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#290 エルフ族の過去


 俺達の前には、まるで上空から眺めたような地球が浮んでいる。

 蒼く輝いた地球…ではあるが、これは前にもバビロンで見た姿と同じだ。


 大陸の姿が変わっているし、俺達の日本が見当たらない。

 その大陸は全体が茶色だ。俺達の住んでいた時代から200年後ではそれ程緑の量に変化は無かったろうと思う。

 環境団体の活動が活発だったし、それに触発された政府もがんばって地球の緑化に取り組んでいたからね。

 だから、地表全体が茶色に覆われているという事は、アルマゲドンの凄まじさがわかるというものだ。


 「これが、アルマゲドン直後の風景だ。これから時間を早送りにする…。」

 地表の4箇所に緑が溢れ、たちまち周囲に広がっていく。

 この4箇所は、バビロン、コンロン、ユグドラシルとククルカンと言う訳だな。

 生き残った人々は再度地表の緑化に挑んだ訳だ。


 そして、太平洋と思しき場所に大きな隕石が静かに沈んでいく光景が映し出される。

 カラメル人達の来訪と言う訳だ。


 「太平洋に巨大な隕石が落下した後500年後の風景だ。」

 今度は緑の場所が変化してきた。

 全体が緑ではなく、グラジエーションが付くと共に、緑が無くなった場所が出て来た。


 「この変化は特に問題ではない。地表を全て緑に変える事は出来るはずも無い。一時的に植物のコロニーが出来ても、気象条件が適さねば生存は不可能だ。そして、問題となるのはこれだ。」


 どこかの地上に光景は切り替わる。平原の一角に白い霧が立ち込めている。不思議な事にその霧の範囲は直径100m程の範囲だ。霧を監視している人達の立ち位置から、おおよその霧の範囲が分る。


 確かに不思議な霧だが、それだけなのか?

 そんな事を考えていると、霧の中から人が現れた。現れた人物に映像が選択される。


 銀色の長い髪に尖った耳、そしてゆったりとしたガウンのような着衣。痩せ型で身長は周囲で見守っている者達よりも高かった。

 現れたのはエルフ…だよな。でもどこが不思議なんだ?


 次に、10人近いエルフが現れた。更に数人…。

 ちょっと待てよ、あの霧の中に一体何人のエルフが入ってるんだ?

 次々とエルフが霧の中から現れる。戸惑いと寒さに震えていた。

 服装や持っている武器に少し違いがあるが、容姿はすべてエルフだった。


 そして、霧から現れたエルフを介護しているのは防寒服を着ている普通の人々だ。

 という事は、彼等はユグドラシルの住人という事になるのかな…。


 「数百人の遭難者を見つけて、本格的な捜索を行なった結果、あの特異点と言うべき場所を見つけた。

 こちらの気象条件に関係なく不確定に生物が霧の中から現れる。

 多くは人間であったが、たまに獣もやって来た。」


 犠牲者は出たものの、その犠牲者のお蔭でこちらに来る人間を確実に保護出来るようになったという事か。

 

 「今でも、エルフの人達はやって来ているのですか?」

 「年に3人程度になってしまったがな。今でも来る事は確かだ。それは、あの霧のように見えた特異点の縮小の影響もあるだろう。

 しかしだ。その縮小に伴って別の問題が生じてきた…。」


 画像は何も無い平原に切り替わる。

 そして視点が平原の一点を目標にして回転していく…。

 あっ!っと俺達は息を呑む。

 そこには空間が何かで切取られたような断裂面があり、異形の生物が這い出してくる途中だった。

 かたつむりのような殻を持ち、その殻から触手状の目を3つも伸ばしている。そして沢山の触手を伸ばして蠕動するように空間から這い出してきた。


 「空間断裂は異次元への扉。多元宇宙への架け橋と我等は認識している。

 あのような異形の生物は、この世界に姿を現した後に始末はしているのだが、始末し切れなかった生物も多かったのは確かだ。」

 

 魔物とか言われているのは意外と始末出来なかった生物がこの世界で定住した姿では無かろうか。


 「異世界から訪れた人々は不思議な技を持っていた。お前達の言うところの魔法使う事が出来たのだ。

 そして、彼等の遺伝子を調査した者達は我々と全く同じ遺伝子配列に驚きの声を上げた。確かに一部の遺伝子は違っていたが、それはアルマゲドン前の世界にも当然あった事。人種の違いに相当する部分程度の違いだ。

 更に、発見があった。我々の一部にもその遺伝子配列を持っている者達がいたのだ。

 これは、彼等がアルマゲドンを機に、この世界に現れた訳ではなく、遥か昔からこの世界と係わりを持っていたことを意味する。」


 バビロンの神官も同じような事を言っていたな。世界的に共通な魔法の伝説は彼等の活躍を意味しているとか言っていた。


 「保護した異世界の住民。我等はエルフと呼んだが、彼等はわれらのコロニーに同化して行った。

 その後、地上の環境に適合するよう自らの体を変えようと遺伝子改造をユグドラシルでも図ることになった。

 まだ、4つのコロニーが健在であった頃の話だ。」


 画面には人工子宮の透明なカプセルに入れられた家畜達が並んでいた。その周りを忙しそうに研究者が動いている。


 「コンロンからの定期通信が途絶えて数年ほど経過した時、コンロンよりの使者の姿が変異した。それを発端として、ユグドラシルの崩壊が始まった。」

 

 コンロンの住民はリザル族のように蜥蜴の姿に変異したが、ユグドラシルの住人は原始人から猿へと変容を始めた。

 変容を免れた人達はコロニーの区画を次々と閉鎖して地上に逃れていく。

 そして、この地下世界に辿り着いたようだ。


 だが、この世界は酷寒の地。残された資材と科学技術の全てを使い、洞窟の奥深い天井に人工太陽を設置して、僅かな農業をここで営む事を彼等は可能にした。

 地下にも海があった。そこでは漁業も可能であった。本来地下世界に住む魚は目が退化しているはずなのだが、ここで取れる魚には大きな目があった。

 多分、どこかで地上の海と繋がっているのだろう。

 残された、技術、資材で農産物の改造を行なったところでユグドラシルの技術と資材は全て使い果たした。

 だが、彼等には魔法があった。

 魔法の体系化と強化を図り、この地底世界を維持してきたのだ。


 「特異点を発見してから我々がユグドラシルを去るまでに約100年近い月日が流れている。そして、その観測で知りえた情報もある。

 特異点は僅かではあるが拡大している。1,000年の歳月で約2倍に拡大した。

 今も衰える事無く拡大していると思うが、最早観測する事自体危険な行為となっている。」


 やはり、エルフ達は知っていたという事だな。だが、何故エルフ達は南方へ拡散したのだろうか?…そして、特異点を消滅する研究は行なっていたのだろうか?

 

 「エルフの旅立ちは何回か行なわれた。その原因となったのは、この里の定員だ。初期の里は大量の避難民に食べさせるだけの食料を確保出来なかった。

 自発的に大勢のエルフが里を去って行った。

 そして続けられたこの里の拡張の際にも壊滅的な打撃を受けた事も確かだ。

 その度にエルフ達はこの里を去って行った。

 いったい、どれ程のエルフが自ら暮らせる土地に辿り着いたのか…その数字は分らぬが、彼等に持たせた魔石でかなりの数が荒涼とした大地を越えて南方の地に赴いた事を知るのみだ。」


 画像は吹雪の中に消えて行く大勢のエルフ達が映っていた。

 粗末な衣服を着込み、荷物とてそれ程持っていない。小さな子供の手を引く者、ソリに乗せて引いていく者…。

 あれでは、半数以上が途中で遭難すると思うけど、それでも後から後からエルフ達は洞穴から姿を現してくる。


 「何度見ても、涙が止まらぬ。…しかし、彼等が去らなければ、我等全体がこの地で餓死した事も確かなのだ。」


 小さなコロニーと化した地下のエルフの里では、ほんの小さな出来事が種族全体の破滅に繋がる可能性が高い。

 数箇所に拡散して相互に助け合うには、この地の環境は厳しすぎた。

 多分、ジュリーさん達もそんな危機が生じた時にこの地を去った者達なんだろう。


「もう1つの疑問だが、我等は答えを持たぬ。ただ、ユグドラシルは生きている筈だ。その電脳は地下の地熱発電を動力としている。そして、我等が電脳は自ら考えることができる。

 退化したユグドラシルの住民に破壊されたとしても、彼等がユグドラシルで生活するには、その優れた科学技術を使う術を知らねば役に立つ事は無い。我等が脱出した時に閉鎖ブロックに閉じ込められた者達がいたと思われるが、それを確かめる手段は無く、今となって生存している事は考え難い。

 特異点はあってはならぬもの。その消滅方法をユグドラシルの電脳より教授を受け、何としても消滅させるのだ。」


 目の前の画像にはエルフの里から、ユグドラシルまでの地図が表示された。

 西に約300kmだな。これはバビロンで分ったが、途中の山脈は険しそうだ。良く越えて来たと感心してしまう。


 「この隠れ里はユグドラシルの民の最後のコロニーだ。しかし、急造のコロニーには不具合も多い。この里を維持出来無くなるのもそう遠くはないであろう。

 我等老いた者は、もう他の地を望まん。この地で最後の時を迎えるのも良しとする考えだ。

 だが、この里にも若者はおる。お前達が帰る時には彼等を伴って欲しいのだ。

 旅立つ者の数は、約500。この里の約2割だ。

 多分最後の大量移民になるであろう。よろしく頼むぞ。」


 そう言って長老は小さく頭を下げた。

 500人をどうやって連れて行くんだ。姉貴は分りましたって言ってるし、アルトさん達は使命感に燃えているぞ。

 方法を考えるとかなり無茶だと思うけどなぁ。


 「その移民の責任者を後で紹介してください。準備品等を考えたいと思います。」

 「今夜、宿に使わそう。…そして礼じゃが、種をやろうと思う。かつて北欧に広く分布していた植物だ。図鑑と種で寒冷の地に我等が故郷を再現してくれ。」


 外から1人の女性が現れ1冊の本とプラスチックケースに収められた50種類以上の種を渡してくれた。


 「私からはこれになります。」

 姉貴はそう言って小さな包みを女性に手渡した。

 女性は恭しい仕草で、長老の前に持っていくとその包みを解いた。

 そこには漆黒の球体。ザナドウの嘴から作った球体が3個乗っていた。


 「これは…。このようなものが手に入ったのか?」

 「はい。ザナドウと呼んでいる陸生蛸の嘴です。魔石を越えるとジュリーさんが言っていました。」


 「確かに驚くばかりの魔力の増幅効果が期待できそうだ。ありがたく頂いておく。」

  

 こうして、俺達の1回目の会見は終了した。

 案内者に先導されて、俺達は宿に戻ると遅い昼食を頂いた。



 

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