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#030 カラメルの伝説。そしてその正体は?

 ラザドム村は海岸線と平行に東西に伸びる道を挟んで、海側と陸側に家並みが連なっている。陸側には裏通りもあり、裏通りに面して更に家並みがある。

 俺達はグレイさんに連れられて、道を進んで行く。

 村の真ん中辺に、少し大きな建物があった。この村のギルドである。

 ギルドの扉を開くと、マケトマムのギルドと同じような造りだ。

 グレイさんはカウンターまで歩いて行くと、早速この村への到着を報告する。


 「マケトマムから来た5人だ。アキトとミズキが試練を受ける。まだ枠はあるよな?」


 そう言って、俺達のギルドカードを集め、カウンターのお姉さんに渡した。

 「大丈夫です。年に4回のお祭りなんですけど、今回は参加者がいなくて困ってた所なんです。村の皆さんも喜ぶと思いますよ」


 ン!……今、お祭りって言ったよな。試練ってお祭りのイベントなのか?

 

 「なら、安心だな。今回は楽しめると思うぞ」

 「でも、赤7つですけど……」


 「まぁ、それは当日のお楽しみってことで。だが、少しはアキトに賭けておいたほうがいいぞ」


 賭ける?……カラメルの試練は、お祭りで賭け事なのか?

 余計に疑問が膨らんでいく。


 「はい!カードをお返しします。頑張ってくださいね」


 カウンターのお姉さんに応援されてしまった。とりあえず、「どうも……」と言っておいた。


 「この時期、祭りで何処の宿も満員だ。知合いの家に泊めて貰う」


 ギルドを出ると、グレイさんは裏通りに入っていった。狭い路地を少し歩くと、周りの家に比べて少し大きな家があった。


 「ここだ。この村の漁師を束ねている一人だ」


 そう言って、扉をドンドンと叩く。


 「誰だ!」


 家の中から若い男の声がしたかと思うと、扉がバンっと乱暴に開かれた。

 

 「何だ。グレイさんじゃないか。親父も帰ってきている。さあ、入ってくれ」


 中に入ると、そこは大きな1つの部屋になっていた。

 ギルドのホール並みに大きい。真ん中に大きなテーブルがあり10脚位ゴツイ造りの椅子がある。

 へやの奥には暖炉があるが、今の季節では使用されていない。そして、その暖炉の前にゴツイ体格の爺さんが座ってた。


 「グレイか。久しぶりじゃの。お前の試練はあと1回……。今回限りじゃが、挑戦するのか?」

 「今回は誰もいなかったようだな」


 「そうじゃ。全く、近頃の若い者はだらしが無い。わしが若い時分には我先になって申し込んだものじゃが」


 爺さんは残念そうに、目の前のカップを掴んで一飲みした。


 「今回は、楽しめるぞ。俺は出ないがこいつ等が出る。赤7つだ。楽しくなるだろ」

 「冗談を言うな。黒3つでも難しいものを……」


 「だが、こいつは俺より強い。赤6つでスラバを倒している」

 「少しはできるか。泊る場所はわしの家にするがいい。金はいらん。俺と村人そしてカラメル達を楽しませてくれれば十分じゃ」


 うん?……カラメル達を楽しませるってどういうことだ。


 「あぁ、十分に楽しめるはずだ。このアキトと其処にいるミズキも試練に挑むんだからな」

 「何じゃと!!……女で試練に挑むのはここ100年は無かったはずじゃ。……取り分は7対3で良いな」


 「10日厄介になれるならそれで良い」


 何か変な感じで、長期間滞在が可能になった。良いような悪いような複雑な気分だ。


 「立ってないで、座れ!……先ずは酒じゃ。今夜は旨い酒が飲めるぞ!」


 俺達は言われるままに席に着くと、さっきの若い男が大きなカップで飲み物を運んできた。表面に泡がいっぱいあるから、ビールの一種みたいだ。

 全員に行渡ると早速「乾杯!」で飲み始める。

 ビールよりも遥かにアルコール度が少なくて甘い飲み物だ。これなら、ミーアちゃんでも1杯位ならつき合える。


 次に運び込まれたのは大きな海鮮鍋だった。季節的にはどうかと思うけど、食べると結構美味しい。

 ワイワイと近状を話しながら鍋を頂いている時に、思い切って疑問を爺さんに投げかけてみた。

 「あのう……。結局、カルメルって何なんですか?

 今まで色々聞いたんですが、どうも理解できなくて」


 爺さんはグレイさんを睨みながらカップをテーブルに置いた。


 「この国の伝説が元になったお祭りの余興なんじゃが……」


 爺さんの話を纏めると……。

 昔、この辺りを治めていた国が、魔国からの侵略に窮したとき、3人の勇者が現れた。

 彼らは懸命に戦ったが勝利を得ることができず、この辺りまで敗退してきた。

 此処の浜辺で野宿をすると、次の日食料が無くなっていた。

 不思議に思い、付近の村で食料を調達し、誰の仕業かを確かめると……。

 夜、海からカラメルが上陸して食料を持って行った。

 次の日、食料を餌にデッカイ籠で、カラメルを捕らえる事ができた。

 すると、捕らえたカラメルは言った。


 「俺と勝負しよう。もし俺が負けたらお前らに協力する」


 勇者の1人がカラメルに挑んだ。そして、見事勝利した。

 そして、勇者に協力したカラメルの働きで魔国の侵略を跳ね返した……。


 「それから、この村ではその伝説を基にカラメル獲りをするようになったんじゃ」

 「だが、カラメル側にも似たような伝説があっての。この勝負に勝利したものはカルメル達の海底王国で高い地位を得ることが出来るようなのじゃ。 そして、我々側では高位ハンターの必要条件となるわけじゃ。面白いのう……。それでの、何時しかその勝負が賭けの対象となったわけじゃよ」


 要するに、どちらが勝っても、勝利者はメリットがあるのか。

 伝説はどちらかと言うと後付けのような気がする。でも、その伝説があるからお祭り騒ぎが出来るわけだ。

 まあ、全ては明日の晩には判るんだけどね。


 猟師を束ねるだけあって部屋は沢山あった。その中の1つに若い男の人(宴席でレニアックと名乗ってた)に案内されて、今夜は早々に寝ることにした。


 次の日。グレイさんに案内されて祭りの会場に出かけてみる。

 海に面して、砂浜に校庭位の広場を杭とロープで仕切っている。その周りは、場所取りの椅子やカーペットがぎっしりと並んでいる。

 そして、貴賓席もある。貴賓席は10脚位の椅子がテーブルの両側に広場に面して並べられている。


 海鮮物を炭であぶった串焼きや果物の屋台等が遠巻きに会場を囲んでおり、その一角には何と、今回の勝負の掛け率が表示されている。

 ん……。俺は、10倍か。姉貴は20倍の高額配当だ。こんなんで買う人がいるんだろうか。

 

 広場の真中には、小さなテーブルに皿が載っている。そして大きな籠がその上にかけてあって、棒で倒れ落ちるのを防いでいる。でも、棒に付いてる紐を引くと……。 

 これって、スズメ獲りの罠じゃないか! こんなんでカルメル捕れるのだろうか?


 「なっ!この紐を引けばカルメルが獲れるわけだ。簡単だろ」


 グレイさんはそう言うけど、ホントかな?


 そして日が暮れると、広場は大勢の人で埋まっていた。隣人との話し声、屋台の売る声、そして賭けの胴元が張り上げる声で、広場全体がざわめきに満ちていた。

 広場の中には篝火が何箇所か立てられており、ぼんやりとした明かりに照らされている。

 

 貴賓席には、俺達が世話になってる爺さん(トレックって名乗ってたような気がする)達が片側に、そして反対側には……カメがいた。

 なるほど、図鑑通りの姿だ。テーブルのキュウリを食べている。

 カメはキュウリを食べるのかと言う疑問はこの際無視しとく。


 俺と姉貴に此処に残れと言って、グレイさんはマチルダさんやミーアちゃんの待つ貴賓席近くに移動していった。


 そして、村を見下ろす坂の上に花火が上がった時、トレックさんが立ち上がり大声を上げた。


 「皆よく聞け!……今回の祭りは2名の挑戦者が名乗りを上げた」

 「アクトラスのアキトとミズキじゃ。試練は本来黒レベルの実力を必要とする。しかしアキトは赤の7。

 しかしじゃ。赤の6つでスラバを狩りおった。ギルドもそれを保障しておる。カラメルの長老はそれを聞いて納得してくれた。

 よって、今回の試練は公式のものじゃ!」


 そう、告げると会場は割れるような拍手に包まれた。


 「忘れておった。ミズキはアキトより強い。そして100年無かった女性の挑戦者じゃ」


 声の最後は会場のウォー!!って言う声で消されてしまった。


 村の子供達が両手に沢山のキュウリを抱えて中央の籠の下にあるお皿に乗せる。

 そして、籠を止めている棒についている紐の先を皆で持っている。

 しばらく待つと、浪打際に2つの黒い塊が浮んできた。それはだんだんと広場に近づいてくる。

 パタッ、パタッ……砂浜を広場の中央にやってきたのは2匹のカメだった。

 いや、カメではなくてカラメルだったよな。そして中央に設えたテーブルのお皿の上に載ったキュウリを食べ始めた。

 その時! バサリ!!って籠が落ちる。


 ワァーー!!と言う声と共に沢山の拍手が広場に満ちた。これが伝説の再現ってやつなんだな。

 俺と姉貴は、グレイさんに教えられたとおりに、籠に向かって走る。

 そして籠を前に宣言する。


 「「我と勝負、そして勝利を我の手に!!」」

 「「我ら試練の時!!」」

 

 その声と共に笊は天高く飛んでいき、カルメルは俺達の前に後足で立った。

 前足が抜けるように腕が現れる。その腕を甲羅の境目あたりに持っていき何やら操作すると甲羅がガタンと下に落ちた。おもむろに後足から足を抜き出す。

 そして、最後にカメの頭に手をやると、ズボリ!とヘルメットのように頭を外した。


 そこに、現れたのは……カッパだった。

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