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#293 移民団の行軍

 


 【カチート】の障壁をブロック状に並べて移民団の周辺を取り囲んでいるから、灰色ガトルは俺達に襲い掛かる事が出来ない。

 獲物を前にして捕らえる事が出来ないもどかしさに灰色ガトル達は興奮しているようだ。俺達に襲い掛かり【カチート】の障壁にぶつかって跳ね返される奴が続出している。

 

 「ディー。私達を【カチート】の障壁の上に乗せられる?」

 姉貴が、何か変な事を思いついたようだ。

 「障壁の大きさは1面が10mのキューブ型です。レグナスの突進には対処出来ないとジュリー様が言っていたことから判断すると、耐荷重は1面で数トン前後と判断します。そして私の飛翔能力から一度に2人を障壁の天井部分に運べます。」


 「確か、飛翔はエナジー消費量が多いって聞いた事があるけど…。」

 「ミズキ様の案では対角線上の4つの障壁に、狙撃手を乗せようとしているものと判断します。この場合のエナジー消費は回収を考慮しても20%以内で可能です。」


 俺の問いにディーが問題無い事を告げると、早速姉貴が俺達に準備を促がす。

 嬢ちゃん達と姉貴がクロスボーを袋から取り出すのを興味深げに魔道師隊の連中が見ていた。俺もkar98を担ぐと弾丸クリップを2個取り出してベルトのポーチに入れておく。


 「誰か、【メルト】が10回以上使える人はいませんか?…2人ほしいんですが。」

 たちまち数人が俺達の方に一歩踏み出して名乗りを上げる。


 「灰色ガトル相手に【メルト】を使うなら、ちゃんと狙える人が良いわね。…私と、ミレアで最初は行きましょう。」

 クレシアさんは俺達が人を変えながら何度も攻撃を行うものと考えているようだ。


 「では、始めましょう。アルトさんはリムちゃんと進行方向右側をお願いします。サーシャちゃんとミーアちゃんは左側をお願い。私は後方右側をクレシアさんと担当します。アキトはミレアと左側ね。」


 俺達は2人ずつの組になると、早速ディーが【カチート】の障壁の屋根に運んでくれる。背中に3対の羽を伸ばして、青白い燐光のようなイオン流を出して飛び上がる姿に、移民団の人達は驚いたようだ。

 「妖精族か…。」

 「古の種族だと聞いたぞ…。」

 そんな事を言いながら、光球を10個程手分けして障壁の周りに上げて周囲を照らし出す。

 驚いてはいたが、排他的な感情は無いみたいだ。羽根で空を飛ぶ種族の話を皆が知っているようだ。何かの伝説でもあるのだろうか?


 最後の俺達の番だ。ディーに片腕で抱えられながら、ピョンっと言うような感じで障壁の屋根に降り立つ。

 問題は、この屋根が透明だという事だ。銃に銃剣を付けて障壁を突きながら屋根の終わりの角を探す。角を見つけたらマントを広げる。このマントの上なら安心して寝転べるぞ。


 「良いかい。出来るだけ近くの灰色ガトルを狙ってくれ。【メルト】なら障壁で食い止められるから。」

 ミレアにそう言うと姉貴に片手を振ってくれと頼み込んだ。

 そして俺は膝撃ち姿勢を取る。


 「【メルト】!」

 ミレアの声に一瞬遅れて、足元が爆裂する。

 障壁を何とか破ろうと体当たりを繰返していた灰色ガトルが数匹吹き飛ぶ。それでも次の灰色ガトルが何匹か前と同じように障壁に当たっているようだ。

 俺はボルトを引くと、遠くで様子を見ている大型の灰色ガトルにスコープのT字線を合わせてトリガーを引く。

 乾いた音が荒地に木霊すると、その場で灰色ガトルは斃れた。

 そして次の目標に銃を向ける。

               ・

               ・


 ディーが障壁の向こうで倒れている灰色ガトルの生体反応を確認しながら投槍で止めを差している。

 「どうやら終ったわね。」

 「後は毛皮の剥ぎ取りとボルトの回収じゃ。千切れ飛んだ奴はダメじゃが、灰色ガトルの毛皮は高値で取引出来る。良い食料交換の材料じゃ。」

 アルトさんはそう言いながら、嬢ちゃん達と移民団の有志を集めて【カチート】の一箇所を解除して外に出かけて行った。


 「ディー様は妖精族だったんですね。」

 ウルウルした目でミレアが聞いてきた。

 「ちょっと違うかも知れないよ。…俺達の中で一番強いからね。でも、俺達の仲間だからあまり奇異な目で見ないで欲しいな。」

 「奇異だなんて、とんでもないです。…昔、亡くなったお婆ちゃんがよく話してくれた昔話に羽根を持ち空を飛ぶ妖精族の話があったんです。

 エルフ族には良く知られた話ですから、誰も奇異な目でなんか見ませんよ。どちらかと言うと、あの昔話はこれだったんだ。って感動すると思います。」


 意外とディーは人気があるのかな。休憩時間にはエルフの子供達がよく集まってくるようだし。


 焚火の傍に腰を下ろしてタバコを楽しんでると、ケインさんがやって来て俺の対面に座りながらパイプを取り出す。

 「しかし、驚きました。【カチート】を解除して迎撃を考えていたのですが、あのような方法があるとは…。」

 「結果的には誰も犠牲者を出さずに済みました。それに灰色ガトルの毛皮は交易品として有効です。どの位剥ぎ取りが出来るか楽しみです。」


 「それも、我等には考えつかない事です。我等でも、少し犠牲を出しながら何とか迎撃は出来るでしょう。でも、結果としては焼けた灰色ガトルと身内を失った移民がのこるだけでしょう。」

 「今回は、たまたまだと思ってください。もう直ぐダリル山脈の森林地帯に入ります。荷車がありますから森には入れません。林と荒地の中間地帯を進むことになります。そうなると、【カチート】で今回のように移民全体を取り囲む事は出来ません。」


 俺達が渋い顔をしていると姉貴とディーそれにクレシアさんがやって来た。

 ディーが早速お茶を俺達に入れてくれる。


 「何を心配してるの?」

 「あぁ、この先はあんまり【カチート】を有効に使えないって考えてたのさ。」


 「いいえ。それなりに有効よ。少なくとも襲撃の方向を限定出来るわ。それに、障壁の上から攻撃できる事が分ったから、色々と応用が利きそうよ。」

 姉貴なりに考えがあるみたいだ。まぁ、それは姉貴に任せておいて…。


 「ところで、ここはどの辺りだろうね。」

 「このダリル山脈の尾根を越えると、旧カナトール王国の西端になるはずです。但し、ダリル山脈の高峰は4000m級の頂きが連なっていますから、移民団が越える事は不可能です。」

 

 「越えられれば楽なのだがな…。」

 「まぁ、これも運命なのでしょう。それで、森林地帯の隊列なんですが…。」

 姉貴はケインさんに魔道師部隊の隊列の変更を具申した。先頭は姉貴達、山側に3隊、荒地側に1隊、そして殿に俺と1隊だ。


 荒地は見通しがいいが森林側は見通しが悪い。障壁を並べて俺と姉貴が周りこむように攻撃するんだな。荒地側は森側から魔道師部隊を移動させるつもりだ。

 ディーは先頭だけど、生体探知能力は半径1kmだから十分に俺達をカバー出来る。

 

 「分りました。森林に入ったところで魔道師隊の配置を変更します。」

 ケインさんが納得した所で、ザッザッと足音が近づいてくる。


 「ここじゃったか。探したぞ。灰色ガトルの使える毛皮は50枚程度じゃな。ライ麦なら100袋は交換出来るはずじゃ。」

 ニコニコしながら言ってるけど、…それアルトさんのじゃ無いからね。

 「モスレムならね。この辺りの相場は分らないけど、食料品に交換出来るなら欲張らずに交換しましょう。」

 

 「とりあえずディーに預けておいたぞ。それとだな、ちょっと半端な毛皮が5匹分程あるのじゃが…、我等で使っても構わぬか?」

 「帽子を作るんでしょ。良いけど…作れるの?」

 アルトさん達は最後まで聞いてなかったぞ。多分、王宮にでも送って作って貰う心算だな。

 「ハギレの毛皮なぞ使わずに、自分達で倒したんですから、堂々とちゃんとした毛皮を使えば宜しいのに…。」

 クレシアさんが喜んで帰っていく4人を見送りながら呟いた。

 まぁ、それが出来ないのがアルトさんなんだよな。

               ・

               ・


 次の早朝。何時ものように朝早く野宿を畳み俺達は南を目指して歩き始めた。しばらく歩くと辺りには潅木が目立って来る。遠くに見える森林の木々も1本一本がはっきりと見えるようになる。

 そして夕刻前に俺達は林に入った。

 早速姉貴の言った体制に魔道師隊が隊列を変える。

 荒地側を基点として森の方向に扇型に【カチート】の障壁が作られる。荒地側の基点には俺達が野宿して獣の襲撃に備えた。


 嬢ちゃん達はディーの引率で早速森林の獣を狩りに出る。夕刻にはリスティンを2匹ディーが引き摺ってきた。

 直ぐに解体され、今夜のスープはちょっと贅沢な味になる。


 「小型の獣が出没していますが、300m以内には入ってきません。ラッピナのような草食獣だと思います。」

 そんなディーの言葉に俺達は天幕で横になった。


 次の日は、珍しく雨になった。降る前に天幕の上にもう一枚防水した布を張っていたから、天幕が濡れる事は無い。

 移民団もめいめいの天幕を張って今日はゆっくりと休養している。

 

 姉貴はクレシアさんと小麦粉を捏ねて薄いパンを作っている。総勢が500を越える移民団だから全員に配るには準備も焼くにも手間が掛かる。

 次々と移民団の女性達が助けに現れているようだ。


 男達はカリバンの世話や荷車の修理をするとやることが無くなる。焚火に集まり賑やかにこれからの抱負を語り合っていた。

 お茶を飲み、パイプを楽しむ彼等には疲れた表情は見えない。ようやく全行程の三分の一位だと思うけど、1ヶ月以上掛かっているんだよな。このままでは後3ヶ月程掛かりそうだ。


 その夜の夕食は、じっくり煮込んだシチューと1人1枚の平たい黒パンだった。

 硬いビスケットのようなパンをスープで流し込んでいた日々を思うと涙が出る位に美味いと思う。


               ・

               ・


 「出発だ!」

 ケインさんの短い号令で俺達は出発する。俺は殿だから、俺が動き出すまでには1分近く掛かるぞ。俺の前に横2列に並んだ第5魔道師隊の連中が動き出したのを見て、俺もようやく歩き出す。


 背中にはショットガンを担いで、杖をつきながらのんびりと歩き始めた。

 昨日の雨で林の中は下草が滑って歩き難い。こんな時は杖をつきながら歩くに限る。

昼頃になると下草も乾いてくる。日当たりの良い場所を見つけて休息を取る。

 

 そんな行軍を何日か続けた時だ。行軍が突然停止して、前方からミーアちゃんが駆けて来た。

 「お兄ちゃん、ミズキ姉さんが呼んでる。直ぐに来て!」

 そう言うと直ぐに取って返した。


 「何でしょう?…ここは私達に任せて行って下さい。」

 ミレアの言葉に頷くと俺は前方に駆け出した。


 移民団の先頭には姉貴達が輪になって何事か話している。

 「何だ?」

 「あぁ、来てくれたのね。ディーが900m程前方に大型の生体反応を検知したの。何かなって…。」

 「分った。見てくるよ。それで、状況は?」

 「前方900mで動きません。個体数4。大型です。」

 

 ディーが大型と言う以上かなりの大きさだ。レグナスって事は無いだろうが、マンモスだってこれだけの移民を連れていたら狩るのは無理だ。状況を見極め、迂回する方法を探せって事だな。


 「ミーアちゃん。付いて来て。」

 俺が告げると嬉しそうに俺の傍にやって来た。

 「じゃぁ、ちょっと見てくる。」

 そう言って俺とミーアちゃんは林の中を西に向かって歩き出した。

 

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