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#272 リザル族がやって来た

 


 狩猟期を3日後に控え、ネウサナトラムには続々と人々が集まってくる。

 とは言っても、ギルドのテーブルでお茶を飲みながらハンターの集まり具合を見る限りにおいては、御后様の危惧した通り、例年よりは少ない気がする。

 

 昼食後にカウンターのシャロンさんに聞いてみたら、今現在で例年の半分位だと話してくれた。

 「後3日ありますから、去年の7割位のハンターは集まると思います。でも、高レベルのハンターは少ないですね。赤7つから黒3つ位に集中してます。」

 俺達が参加した頃は黒5つ位が沢山いたからな。ちょっと獲物の数が心配になってきたぞ。

 

 そんな事をテーブルに戻って考えていると、ギルドの扉が開き嬢ちゃん達が入って来た。そしてその後ろに続いて入って来たのは、リザル族の若者だ。

 「シャロン。彼等のハンター登録を頼む。…そして彼等が持参した報奨金の支払いもだ。」

 アルトさんが振り返ってリザル族に頷くと、リザル族の1人が腰に下げた袋を取り出してカウンターに置いた。

 「本体は肉屋に持って行ったから、その角の換金で十分じゃ。」

 シャロンさんが恐る恐る袋を開けると、イネガルの角が数本出てきた。

 彼等の集落からこの村に来る間に仕留めたらしい。狩りの腕は上々だな。


 彼等の服装は粗末な革の上下に皮のベルトを締めている。足は分厚いブーツだ。

 そして、3本の投槍を持っている。1本は鉄だが、残りの2本は石器だ。しかも細石刃と呼ばれる種類の石器だな。

 腰のベルトには手斧と短剣が差してあるが、手斧は黒曜石に見える。短剣は御后様の贈り物を持ってきたようだ。

 その他には、革の袋がしっかりとベルトに結わえられている。俺達が使っているバッグと同じように生活用品等を入れているのだろう。

 

 手続きをアルトさんに任せて、ミーアちゃん達は俺のテーブルにやって来た。

 「御后様に頼まれて、北門の外で待っていたの。大きなイネガルを5匹担いで来たんで皆、吃驚したわ。」

 「リムは驚いてアルト姉の後ろに隠れながら見ていたぞ。じゃが、リザル族の目が優しいのに気が付いてちゃんと挨拶をしていたぞ。」

 リムちゃんは、サーシャちゃんに実情を話されて恥ずかしいのか、ちょっと俯いてる。

 「彼等は立派な戦士だ。外見でなくその内面と実力で人を見るんだよ。」

 リムちゃんの頭を軽くガシガシと撫でてそう言うと、小さく頷いた。

 偏見を持つのは構わない。それは個人の自由だと思う。でも、いわれのない偏見で人を見るべきではないと俺は考えている。

 

 ハンター登録が終ったのだろう。アルトさんがリザル族の若者8人を引き連れて俺の所にやって来た。

 「潜在的なハンター能力は黒の高レベルになるじゃろう。まぁ、出だしは赤3つで満足して貰うことになった。…グネルよ。こいつがアキトだ。」

 アルトさんの言葉が終ると2人のリザル族の戦士が俺の前に進み出た。

 「俺は、グネル。そしてこっちがダネリだ。モスレム王国の計らいでこの度、狩猟期に参加させて貰う事になった。お前の事は長老より聞き及んでいる。俺とダネリで3人ずつ率いて狩りをする。」


 俺は立ち上がると、グネルとダネリの手を両手でそれぞれ握った。

 「リザル族の戦士の勇猛さはこの身で体験した。あの戦いは不本意であった事を先ず詫びておく。そして、今回の狩猟期の参加を俺達ハンターは全員歓迎する。…しかし、ハンター以外の領民には奇異な目でお主達リザル族を見る者もいることは事実だ。彼等に敵意は無い。そして、リザル族を初めて見るのだ。そこは大目に見てやって欲しい。」


 「なに、慣れている。その位はかまわん。」

 そう言って、トカゲ特有の大きな口で微笑んだ。ちょっと、不気味に見えるけど、彼等にも喜怒哀楽があるのだ。


 「さて、引き上げじゃ。…それとも、どうじゃ。早速ギルドの依頼をしてみるか?」

 「ギルドとは何かを知って来い。と言うのも長老の指示の1つだ。我等は文字を読めぬ。出来れば見繕って欲しい。」

 アルトさんはグネル達を率いて早速依頼掲示板の依頼書を漁り始めた。

 「これが面白そうじゃ!」

 依頼書の1枚を引き剥がすと早速シャロンさんの所に持って行った。


 「今夜は野宿じゃ。我等4人もリザル族と行動を共にする。伝えておいてくれ。」

 そう俺に告げるとサッサとギルドを出て行った。


 直ぐにシャロンさんの所に行くと、何を狩るのか聞いてみた。

 「カルキュルの狩りと卵の採取です。…依頼は御后様から出てますよ。」

 卵はサレパルの生地に使うとして、カルキュルは…ひょっとして新しく黒リック以外にカルキュルの焼肉も使うのかな?…これは中々侮れない事になりそうだ。


 そんな事を考えていると、「アキト!」と俺を呼ぶ声がする。

 やってきたのは、アンドレイさんとグルトさんを始めとした一行6人だ。

 「今日は、今年もお世話になりますよ。」

 グルトさんら5人が一斉に俺に頭を下げる。

 「今年は1台屋台を追加しましたから、皆さんに来ていただいて助かります。」

 俺は慌てて席を立つとグルトさん達にそう言った。

 早速、テーブルの席に掛けてもらう。


 「しかし、驚きました。アンドレイから聞いてはいましたが、リザル族をここで見られるとは…。」

 「無理を言って来てもらいました。来年からは継続的に参加すると思いますよ。」

 「となれば、来年の狩猟期は大賑わいになりますね。それもまた屋台をする上での楽しみです。」

 そう、言いながらグルトさんは壷を1つテーブルに取り出した。

 「舐めてみて下さい。」

 壷の中の黒い液体を舐めると…しょっぱい、それにこの匂いは…。


 「去年お話した魚醤ですよ。…どうですか?つかえますか?」

 「勿論です。しかし、良く手に入りましたね。」

 「ラザドムの漁師町では家庭の味ですよ。あまり外には出ませんが譲って貰いました。」


 魚醤は、醤油よりもコクがある。どちらかと言うと冬の鍋に合うのだが、うどんの汁にだって十分使用できる。かえって風味が増す筈だ。

 「後は、これです。」

 そう言って俺の前に出した壷はちょっと小振りだった。

 蓋をとって、嘗めてみると…この甘さは、蜂蜜?

 「焼き団子に塗るのに使えるんじゃないかと、王都で購入しました。」


 流石に、屋台を引こうと言うだけの事はある。普段から創意工夫を心がけていれば、この商売で赤字を出す事は無いだろう。

 

 「早速、明日から準備を始めます。朝食後、山荘に集合という事で。」

 「了解した。俺達は山荘の兵舎に厄介になっている。御后様の心遣いには感謝してもしきれない。」

 「それなりに領民の事を考えているって事だと思いますよ。そういえばリザル族も兵舎を使う事になると思います。ハンターに成り立てですから面倒を見てやってください。」

 彼等が頷くのを見て俺は席を立った。俺もそろそろ準備を始めなければならない。


 家に着くと、姉貴がディーとお茶を飲んでいた。

 俺が帰って来ると、早速ディーがお茶を入れてくれる。

 「ギルドの方はどうだったの?」

 「あぁ、リザル族が2チーム、8人やって来た。早速、ハンター登録をして嬢ちゃん達と狩りに出かけたよ。カルキュルと卵だ。今夜は帰らないって、アルトさんが言ってたよ」

 

 「来てくれないんじゃないかと思ってたけど、良かったわね。」

 「それと、屋台の手伝いをしてくれるハンターが来てくれた。御后様の計らいで兵舎を使わせてもらうそうだ。」


 「後は、イカが届くのを待つのみね。」

 「うん。それも明日には届くと思うよ。明日は、トローリングと釣りで材料の調達だ。姉さんは、ディーと一緒にフェイズ草を採ってきてくれないかな?」

 姉貴はディーと顔を見合わせて俺に頷いた。


 今夜は2人だけなので、ひさしぶりにアルファ米で雑炊を作る。黒パンにスープも良いけど俺にはこれが合うな。テーバイの米作りが早く軌道に乗って欲しいと思う。


 次の日は、朝から姉貴達はカヌーに乗ってリオン湖を横断して行った。

 フェイズ草の調達の為だけど、アルトさん達と会えるかもしれないな。

 

 俺は、4m程の釣り竿を2本担いで山荘に向った。

 山荘前の広い石畳に3台の屋台を出して、皆で屋台を洗っていた。

 「おはようございます。朝からご苦労様ですね。」

 「いや~、何の。これで20日間、頑張らないといけませんからね。客だって、綺麗な屋台で買いたいと思いますよ。」

 確かに…。特に食べ物を扱うんだから尚更だ。そんな心使いも嬉しくなる。


 「早速、黒リックを釣りますが、2人程手伝ってください。」

 「では、私と、…メクトス、お前も来い。」


 俺達は山荘の北の広場に出ると、擁壁にベンチを並べて釣りを始める。

 なんせ、1年ぶりの釣りだから場所がスレていない。面白いように30cm前後の黒リックを釣り上げる。

 「どうですか?」

 調理人が様子を見に来たので、魚の入った木桶を渡して下拵えをお願いする。

 

 「昨年は足りなくなって、途中からまた釣りをしましたね。」

 「今年は竿も2本用意したから、夕方に追加分を釣れば何とかなるんじゃないかな。」

 「そんなに売れたんですか?」

 「あぁ、お前も売る前に食べてみると良い。売るのが惜しくなるほど美味いぞ。」


 そんな事を言いながら俺達は黒リックを釣り続けた。

 そして、昼食。

 早速、黒リックを焼き上げて皆で頂く。

 「なるほど。これは美味い!」新人も納得の味らしい。

 

 午後に近衛兵が大きな木箱を持ってやって来た。

 「差出人はデクトスとあります。なんですか。これは?」

 「今年の屋台の目玉商品ですよ。…皆集まってくれ!」


 ぞろぞろと俺のところに屋台担当者が集まってくる。

 「これはザラメという海の生き物なんだが、今年はこれを売りたい。」

 そう言って、早速木箱を開けると、魔法の袋に沢山のザラメの一夜干しが入っていた。内臓を取り払ってくれてるから助かる。

 「これがザラメです。この平べったい所に左右に数箇所切れ目を入れれば完成です。…そして問題はこれを焼くタレなんですが、グルトさんが良い物を持ってきてくれました。魚醤に蜂蜜、それに蜂蜜酒を混ぜてタレを作ります。

 大鍋を火に掛けて、蜂蜜酒をカップ3杯入れてください。

 これからは、試行錯誤になります。魚醤をカップ1杯。蜂蜜を大匙3杯…。」


 俺の指示で次々と大鍋に材料が投入される。

 大きなオタマで掻き混ぜながら、1度沸騰させる。

 そして、味を見る。…う~ん、ちょっとしょっぱいかな。

 調理人も味を見た。


 「どんなタレを作るか分かりませんが、これではしょっぱすぎます。蜂蜜酒を後1杯。そして、砂糖をカップ1杯入れてはどうでしょうか?」

 早速、材料を追加して、もう1回沸騰させた。


 「かなりしょっぱさが薄れましたね。ちょっと甘みがあるのもいい感じです。」

 調理人の評価は良いようだが、彼は俺が何をするのか知っているのだろうか?


 「このタレにさっきのザラメを漬け込むんだ。とりあえず夕方まで浸けてみよう。」

 大鍋のタレを木皿に移して早速ザラメを5枚程漬け込んだ。

 「浸けた後で、これを焼くんですか?」

 「あぁ、そうだ。ホントは煮込むようにするんだけど、焼いたほうが汁が付かないし食べやすいと思うんだ。」


 夕方になると、姉貴やリザル族を引き連れた嬢ちゃん達も帰ってきた。俺達が騒がしいのか御后様もやって来る。

 その中で、ザラメが焼ける良い匂いが広がる。


 「婿殿。それが今年の新商品なのじゃな。…何と食欲をそそられる匂いじゃ。まだ食べられぬのか?」

 御后様の言葉に全員の顔が俺に向いた。これは明日食べる何て言ったら最後、リオン湖の黒リックの餌になりそうな殺気すら感じる。


 「ちょっと待って下さいね。」 

 そう言って、手袋をしてザラメを皿に回収すると手で細く引き千切った。

 「どうぞ食べてみてください。…出来れば批評もお願いします」


 サササっと皆の手が伸びて、早速モシャモシャと食べ始めた。

 一同声も出ない。…失敗したかな?


 「「これは売れるぞ!」」

 ハンター達が声を上げる。

 「美味しい。でも、どこかで食べた気がする。」

 ミーアちゃんは遠くを見つめてる。何だったのかを思い出しているようだ。

 アルトさんとサーシャちゃんも似たような感じだな。

 「やっぱり、ザラメってザナドウと同じ食感だよね。」

 姉貴の声で嬢ちゃん達は、思い出したようだ。うんうんと頷いている。


 「婿殿は不思議な男よのう。…我は周辺の王国を隅々まで歩いたと思っておったが、このような食材は見たことが無い。それにこの味付けも絶妙じゃ。癖になるのう。ここに酒が無いのが残念じゃ。」

 そう言った御后様には早速蜂蜜酒がカップで渡される。

 そして、リザル族の担いできたカルキュルが早速料理されると、何時の間にか宴会になってしまった。

 

 

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