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#295 肉食ゾウの追撃

 

 小さな尾根を越えて一目散に西に駆け抜ける。尾根から広がる森林地帯を少し北に移動すると荒地と林の中間みたいな場所に出た所で、俺達は一旦休息を取る。

 大体3kmは駆けて来ただろう。ちょっと息苦しくなったので2人で水筒の水を飲む。

 

 「追って来るでしょうか?」

 「何とも言えないね。…でも追って来るようだったら手負いの筈だから、移民団に近付く前に始末しないとね。」

 

 姉貴の事だから、精々仮眠位の休息で夜を徹して歩いたに違いない。移民団の移動速度はディーが3km程だと言っていた。

 俺達が最初の爆裂球を使ってから約20時間が経過している。休息や仮眠で8時間程使ったとしても12時間は歩いている。…という事は迂回を考慮して30km先を歩いている筈だ。

 そして、俺とミーアちゃんが【アクセル】を使って歩く早さは時速4,5km程だ。1時間に1.5kmずつ姉貴達に近付いて、20時間後には合流出来る事になる。

 もっとも、移民団の移動は日中のみだから、夜も俺達が歩けばそれだけ両者の距離が近付くはずだから、明日の夜には合流出来るだろう。


 「さて、先に進もうか。姉貴達が待ってる筈だ。」

 俺の言葉にミーアちゃんは頷くと立ち上がって歩き始めた。

 

 1時間も歩くと大勢の足跡を見つけた。移民団の通った足跡だ。

 足跡は北側から斜めに林の方向に続いている。俺達はその足跡を辿りながら姉貴達の後を追う事にした。

 林の奥に入らずに見通しの良い林と荒地の境を姉貴達は進んでいるようだ。本来はもう少し林の中に寄るべきなのだが夜間に歩く事を考えて見通しの良い場所を選択したんだろう。


 「余り獣を見かけませんね。」

 「俺としてはその方が良いな。小さい草食獣がいればそれを狙う肉食獣が近くにいる筈だからね。俺も少しは勘が良い方だけど、ミーアちゃんには負けるからね。頼りにしてるよ。」

 俺の言葉を嬉しそうに聞いている。俺の方を見ないのは顔が赤くなってるからだろうな。意外とミーアちゃんは照れ屋なんだ。


 昼近くになったので薪を拾い小さな焚火を作る。小さな鍋に水を入れて火に掛けると、野菜とビーフジャーキーを千切って入れる。少し塩を入れて沸騰したところでアルファ米を適当に入れれば雑炊モドキの完成だ。

 ジャーキーの胡椒が利いてるから食べると温まるし、それなりに食べ応えもある。

 食事が終ればお茶を飲みながら暫しの休憩。その隙に俺は【フーター】で食器を洗っておく。

 

 そんな時、俺達が歩いて来た方向を望遠鏡で見ていたミーアちゃんが何かを発見した。

 「何かが近付いて来ます。林の木々がじゃまでよく分りませんが…。」

 そんな声にツアイスをミーアちゃんが指差す方向に向けた。…やはりか。

 

 「追ってきたようだ。数は不明だが意外としつこいね。」

 大急ぎで荷物を纏めて尾根を探すが、辺りは平らな森林が続いていて尾根や坂なんて見当たらない。

 「あそこの岩は使えませんか?」

 ミーアちゃんの指差した林の中に、ちょっと目立たないが2m程の岩の露頭がある。高さは2mにも満たないが、あれならゾウには登る事が困難な筈だ。

 

 「使えそうだね。…ミーアちゃん。爆裂球付きの矢で耳の内側を狙えないかな。耳の内部は頭蓋骨に目と同じように穴が空いているんだ。そして、その付近は体のバランスを取る重要な組織がある。破壊できなくても相当な痛手を与えられると思う。」


 「やってみます。…こちらに一直線ですね。」

 後の言葉は、後ろのゾウを見て呟いた。さっきより大分近づいて来たぞ。追って来たのは3匹だ。爆裂球の痛手を結構受けているらしく毛皮が血潮で光って見える。

 俺達は焚火近くに地雷を仕掛けて岩の方向に移動した。まだ【アクセル】と【ブースト】の効果は続いているが、戦闘中に切れないように再度魔法を掛けなおす。

 

 ゾウ達は俺達を視認したようだ。2本の鼻を振り上げてバオォー!っと威嚇するような雄たけびを上げる。 

 ミーアちゃんを先に岩に向かわせて、俺は岩の手前で爆裂球を握って待つ。後300m位まで迫ってきた。

 そして、俺目掛けて早足で向かって来た時、地雷がゾウの足元で炸裂した。

 一瞬怯んだところに爆裂球を投げつけて急ぎ岩に向かって駆け出した。


 岩にたどり着くと、ミーアちゃんの腕を借りて岩に上る。岩の上は直径10m位の平らな広場だ。ゾウの鼻の長さは4m程だ。後ろに下がれば問題ないだろう。

 そんな事を考えていると、ミーアちゃんに腕を持たれて前に引張られた。ドォン!っと鈍い音が俺の後ろで聞こえる。

 「油断しないで下さい。もう後ろに来ています。」

 そう言いながらミーアちゃんは矢を放った。

 ウオオォーン!っと大きな叫びが俺の直ぐ後ろで聞こえる。振り返ると目に刺さった矢を鼻で抜こうとしているゾウの姿が真近に見える。

 あの鼻で俺を殴ろうとしたのかと思うとぞっとする。

 直ぐにショットガンでスラッグ弾を鼻の根本に撃ちこんだ。相当筋肉が硬いようで、破壊された筋肉組織の間からスラッグ弾のお尻が見えている。相変わらず鼻を振り回しているから効果も余り受けていないように見える。


 ドォン!っと言う炸裂音に続いてズンっと重い音が聞こえた。

 1匹のゾウが千切れた耳を上にして転倒している。上手い具合にミーアちゃんが耳に爆裂球付きの矢を命中させたようだ。

 あの弓は思った以上に命中させるのが難しい。亀兵隊専用の弓なんだが。ミーアちゃんはきちんと自分の意のままに命中させられるようだな。

 

 ショットガンを連射してスラッグ弾を使い切ったところで、散弾をマガジンに詰め込む。そして今度は目を狙って撃ち始めた。

 散弾は20m先の広がりが直径30cm程度だ。片目に2発ずつ撃ち込んで両目を潰す。

 ゾウの鼻の動きを見ながらショットガンに散弾を装填すると、残り1匹の顔面に向けて発砲した。

 バオォーっと叫び声を上げて後足で棒立ちになる。

 その腹にミーアちゃんが爆裂球付きの矢を射ると、腹で炸裂した。腹の毛皮がパッと赤く染まる。すかさず俺が散弾を打ち込み、ミーアちゃんが次の矢を射る。

 再び腹で炸裂が起こると、ゾウが上体を起こした姿から、前のめりに倒れこむ。


 ガァン!っとゾウの顔面が岩に打ち付けられた。衝撃で牙が飛んでいる。

 俺は素早く鼻をピクピクと動かしているゾウに駆け寄ると、その目に向かって至近距離から撃ち込んだ。

 ビクっと一瞬鼻が震えたが、それっきり鼻は動かない。


 残り1匹は両目を潰した奴だ。

 貫通力を重視して、俺はショットガンを岩に置くと、M29を引き抜く。

 その前に、爆裂球を奴の足元に転がす。

 上手く前足の所に転がって炸裂するとゾウが前のめりになる。至近距離から顔面に撃ち込んだ3発の弾丸の1つが奴の目を貫いた。

 更に、ミーアちゃんの放った爆裂球付きの矢が耳の内側に突き立って炸裂した。


 ドン!っという音と共に辺りに血潮が飛び散ったのを最後に、俺達の周りは急に静かになった。

 「終ったのでしょうか?」

 「どうにか、倒せたみたいだ。」

 そう言いながらも、M29にマグナム弾を装填して腰のホルスターに戻しておく。

 俺がショットガンを拾って、マガジンに新たな弾丸を装填していると、ミーアちゃんが近づいて来た。


 「あの牙を貰っても良いでしょうか?」

 ミーアちゃんの指差した先には、岩に顔面を打ち付けた衝撃で外れて飛んだ象牙がある。

 「良いんじゃない。…その牙は細工に最適なんだ。」

 俺に断わる必要は無いと思うけど、ミーアちゃんとしては一応断わっておこうとしたのかな。

 タバコに火を点けて、一生懸命大きな魔法の袋に詰め込んでいるミーアちゃんを見ていた。手伝おうとしたんだけど、自分で出来ます。って断わられたから、見てるしかなかったんだけど、あれを見たらアルトさん達が何と言うか…。ちょっと心配になってきた。

 

 ようやく袋に入れ終えたようだ。クルクルと袋を丸めて腰のバッグに入れると、すくっと立ち上がって俺を見る。痩せ型の容姿には、きびきびした動きが良く似合うな。


 「直ぐに出発しますか?」

 「いや、ちょっと様子を見てから行こう。まだ、太陽は高い。ここで今度こそ追って来るものがいない事を確認してからでも遅くは無いだろう。」

 「そうですね。では、お茶を準備しますね。」

 

 ミーアちゃんは、岩の後の方から薪を集めて岩の上で焚火を作ってお茶を作り始めた。

 俺は目の前に横たわる肉食のゾウをジッと見つめる。

 急に動き出したらと思うと、目を逸らす事は出来ない。

 この3匹以外には、俺達を追い掛けて来たゾウはいないようだ。俺としても次のゴングは鳴らしたくない。やはり大型の獣はその大きさそのものが武器になる。


 ミーアちゃんが入れてくれたお茶を飲み終えても3匹のゾウは動かない。

 どうやら、仕留めたようだな。

 そして俺が立ち上がりながらゾウを見ていた時、小さな異変に気が付いた。ネズミよりも少し大きな獣が集まって来てる。

 どこにも掃除屋と呼ばれる獣はいるんだな。と思いながらミーアちゃんと岩を下りて、姉貴を再び追い駆け始める。


 数時間歩き続けて、ゾウを倒した場所から10km以上離れた所で、今日の行軍を止めて短い睡眠を交替で取る。

 次の日は夜が明ける前に歩き始めた。

 500人の移民団が通った場所は簡単に見つけることが出来るので、道を間違える事はない。


 「今夜には追いつけるでしょうか?」

 「例の3匹で遅れたからね。今夜は無理だろう。明日中には追いつけると思うよ。」

 簡単な昼食を取りながらそんな事を話す。

 しかし、簡単に追いつけないという事は、それだけ移民団の行軍は順調だという事が出来る。肉食ゾウなんていう化け物がそうそういるとは思えないし、いて欲しくも無い。


 俺の言葉通りにその日は移民団の姿を見ることは出来なかった。

 夜が更けるまで歩き、焚火の傍で代わり番こに仮眠を取って、夜が明ける前に互いに【アクセル】を掛けて出発する。


 「あれじゃないですか?」

 昼近くになった時、隣を歩いていたミーアちゃんが前方を指差した。確かに黒い塊が見える。

 俺達は昼食も取らずに、歩みを速めてその正体を確かめようと先を急いだ。

 

 移民団の行軍は昼食を取る為に停止したようだ。沢山の焚火の煙が上空で1つに成っているのが見える。そして、俺の目にもようやく黒い塊が人の姿に分離して見え出した。

 このまま進めば夕食には間に合うな。

 そんな思いをミーアちゃんもしていたのだろう。互いに顔を見合わせて笑みを浮かべる。

               ・

               ・



 「大分苦労したようじゃな。」

 俺達が移民団の隊列に追いついて、久しぶりに仲間と夕食を食べようとした時にアルトさんが聞いてきた。


 「どうにか倒した。肉食ゾウを10匹。あんな相手はこりごりだ。」

 「戻った時の報告は、もう大丈夫。ってだけだったけど、ホントなの?」

 姉貴は疑っているようだけど、多分あの3匹でもう追っては来ないと思うぞ。


 「最初は谷に誘い込んで尾根から攻撃を加えました。相手の数が多いので生死判定はしていません。そして、私達を追って来たのは3匹でした。

 3匹を倒した後で約1時間程その場に滞在して様子を見ましたが、後続も無く、倒したゾウも動きませんでした。後は2日程掛けて移民団の行軍に追い着きました。」


 ミーアちゃんがシチュー皿を手元に置いて姉貴に報告する。

 「やはり好戦的だったのね。」

 

 「我等にも狩れるか?」

 「平地では無理だ。高い場所を探してそこから爆裂球で攻撃。出来れば耳の内側に爆裂ボルトを打ち込めばかなり戦いが楽になる。」

 「次が出たら今度は我等が殺るのじゃ。アキトは後で見ておれ。」

 

 ただ歩いているのに飽きてきたんだろうな。でも、無理に殺る必要は無いと思うぞ。

 先ずは逃げる。移民団の安全の為にもそれが一番だ。

 


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