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#027 スラバとの死闘

 スラバ……それは妖蛇というべき姿だ。

 このファンタジーな世界に来て初めて怪物と言うべき存在に出会った。


 長い胴体、そして鎌首を持上げた途中で胴体が2つに別れ、その先に頭を個別に持っている。

 頭は大きな口が前に突き出し、まるで鰐のようだ。その口から長く伸びる舌は先割れしている。

 片方の頭にある目は爛々と輝く蛇の目だが、もう片方の頭には、まるでゴーグルのように一体化した複眼が頭の両側まで伸びている。


 図鑑では、6m以上って書いてあったが、どう見ても10m以上はある。間違ってはいないけど……、もうちょっと書き方があるんじゃないか。って考えてしまう。


 白く燃え尽きた葦原に4匹、こちらを見て鎌首をもたげている。

 奇怪な姿だが、その全身を覆う鱗は美しい虹色だ。あれで、ハンドバックなんか作ったらお母さんなら絶対買うと思う。

 

 グレイさんが片手剣を引抜く。


 「俺は右から行く。アキトは左だ。マチルダ達は中の2匹を牽制してくれ」


 そして、左手でポーチから小さな筒を取出し、蓋を開けて一気に飲んだ。


 「目玉つながりは、歯に毒がある。即効性だ。先に毒消しを飲んで少しでも耐性を上げておけ」


 マチルダさんも飲んでいる。姉貴はミーアちゃんに飲ませている。俺と、姉貴は必要ない。


 「行くぞ!」


 グレイさんは土手を駆け下りて右手に走っていく。

 俺も、刀を抜くと左に駆け下りる。

 

 真中の2匹の頭部に火炎弾が炸裂する。

 マチルダさんとミーアちゃんが【メル】で攻撃を開始したようだ。

 

 俺が土手を降りたときには、もう目の前にスラバが移動している。

 3m以上の高さから、首を突き出すようにして大きな顎を開いた頭が、俺に向かってきた。


 咄嗟に刀で首を落とそうと斜めに斬りおろしたが、スラバは首をヒョイって後にずらして回避する。そして、刀を下ろした僅かな隙をついて、目玉つながりの頭が斜めから攻撃してきた。


 慌てて体を前方に投出して受身を取る。合気道の受身は前方回転に近い形で行なわれる。そして手を使って衝撃を吸収する動作も必要としない。猫の受身に限りなく近い物がありそのまま立つことも可能だ。

 スラバに振り向きながら【アクセル】小さく呟くと、途端にスラバの動きが緩慢に……為らなかった。

 しかし、先の攻撃スピードよりはかなり遅く感じる。ホントに、とんでもない怪物だな。

 スラバの攻撃は、2つの頭を連携しての時間差攻撃だ。最初の頭を回避しても、直ぐに次の頭が襲ってくる。


 ということは、フェイントで最初の頭をやり過ごし、次の頭を攻撃すれば一撃を与えることは可能かもしれない。

 

 スラバの左の頭にに走りこみ、大上段から刀を振り下ろす。頭は首を使って、ヒョイと後に動き斬撃を避ける。

 そして俺の振り下ろした隙をついて、大きな口を開けて俺に襲い掛かってきた。

 すかさずジャンプしながら刀を跳ね上げるように襲い掛かってきた頭を狙う。

 スラバは頭はヒョイっと首を引っ込めた。


 俺は空中で半回転しながら、頭上にあった刀を斜めに振り下ろした。

 ズン!という鈍い手応えが腕に伝わる。

 俺が着地すると同時に、俺の目の前にバタン!とスラバの首が落ちてきた。

 

 斜めに回転しながら場所を変えると、振り向きざまに刀を振り上げる。

 ゴリッ!硬いものを斬る手応えとともに、スラバの残った頭の口先が割れていた。

 斬り込もうと足を伸ばした時、殺気を感じて後に飛びのく。……目の前を頭の無い首が棍棒を振るように通りすぎた。


 首の棍棒が振りかざされる僅かな隙をついて、スラバに走り寄ると残った頭を首の根元で断ち斬る。


 ドスン!と首が落ちても、スラバは尚も最初の首を棍棒のように振り回している。


 再び距離を取って対峙しようとした時、スラバの2つの首の根元に、ドン!っと音を立ててボルトが深く打ち込まれた。

 すると、スラバは2,3度痙攣した後、バタッと倒れ動かなくなった。


 胴体から双頭の首が伸びる場所、そこがスラバの急所らしい。


 直ぐに、次のスラバに移動する。

 マチルダさん達が牽制していた2匹の内、1匹は倒されていた。

 頭が両方とも【メル】で焼爛れている。そして、首の付根付近から大量の出血の跡が数箇所ある。姉貴にボルトを打ち込まれたようだ。


 もう1匹は、短い矢が数本刺さっているが致命傷には至っていないようだ。

 姉貴がまだ破壊されていない頭を懸命に槍で牽制している。

 マチルダさんが懸命に【メル】で火炎弾を飛ばしているが、スラバは上手く回避している。

 ミーアちゃんはクロスボウの発射準備に忙しいみたいだ。

 

 後から姉貴に対峙しているスラバのもとに駆け寄ると、ジャンプして胴体の首の付根に刀を深く突き刺した。


 素早く刀を抜いて距離を取る。

 スラバは途端に動きが緩慢になっていく。後は、3人で何とかなるだろう。


 俺は、グレイさんの方に視線を移した。

 かなり苦戦しているようだ。いそいで助太刀に行く。


 「助太刀に来ました!」

 「助かる。【アクセル】で敏捷性を上げてもこの通りだ。俺が牽制する。急所は判るな!」


 ハイ!っと答えて、スラバの斜め後方まで移動する。

 さすが、黒3つだけのことはある。スラバの両方の頭とその首には無数の傷跡と出血で真っ赤に染まっている。スラバも相当興奮気味で連携が上手く働いていない。

 

 ハァー!って斬り込むグレイさんに合わせて、スラバに背後から忍び寄る。

 グレイさんの斬撃を回避して、もう片方の頭が襲いかかろうとしたその時、ジャンプして胴体の首の付根に刀を深く差し込む。

 スラバが痙攣している隙に急いで離れると、緩慢化したスラバの頭は、簡単にグレイさんが刎ね飛ばした。


 全身にスラバの鮮血を浴びたグレイさんが俺の所にやってきた。


 「ありがとう助かったよ。他はどうした?」

 「どうにかなったみたいです。此処に来る前、姉貴の方のスラバも首の付根を傷めておきましたから何とかなったでしょう」

 

 俺達は姉貴達がいる土手の上にゆっくりと歩き出した。


 「イヤ~すごかったね」


 これが姉貴の感想だった。俺にとっては死闘以外の何ものでもない。


 「わたしも、がんばってクロスボウを撃ったんだけど……」


 ミーアちゃんは謙虚だった。【メル】の魔法が尽きた後は、クロスボウで頑張ったんだろう。スラバの体に何本か刺さっていたボルトを俺は見ている。


 「ごめんなさいね。スラバに脳が3つあるのを知らせなくて……」


 やはり、あの驚異的な敏捷性は3つの脳によるものだったのか。

 胴体の首の付根、そこに本体と言うべき首の脳を制御するための脳があるみたいだ。確かにそこを差したら急激に動作が緩慢になった。

 

 「まあ、4匹いるとは思わなかったが、結果として討伐できたことには問題ない。体を洗う前に剥ぎ取りだ。

 そして、武器を良く洗うんだ。スラバの血は錆が早く出る」

 

 俺達は、早速スラバの剥ぎ取りを行なった。

 やはり、スラバの鱗の皮は高く売れるらしい。でも、ご婦人方の装飾品ではなく、王宮の近衛兵の鎧を飾るためだというのがちょっとね。

 少し皮を貰っておいた。後で作ってみよう。


 意外だったのはスラバの肉も食べられるということだった。

 でも、これだけの肉を運ぶ事は困難だから、例の袋に入れるだけ入れて持ち帰る事にした。


 皮を剥いだり、肉を切取ったりしながら、姉貴とミーアちゃんのボルトも回収する。ミーアちゃんのボルトは短く切った矢だけど、姉貴のボルトは特注品だ。無くなったらどうするんだろう。


 「ポシェットのボルトは、朝になれば12本になってるはずよ」


 だったら、探さなくてもいいんじゃないか。って言ったら、勿体無いじゃない。っていってたけど……少し違うような気がするぞ。


 作業が終わって、川で武器を洗う。グレイさんは体と服まで洗ってた。服が乾くまで待つのかと思ってたら、バックから袋を出してその中から換えの服をとりだして着替えてる。


 「敵の血で汚れることもあるから、何時でも着替えは準備しておくんだぞ」


 まあ、下着は準備してるけど、帰ったらその辺の準備もしておこう。


 俺達が川から上がると、姉貴達がお茶の準備を終えていた。

 暖かいお茶をのみながら、タバコを一服。グレイさんもパイプを楽しんでる。


 たっぷりと休憩をしたところで、村への帰路に着く。

 まだ、日は高いが、村まで結構な距離だ。着くころには夕暮れになるだろう。


 村に着くと、肉屋によってスラバの肉をおろす。

 珍味ということで売れるみたいで、200Lで引取ってくれた。

 次にギルドに行って、討伐の報告を行なう。そこで、スラバの鱗の皮が討伐証の変りとなる。


 「スラバを4匹ですか。……まあ、良くご無事でなによりです」


 お姉さんはそう言いながら、討伐依頼の報酬とスラバの皮の代金を渡してくれた。

 討伐報酬が500L。スラバの皮が一匹200Lで800Lだ。

 合計は1500L。グレイさんは俺達に900Lを渡したが、姉貴はお釣りです。って150Lを返した。


 「始めに共同でと言ったはずだ。なら山分けが原則だと思うが?」

 「チーム共同で、と私は聞きました。だから私達の取分は半分の750Lです」


 「欲が無いな。俺達に異存は無い。……それと、スラバの討伐レベルは高い。レベルアップしていると思うが、確認しておいたほうがいいだろう。じゃあな!」

 

 グレイさんとマチルダさんはそろってギルドを出て行った。

 俺達はグレイさんの薦めあることだし、とお姉さんにハンターレベルの確認をしてもらった。

 やはり、上がっていた。俺と姉貴が赤の7、ミーアちゃんが赤の6だ。


 「スラバ討伐は黒3つ以上が標準ですよ。それでも、毎年亡くなる方がいるんです。今回はグレイさんに押し切られたことと、スラバの被害を未然に防ぐことから仕方なく許可したんですけど……。

 自分達で討伐する場合はレベルの2つ上までにしてくださいね」


 注意されてしまった。でも、俺達のことを思っての注意だから真摯に受取ろう。

 

 宿に戻って、おばさんにスラバの肉をあげたところ、本日の宿代もタダになった。


 なんでも、これだけはお金では買えないとのこと。おばさんでさえ、今までに食べたのは1度きりと言っていた。

 たしかに、レベルの高いハンターがいないと獲れないし、あの値段だとこの村に卸さないでどっかの町にでももって行くんだろう。


 スラバの肉は串焼きだった。少し鶏肉みたいな感じの淡白なお肉で、塩とスパイスの利いた焼肉はとても美味しかった。

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