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#300 岬の風景

 


 次の日、王様達に礼を述べて、王宮を出た。

 王都の大通りをテクテクと歩いて、商店街を物色していると後ろから声を掛けられた。


 「お久しぶりですね。」

 振り返るとそこには、カストルさんが2人の部下を連れて立っていた。

 「これは、奇遇ですね。色々とお世話になりました。例の場所で大勢の仲間としばらく過ごすことになりました。」


 「それで、私が来たんです。あの別荘の西にはまだモスレムの貴族達が居座っています。大勢の移民が一時に訪れては諍いも起こるでしょう。」


 まだ粒金を諦めないでいる貴族がいるのか。ちょっと驚いてしまった。

 「ご迷惑をお掛けします。」

 「ははは…。それは我が国王も一枚噛んでいますからお互い様です。それで、何をお探しですか?」


 「食料と燃料、それに水樽を購入しようと歩いていたんですが、中々それと思う商店が見つからなくて…。」

 「多分そんな事だろうと思ってやってきたんですよ。王都の南門にセルシン殿の手代が荷馬車用意しております。荷馬車5台を断わられたと笑っていましたが、荷馬車3台はイゾルデのわがままに付き合ってくれているアキト殿への迷惑料だと言ってましたよ。」


 さすが兄貴だけの事はある。妹の行動は良く知っているという事だな。

 「助けて貰った事はありますが、迷惑と思った事はありません。報酬を受取らないのでそのような理由を付けたんでしょう。」


 「それでは、このまま真直ぐ南に通りを進みましょう。」

 大通りを30分程あるいて南門の広場に行くと3台の荷馬車が並んでいた。それに馬車が3台荷馬車の前後に同じように並んでいる。


 「分隊を2つ連れて行きます。アキト殿は、我等とあの馬車へ…。」

 カストルさんが指差した少し小型の馬車に乗ると、馬車列が南門を出発した。


 「灰色ガトルの毛皮の帽子は、御后様が長年王様に強請っていましたからね。それが1度に5枚手に入れば御后様は喜びますよ。しかし、ガトル数匹に勝ると言われる灰色狼を良くも倒せましたね。」


 のんびりと馬車に揺られる退屈な馬車の旅だ。カリストさんのそんな話が元で、俺達の冒険の顛末を話し始めると、分隊長がお茶を出してくれた。

 喉を潤し、タバコを楽しみながらの俺の話を、真剣に3人が聞いている。

 

 「家よりも大きな獣等、いるのでしょうか?」

 「いたんだよ。しかも2種類。大きな方は草食だろうが、もう片方は肉食だった。追撃されて大変だったよ。」


 「しかし耳の内側を爆裂球付きの矢で撃つなぞ、ミーア様も成長なさいましたな。我が国に王子がおられましたら良い縁談になったでしょうに…。」

 カリストさんもそろそろミーアちゃんがお年頃と判断したようだな。

 これは、あっちこっちから縁談が舞い込む可能性が高いぞ。姉貴にも言っておかなければなるまい。

 そんな事を話しながら馬車を走らせると、その日の夕刻前に俺達は岬の別荘に着く事が出来た。

               ・

               ・


 「では、しばらくの滞在を許可してくれたと言う事ね。」

 「あぁ。でも定住は無理そうだな。この国は森林が少ないからね。」

 俺の言葉を聞いた姉貴の確認に応えた。

 別荘は、修道院に管理を頼んだんだけど、俺達が何時来ても利用できるようにディオンさん達は毎日掃除をしているそうだ。

 おかげで、昨日の早朝に訪れた姉貴は、直ぐに部屋に通されたと話してくれた。


 移民団の人達は西に広がる丘陵地帯に天幕を張っている。その丘陵には大きな修道院の土台が姿を現し、一部の外壁が姿を現している。


 質素な木のカップにディオンさんがお茶を継ぎ足してくれた。

 「元は広大な森林が広がっていたのです。ですが…。」

 そういうディオンさんの顔は辛そうな表情だ。確かディオンさんもエルフ族だったよな。やはり森が無くなるのは辛いんだろうな。

 「原因は、鉄…ですか?」

 ディオンさんが小さく頷く。


 「大きな戦がありました。その為の武器の生産に沢山の木々が倒されました。当時は植林という意識はありません。幾らでも森に木々はあると皆信じていたのです。」

 

 鉄の生産は山を廻ると聞いた事がある。1回の鉄の生産にいったいどれだけの木炭を必要とするのか…。山の木を切り倒して木炭を作り、山に木が無くなれば別の山に移る。これを繰り返してきたのが、昔の製鉄だと歴史の先生が言っていた。


 「私が、この地で果樹の苗を育てているのも、昔の罪滅ぼしと考えています。しかし、1度破壊された自然の復元は長い月日が必要です。」

 「里のような閉鎖された環境であれば適量という考えが浮ぶかも知れませんが、開放された広大な森林を持つとそのような考えがなくなるのかも知れませんね。」

 ディオンさんの話を聞いて、ケインさんが呟く。


 「同朋を留め置く事が出来ないのは心苦しい限りです。せめて、この地に滞在している間は不自由なく過ごせるようお手伝い致します。」 

 ケインさんは、そう言ってくれたディオンさんに頭を下げた。


 そんなディオンさんの心遣いもあり俺達はのんびりと別荘に厄介になっている。

 久しぶりにマリアさんとも再会した。すっかりシスターの姿が様になっていて、派手なドレスに厚化粧をした面影はどこにも無い。

 何となく後姿に手を合わせたくなるような雰囲気がある。

 

 「世話になりましたね。私達は毎日貴方達の幸せを祈っていましたよ。私達が今あるのは貴方達の御蔭だと心から感謝し続けています。」

 「有難うございます。しかし、今あるのはマリアさん達とディオンさんの日々の仕事があるからだと思います。まだ、結果は出ないでしょうけど頑張ってください。」

 俺の言葉を聞いてマリアさんが右手を前に何かのサインをする。キリスト教の十字を切る仕草に少し似ているような気がした。

 

 そんな、マリアさんの後には広大な果樹園が広がっている。まだ苗木で木の棒で支えられているが、育ったならばさぞかし立派な果樹園になるだろう。遠くで修道女達が苗木に水をあげていた。あの小さな女の子も混じって楽しそうに水を撒いている。

 

 改めてマリアさんに頭を下げて別れると、俺は別荘の東にある漁村に出かけた。

 500人の食料確保は中々大変だ。デクトスさんに定期的に魚を届けて貰えるかを確認して頂戴。と姉貴にも言われている。


 別荘の坂道を歩いていくと村に続く道にはまだ若い木々が並木のように続いている。更に左右にも広がっているから、後20年もすれば小さな林になるだろう。それらの木々は船の材料や、薪に利用できるのだ。そうなれば、少しは村の暮らしも良くなるだろう。


 村に入ると、直ぐにメイクさんの仕事場を目指す。デクトスさんの家を教えて貰うためと、あの後の船作りも少しは気になる。


 海へ向う路地を通って、メイクさんの仕事場に行くと沢山の人が船を作っていた。

 そんな中、大扉の近くで木切れを拾っていた人に聞いてみる。


 「あのう…メイクさんはいらっしゃいますか?」

 ジロリと俺の姿を下から上に眺めてると、

 「なんだ、オメエは?…親方は忙しいんだ。何処の馬の骨かは知らないがさっさと帰れ!」

 いきなり怒鳴りつけられた。確かに忙しそうだし、繁盛してるならそれで良いか。と思いながら踵を返した。


 「アキト…アキトだよな。良く来た。こっちだ。」

 後を振り返ると、俺に文句を言った男に拳骨を落としているメイクさんの姿があった。

 「全く、仕事も出来ないくせに一人前の口だ。この仕事場がこれだけ忙しいのもアキトの御蔭だという事を忘れてやがる。」

  

 メイクさんの言葉に俺に薄ら笑いを浮かべて頭を下げると奥に走っていった。

 「この季節では、遊びではないな。どうした、話してみろ。」

 俺を適当な板に腰を掛けさせるとメイクさんは問うてきた。

 「実は、移民を500人程連れて別荘に来ました。この地に移民する訳ではなく一時的なものですが、それでも食料は膨大になります。デクトスさんに定期的に魚を供給して貰おうと…。」


 「オーイ、サントル。ちょっと来い。直ぐにデクトスを呼んで来い。アキトが来ているといえば飛んでくるさ。行って来い!」

 俺が最後まで話さずとも、メイクさんは分ってくれたようだ。

 メイクさんはパイプにタバコを詰め込むと近くの炉の火で火を点けた。

 

 「相変わらず、他人の面倒ばかり見ているな。それなりの狩りもしているのか?」

 「まぁ、それなりにです。灰色ガトルを大分仕留めましたよ。王宮に持参してます。」

 

 「それを聞いて少しは安心だ。ハンターにしては金にならない事ばかりしてると、デクトスと心配していたんだ。それに、別荘の話も伝わってきてな、集めた粒金数十袋をポンと投出して修道院と果樹園そして村の外に林を作っていると聞いたぞ。王侯も羨む暮らしが出来るのにと不思議に思っていたものだ。」


 「数日分の食料があれば俺達は困りません。ギルドに行けば俺達に合った仕事が得られます。」

 「確かに仕事をして得られた金で生活するのが一番だな。…俺達の村はあれから大変だったぞ。俺の方はアウトリガー付きの船の注文で大忙しだ。今注文を受けても渡すのは再来年になる。他の漁村からも作り方を教えて貰いに来てるんだ。そして、デクトスもなんだが、…来たようだな。彼から聞けばいい。」


 俺達が座っている所に大柄な男が走ってきた。そしてヒョイと酒樽を俺の前に置くと木のカップを3つ取り出した。


 「しばらくだな。あれから大変だった。コイルの注文が急に王宮から来たかと思うと、今度はザラメの注文が増えだした。そして、コイルもザラメも例の仕掛けで良く釣れる。全くありがたい限りだな。」

 「そういえば、昨年はザラメを有難うございます。お蔭で全て売りさばく事ができました。」

 

 「やはり、あれが原因なんだな。…去年の暮れ辺りから急に注文が増えだしたんだ。」

 そんな話を蜂蜜酒を飲みながらしていると、別な男が獲れたばかりの魚を持ってやって来た。

 さっそく炉で炙って肴にする。


 「実は、定期的に魚を売ってもらいたいんです。別荘に500人の移民を連れてきましたので。」

 「500人だと!…この季節は余り魚が取れないが、アキトの頼みでは断るものもいないはずだ。それ位、俺達の為になっている。だが、流石に500匹は無理だろう。2日おきに50~100匹が良い所だと思う。」


 「有難うございます。それで値段は…。」

 「そうだな、1回…銀貨1枚でどうだ。」

 それって、安すぎないか?何人で漁をするか分からないけど、彼等の生活だってあるだろうに…。

 

 「安いと思っているようだな。だが、そんなものだ。要するに見習いの漁の成果をやろうというのだろう。」

 そう言って、メイクさんが再びパイプに火を点けた。

 「その通り。俺達に漁を教えてくれと近隣の漁村から若い者が集まってきた。あの嬢ちゃんがやっていた仕掛けを教えているんだが、年明けには帰るだろう。あと1ヶ月はいるから彼等が帰るときの土産にもなる。」


 「それなら、もう1つ。漁の仕方を教えましょう。ちょっと道具を作る時間が掛かりますけど、出来たら教えます。それで、貸し借り無しという事で…。」

 「十分だ。だが何を狙うんだ?」

 「もっと大型の魚です。小さくとも4D(1.2m)大きければ10D(3m)になる大型回遊魚を釣る仕掛けです。」


 「こんな奴か?」

 デクトスさんが近くの木切れを拾って、砂地に絵を描く。それは紛れも無くカジキマグロの絵だ。

 「そうです。うまくいけば釣れますよ。」

 デクトスさんが俺を見てニヤリと笑う。

 「是非とも教えろ。と言うか、教えるまでは帰らせないからな!」

 

 「まぁ、そう熱くなるな。しかし、あれが釣れれば村が潤う事は確かだ。俺も協力するぞ。」

 「お願いします。と言うか、最初からアテにしてました。仕掛けにはちょっと変った物が必要なんです。」

 俺の言葉に、なんだそりゃ。と言ってメイクさんが笑い出す。

 まぁ、酒のせいかも知れないけど、俺達はそんな話をして笑いあった。

 

  

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