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#294 肉食ゾウ

 


 出発前に姉貴が俺達に【アクセラ】を掛けてくれた。更に自分達で【ブースト】を使えば、身体能力は、1.5倍程に高まる。

 俺は元々2割増しの体力だし、ミーアちゃんはネコ族のハーフだから敏捷性は抜群だ。

 林の木々をすり抜け、風の様に駆けて行く。

 5分程すると前方に気配を感じたので、今度はゆっくりと歩いて藪の中から前方を見た。

 

 「マンモスに似てますね。」

 「あぁ、でもかなり小さいぞ。牙も発達してないみたいだ。」


 ミーアちゃんがマンモスと言ったのも頷ける。俺だって初めはそう思った位に似ている。でも、その大きさは、動物園のゾウよりも小型だ。大人ではないのかと思ったけど、もっと小さな奴もいるからあれで大人なんだと思う。

 ただ、問題が1つ。奴等が食べているものだ。どう見ても、肉の塊にしか見えない獲物を長い2本の鼻の先に付いたカギ爪のようなもので切り取って口に運んでいる。

 小型のゾウだが肉食なのだ。

 食べられているのは何だろうと思って、ツアイスを取り出して観測する。

 それは、直径1m程で高さは50cm程のイソギンチャクモドキだ。あれに近い奴はトリフィルかな。でもトリフィルは実を付けているから植物のような気もするけど、あそこで食べられている奴はどう見ても動物質な感じだな。


 「この先は、あのウネウネが一杯います。」

 ミーアちゃんは早速ウネウネと命名したようだ。ウネウネの触手はそれ程長くは無い。精々2m位で、仲間が食べられているのにのんびりと草を触手で掴んでは口に入れている。

 そして、ミーアちゃんの言う通り、この辺りはウネウネのコロニーになっているようだ。

 迂回して進むしか手は無いな。


 その時、小型のグライザムのような獣がウネウネに近づくと、片手でウネウネを張り飛ばして肉を抉った。

 ウゴォー…と低い声を出して、肉食ゾウが素早く小型のグライザムに近付き、モシャモシャと肉を食べている小型のグライザムの横腹に鼻先を突き出した。

 ギャァーっと小型のグライザムは叫びを上げて絶命する。肉食ゾウの鼻先は小型のグライザムの横腹を貫通していた。

 

 「かなりヤバイ相手だよ。」

 そう言ってミーアちゃんを見ると、彼女の額に汗が浮かんでいる。

 本能的に近寄るなっていう警告がミーアちゃんの頭に繰返されてるんだろうな。

 

 ミーアちゃんの肩をポンポンと叩き、振り向いたところで後ろに下がる事を指先で告げる。

 そのままの姿勢でゆっくりと後ずさりながら現場を離れて、急いで移民団のところに戻って行った。

                ・

                ・


 「このまま進むのはダメだ。肉食ゾウが10匹近くで食事中だ。しかも、食べられてるのは草食だがイソギンチャクに近い。どう見ても雑食だな。

 小型のグライザムのような奴を肉食ゾウが始末するのを見た。とんでもなく素早い動きだ。

 奴ら気付かれないように大きく迂回して進むしかない。」

 

 俺の言葉にケインさん達が青ざめる。

 「狩る事は出来ないのじゃな?」

 念を押すようなアルトさんの言葉に俺は大きく頷いた。

 

 「やはり、迂回しかないでしょうな。肉食ゾウというのがどんなに凶暴かは分りませんが、10匹という数字は無視出来ません。」

 「問題は、迂回する距離よね。」

 ケインさんの言葉に姉貴が続ける。

 

 「余り大きく迂回しても、今度は別の獣がいそうだし…。ここは、林から大きく離れずに、2km程度距離をあけて行きましょう。そして…アキト、そのゾウの注意を引く事が出来ないかな?」


 ゾウの嗅覚と聴覚は優れている。俺達に気付かないのは食事中だからだろう。あのウネウネは200mくらい離れていても強烈な臭気を放っていたからな。

 

 「他に選択の余地も無さそうだし…何とかするけど、俺に構わずに先に進んでくれないか。少なくとも明日の朝までは様子を見て後を追うから。」

 「なら、ミーアちゃんもお願い出来る?」


 ミーアちゃんは嬉しそうに頷いたけど、アルトさん達は不満顔だ。プクって脹れているぞ。

 「我等は行く事は出来ぬのか?足止めなら慣れたものじゃが…。」

 アルトさんの言葉にサーシャちゃんとリムちゃんも頷いてるぞ。

 「夜間の活動はミーアちゃんの領分でしょ。まだ先は長いから、アルトさん達の出番だってあるわ。」

 姉貴が言い聞かせてるけど、余り納得はしていないようだな。


 「それじゃぁ、俺達は奴らの注意を引く。爆裂球の音を合図に迂回を始めてくれ。目安は1時間後だ。」

 姉貴が頷くの見て俺達は先程の場所に急ぐ。振り返ると、姉貴達は移民団の隊列を整え始めているのが見えた。


 肉食ゾウの群れから300m程の距離で森に入る。

 ディーがいないからミーアちゃんの勘と俺の感じる気の気配が頼りだ。

 何時でもショットガンが撃てるように手に持って大きく山側に迂回して谷を探す。

 

 30分程早歩きで山側を探して小さな谷を見つけた。と言っても小さな2つの尾根の間に挟まれた、奥行き500m程の小さな谷間のような場所だ。西側の尾根を伝って肉食ゾウに近付くと爆裂球を手に持った。ミーアちゃんにはクロスボーで爆裂球付きのボルトをセットしてもらう。


 「俺が、ゾウの手前まで行って爆裂球を投げる。急いで逃げるけど奴等が追いかけてきたら、ボルトを放って牽制してくれ。」

 「危険ではないですか?…投石具を使えばもっと離れて攻撃が出来ます。」

 「いや、この場合は奴等に攻撃した俺を認識させる必要があるんだ。逃げ出したら、そっちには移民団がいる。俺を追ってくるように仕向けるのさ。」


 そう言って俺は西の尾根から下りて奴等に近づいていく。ミーアちゃんは谷の奥に向かってる。

 そろそろ、予定の1時間だ。まだ【アクセラ】も【ブースト】も効いている。

 一番外れのゾウに30m程に近づく。俺の事は認識しているようだが敵とはまだ判断しかねているようだ。

 爆裂球の紐を引いてゾウに投げ付ける。ドォン!っとゾウの腹の下で炸裂した為、ゾウの腹が少し裂けている。

 パオォー!っと叫びを上げるとドンっと地響きを立ててその場に転倒する。

 その声で他のゾウが一斉に俺を見ると2本の長い鼻を振り上げて俺に急迫してくる。

 更に、爆裂球の紐を引くとその場に転がして急いで谷の奥へと逃げ出した。


 地響きを立てながら群れが俺を追ってくる。その中で鈍く爆裂球の炸裂音が聞えてくるが奴等の足が止まる気配は無い。

 更にもう1個の爆裂球を転がして無我夢中で谷の奥に走りこむ。


 谷の奥の高台でミーアちゃんがクロスボーを構えている。俺が急峻の尾根を登ろうとした時、俺に近づいたゾウにボルトが発射された。

 炸裂音に遅れて、パオォーン!とゾウの叫び声が上がる。俺がミーアちゃんの所まで上がる時には更に、もう1本爆裂ボルトが放たれた。

 

 「お兄ちゃん。上ってくるよ!」

 俺に手を貸してくれながらミーアちゃんが告げる。

 そこには、2本の鼻を立木に巻きつけながら上ってくるゾウの姿があった。


 動物園のゾウより小型だから、緩い坂なら上れるとは思っていたが、急峻な坂も2本の鼻を使えば可能なようだ。

 「爆裂ボルトで牽制してくれ。」

 クロスボーの発射間隔は意外に長い。その隙に俺は爆裂球を投げる。


 そして、谷の突き当たりに集まってきたゾウの群れの真中に手榴弾を投げ付けた。

 ドオオォン!っと一際大きな音がして2匹のゾウが転倒している。

 

 更に2個の爆裂球を投げて、被害を拡大させる。

 それでもゾウは俺を倒そうと肉薄してくる。ショットガンで伸ばしてくる鼻を撃つ。

 スラッグ弾を2発も受けると血まみれの鼻をだらりと垂らす。1本の鼻ではこの坂を上れないらしく、その場で俺を威嚇する。


 更に爆裂球を投げ爆裂ボルトを放つ。

 あるだけ使うと、残りはバッグの袋の中だ。取り出すのが面倒だから、ミーアちゃんが先に補給する。その間は俺がひたすらショットガンを放つが残りはマガジン内の2発だ。

 「私の方の準備は終りました。交替します。」

 そう言って構えたものは長弓だ。置いて来るように言っておいたんだけどね。

 えびらではなく腰に下げるケースに矢を入れている。しかも全て爆裂ボルト付きだ。手元にも10本程矢を転がしている。

 

 ゾウが近づくと矢を放ち、矢はゾウの顔面に突き立って爆発する。

 ミーアちゃんが牽制してくれている内にバッグから袋を取り出し、爆裂球とショットガンの弾丸を補給する。2個程爆裂球をポケットに捻じ込み、手榴弾をベルトのスリングに通してマジックテープで固定しておく。


 ゾウ達はこちらを睨んだまま動かない。

 4匹は爆裂球で体を裂かれ血潮に染まって倒れている。

 あれから1時間程経っているから、姉貴達は大きく周りこんで西に向かっているはずだ。ゾウの群れがここにいる限り、安心して進めるだろう。


 ミーアちゃんはベルトに下げたケースに入りきれない矢をベルトに挟んでゾウを見据えている。

 凛々しくなったな。なんて思いながら俺はタバコに火を点けた。銃を左手に持ち肩に預ける。何時でも発射出来るようにセーフティは解除してある。


 「にらめっこになりましたね。」

 「そうだね。でも、ここで足止めする時間が長ければ、それだけ移民団はここから離れられる。」

 

 「ですね…!」

 素早く弓を引き絞り矢を放つ。スルスルと伸びてきた鼻に当たり炸裂する。

 もう少し位置を上にした方がいいかな。


 日が落ちる前に、さらに尾根に上り周囲の立木を切り倒して薪を作って焚火を作る。

 3つ程作った焚火から少し離れた位置でゾウを監視する。

 俺でも、50m程は見通せるし、ミーアちゃんは300mは見える。

 相手はゾウだ。身を屈めて近づくような芸当は出来ないから、これで不意に襲われる事も無いだろう。

 膠着状態が続く中でミーアちゃんがお茶を作ってくれた。

 夜になって冷えてきた体には嬉しい限りだ。

 「まだ、ゾウは下にいるの?」

 「はい、動きません。私達が動くのを待っているのでしょうか?」

 「肉食獣は、1度獲物を捕らえると最後までその獲物を追うことが多いんだ。逃げられたらそれまでだけど…、俺達は奴等の直ぐ目の前にいるからね。」

 

 「確かに、私達の狩りも、獲物を特定したら狩れるまでその獲物を狙いますね。」

 「狩りの基本だと思うよ。…何故その獲物を選んだか。それはその獲物なら間違いなく自分の力量で倒せると判断してるからだ。その判断を容易に変えるようでは狩りの腕はまだまだだと思うな。」


 「では、彼等も…。」

 「多分ね。俺達を狩れると思っているから、ここにいるんだ。」


 俺達は眠らない。何時奴等が坂を上がってくるかも知れない状態だ。やつらも眠らない。俺達が寝るのを待っているのだろう。

 姉貴達はどの位先まで行ったのだろう。あれから10時間少なくとも15kmは先に行っている筈だ。


 「数に変化はない?」

 「相変わらず6匹が下にいます。こちらを見上げてますよ。」

 肉食ゾウまでの距離は100m程だ坂の上下の関係だから良いものの、平地だったらと思うとぞっとする。

 

 「もう直ぐ夜が明ける。そしたら、爆裂球を投げて俺達はここを離れる。追ってきたら、また尾根に逃れる。…これで行くぞ。」

 そう言って、爆裂球を2個ツタで縛り付ける。これを2人で2個ずつ作り、爆裂球を入れるベルトの専用バッグには新たに5個の爆裂球を入れた。

               ・

               ・


 段々と空が白み始め、それに連れて俺の視界も広がる。俺達を狙うゾウ達も黒いシルエットが段々と毛皮の色である濃い茶色が分るようになってきた。

 ミーアちゃんと俺に【アクセル】を掛けて、各々【ブースト】を掛ける。


 そして、爆裂球を手に持って立ち上がり、ミーアちゃんと顔をあわせる。彼女が頷くのを見て爆裂球の紐を引いて下に投げる。

 炸裂を待つまでもなく、次の爆裂球を手に取ると踏み込むようにして投げ付ける。先程より遠くに飛んだはずだ。

 ドオオオォン!!と言う炸裂音が連続してゾウ達がのたうつ。


 「逃げるぞ!」

 ミーアちゃんに大声で告げると尾根を越えて西に走り始めた。

 

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