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#028 村を離れる理由

 次の日、大金を手にいれた俺達は早速雑貨屋に出かけ、大型の魔法の袋を購入した。

 例の3倍入って重さ変わらずって奴だけど、500Lもするだけあって、俺と姉貴のザックを入れてもまだ余裕がありそうだ。


 さらに大小の普通の袋も併せて購入した。ミーアちゃんの衣類を入れる袋とか、野宿用品を入れるとか、色々と必要だと姉貴は言ってるけど、俺にはよく判らない。

 まあ、姉貴が必要だと言っている以上、あまり干渉しないほうがいいことだけは判っている。

 

 その次は、武器屋だ。ミーアちゃんのボルトの数がスラバ戦で足りなくなったので、新たに10本矢を買った。今夜にでも作るつもりだ。


 最後にギルドに寄る。いい出物はないか?って依頼板を見ていると、後から声をかけられた。


 「しばらくぶりにゃ。だいぶハンターらしくなってきたにゃ」


 この声は……、ミケランさん?

 俺達が振返ると、懐かしいミケランさんと初めてみる男の人がいた。


 「お久しぶりです。……あのう、そちらの方は?」


 「俺は、セリウス。ミケランと同郷の者だ。お前達がアキトとその一味なのか?」

 「初めまして。チーム『ヨイマチ』のミズキです。こっちがアキト。それに、ミーアちゃんです」


 姉貴がミケランさんをチラッて見てから、セリウスさんに俺達の紹介をした。


 「ミーアちゃんは、どの位に上がったにゃ?」

 「赤6つに、にゃった」


 ミケランさんはその答えに、ニャニャー!!って驚いていた。

 

 「ハンターになって一月も経たずに赤6つか……、驚きの早さだ。すると、お前達は赤7つと言う所だな。

 ふむ……、どうやって上げたか是非聞きたいものだ」

 

 そんなわけで、ギルドのホールにあるテーブルに移動して、ミケランさんがこの村を去ってからの経緯を姉貴が説明している。

 

 セリウスさんの風貌は、一言で言えば精悍。

 金色の大きな瞳は猫のように縦に切れ長だし、唇は薄く、チラッと除く歯並びには小さな牙がのぞいてた。

 全体にミケランさんより毛深いが、時たま見せる表情の変化に親しみが持てる。

 背中に2本の片手剣を装備しており、マッチョな体型とマッチしていかにもハンターって感じがするぞ。


 「しかし、タグにスラバか……。グレイの奴め、初心者を潰す気なのか?」

 「そんなわけないだろう。しばらくだな、セリウス」


 後からの声に振返ると、グレイさんとマチルダさんと立っていた。

 他のテーブルから椅子を持ってくると、俺達の会話に加わる。


 「マチルダも一緒か。それにしても、アキト達が退治したのは黒でも手に負えぬものばかりだぞ。正直、俺にも手に負えるかどうかだ」


 「それが、こいつ等の実力だ。

 俺だって、始めてみた時には自分の目を疑った。

 俺も素手で腕試しをしたんだが……、あっさりと負けてしまった。それに、昨日のスラバですら、アキト達がいたからこそ倒せたと思っている。

 正直な話、アキトに助太刀されなかったら俺は此処には居ない」

 

 「ところで、こんな村に何の用事だ。黒7つ、……村には過ぎた存在だ。」

 「タグの巣穴の話は聞いているな。王都から『銀色の鎧』が派遣された。銀2つが1人、黒8つが2人だ。それに、此処にいたカンザス達も同行した。

 だが、彼等が帰って来ない。それで、俺達が急遽調査をするために派遣されたのだ。そして昨夜、泉の森でカンザスとサニーを見つけた。

 酷い傷だった。どうにか夜明け前にこの村に辿りついたが、カンザス達はしばらくはハンターに戻れまい」


 「『銀色の鎧』は全滅か?」

 「そうだ。巣穴に入りメルダムを使ったらしいが、戻る途中でタグの群れに遭遇したらしい。

 咄嗟にカンザス達は近くの立木に登ったらしいが、他の連中は気転が利かずに群れの中に飲み込まれたそうだ」


 「それならカンザス達は無傷じゃないか?」

 「その後がある。タグの群れが森の奥にまで移動したらしい。そして彼等の前には、タグに追われたクルキュルが出た。3匹に取り囲まれやっと逃げ出したところで俺達と出合った」


 「そうか……。後で見舞いに行こう」

 「それがいい。それとだ、俺達は明日に此処を発つ。1週間を待たずして次の銀が来るだろう。

 そこでだ、お前達は2週間この村を留守にしろ。最初の銀は貴族の坊ちゃんだ。次は名声を求めるハンター。そして2週間後に来るのは剣姫だ。彼女を守ってくれ」


 「判った。アキトにカラメルの捕まえ方でも教える事にする」

 「そうしてくれ」


 なんか甘そうな名前だけど……。後で図鑑で調べてみよう。

 

 「堅い話は終わりにゃ。アキト……、リリック何とかして欲しいにゃ。セリウスが信じないにゃ」

 「今から釣りに出かけますか。川原でリリックを食べながら昼食にしましょう」


 姉貴がそう言うと、ミケランさんは飛び上がって喜んだ。


 「お弁当手配するにゃ。待っててにゃ」


 ビューンって音を立てるようにミケランさんはギルドから出て行った。


 「しかし、ミケランが腹いっぱいリリックを食べたと話してたが本当なのか?確かに、俺達がこの調査に入ったのはミケランが「あの村ではリリックが食べられる」と俺に言った事も理由の1つではあるのだが……」

 「本当だ。まぁ、獲るのは俺ではなくてアキトだがな。どれ出かけるか。」


 グレイさんに促されて俺達は、リリック釣りに出かけることになった。

 ミケランさんは後から追ってくるから大丈夫。なんてグレイさんは言ってるけど、うらまれないかな。ちょっと心配だ。


 泉の森への小道を進み、橋が見える頃になって、ミケランさんが追いついてきた。


 「おいて行くなんて酷いにゃ」


 ミケランさんが文句を言ってるけど、マチルダさんが「早く行かないといっぱい取れないでしょ。」って言ったら納得してしまった。

 ミケランさんって単純なのかな。それとも、リリックの呪縛には敵わないのかな。


 橋を渡ると、小川に沿って川下に歩いて行く。

 しばらく行くと、ミケランさんとリリックを釣った淵にでた。

 

 「ここで釣ります。皆さん準備お願いしますね」


 俺の言葉に、ミケランさんとミーアちゃんは早速近くの藪から小枝を集めて小さな焚火を作り始めた

 早速、腰のバックから魔法の袋を出して竿とタックルボックスを取り出す。

 竿を伸ばしながら仕掛けをつけていると、ミーアちゃんがハムの切れ端を持ってきてくれた。

 早速、針に千切ったハムをつけて、淵の端に投入する。

 

 待つこともなく、浮きに当たりが出る。ヒョコヒョコと動いてた浮きがスイーって引き込まれたときに手首を返すと、竿にグングンっと手応えがくる。

 淵から引き離して一気にごぼう抜き、上ったのは25cm位のリリックだった。素早くミケランさんが持ち去った。

 続いて、釣り上げたのは30cm位のリリック・・これは、ミーアちゃんが持って行った。


 どんどんと釣り上げるが、常に俺の後に待機している2人の内のどちらかが直ぐに持って行ってしまうので、どれ位釣れたかは分からない。

 

 人の気配で隣を見ると、セリウスさんが吃驚した顔で浮きの動きを見ている。


 「実際に見ると余計に驚くな。これほどリリックが獲れるなら、専業にしてもやっていける」

 「俺の場合は趣味ですから。専業となると色々と難しいと思いますよ」


 「仕事に楽はない。どんな仕事でも苦労はあるものだ」


 深い……。やはり黒7つともなれば、こんな事を自然に話せるようになるのだろうかと思ってしまった。


 「おにいちゃん。……もうそろそろ良いだろうってグレイさんが言ってた」


 ミーアちゃんが知らせに来た。

 どれ位釣ったか分からないけど、人数分は確保しているはずだ。早速竿を畳んでバックに収める。

 既にセリウスさんは、既に消えている。ミーアちゃんと皆に所に戻ったのかな。


 俺が焚火の所に戻った時には6人が焚火を取り囲んでいた。

 焚火には沢山の串に刺したリリックが取り囲んでいる。20匹以上はあるみたいだ。


 早速、ミケランさんがお弁当を皆に配り、姉貴とマチルダさんがお茶を配る。そして、リリックはミーアちゃんが配ってくれた。

 そんな中、グレイさんはお茶とは別のコップをセリウスさんに渡してる。

 セリウスさんは、そのコップをチビチビと舐めるように飲みながらリリックの串焼きを豪快に頭から齧り始めた。


 「美味い!……2年ぶりか」

 「まだまだあるにゃ。食べ放題にゃ」


 セリウスさんは感動してるみたいだ。ホントに猫族ってリリックに目が無いな。ふと、ミーアちゃんを見ると、涙目でリリックを齧ってる。

 

 猫族以外の俺達は美味しいことは認めるけど、流石に2本めの串焼きを食べる気はしない。

 お弁当を食べながらミケランさん達の食べっぷりを見ているだけで満足だ。


 ミケランさん達は、豪快に1本を平らげ、お弁当と一緒にもう1本を食べて、食後にお茶を飲みながら更に1本を平らげた。さすがにミーアちゃんは2本が限度だったみたいだけどね。

 

 「いやー、食べた食べた。来るまでは半信半疑だったが、これだけ食べられるとは思ってもみなかった」

 

 セリウスさんは満足しているようだ。


 「ミケランさんの頼みならこれぐらいは何でもないです」

 「いや、それでもだ。ミケランはガイドに過ぎない。

 その後でハンターのレベルを上げたのはお前達の実力だ。ハンターには色んな奴がいる。そしてその中には格下のハンターを使い捨てにする者もいるのだ。

 先ず貴族出身のハンターは疑え、そしてその話を断れ。次に名のあるハンターには近づくな。

 もし、どうしても一緒に仕事をせねばならぬ時は、常に離れた場所で様子を見ろ。いいな!」


 俺と姉貴はセリウスさんに頷いた。


 「そんなに真剣にならなくとも大丈夫だ。少なくとも町や村にそんな奴はいない。事件でも無い限りはな。

 事件に巻き込まれる前にその地域を離れればいいのさ」


 グレイさんがパイプを煙らせながら言い切った。


 「そうだ。だから、この村を2週間程離れて、戻って来い。剣姫は銀3つだが周りにいい仲間がいない。助けてやって欲しい」

 

 再度、セリウスさんに剣姫を託されたんだけど、……どんな人?

 グレイさんもこの話題にあまり積極的でないし、良く分からないけど2週後には会えると思うと少し期待してしまう。

 剣姫っていうぐらいだから、若い綺麗なお姉さんな訳だしね。


 そんな訳で、村に帰ると早速村を離れる準備をした。

 お昼に残ったリリックはミケランさんが「おみやげにゃ。」って言って持ち帰ったけど、王都に行くまでに無くなるんじゃないかな。

 

 村に帰って直ぐに雑貨屋に入ると日持ちする食料を買い付ける。硬い黒パンや乾燥させた野菜等だ。

 次にギルドに出かけて、村を離れることをお姉さんに告げた。


 「また、来てくださいね。次の町に着いたら忘れずにギルドで到着を申請してください」


 って言いながら、大きなノートに記録をつけている。


 「明日の朝に西の門だ。待ってるぞ!」


 グレイさんはそう言ってギルドを出て行った。


 宿に戻ると早速おばさんに村を離れる事を話した。


 「寂しくなるね。あんた達が持ってきたお肉で、結構人気が出てたんだけどねぇ」


 そう言って残念がってくれることも嬉しいかぎりだ。明日のお弁当も作ってくれるって言ってくれたし。


 部屋に戻ると、荷造りをしながら忘れ物が無いか確認する。でも、全部魔法の袋に入れておけばとりあえずは問題ないと思うんだけど、姉貴達は袋から全部出して詰め直してる。


 結局、2人のザックとミーアちゃんの服等は大型の魔法の袋に入れて、姉貴のレスキューバックに収納した。それでも余裕があるみたいで、食材を小さな魔法の袋にいれて収納してる。

 俺の腰のバックには調理器具一式と釣り道具等を入れる。ミーアちゃんのバックには直ぐに食べられる食材と大型の水筒を魔法の袋に入れて収納する。

 

 だいぶ気候も暑くなってきているので、俺達の旅装は緑の迷彩Tシャツにグルカショーツだ。ミーアちゃん用には緑色の半そでシャツとパンツは俺達に合わせるように膝の上で切取り姉貴が裾の始末をしている。切取った裾下は姉貴が袋に仕舞い込んだ。


 そして俺は、ミーアちゃん用のボルトを作る。4本は回収出来たから、これで、14本になる。

 そんなことで夜は更けて、俺達は次の旅に期待を膨らませながら寝ることにした。

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