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#280 課題は多いが頼れる友がいる

 


 次世代を担う若い王子、王女達の建設的な3日間の議論が終った後は、この風光明媚な山村でゆっくりと時を過ごし、それぞれの国へ帰って行った。

 次第にアクトラス山脈の積雪が村に迫ってくる。もう直ぐこの村にも初雪が降るのだろう。


 山荘で俺達の労をねぎらうささやかな晩餐が終ると、赤く燃える暖炉の傍で、御后様と俺達で温かいお茶を飲みながら世間話を始めた。

 「ご苦労じゃった。少しは親達が望んでいる世界が見えてきたことじゃろう。」

 「課題となるのは主権の行方ですね。王なのか…それとも民衆とするのか。」

 

 「うむ。じゃが、王達が一方的に主権を放棄した場合には、それを受け入れる民衆主体の組織が無ければ混乱の極みになるぞ。」

 「ある日を境に突然は無理でしょう。先ず明確ではない、王の権利を明らかにしながらですね。それでも全てを移譲するには100年位の期間がいるでしょう。

 現在考えている組織が有効に機能する様子を見てからでも良いでしょう。」

 

 「クオークの代には…と思っていたが、更に次の代になる訳じゃな。先は長いのう。」

 「人材が育ちませんからね。国造りは人造りとも言われてますよ。」


 「それは、大神官に任せておる。そろそろ連絡も来るであろう。」

 「では、次の課題は官僚機構の区分と役割分担ですね。これは既存の各国の王政を支える者達と同じようなものです。…どうでしょう。エントラムズの商会にお願い出来ないでしょうか?」

 

 「確か計画と実施の要であったな。商会の構成員は全て女性じゃが、その出身は貴族や富裕階級の庶民じゃ。彼女達がいかに会合を開こうと各国の施政に遅れは取らぬはず。…我から伝えおこう。そして先走らぬようにも注意せんとな。」

 

 あのサロンが将来的な内閣に成ったりしてね。

 そんな事を考えてると少しおかしくなってしまう。着飾った若い大臣が陶器のティーカップでお茶を飲みながら、来年の予算配分なんかを話している光景が浮かんできた。…でも、あの連中だとそんな感じだよな。

 

 「問題は税制です。これは十分議論して下さい。」

 「勿論じゃ。じゃが、現行よりは安くなると我は見込んでおる。少なくとも軍備が半減しておる。」

 姉貴の具申に御后様が答えた。

 

 「ところで、難しい話はここまでにするとしてじゃ。…来年春には婿殿達はジュリーの里に出かける計画じゃな。その計画自体は問題ないのじゃが…。

 帰国次第、サーシャの婚約を発表しようと思うのじゃ。サーシャも今年で16歳。来年には婚約はおかしくない年頃…。そこで、再来年の春にはサーシャとミーアをモスレムの王都に移したいのじゃが、保護者はどう考えるかと思うてな。」


 俺と姉貴は顔を見合わせる。…そして、溜息を1つつくと話を始めた。

 「前に、ミーアちゃんに聞いた事があります。多分ミーアちゃんはサーシャちゃんに付いていくでしょう。初めての同世代の友達で、今までも苦労を共にしてきましたから、俺達以上に姉妹の関係に近いのかも知れません。

 モスレムならばガルパスを使えば1日で行ける距離ですし、俺達に異存はありません。でも、モスレム行きは再度、ミーアちゃんの意思を確認してください。」


 「意外と早くその時が来てしまいました。私にとってはまだまだ小さいミーアちゃんなんですけど…、私達と何時までもいられる訳ではありません。小さな幸せを何時までも保って欲しいと考えてます。」

 姉貴の言葉に御后様が頷いた。


 「勿論じゃ。決してミーアが行かざる得ないような事はせぬ。…そして、どうじゃ。ディートルは。我は、ミーアの相手に丁度良いと思うておるのじゃが?」

 「それは、2人の問題です。俺とセリウスさんは、ちょっとどうしようか考えてますけどね。」

 

 「その話は聞いておる。面白い話よのう…。我も父王や兄上に言って欲しかったと思うぞ。」

 それは想像が出来ん。意外とモスレム王に貰われたのを2人とも内心で喜んでたかもしれないぞ。あのお転婆がいなくなったってね。だとすると、モスレム国王は御后様の何処を好きになったのか疑問が沸いてきた。


 「何じゃ?…我は国王より我より優れた王女はおらぬ!と請われて来たのじゃぞ。」

 俺の考えが分ったのか、厳しい目で言われてしまった。


 「しかし、セリウスまで絡んでいるとはミーアも皆から可愛がられておるな。良い事じゃ。」

 直ぐに機嫌を直して御后様はそう言った。


 「でも、将来はどうなるのでしょう。現在の亀兵隊はモスレムに駐屯していますが、連合王国となった場合には、モスレムよりもエントラムズが適所かと思います。」

 「我も同じ思いじゃ。そしてエントラムズに将来サーシャが嫁ぐのであれば、亀兵隊を移動するにやぶさかではない。…問題はここより距離があることじゃ。」

 

 エントラムズだと、ちょっと距離がある。ガルパスで2日は見なければならないだろう。…近くに別荘でも作ろうかな。

 「現在、各国の王達は軍備を縮小中じゃ。各国が抱える兵力は1,000人じゃ。これでは、他国からの侵入に耐える事が出来ん。直ぐにケイロスとセリウスの軍を動かす必要があるが…。素早く知らせる方法を思いつかん。夜間であれば例の発光式信号器が使えるのじゃが、昼間はどうしようもない。」


 情報網と物流…。これが改革の要になる筈だ。これは、何とかしないといけないな。

 ユングに1度相談してみるか。

               ・

               ・


 次の日、朝早くに3人で天文台に出かけて見る。

 大体奴もとんでもないところに天文台を作る気になったものだ。東門を出て直ぐに北に向かって歩き出すと、岩がゴロゴロ転がっている。

 村人も近寄れないような場所だから雑草や茂みで前も良く見えない。ディーが周辺の監視をしてくれるから良いようなものの、ディーがいなかったらいきなり獣と出くわさないとも限らないぞ。


 苦労しながら歩いていくと、いきなり前方が開けた。

 そして、ごろごろしていた足元の岩も綺麗に平らになっている。丁度石を敷き詰めたように石畳の平面が出来ている。

 その奥まった所に、天文台がある。

 直径3m程のドームが2個。その内の1つから真直ぐな線が石畳の広場に引かれ、村広場の中央の石壇まで続いていた。

 石壇を見ると中央に十字が書かれており、N、E、S、Wの字が十字の書かれているけど、これって読めるのかな?ちょっと疑問だ。


 天文台に繋がる平屋の宿舎には扉が無い。

 内装はやらないって言ってたけど、扉は外装の範疇じゃないかと思うぞ。

 宿舎の中に入ると、ヤケに広い。教室2つ分は楽にありそうだ。これを適当に壁で区切れというのかもしれない。


 「明人達じゃないか。…どうだ。完成したぞ。後はここを適当に区切って部屋にしろ。」

 やはり…。と俺は思ったけど、ユング達は達成感でいっぱいだ。

 

 「しかし、ここまで来るのに苦労したぞ。道を作らないと内装も出来ないな。」

 「東の広場の横に出るように道を作ってやる。但し、石畳にはしないぞ。岩を退かして邪魔な木を切るだけだ。」

 

 「あぁ、それだけでも助かる。ところで外の石壇は、原点なのか?」

 「いや、あくまでこの天文台を作るための基準点だ。測量原点は東の広場の中央に作るつもりだ。位置はこの石壇の延長線上に造ってもらいたい。」


 とは言うものの、測量しながらでも難しいぞ。

 「どうやって、経線を延長させるんだ。ここまでの道だと、自分の位置さえ怪しくなるぞ。」

 「俺達が調べた範囲では東門の広場の中央付近になる。上空から調べたから間違いない。そして、良ければ今夜、直径1mmのレーザーを経線にそって発射する。5秒間の連続照射をすれば広場を取巻く柵の2箇所に極小の穴が空くはずだ。それを結べば経線が作れる。」


 かなり荒っぽいが、それで作られる直線は確かに真直ぐな筈だ。

 「時間を合わせたい。今8時43分…30秒だ。大丈夫か?」

 「合わせた。少し進んでいるが、俺の方で補正した。今夜の0時0分0秒で5秒間発射する。」

 「人払いは俺がしておく。広場にいなければ問題ないな。」

 

 そんな話を終えると、部屋の片隅にある暖炉でお茶をご馳走になる。

 幾ら機械の体とはいえ、お茶も飲むし、たまには食事もするそうだ。味が分ると言うのは良いな。ってユングがしみじみと話してくれた。

 

 タバコを一服し始めるとユングもパイプを取り出す。こいつ、ホントに機械なんだよな。と疑いたくなる光景だ。


 「それで、測量の方はどうなんだ?」

 「あぁ、今日は課題をこなしているはずだ。村の北門の先に杭が沢山打ってある場所がある。そこを使って、測量の演習だ。

 中々使える連中だよ。まだ三角関数は理解出来ていないが、その使い方は理解している。測量が三角形の連続だという事はどうにか理解できたかな。

 明日は、その測量結果を元に地図を描く事を教える。雪解けには、実際に測量を始められそうだ。」

 

 俺達の話に退屈した姉貴達はフラウの案内でドームに出かけたようだ。

 男同士なんだが、裕子ちゃんの姿がどうもね。


 「ところで、1つ困ってる。出来れば知恵を借りたいんだけど…。」

 「なんだ?」

 

 俺は、王国の現状と即応戦力を迅速に送り出す為の通信伝達手段について教えを請うた。

 「なるほど、【シャイン】を箱に入れて、開口部の操作で情報をやり取りしたのか…。モールス信号だな。」

 ユングの呟きに俺は頷いた。


 「ところで、モールス通信は電線よりも無線の方が早かった。って知っていたか?」

 俺は首を振った。

 「俺も考えてみるが、バビロンの電脳に相談してみろ。初期のモールス通信がどのように行なわれていたかをな。意外と簡単な原理でやっていたはずだ。」


 それは初耳だ。今夜聞いてみよう。

 姉貴が戻ってきたところで天文台を後にする。また荒地を進むのかと思うと気が滅入るが、今夜のイベントは楽しみだ。

               ・

               ・


 深夜。東門の広場に焚火を焚いて、ユングが指定した時間を待つ。

 そして、5分前に焚火を消した。土を掻けただけだから、焚火からは白い煙が上がっている。

 予定時間を前に、広場から離れて時計を見る。

 10秒前、5秒前、3、2、1…。赤い糸のような光が北から南に横切る。

 そして、5秒を過ぎると光線が停止した。


 姉貴が駆け出して、広場の丸太で作った壁を調査し始めた。俺も、姉貴の反対側の壁を調べる。


 「あった!」

 姉貴の声が闇夜に響く。そして、俺もLEDのマグライトでようやく焦げた針で付いたような穴を見つけることが出来た。いそいで、消し炭で大きく丸を描いておく。


 磁石を取り出してみると、少しズレている。偏角はこの世界にもあるみたいだ。

 となると、ユングはジェイナスの回転軸にきちんと合わせてこの直線を引いた事になる。

 どうやったかは知らないけれど、地図作りには助かるな。

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