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#265 世界が変わった理由

 

 #264に続いて、ちょっとSF風味です。ファンタージーの世界から逸脱したようにも感じるかも知れませんが、ご了承願います。

 


 日本中の火山が合体して吹き飛ぶ様を見せられると、背筋に冷や汗が流れる。

 いくら映像であっても、バビロンが俺達に偽りを示すとも思えなかった。残された小島さえ大規模火山の陥没にまきこまれるように海中に沈んでいく。

 映像が後退する。今度は太平洋全体を写している。

 環太平洋火山帯が全て活動を始めたようだ。


 「短時間で1つの国が滅んだ。記録では、最初の火山の噴火からマグマ溜まりの崩壊によって海中に沈むまでの時間は3日も要しなかったとある。

 この現象が1年以上を経て徐々に進行したならばあのような混乱は起こらなかったろう。

 地学者達は地球の造山活動が月での兵器開発の影響を受けて活性化したと発表した。

 予兆も無く、突然始まる造山活動に人々は恐怖した。そして我先に人々は地球を脱出して行ったのだ。

 逃げる先は、ラグランジュポイントに浮かぶ3つのスペースコロニー、そして月面の2つのコロニーだ。

 だが、5つのコロニーに収容可能な人員は約150万人。そして地球の総人口は250億人…。」


 地球から宇宙船、軌道エレベーターで脱出する姿が壁面に写された。

 そして脱出する背後には地殻が裂けてマグマが噴出す光景が広がっていく。


 「最初に地球に対して超磁力兵器を使用した国は今となっては特定出来ない。私は同時多発的に各国が自国の国民をコロニーに脱出させる為に使用したと考えてはいるのだが…。」


 脱出する宇宙船に火山弾が命中し、次々と爆発していく。軌道エレベーターは基部が破壊されて使用出来なくなったようだ。

 その背景には、大陸がうねりながらマグマを噴出していくのが見える。


 「地上の施設と住民は10日で全て滅亡した。残された地球の住民は、地下深くに作られたコロニーと海中に漂うコロニーの住民だけだった。」

 

 地球の姿に地下コロニーと海中コロニーの場所が表示された。そして時間経過のカウントと共に、コロニーの表示が消えていく。

 10年経過すると海中コロニーは全て消えていた。200年を過ぎると地中コロニーで残っているのは4つだけになった。


 「一体何発の兵器が使われたかは定かでない。超磁力兵器による地球の大規模な地殻変動は10年で沈静化した。地球自体に地殻変動を抑制する働きがあったのだと私は考えている。

 そして、残ったコロニーは4つ。バビロン、ユグドラシル、コンロン、ククルカン…。

 我等は相互に助け合おうと連絡しあった。地上を調査して人類の生存が可能か否かを…。


 壁面にグラフが映される。

 「酸素は14%まで一時的に降下したが、調査段階では16%まで回復していた。そして、炭酸ガス濃度はそれまでの100倍にも達していた。人類はまだ地上では暮らせない。

 そんな環境を改善する為に、植物の遺伝子改造を進めたのだが…。

 遺伝子改変ナノマシンの改良過程で動物にも有効なナノマシンを作り上げた。

 遺伝子改良を動物にも広げて、環境に順応した動物を次々と作り上げ野に放って行った。」


 ラッピナやイネガル、ガトル等が次々と映す出される。

 「そして、志願者を募って人体に投与した。外見は全く変わらない姿を持った、新たな人類が誕生したのだ。

 彼等により調査が著しく進捗した。そして、アルマゲドンより400年後、バビロンに住む者達はこぞって自らの体を改変して外の世界に旅立ったのだ。

 旅立つ外に手は無かったのだ。コロニーの動力炉の燃料が枯渇し、旅立つ寸前のバビロン動力炉のエナジー供給量は平常の3割まで落ちていた。

 生産区での食料生産に重大な危機が訪れており回復は不可能と見られていた。

 今より1,400年前最後の居住者が、家畜と食料の種を持ってバビロンより旅立って以来、誰もこの地に戻った者はいない。」


 「それより以降は、この地を維持する事に全ての資源を投入した。

 水資源の確保が最重要課題であったが、300年前にボーリングで熱水鉱床を確保。それ以降は、人々がまたここで暮らすことが可能なように設備の維持を図っている。

 監視衛星との通信は趣味のようなものだ。

 地上に出た人類のその後を観測して記録し続けている。」


 壁面には原始的な農業を営む人々が映し出された。

 「しかし、私は奇妙な事に気が付いた。…我々とは全く異質な生物の存在に気が付いたのだ。

 その生物は、地球の進化の過程から逸脱していた。突然変異の可能性は彼等の使う魔法により打ち消された。

 人類は物理法則によりその行動が規制される。しかし彼等にはそれが適用されない。火の無いところにどうやって火を作れるのだ…。

 私は彼等を高次元を操る能力のある者として位置付けた。

 次に彼等が何処からやって来たのか。を考えた。」


 壁面に魔族が映しだされる。その姿は前にアクトラス山脈で遭遇した魔族とは違っていた。特徴的な2つ頭ではなく普通の人類に見える。

 

 「彼等が何処から来たのかが判明したのは偶然だった。

 ラグランジュポイントに遺棄された衛星の1つの機能を掌握して地球を観測したところ、重なろうとしてる別の惑星を見る事ができた。

 3次元的にはありえないが多元宇宙的なものであればそれも可能だろう。魔族の発見と相まって、私は重なる別の惑星は高次元に位置する惑星であると結論付けた。」

 

 壁面には、蒼い地球に重なろうとしている惑星がぼやけて映し出された。

 そして、蒼い地球が消えると惑星だけが映し出される。それは、地球に瓜二つの惑星だった。蒼い海が大陸を囲んでいる。


 「画像処理を掛ける…。」

 惑星の姿が鮮明になる。そして、画像が拡大されると…、都市が見えてきた。石造りの、どちらかと言うと古代都市を彷彿とさせる都市だ。


 「仮に魔族と彼等を呼ぶ事にする。彼等も彼等の惑星で文明を築いているのだ。

 だが、本来2つの世界は隔絶しているはずだ。

 どうして、かの惑星から地球に魔族はやって来れたのか…。

 そのヒントは2つの月にあった。

 地球の月は1つ。しかし、突然月が2つになった。

 そして、その月はまやかしではない。探査ロボットが新しく現れた月の調査をきちんと行い、情報を送ってきた経緯がある。

 では何故、月はこちらの世界に移動したのだろうか?」


 壁面に見慣れない画像が表示された。

 モアレ図のようにも見える。


「これは観測衛星が捉えた月出現直後の広域重力望遠鏡の画像だ。…ここに出現直後の月を重ねてみる。」


 モアレ図の中に解れたような部分が月に隣接しているのが見える。

「次元の歪みを直接捕らえる事は困難だ。だが、重力変異の切れ目でそこにあることが判る。今は全く別の宙域に我等はいるので、あのような大規模な歪みに捕らわれる事は無いだろう。

 しかし、地上でも超重力兵器が使われており、それによって生じた次元の歪みは今も地上に残る可能性が高い。」


 月が出現する位だから、魔族が現れてもおかしくないという事か…。

 待てよ、俺達の世界だって、古くから民族共通に魔法の言い伝えがあるぞ。それに突然消えた人の話だって、伝説には多く存在する。


 「そして、私はこうも考えた。各民族の伝承にはなぜ魔法という概念が存在するのか…。昔から不定期に相互に人が移動した結果ではないのだろうか…。」


 そこで、ホログラムの老いた神官は何処からか現れた椅子に腰を掛けた。

 どうやら俺達に考える時間を与えてくれるようだ。


 温くなったコーヒーを飲むと直ぐに熱いコーヒーを追加してくれた。皆もジュースやコーヒーを飲んでいる。御后様はパイプを咥えていた。


 「要するにアルマゲドンとやらで、重なっていたもう1つのジェイナスから魔族がやって来た。…という事じゃな。

 じゃが、我と戦った魔族は頭が2つで我等とは似ておらなかったぞ?」

 アルトさんがホログラムに言った。

 確かにおかしいよな。俺だって猿に似た魔族を見てるし、倒してもいる。


 「その話は、もう1つの種族の話しが必要だ。」

 神官の背後の壁に隕石が映し出される。

 急速に地球に近づく隕石だ。地球に衝突しそうな速度で飛んできたのだが、不思議なことに急速に速度を落として太平洋と思しき海にゆっくりと沈んでいった。

 そして、あちこちの海辺で調査を行なうカラメル族とタトルーンが映し出された。

 

 あのキューブの記憶と同じだ。

 地上で暮すコロニーからの脱出者を見て、彼等は海に戻ったのだ。


 「彼等は、我等と同じくこの世界に存在する者。遥か虚空の彼方より訪れたエイリアンと考えるべきだろう。

 そして、彼等は争いを好まない。地上に暮す者達を見て、深海に居住場所を移したのだ。

 だが、彼等の来訪から数十年後、事態は急変する。」


 壁に大きな地図が現れた。

 多分コンロンと思しき一角から、赤い色が急速に広がり始める。


 「これは、突然始まった遺伝子改変ナノマシンの暴走だ。アポトーシスプログラムにより約100年でその暴走は終了したが、この暴走で一気に種族が分派した。

 おぞましい姿に変わり果てた住民も多い。そして、その変化を元に戻す方法を見つけることは出来なかった。

 嫌悪する者、怨む者、妬む者…形状の変化は人種の変化どころではない差別を生んだ。

 そして数百年後にそれは1つのうねりとなって、アルマゲドン以来の最大の戦いを引起した。」


 「我が王国の建国秘話として伝えられる魔族との戦いじゃな。」

 御后様がポツリと呟いた。


 「それ以降は、小競り合いはあるものの、比較的平穏が保たれている。」

 そう言って老いた神官は口を閉じた。


 「我にはもう1つ分からんぞ。何故我等は魔法を使えるのじゃ。魔族でなければ使えん筈じゃ。」

 「混血が原因じゃ。魔族と人間は驚くほど良く似ておる。そして、魔族より魔法の使い方を伝授されれば、今の地上で暮す者達は殆どの者達が何らかの魔法を使えるに違いない。」

 

 混血ねぇ…。という事は遺伝子的に俺達と魔族は一致しているという事になるのかな。

 偶然にしては出来すぎてないか?

 

 「よい事だと我は思うぞ。たとえ異郷の地に来ようともそこで子孫を増やせるならば何の問題も無いであろう。…神の御業と考えるべきじゃろうな。」

 

 御后様は納得してしまった。そんなんでいいのかな?

 「1つ良いですか?…モスレムには4つの神があります。でも、昔は1つと神官さんは言っておりました。何故神は増えたのですか?」

 リムちゃんが片手を上げて質問する。


 「それは、農耕と狩猟の生活によるものだろう。確かに、神を1つとする宗教は多かったが、それは1つ弊害がある。他の信ずる神を認めようとしないのだ。それが原因で戦まであったのだ。なら、複数の神を信ずれば良い。彼等はそう考えたのだろう。そして原始宗教で見られるように、火、風、土、水を祭神としたに違いない。」


 一神教から多神教への変化は、アルマゲドンの反省の意味もあるんだろうな。

 

 「話を元に戻すぞ。現在の地球は、もう1つの地球と次元の綻びにより、人が出入り出来る状況になっている。

 当初、数十個あった綻びは現在は2つに減っている。

 残った綻びが大きくなるようであれば、最悪2つの惑星衝突にまで発展しかねない。

 我の観測では綻びを示す数値は年々増加している。

 何としても、綻びを消す方法を探せ。」


 そう言うと、壁に地図が表示される。

 これは、現在のジェイナスだな。その地図の北西の一角と西の海の向こうの大陸の一角に2つの赤い点が輝いている。


 「綻びは動いている。…と言っても、半径数十kmの範囲を回るようにうごいているのだが…。

 この位置は、ユグドラシルとククルカンの位置に近い。ククルカンは位置的に遠いが、ユグドラシルであればこの大陸の北西だ。

 訪ねてみるがいい。何らかの方法を考えついたかもしれぬ。…このカードでユグドラシルの扉は開く筈だ。」


 俺達の前に女性が金色のカードを持ってきた。

 銀行のカードみたいだけど、複雑なパターンで穴が開いていた。

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