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#287 北の獣の襲来

 


 相変わらず西に向かって歩く。森林地帯を歩くのは【アクセラ】で身体機能を上昇させても、1日で進める距離は20km程である。

 少し南に下がり荒地を進むほうが良さそうにも思えたが、30人程度の原始人みたいな狩人の一群をディーの先行偵察で頻繁に確認出来るので、現在は森林地帯を進んでいる。

 

 「ノーランドの小人族も問題じゃが、更に北方にも好戦的な種族がおるのじゃな。」

 アルトさんは諦め顔に言ってるけど、全くその通りだ。このままでは目的地に着くのが遅れてしまう。


 昼食も煙りを立てないように細心の注意を払いながらお茶だけを沸かす。

 姉貴はふーふーと息をカップに吹きつけながら俺達を見渡した。

 「先住民の狩人がかなり活動してるね。このまま森を進むと1日の移動距離が荒地の7割程度だわ。…それで、夜間に荒地を進む事にしたいと思うんだけど…。」


 今は2つの月が夜に丁度出ているから足元が見えないという事は無い。

 だが、夜はもう1つの狩人達、肉食獣の活動の場でもある。


 「問題は肉食獣じゃな。昼には殆ど見えないが、夜間はどうなのじゃ?」

 「小型の獣の活動は確認しましたが、種別は確認出来ませんでした。私達の野宿場所に近付かない所をみると雑食性の臆病な性格の獣と判断します。」

 アルトさんの疑問にディーが答えた。

 ずっと、夜間の監視をしてくれていたからな。北方の生物の夜間活動について。何て論文でも書けそうな位だ。 

 「獣の数が少ないなら、問題も無いじゃろう。確かに森林は歩くのが骨じゃ。」


 「でも、いない訳じゃないから準備は入念にね。アルトさんはサーシャちゃん達がクロスボーの準備が出来るまでの牽制をお願いするわ。」

 「これを使うのじゃな。確かに5発を撃ち終える頃にはサーシャ達の準備は終るな。」

 腰のバッグの裏からM36を取り出してニコリと笑う姿は、夜間現れる肉食獣よりも凶悪に見えるぞ。

  そんな夜間行軍の準備をしながら夕暮れを待つ。嬢ちゃん達は毛皮を引いて仮眠している。ディーが周辺の生体探知を行っているから、1km以内に近付く獣達は知らせてくれる。

 俺は、小さな焚火を見詰めながらのんびりと一服を楽しむ。

 姉貴はディーの作業を見ながらお茶を飲んでいた。ディーは投槍の穂先の銀色の輝きを、薄く樹脂を塗って墨の粉を塗す事で反射を抑える作業をしている。確かに穂先は30cm程の磨かれた鉄製だ。月の光でかなり反射するに違いない。


 夕暮れ前に嬢ちゃん達を起こして、夕食を取る。この時間帯なら少し位煙が上がっても森の中で拡散される。

 薄いパンに焼いたハムを挟み、乾燥野菜中心のスープが今日の夕食だ。食後のお茶を飲み終えたら、穴に焚火の残りを埋めて痕跡を無くす。


 月明かりの下でも森の中は結構暗い。ディーが先導して、俺達は後に続く。

 森を抜けると、月明かりで本が読める程だ。

 森から200m位まで荒地に出ると、今度は西に向かって進んで行く。

 

 ディーの後をアルトさん達が続き、姉貴と俺が横に並んだ形で最後尾になる。丁度ディーと俺と姉貴が三角形を作り、その中に嬢ちゃん達を入れている感じだな。

 全方向への備えとなると、こんな陣形になるんだろう。

 

 荒地には意外な事に小さな穴が多い。俺はたまに足を取られる程度だが、リムちゃん達は転ぶ事もある。それでも【サフロ】を使わないところを見ると怪我までには至っていないのだろう。

 流石に、1時間も歩くと足元が見えるようになってきたのか誰も足を取られる事が無くなった。

 そして、この穴を作った奴も目にする事が出来た。2つの月で照らされた荒地でたまに穴から頭を覗かせる奴を目にしたのだ。ラッピナよりも小さめの奴だ。多分同じ種類なんだろうけど、ウサギと同じように穴を掘って身を隠しているらしい。


深夜にお茶を沸かして軽い食事を取ってまた歩き始める。

 流石にリムちゃんは眠いらしく足取りが怪しい。次の休憩からは俺が負ぶっていく事になった。

 そして、夜が白み始めた頃、俺達は林に入って野宿の準備をする。


 昼夜逆転した行軍だが、お蔭で朝風呂に入る事が出来る。緑の中でのんびりと手足を風呂桶に伸ばすのは意外と気分が良い。

             ・

             ・


 

 そんな行軍を10日も続けていると、目の前に川が出現した。

 姉貴がドラゴン山脈と名付けた峰からの雪解け水は冷たく、そして濁っている。

 川に露出している岩を伝いながら水深を杖で確かめると結構な深さがある。そして水の流れも速い。

 いかだを組もうと考えたが、川の中には至る所に隠れた岩が点在しているようだ。

 「ディー。俺達を抱えて向こう岸に飛べるか?」

 「荷重100kg程度であれば運べます。都合7回の飛行でエナジーを40%消費しますが、日中の休憩時に回復可能です。」


 と言う訳で、俺達はディーに抱えられて、川幅100m程を渡る事になった。

 姉貴を最初に、次にサーシャちゃんとミーアちゃん。アルトさんとリムちゃんで最後が俺だ。

 「川幅が200m位まではこのやり方で行けそうです。ですが、更に川幅が広くなった場合は日中でないと対処出来ません。」

 渡り終えた時にディーが俺達に告げた。流石に200mを越える川幅はそれ程無いと思うけど、大河の中流は数百mはあるからな。そんな場合はどうするかを考えておこう。


 ある夜の事だ。急にディーが立ち止まる。

 「北から個体が近付いて来ます。大きさはリスティンクラス。ゆっくりと南方に移動中。…現在距離800。」

 姉貴が俺に近づいて来た。

 「何だと思う?」

 「リスティンでない事は確かだ。群れではなく個体だからね。…多分肉食獣が狩りの獲物を探してるんじゃないかな。」


 「このまま進むのも問題ね。ここで休憩しながら通り過ぎるのを待ちましょう。」

 姉貴が休憩を皆に告げた。ディーに状況を確認してもらいながら、通り過ぎるのをジッと待つ。

 

 「個体、前方300mで停止。…こちらに少しずつ近付いて来ます。」

 そう言うと、ディーは投槍を手に持って膝立ちの姿勢を取る。

 嬢ちゃん達はクロスボーにボルトをセットしてディーの後ろに横一列に並んだ。 

 「仕方無いわね。」と言いながら姉貴もクロスボーを取り出してボルトをセットする。俺は少し横に位置して、スラッグ弾をショットガンに装填した。

 「距離200。尚もゆっくりと近付いて来ます。」

 「…ワンタイ。白いワンタイです!」

 ミーアちゃんが俺達に小声で告げた。

 ワンタイって大森林地帯にいたトラだったような気がするぞ。サーベルタイガーモドキの奴だ。ここにもいたのか…白いのは雪原のカモフラージュなんだろうが、この季節では目立つな。

 

 「更に1個体後方より接近中。距離300。」

 ディーの言葉に、ドキリとする。こいつ等仲間と狩りをするのか?

 「姉さん前方を頼む。俺は後をやる!」

 一方的に告げると【ブースト】を唱える。これで、姉貴が掛けてくれた【アクセラ】と合わせて、身体機能は1.5倍に上昇する。

 

 急いでショットガンに銃剣を付けると、銃を腰溜めに構えてゆっくりと後に歩いて行く。

 なるほど、大きな白いサーベルタイガーだ。姿勢を低くしながら俺に近づいて来るが、何時でも飛び掛れるって感じに見える。


 50m程の距離でスラッグ弾を放ったが、発射した弾丸を見切るように素早く横に奴は動いた。敏捷性が半端じゃないぞ。

 ガチャリとスライドを引いて次弾を装填した時には、奴は目の前にいる。

 狙いはいい加減に、とにかく前方に銃を発射する。

 12発の散弾が前方に広がり、何発かは奴に当ったようだ。鼻を押さえていたが、それでも俺に飛びかかってきた。

 それを銃剣で防御する。上手い具合に口に銃剣が咥えられた。

 全身の力を出して口の中に銃剣を押込む。

 グアァ!っと叫びを上げると俺を突き飛ばすようにして奴は銃剣を口から放す。

 ダラダラと流れる血潮が涎のように見える。

 腰から、M29を引き抜き、片手で発射するとドサリと荒地に倒れて行った。

 ショットガンを何時でも撃てるように次弾を装填した状態で、銃剣で突付いてみる。

 ピクリとも動かない…。念のために首筋に銃剣を突き刺した。一瞬ピクリと奴は動いたが、それっきりだ。

 

 姉貴達は…と、後を振り返る。そこには白いサーベルタイガーに投槍を突き通してこちらを見ているディーの姿があった。

 「大丈夫だった?」

 まだ、放心状態でサーベルタイガーを見ている姉貴に声を掛ける。


 「あぁ、アキト…。ここにいるって事は後は何とかしたのね。でも、とんでもない獣ね。投槍で腹を貫通されても、ボルトを5本受けても向かって来たのよ。最後は、ディーがブーメランで撲殺したみたいだけど…。」

 

 最後が撲殺とはな。さっき見たのはディーが投槍を回収している光景だったんだな。

 手際良く嬢ちゃん達が毛皮を剥いでるぞ。

 「おばあちゃんのお土産にするの!」ってリムちゃんが言ってるけど、ちょっとね。これを見たらダリウスさん達連れて狩りに来そうな感じがするぞ。


 「後10年若ければ狩りに一軍を率いて来そうな感じもするが、もう齢60を過ぎておる。…たぶん大丈夫だろう。」

 アルトさんも少し自信が無さそうだな。ミーアちゃんもうんうんと同調している。

 

 川を過ぎると原住民の狩りをする姿も無くなった。あの川が彼等の縄張りの西端となるのだろう。

 その代わりに灰色ガトルの群れが俺達を執拗に追いかけてくる。

 今度は行軍を昼間に変えて、夜間は荒地に【カチート】で障壁を作って野宿する。

 夜にはどこからとも無く現れ、朝には姿を見せなくなる。

 最初は別の群れかとも思ったが、どうやら同じ群れのようだ。

 俺達が弱るのを待っているかのように、どこまでも付いて来る。

 

 「この先に尾根がある筈だわ。それが山脈の南への張り出しだと思うの。…下に大きく腕を伸ばし、宝珠を掴もうと…。の記載は尾根の事だと思うの。」

 休息の合間に地図を読んでいた姉貴が言った。

 という事は、この地図はドラゴン山脈を竜が横たわった姿として、地形を数行の詩のように記載しているという事なのか…。


 そして、3日目になって、遠くに南に伸びる尾根を見つけた。

 なるほど不正確な地図よりも、その姿を動物に例えて文字で記載してくれた方が判り易い。

 

 2日後にその尾根が目の前に迫った。

 「この尾根を登ります。腕に例えているという事は、単一の山並みと考えられます。大きく迂回するよりも尾根を登って降りた方が距離を短縮できます。」


 そんな訳で俺達は尾根を登ろうとした。尾根に続く森林地帯に入ろうとした時、ディーが突然臨戦態勢を取る。

 「後方より、灰色ガトルが走ってきます。あと2分で接触します。」

 そう言いながら、殿の俺の後に片手に投槍、もう片手にブーメランを持って走っていった。

 俺と姉貴が直ぐにディーの斜め後に展開する。その間に嬢ちゃん達が入ると早速クロスボーにボルトをセットした。

 30m程に迫った灰色ガトルの目前で爆裂球が炸裂する。

 怯んだ灰色ガトルの群れにボルトが襲う。そして飛び出してきた所をディーの投槍が襲う。

 ディーが足を踏み出してブーメランを灰色ガトルにたたき付けた。

 俺はディーの後に回ろうとするガトルにショットガンを連発する。

 サーシャちゃん達がボルトをセットする僅かな時間を姉貴とアルトさんがリボルバーで灰色ガトルを倒していく。


 俺が弾切れのショットガンに素早く2発を装弾して、近寄ってきた灰色ガトルに撃ち込んだところで残った灰色ガトルは去っていった。


 後には十数体の灰色ガトルが荒地に転がっている。

 急いで、弾丸を補給して、俺達は先を急ぐ。もう村を出て3ヶ月は経っているのだ。

 

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