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#029 カラメルって何?

 日中はだいぶ暑くなってきたが、早朝の今時分は少し肌寒く感じる。何ていっても、俺達の姿がTシャツにグルカショーツではね。 

 その上、迷彩キャップにスポーツサングラス……。周囲の人が俺達を避けて門を出入りする理由も何となく判るような気がする。

 ミーアちゃんも似たような格好だけど、帽子はツバの狭い麦藁帽子だ。


 「オォーイ……。それで恥ずかしくないのか?」


 グレイさんが俺達を見つけたようだ。


 「こんなもんでしょう。暑くなったら脱ぐよりも、最初から脱いでた方が楽です」


 姉貴が言い返してるけど、この世界で姉貴のように生足を出してる女の人は見かけなかったぞ。マチルダさんだって、呆れたような顔をしてるし。


 「まぁ、あまりいない事は確かだな。ここマケトマム村から、南にあるラサドム村までは、歩いて2日程になる。今夜は野宿になるから、直ぐに出かけるぞ。」

 

 俺達は西の門の門番に挨拶をして、一路南の街道を目指す。

 南の街道は、スラバ退治をした時に歩いた道を真直ぐに行った先にあるそうだ。

 だいたい2Km毎にある立木を数えることで、大まかな現在地が分かるそうだ。立木を5本数えたより少し先に、この国を東西に貫く街道があるとグレイさんが言っていた。


 スラバ退治をした時に曲がった十字路を過ぎ去り、更に先に進む。

 途中、4回目に出会った立木の下でちょっとした休憩を取って、また歩き出す。


 そして、街道に出た。

 街道は、今まで歩いてきた道と違って石畳である。荷馬車がやっとすれ違う事が出来るくらいの道幅で、轍の痕がしっかりと石に刻まれていた。


 グレイさんの話だと、荷馬車のすれ違い用に、一定の距離毎に少し道幅を広くしているそうだ。国の収入の1つが農作物等の交易によるものだとかで、流通手段の整備と管理は国家により行なわれているらしい。


 俺達は、街道と十字に交差した対面の小道をグレイさんの後について歩いて行く。


 街道の両側100m位は、不思議な事に畑が無い。何か事情が有るみたいだけど、グレイさんも分からないそうだ。

 街道を渡って最初の立木がある所でお昼にする。

 小さな焚火を作ってお茶を沸かし、宿のおばさんから頂いた黒パンサンドを齧る。少しハムをサービスしてくれたみたいで結構美味しく頂いた。


 俺とグレイさんがタバコを楽しんでいると、姉貴がバックから図鑑を取り出してカラメルを調べている。

 ミーアちゃんも覗き込んでいたが、やがて2人とも「「エッ!」」って声をあげた。ひょっとして、またとんでもない奴なのか?

 姉貴が俺に、図鑑を見せてくれた。どれどれ……。

 

 カメだ。……寸法が少し変だけど、この絵は誰が見てもカメと言うだろう。

 隣の人間のシルエットと比較すると、同じ位の大きさだ。

 注意書きには、肉食で水中での動きに目を瞠るものがある。と極めて曖昧な表現で書かれていた。


 これ獲っても、利用価値があるんだろうか?カメはスープで美味しく食べられるって聞いたことはあるけど……。

 この図鑑、ウソは無いけど、情報的に少し不足してるような気がする。あまり売れなかったのはそのせいじゃないかな。


 そんなことを考えていると、グレイさんの「出発するぞ!」の声で、素早く焚火を消して、食器類を片付けた。


 また、小道を南に向かって歩いて行く。

 何時の間にか左手の畑が無くなり、小道の右側にだけ畑が続いている。

 マチルダさんが川が近くを流れているせいで、左手は荒れ野になっていると教えてくれた。

 そういえば、左手の奥の方には低い潅木の林が続いている。あの向こう側が川なんだろう。

 

 前方に一際大きな林が見えてきた。


 「今日の野宿場所だ。マケトマムとラザドムの中間地点と言うわけだ」


 グレイさんが後を振返って俺達に教えてくれた。

 林に着くと、その林が小さな広場を取り囲むように作られているのが分かった。林の出入口は1箇所で、丁度荷馬車1台分の横幅を持っている。

 広場は、10台程度の荷馬車が泊められるような広さを持っている。今夜は俺達だけが使うようだ。

 

 早速、手分けして野宿の準備をする。俺とグレイさんで周りの林から枯れ木を集めてきた。

 その間に姉貴達は2張の簡易テントを設営していた。俺達のテントはポンチョを2着と迷彩シートを組み合わせて作ってある。これでも3人程度は楽に寝ることができる。


 今夜は5人だから俺達の持ってきた鍋で5人分のスープを作る。固く焼かれた黒パンは出来上がる寸前に鍋に入れて蒸らすと結構柔らかくなるんだ。

 簡単だけど、結構お腹がいっぱいになる。

 食事が終わってポットのお茶を飲みながら、タバコを一服。グレイさんもパイプを楽しんでる。


 「グレイさん。カラメルて何ですか?」


 今回の目的はマケトマム村から離れることが目的ではあるが、カラメルも何らかの関連があることは確かだ。

 この世界では今までの俺達の常識はあまり当てにならない。聞いて教えて貰えるならばそれに越したことはない。


 「お前達の技量を測ってくれる奴さ」


 何か余計に解らなくなったぞ。


 「奴を捕まえるのは簡単だ。子供でも出来る。しかし、問題はその後だ。奴の了承の元に試合を行い、それに勝つこと。これが難しい。俺も、2度挑んだがダメだった」

 「勝つと何か良いことがあるんですか?」


 「他のハンターから一目置かれる。ギルドでも特典がある。黒レベルの義務が緩和される。毎年のボランティアを回避できるんだ。同じチームに2名いればチーム全体が免除される」


 それは、少しおいしい話だ。だいたい俺達に、後輩ハンターの手助けなんか出来るはずが無い。


 「それに、銀4つまでは、ギルドの依頼をこなしていけば上がることは可能だ。しかし、銀5つはカラメルの試練に勝つ必要がある。

 そして、そのチャンスは3回まで。俺は後1回……、もう少し腕を磨いてからだな」


 3回のチャンスを逃すと銀5つ以上にはなれないってことだよな。しかし、そんな試練を俺達が挑んでいいのかな。ひょっとして無謀とかじゃないのか?

 

 「私達にはまだ早すぎるような気がしますけど……」


 俺達の話に姉貴が入ってきた。


 「そんな事はない。現に、俺はアキトに一度敗れている。前回の俺の試練は後少しという所で敗退したんだ。十分に勝算はある」

 「私も、試練に入ってます?」


 「勿論だ。アキトから俺より強いと聞いているぞ」

  

 マズイ……。姉貴は乗り気だ。でも、こうなったら、止められないんだよな。

 諦めて、1度だけは試練を受けるしかないか……。


 「先ずはラザドムに行って、カラメルを捕る。奴らを捕まえられるのは、2つの月が両方とも満月になった時に限られる。幸いもう少しで満月だ。大勢集まっているぞ」

 

 「明日も早い。もう休め。」ってグレイさんはテントにもぐりこんだ。

 俺達も、寝ることにするけど・・今夜は焚火の番はいらないのかな?


 広場を一回りすると、広場の入口に簡単な柵が置いてあった。柵にはベルみたいな鳴子が付いている。

 なるほど!って感心しながら俺も、テントにもぐりこんだ。



 次の朝。俺がテントを出たら、皆が焚火の周りで朝食を取っている。

 姉貴が渡してくれたお茶と、ミーアちゃんがバックから取出した固焼きの黒パンをボソボソ齧る。

 今朝はこれに焼きハムが付いていた。簡単に塩だけの味付けだが黒パンにはよく合うんだ。

 

 

 宿泊地を出ると、また小道を南に歩く。

 ラザドムは海に面した漁村だということだ。

 海があるっていうことは、何となく嬉しくなる。ミーアちゃんはまだ海を見た事が無いって言ってたし、いくら説明しても海の大きさを上手く表現するのは難しい。きっと大きな池位に思ってるに違いない。でも、初めて見る海はきっと感動するに違いない。少し楽しみだ。


 何回か立木の目印を過ぎると、突然下り坂になり、目の前に海が姿を現した。

 大きい……。この世界の海も前の世界と同じだ。

 ミーアちゃんの様子を見ると、姉貴の後ろに隠れてしまった。 

 あまりにも大きなその姿は想像出来なかったに違いない。

 そして、砂浜が湾のように広がった所に100軒以上の家が並んでいる。

 それが、俺達の目指すラザドムの村だ。


 「もう少しだ。行くぞ!」


 そう、言ってグレイさんは坂を下りて行く。

 姉貴は、まだ後に隠れていたミーアちゃんに、「大丈夫よ。」って、手を握り坂を下りて行く。俺も急いで後を追った。



 坂を下りると海はもう目の前だ。小道も土から砂地に変わっている。そして、何と言っても海の匂いだ。表現しにくいけど海には匂いがある。それはこの世界でも同じだ。

 村に近づくにつれ、それに魚の匂いが混ざる。至る所で干物を作っているようだ。まぁ、漁村だしね。

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