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#269 帰ってきたセリウスさん

 「…成る程。事情は理解した。…ユングとやらもアキト達と同じであると我も考える。だが、この世界に送った人物は違う存在だろう。

 アキト達をこの世界に送り込んだ者は魔道に長けた者。そして、ユング達を送り込んだ者は科学技術に長けた者という事が出来る。

 その両者がこの世界を危惧したという事は…。或いは並行世界全体に類を及ぼす事になると考えたとも考えられる。

 だが、どちらの訪問者とも明確な目的を与えられていない。

 この意味するところは…、自らがその原因を探す事にあるのだろう。両者ともに不死の存在に近い。長い暮らしの中で世界の齟齬を見つければ自ずと対処すると考えたのであろう。

 確かに2つある歪みの拡大は数値として知ることが出来るのみ。数百年の単位ではそれ程広がりを見せる事は無いだろう。

 多分、お前達をこの世界にそれぞれ送った存在は、その本来の目的以外の副次効果を考えたのかもしれない。

 何れは辿り着く。その間にその世界に住む住民と暮らす事により、その世界の文化の向上も考えていたのだろう。」


 ディーを通して、バビロンの電脳が俺達の状況を推察してくれた。

 「驚いたな。この世界がアルマゲドン後の地球だったなんて…。」

 ディーから響いてくる声を聞いていたユングが驚いた様子で呟いた。

 「ユングはここを何処だと思ってたんだ?」

 「当然、剣と魔法の世界だ。初めて見た魔法は驚きだった…。だが、俺達はどうしても魔法は使えなかった。ギルドの連中や神官達も不思議な顔をしていたけどね。」

 

 「それでも、ハンター暮らしに不足は無かっただろ。」

 「あぁ、身体機能が通常で2倍…、瞬間的にはどれ位上がるかやった事は無いが、十分に獣は倒せた。大型獣はベレッタを使ったけど、通常は表に置いてある杖で殴れば何とかなる。」

 十分銀レベルではある訳だ。確かにディーも水晶球が反応しなかったからな。


 「哲也君の事はアキトから聞いてるわ。…ここで会ったのも何かの縁だと思うの。出来れば私達に協力して欲しいんだけど…。」

 「憧れの美月さんの依頼を断わるような人はいないと思うよ。俺だってそうだ。明人には悪いけどね。」

 そうっだのか?確かに姉貴の隠れファンは多かったけどね。

 姉貴は何時も俺と一緒だったから、当時は大変だったのを思い出した。

 

 「しばらく村に滞在してくれない。皆で笑って暮らせるように努力してるんだけど、中々先は長いのよ。」

 「別に先を急ぐ訳じゃない。さっきのバビロンだっけ?あの神官の言葉もあるしね。俺達はそんな事は考えなかった。どちらかと言えば、係わりを持たずにいたけど、明人達の手助けが出来るなら協力するよ。」


 その答えを聞いた姉貴がニコリと笑う。あの笑みに何人騙された事か…。いったい何を頼むんだろう。


 「とりあえずは、ギルドの依頼書の削減に協力して頂戴。それが終れば、地図を作りたいの。測量器具は5式バビロンから持って来たわ。この使い方をこの世界の人達に教えて彼等に地図の作り方を教えて欲しいの。」

 「地図って…、そうだな。確かにまともな地図は無かった。結構時間が掛かりそうだけど、人の手配は大丈夫なのか?俺達で探すのはちょっと無理だぞ。」

 「その辺は、何とかするわ。それで、原点を作りたいのよ。狩猟期が終ったら早速お願いするけど、その前に場所を見つけて欲しいの。」


 原点って、確か天文台の事だよな。まったく、変な所に姉貴はこだわるところがあるからね。

 

 「まぁ、その位なら手伝うよ。でも、俺だって測量器具の使い方なんて知らないぞ。」

 「情報伝送はレーザー通信で問題ありませんか?」

 ディーが珍しくユングに問うた。


 「私に伝送してください。多分デジタル通信ですね。ユングの電脳は私よりも性能は上なんですが、思考がアナログ的なのでデジタル情報の解析は私の方が格段に上です。」

 ディーとフラウが向き合うと2人の目に赤い光が灯る。

 とんでもない速度で情報の伝達を行なっているようなんだけど、俺達の目には、若いお嬢さんが互いを見つめてるとしか見えない。


 そして、突然両者が俺達を見る。

 「終了しました。情報伝達の誤差ありません。」

 「現在、情報変換中です…。終了しました。作業開始時前までに、マスターへ転送します。」

 どうやら、問題なく地図作りを教える事が出来そうだ。

 

 「それで、報酬なんだけど…。」

 「それは必要ない。この体だしね。」

 「なら、せめて周りの人達と同じような衣服を着る努力をするべきよ。ディーだって、私達と合わせているから、周囲の人に奇異に見られることは無いわ。」

 そう言って、姉貴は2人を連れて家を出て行った。

 多分雑貨屋に出かけたんだと思う。意外と服装にはうるさいところがあるんだけど、狩猟期のあの衣装は嬉しそうに着てるんだよな。

               ・

               ・


 1週間も過ぎると、ギルドの依頼書の数が大分減ってきたのが分かる。

 壁も少し顔を出してきた。それでも取り入れの季節を迎えた山村は依頼書が増える。

 御后様の正規軍の一部を期間限定でハンターとする案も、この山村までは恩恵が来なかった。

 まぁ、ユング達が加わったから、かなりマシにはなったけどね。

 ユング達のレベルを嬢ちゃんずと同じ『B』としたことで、両者の過激な競争が起きている。

 達成する依頼書の枚数で争うか、それとも依頼達成によって得られる報酬で争うのかを決めれば良いんだろうけど、ユング達が相手にしないもんだから、両方ともにユング達に負けないように頑張っているようだ。

 危険なものは無いから問題は無いと思うけど、無理はしないで欲しいと姉貴からも言ってもらっている。


 2週間目でやっと掲示板が見えてきた。

 そんなある朝、何時ものようにギルドのテーブルに集まって、今日の依頼はどれかを話してる時に、ギルドの扉が開いた。


 「帰ってきたにゃ。もう直ぐセリウスも来るにゃ。」

 ミケランさんがミクとミトを連れて来た。

 早速シャロンさんのいるカウンターに向かって手続きをしているようだ。

 

 「大分、ごゆっくりしていましたね…。」 

 「そうでもないにゃ。…ホントはもうちょっといた方が良かったにゃ。」

 シャロンさんの皮肉もミケランさんには通じないみたいだ。

 そんなやり取りが終ると、ミケランさんは早速俺達の所にやって来た。


 「大分手こずっておると聞いておったが…。」

 「ガルパスと友達になれなかったのが多いにゃ。無理な者はとことん無理にゃ。」

 「ふむ…。ちなみに友になれなかった輩とはどんな者達じゃ?」

 「貴族や裕福な市民の子息達にゃ。」


 少し分かったような気がする。要するにガルパスを下に見たのだろう。ガルパスとは対等の関係を結ぶ。これが友達の条件だ。

 多分、身分を自負している輩なのだろう。そんな者達にはガルパスを駆る資格はない。

 

 「後は、教導隊に任せて来たにゃ。1,200のガルパスが荒地を駆けるところは見ごたえがあったにゃ。」

 将来はサーシャちゃんが指揮を執るんだろうな。そして傍らにミーアちゃんがいて部隊展開の号令をするんだろう。

 何かそんな姿が目に浮ぶぞ。


 「あにゃ!…とんでもない依頼書の数にゃ。私も参加するにゃ。」

 掲示板を見てミケランさんが驚いてる。

 早速、ミケランさんは、ミク、ミトを率いてリムちゃんのチームに参加する。


 皆がそれぞれ依頼書に確認印を押して貰ってギルドを出て行ったのとすれ違いにセリウスさんが入って来た。

 これは巻き添えを食う恐れが極めて高い。

 「しばらくですね。シャロンさんが待ってましたよ。また後で…。」

 それだけ、セリウスさんに言うと、セリウスさんの答えも待たずにギルドを飛び出した。

 とりあえず、しばらく振りにユリシーさんのところに行ってほとぼりを冷まそうと思う。

               ・

               ・


 「…そうじゃったか。中々貴重な体験じゃったな。」

 テーバイ独立戦争とその後のバビロン行きを簡単に説明すると、暖炉前の長椅子で小さなテーブルにお茶のカップを置いたユリシーさんが簡単な感想を言った。

 「でも、地面の下にそんな大きな町があったなんて、そして誰もいないなんて…勿体無い感じですね。」


 何時の間にか、チェルシーさんがマイカップを持って俺達の話を聞いていた。

 俺の長話を聞くほど、暇なんだろうか?ちょっと気になるなぁ。


 「それで、俺の友人に地図を作ってもらおうと思っているんです。その為の測量標識を作ってもらいたいんですが…。」

 「地図の話は聞いた事がある。ワシも大森林地帯の地図は持っておるしの。…標識とは大森林地帯にあった石碑のような物なのか?」

 

 確かにあれは役に立った。石碑の方角とおよその距離が互いにネットワークされているから、あの標識の見方が分かれば迷う者はいない。立派な標識と言えよう。


 「いえ、ちょっと違います。こんな感じの石碑ですが、頭部に銅版を埋め込みます…。」

 そう言いながら、紙に形を描いていく。

 断面が20cm程で長さが50cm。その頭部には銅板を填め込む。銅板は中心に十字を刻み、形の異なる3種類を作り、2つの文字と4桁の番号をあらかじめ刻んでおく。


 「作るのは簡単だが、これをどのように使うんだ。」

 「まず、基準点を作ります。そこからこのように2箇所の基準点を作ります。後は、このように3角形を作りながら測量を繰り返す事によって、地図を作ることが出来るんです。」

 「ふむ…。とんでもない数が必要になるのう。何時から使うのだ。」

 「狩猟期を追えた後に原点となるべき建造物を作ります。それが出来次第となるでしょう。」

 「分かった。とりあえず3種類を100ずつ作ろう。」

 俺はユリシーさんに頭を下げる。


 「じゃが、バビロンまで出かけた割には面白い物が作れんのう…。」

 「作って貰いたい物はあるんですが、少し待ってください。材料を探さない事にはどうにもなりませんので。」

 「やはり、あるんじゃな。待っておるぞ。」

 俺が席を立ち上がりながら呟いた言葉に、ユリシーさんはしっかりと返事を返してきた。


 そろそろ、ギルドのほとぼりも冷めた頃だと思って、ギルドの扉をそうっと開く。

 あちこち椅子が倒れてるし、依頼掲示板の1つが半分ズレ落ちてるぞ。シャロンさん、派手にセリウスさんを追いかけたな。


 「こんにちは。」

 扉を開け放って、部屋の片付けをしていた2人に声を掛けた。

 「こいつめ、こうなる事を知って逃げ出したな!」

 「まぁ、それもありますけど、原因はギルド長にもかかわらず遠征に参加したセリウスさんですよ。」


 「それは、そうなんだが…、まぁ、座れ。」

 そう言うとテーブルを元に戻して転がってた椅子にセリウスさんは腰をかけた。俺も、近くの椅子を拾ってテーブルに着く。

 そこへ、シャロンさんがコップを3つ持って来ると、自分でも近くの椅子を持ってきて俺達の話に加わる。


 「あれから王都に向かい、トリスタン様の命を受けてエントラムズでの亀兵隊編成に参加したんだが…。数年の期限で俺に亀兵隊を託すというのが連合王国の考えらしい。

 亀兵隊の本拠地はモスレムに置くそうだ。将来は流動的と言っていたが…。

 モスレムであるならば、そして数年の期限であれば俺に異存はない。受けては来たのだが、この村のギルドを失念しておった。」


 「…という訳なんですよ。私が怒る理由は理解出来ますよね!」

 セリウスさんの言葉の後を受けてシャロンさんが話を続けたけど、それは怒るのも無理はない。

 

 「ハンターに身分や種族、性別の区別はありませんよね。」

 「あぁ、全てのハンターは同列だ。あるとすればレベルの差だが、それは依頼を受ける技量を示すものであって個人の身分を示すものではない。」

 「なら、それを仕切るギルドも同じはずです。この際ですから、期間限定でシャロンさんにギルド長をしてもらえば良い思いますよ。そして、新しいギルドの職員を雇えばシャロンさんの苦労も少しは軽減します。セリウスさんもこの村にいる間はシャロンさんを手伝えば問題ないはずです。」


 「私がギルド長ですか?…それは、ちょっと問題がありすぎませんか。結構、怖い人も来るんですよ。」

 「大丈夫。俺達もいるしね。俺達がいない時は山荘の近衛兵に出張って貰えば良いよ。その位は出来ると思うけど。」


 シャロンさんはしばらく考えてた。

 「そうですね…。それしか無さそうですね。でも、新しい職員って誰か心当たりがあるんですか?」

 「ルクセム君とこの妹さんだ。小さいけれどしっかりしてるぞ。」

 「確か、12歳の筈だが…、大丈夫か?」

 「とりあえず職員心得でお手伝い。14歳で職員なら何処からも文句は出ないと思いますが。」

 

 「そうですね。私も15歳からここで働いてましたから、小さいのは問題ありません。色々と仕事を手伝って貰えば助かります。」

 

 という事で、当人が知らないところで就職の話しが着いてしまった。

 「ではよろしく頼みます。」とシャロンさんが俺に言ったという事は俺に了解を取って来いという事だよな。

 セリウスさんも「頑張れよ。」って、何故か他人事だ。

 まぁ、俺が言い出した事ではあるし、とりあえず行って来るか。


 ギルドを出て、ルクセム君の家に出かける。

 通りの奥にある家の扉を叩くと、何時ものように妹さんが扉を開けてくれた。

 「アキトさんですか。生憎と兄は仕事に出ていますが…。」

 「知ってる。その仕事を紹介したのが俺だからね。今日来たのは、君に話しがあるんだ。出来ればお母さんにも聞いて欲しいんだけど。」

 

 ちょっと不思議そうな顔をしたけど、俺を家の中に入れてくれた。

 土間の真中にあるテーブルは綺麗に拭かれているし、部屋の奥の暖炉には火が入っている。

 勧められるままにテーブルに着くと、奥の部屋から母親が現れた。工事の時の食事作りで世話になったから、お互い顔見知りだ。

 「何時もルクセムがお世話になっています。アキト様がわざわざここに来たという事はルクセムが何か仕出かしたのでしょうか?」


 「いえ、そんな事はありません。キャサリンさんは王都に嫁ぎましたが、ロムニーちゃんが王都からやってきましたので2人で頑張ってます。もう初心者ハンターではありません。」


 どうぞ。って言いながら、妹さんが俺達にお茶を運んできた。そして、母親の隣に座る。

 「実は、こちらの娘さんに手伝って貰いたい仕事があるんです。」

 2人が俺の顔を見た。

 「この子も来年には村の機織をさせようかと思っておりました。でも、機織の成り手は多く中々働く事は難しいでしょう。かといって、村を出て町に行かせるのも気懸かりです。私としては大変ありがたいお話しですが、ハンターではないですよね。」


 「違いますよ。実は、村のギルドが忙しくて大変なんです。今までギルド長をしていたセリウスさんに代わってシャロンさんがギルド長をする事になります。そうなるとカウンター等の仕事が手薄になるので、こちらの妹さんにその仕事を手伝って貰おうかと思いまして。2年間は見習いとなるそうです。そして3年目からは立派なギルドの職員になれます。どうでしょうか?」


 「お母さん。私は機織よりもギルドの方が良いわ。」

 「そうだね。中々機織の仕事は機械の台数が少ないって言ってたしね。」

 「娘も言っておりますしありがたくお受けしたいと思います。何時から伺えば宜しいでしょうか?」

 「では、明日の朝食後にいらしてください。その頃にはハンター達も仕事を受けてギルドを出ているでしょうから。」


 そんな訳で、ネウサナトラムのギルドでルクセム君の妹、ルミナスちゃんが働く事になった。

 

 

 

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