮は破壊しても構いません。王都の北側に火災を起こすのが目的です。」


 「第4段階。王都の破壊です。

 ディーのレールガンで北側の城壁に穴を開けます。

 そして、アキトの部隊、セリウスさんの部隊で王宮を破壊します。

 王宮破壊が終了したら、アキト達は貴族街の東側を徹底的に破壊してください。西側はケイモスさんの部隊1,000人で行ないます。

 貴族街の破壊が始まったら、サーシャちゃんのバリスタ部隊を王宮まで前進して破壊の手助けをしてください。

 ミケランさんは破壊した城壁の守備とサーシャちゃん達の守備をお願いします。」


 「最後の第5段階。民家の探索です。

 王宮と貴族街の破壊は認めますが民家はダメです。民家に潜み、武器を持つ者は全て殺しなさい。

 アキト達が南楼門を出た時に、王都攻略は終了します。」


 北から南へ突き進むのか。そうすることで王都の住民を南に出す。まるで、トコロテンみたいな作戦だな。

 北から南に攻略して行き、民衆を南楼門から脱出させるという事だ。その為に、ケイモスさん達歩兵が鶴翼で陣を構え避難方向を誘導する。そして、武装兵が紛れ込んだ場合はアルトさん達が対処する訳か…。


 「1つ聞きたい。民衆に紛れて脱出する指揮官や貴族もいそうなものだ。どう見破る?」

 「民衆の告発と真実審判に任せましょう。それ以外に手はありません。」

 ケイモスさんの質問に姉貴が答えた。

 

 「となれば、エントラムズより急いで迎えねばなるまい。ワレが書状を書く。届けるのは…。」

 「私達が行きましょう。幸い、本部詰めです。ガルパスで行けば、2日で帰って来られます。」

 ケイモスさんにブリューさんが名乗り出た。シグさんも頷いているから2人で行くんだろうな。


 「1つ大事な事を忘れておるぞ。最初の前提を確認せねばならん。」

 サーシャちゃんが姉貴に確認している。

 前提って…、確か王都にいるのは3,000程度の兵隊だって事だよな。


 「それが、これからする事です。確かめる方法は簡単です。東の町を攻略しましたが、町には兵隊だけでした。次の町にいるのは兵隊?それとも民衆?」


 「兵に余力があれば町に駐屯させる…。若し、いない場合は王都防衛に帰った事になる。それは…王都に兵力が少ないという事になるのじゃな。」

 サーシャちゃんの答えに姉貴は微笑んでいる。良く出来ましたって事かな。


 「良し、出来たぞ。これをエントラムズ国王に渡してくれ。」

 ケイモスさんは手紙をブリューさんに差し出した。ブリューさんがそれをポケットに入れるとシグさんと一緒に本部を出て行った。


 「さて、アキト。様子を見てきて!」

 「それって、俺に次の町に敵がいるかどうかを見て来いって事?」


 姉貴に思わず問い返したが、ニコリと俺に頷いたところを見ると本気だな。

 「大勢で押しかけると、町の人達も警戒するかも知れないから、ディーと2人で様子を見て来て。」


 まぁ、それも分るけど、もし敵がいたらと思うとちょっとね。

 しかし、俺とディーなら逃げ切れるか…。それもあって姉貴は俺とディーに行かせる気だな。

 

 「分った。ところで、町は攻略した町の東だよね。」

 「あの町の東に街道が続いているらしいの。それを辿れば良い筈よ。」


 「直ぐに行ってくる。」

 俺とディーは本部を出た。直ぐにバジュラを呼ぶ。


 カシャカシャと爪音を立ててやって来たバジュラに跨ると、鞍の後にディーを乗せる。

 「一気に走るぞ。掴まってろよ。」

 

 そして、バジュラはダッシュをするようにカルナバルの南門を抜け出て、荒地に躍り出た。

 時速40km以上は出ている感じだ。低い位置に腰を掛けているからまるでF1に乗ってるような感じがする。

 そして、これだけの速度で荒地を走っても振動がそれほど感じられない。荒地の起伏を撫でるように走っているが、地面の凹凸による振動が殆ど感じないのだ。

 

 直ぐに最初の町が見えてきた。戦闘の凄まじさが破壊された民家と周囲の壁で見て取れる。 

 そして、町から街道が東に延びている。

 早速、街道にバジュラを進めると、街道を駆けていった。


 遠くに次の町が見える。さて、何が出てくるのやら。

 俺達の格好は兵隊と言うよりはハンターだ。もし敵がいたとしても直ぐに戦闘にはなるまい。その僅かな隙を付いて爆裂球を放り投げながら逃げ出す事は可能だろう。

 

 「速度を落として歩いていくぞ。」

 ディーにそう告げると、バジュラの速度を緩める。のんびりと歩く速度だ。後2kmも無い。ガルパスは使役獣というのが一般的だからだ。


 町の門まで100m程に近づいても矢が飛んでこない。そのまま閉ざされた西門に行くと、門をドンドンと叩いた。

 「誰だ?…珍しいのう、ハンターじゃな。今、あけるから待っておれ。」

 門番は老人のようだ。

 やはり、この姿はハンターにしか見えないらしい。


 「カナトールが滅んで大分ハンターも減ったのじゃが、見かけない顔だな。しかもガルパスに乗るとは…。ハンターとは自分の足で歩く者じゃ。全く、近頃の若い者は…。」

 

 最後の言葉は聞かなかった事にしておこう。だが、ハンターも少しは残っていたんだな。

 「この町は、兵隊はいないの?」

 「今朝方、大急ぎで王都に帰りおった。村の食い物を殆ど持っていきおったが、まぁ、ワシらもその辺は心得ておる。食うには困らんが、ギルドは再開しておらんぞ。飯もこの町の連中が食うだけじゃ。悪い事は言わんから、南に行くがいい。エントラムズならお前さん達の仕事もあるじゃろう。」


 「そうですか…。西の町は破壊されて誰もいませんでした。王都に近ければと思ったんですが。」

 「西の村にいたのはノーランドの連中じゃ。王都にも行かぬ方がいいぞ。あそこが奴等の本拠地じゃ。ハンターもいるが碌なもんじゃねぇ。」


 「やはり、まだカナトールでハンター稼業は無理ですか…。分りました。引き返します。」

 老人は俺の言葉に頷いた。

 バジュラの向きを変えると、西に向かってゆっくりと歩いて行く。後ろで町の門がガタンと硬く閉まる音が聞えてきた。

 かなりの高齢だったな。それでも門番をしているという事は、町に若い者達がいないという事か。その若者は…、例の麻薬に繋がる訳だ。

 

 「マスター。そろそろ速度を上げてはどうでしょうか?…町はもう、見えません。」

 振り返ってみると、確かに起伏に町が隠れている。

 俺はバジュラの速度を上げて、真直ぐにカルナバルへと走って行った。


 遠くにカルナバルが見えてくる。

 だが、その姿が変わっている。俺達が一晩で作り上げた、盾を並べた塀が取り払われているのだ。

 それでも、乱杭と地雷は健在だから、南門の柱を見定めてカルナバルの中に入ると、直ぐに本部へと向った。


 本部は引越しの準備に忙しい。それでも俺の話を聞こうと皆が集まっていた。

 席に着くと従兵がお茶を出してくれる。

 ちょっと温いお茶をグイってあおると、早速報告を始めた。


 「王都直前の町には兵隊はいなかった。町民も少なく寂れた感じに見えたよ。門番が高齢の老人だった。若者はいないようだったな。

 兵隊はいたらしいんだが、今朝方に王都に引き上げたらしい。町の食料と一緒にね。だけど、少しは町民が隠しておいたらしい。直ぐには困らないようなことを言っていた。」


 「やはり、ミズキの読み通りという事じゃな。食料は我等の1日分を提供すればかなりの量になる。道の途中で恵むのがよいじゃろう。」

 「若者がいないという事は、兵として徴用したという事だろう。麻薬で獣のように使われては早く眠らせてやるのも親切かも知れぬ。」

 アルトさんとセリウスさんが早速意見を言った。


 「ところで、何時攻撃の準備を始めるのじゃ。」

 「作戦開始はブリューさんが戻ってきてからよ。でも作戦開始の準備は始めてるわよ。カルナバルを縮小して西の川原の防備以外は全て撤去するわ。

 この、鶴翼陣にそって盾を並べれば、民衆の誘導が楽でしょ。それに杭とロープも誘導路を作れるし、民衆を一箇所に集める柵にも使えるでしょ。

 焼けた林の木々も荷車に積んで王都の門の封鎖に使えるし、燃料の薪にも使えるわ。明日はそんな準備をするから、皆さんにも協力して貰います。」


 やはり休日は無いか…。皆の顔がちょっとゲンナリしてるぞ。

 

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