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#263 バビロンへの入口

 「俺達は船に残る。お前達だけで行け。…但し、待つのは5日間だ。5日目の正午に船を出す。勿論その前に帰ってくれば出航だが…。」

 船をギリギリまで岸に近づけて俺達が上陸しようとした時に船長が言った。

 まぁ、5日あればそれなりの探索は出来るだろう。双子山の地下にあった船の探索だって2日はかけていない。


 「それで十分です。では、5日後にお会いしましょう。」

 そう言って、舷側から海に飛び込んだ。そこは浅い砂地で姉貴の腰までもない深さだ。

岸にはディーがもう上陸していて周辺の警戒を行なっている。

 続いて、御后様がドボンって海に飛び込んだ。

 俺も飛び込むと、小船を動かないように押さえている。小船に嬢ちゃん達4人が恐る恐る乗り込んだところで俺が船を岸まで引いて行った。

 

 岸に小船を皆で引き上げ、嬢ちゃん達を下ろすとディーのところに行く。

 「周辺の様子は?」

 「小動物の反応はありますが、大型獣はおりません。とりあえず危険はないと判断します。」

 そんな話をしていると、姉貴がパンパンと手を鳴らして俺達の注意を引く。

 「はぁ~い!…皆、集まって!!」

 俺達は幼稚園児か?と思いたくなるような集合の掛け方だが、ちゃんと皆集まったぞ。


 「これからの予定を確認します。先ず、塔の周囲を警備しているロボットを排除しなければなりません。これはアキトとディーに任せます。それまではここで待機する事になりますが、何と言っても大森林地帯の深遠部です。どんな生き物が現れてもおかしくありませんから、武器を手元において警戒してください。」


 まぁ、妥当なところだな。

 早速嬢ちゃん達はクロスボーを取り出して弦を引いている。ボルトケースにもたっぷりとボルトを入れているようだ。

 御后様は投槍を突き立ててパイプを楽しむようだ。

 警戒は姉貴とミーアちゃんがいるから大丈夫だろう。


 「じゃぁ、行って来るよ。」

 ショットガンを手にすると、ディーの後に続いて岸辺を離れて丘のようにせり上がった陸地に足を踏み入れる。

 結構急な坂だから、嬢ちゃん達は苦労するだろうな。何て考えているとディーの歩みが止まった。丁度丘の上に出た所だ。

 姿勢を低くして前方を見ている。

 屈みこむようにしてディーの傍に素早く走り寄ると、ディーが俺に前方を指差した。


 塔までの距離はおよそ500m。そして、俺達から200m程の所に沢山の獣の骨が散在している。レグナス級の骨も見受けられる。

 そして、その塔の周りをゆっくりと何かが動いていた。

 ツアイスを取り出してその動く物体を見る。


 典型的なロボットだ。金属製の円筒形の胴体に球体関節を持った手足が伸びている。腕は2本だが、足は3本あるぞ。そして頭は…、頭がない。円筒形の上部が半球状になっていて、そこから左右に飛び出した球体にレンズ状のものがある。あれが視覚器官になるのだろう。

 アンテナの類は何も無いようだ。腕には手が付いていない。先端は筒状になっている。

 口や外部スピーカも無い所を見ると、警告無しで攻撃してくる事も予想されるぞ。


 「ディー。あのロボットについて何か分かった?」

 「船の記憶槽のライブラリーから、警護用ロボットと判断されます。拠点警護のためにあらかじめ定められた者以外を全て排除します。3体で1ユニットを形成して警護を行ないますが、2体は破損したようです。」

 そう言って、塔から少し離れた場所を指差した。そこには金属体が転がっている。

 ツアイスで様子を見ると、破損した金属体から内部部品が顔を覗かせている。何か強い力で吹き飛ばされたようにも見える。

 その近くに大きな骨がある。多分あの骨の主にやられたんだな。


 「もう1体は…。」

 俺の呟きにディーが指で俺に位置を示す。そこにはバラバラになって元の姿が全く分からない金属が散らばっていた。

 レグナス級の大型生物ならあれ位出来そうだな。そして、さっきの骨に肉付けするとレグナスより大型になるぞ。今更ながらに陸路を選ばなくて正解だったと思う。


 「問題は警備ロボットの武装だよな。」

 「レイガンとレールガンになります。レイガンの飛距離は約200m。直径5mmですが、連続発射が可能です。レールガンは飛距離1,000m。弾丸の速度は秒速5kmを越えますが、連射は出来ません。」


 成る程、大型獣が複数で襲ってきた場合は対処出来ないな。逃げる選択肢を彼等は持っていなかったのだろう。逃げながら戦えば、あの2体もやられることは無かったかも知れない。

 だが、結果的には俺達に好都合だ。残りの1体を倒せば塔に近づける。


 「俺があの骨の所から狙撃する。多分あまり効き目は無いと思うけど、あいつは俺を狙う為に停止するはずだ。そこをレールガンで狙撃できるか?」

 「2秒停止すれば破壊出来ます。…しかし、マスターはレイガンの連射を浴びますよ。」

 「狙撃したら、骨に隠れて身を伏せれば何とかなるだろう。あの骨のところからロボットまでの距離は300m程ある。射程を外れているから、威力は相当減っている筈だ。」

 

 俺はショットガンを仕舞うとkar98を取り出す。弾丸が入っている事を確認して、少しずつ這うように大型獣の骨に近づいた。

 何度か動きを止めてロボットを観察するが俺の事を気にしないのか、判らないのか、塔を巡る動きに変化は無い。

 

 10分程掛けて骨の所に移動を終えると、腰骨の辺りに居場所を確保する。上手い具合に、大型獣が倒れた時に生じた窪地まであった。辺りに散っている骨を少しずつ積み上げて遮蔽を作る。

 Kar98の銃身を骨に押し付けるようにして固定すると、ターゲットスコープを覗く。

 まだ、俺に気が付いていないのか、相変わらず塔の周囲をゆっくりと回っていた。


 ディーの方を向いて、片手を上げて作戦開始の合図を送ると、ディーも小さく手を上げて了解を俺に伝えてくれた。


 最終的にロボットの破壊はディーが行なうにしても、なるべく負担は持たせたくない。となれば、奴の感覚器官を狙うのが得策だろう。

 という事で、俺はロボットの頭部の両側に突き出たカメラアイを狙うことにする。

 

 奴が塔の向こう側に消えたとき、ボルトを操作して初弾をチャンバーに送り込む。

 ニコンの視野に付いているT字型のターゲット表示に、塔の影からゆっくりと姿を現したロボットのカメラアイを重ね…トリガーを引いた。

 タァーン!っという乾いた音がして、ロボットのカメラアイが破損するのが確認できた。

 此方に体を向けると球体関節の付いた腕を向けてきた。

 急いで窪地に身を潜めると、シュっと音がして頭の上にある骨に穴が空いた。

 300mでも十分な威力があるようだ。

 片方のカメラアイを壊したので、上手く目標を定められないみたいだ。頭上の骨に次々と小さな穴が空いていく。

 

 ガァオン!っと金属が潰れる大きな音がした。

 それっきりレイガンの射撃が来ない。歩伏前進で数m移動すると、恐る恐る塔の方を頭をもたげて確認する。

 そして、塔の方まで吹き飛んで潰れたロボットを見る事が出来た。体から薄い煙も上がっているようだ。

 銃を構えて1発ロボットに発射する。破壊された腹部に命中したようだが、特に変化は見受けられない。

 

 「ディー、周囲の確認を継続して。俺は皆を呼んでくる。」

 そう言って、俺は船を目指した。早く行かないと、あの連中何を始めるか分かったものじゃないからね。


 丘をトコトコと駆け下りて行くと、嬢ちゃん達が1個の漬物石のような物体を取り囲んで投槍でツンツンしている。

 姉貴と御后様は興味深々でそれを見ていた。


 「何とかしたけど…何してるの?」

 「あぁ、ご苦労様でした。…あれね。大きなヤドカリみたいなんだけど石に穴を開けて住んでるみたいなの。あちこちの石が動くから、アルトさん達が調べて分かったんだけど、一旦、石に入ったら、もう動かないみたい。…アキトがここに来たって事は、ロボットは倒せたって事だよね。」


 俺は姉貴に頷いた。

 「どれ、それでは我等も出かけるとしようかの。これ!いい加減に離してやるのじゃ。襲い掛かる生き物は倒すに限るが、害の無い生き物をむやみに危害を加えるのは良くないぞ。」

 俺と姉貴の様子を見ていた御后様は座っていた岩から腰を上げると、嬢ちゃん達に注意した。

 「帰って来たのじゃな。後は塔に入るだけじゃ。皆、先を急ぐのじゃ。」

 そう言ってアルトさんは嬢ちゃん達を率いて丘を上っていく。

 俺と姉貴は船に残るレオナ船長達に頭を下げてから丘を上っていった。


 ディーの待っているところで皆と合流する。

 「ここが大森林地帯の南の外れなのじゃな。」

 「最深部と表現すべきじゃな。」

 アルトさんの言葉に御后様が言葉を重ねた。

 「森じゃにゃかったんだ。」

 ミーアちゃんが北に広がる森を見て言った。確かに森までは1km以上離れている。

 「大きな骨が沢山あります…。」

 リムちゃんは大型獣の骨に驚いているようだ。


 「どれ、早速行ってみようではないか。ここで感心しておっても始まらん。」

 御后様が先になって塔に向かって歩き始めた。

 

 塔は岩盤から突き出すように立っていた。塔から20m程はなれた部分は横幅1m位の溝が塔を取り囲んでいる。

 「ロボットの周回によって削られたと判断します。」

 ディーの答えが正しければ、あのロボット達はどれ位長い間この塔を守って来たのだろう。

 

 俺達は入口を探して塔を一周する。ほぼ一周しかけて諦め掛けた時、ディーがそれらしき物を発見した。

 扉らしきものは横幅3m高さ3mの大きな四角形の切れ込みだ。

 その右側に小さな四角い切れ込みがある。スコップナイフで切れ目を抉るとパカって蓋が開いた。そこには2つのスイッチが付いている。どちらを押しても反応が無い。

 

 「アキト、スイッチの上にもう1つ蓋があるわよ。」

 姉貴の言葉を聞くまでも無く、同じようにスコップナイフで抉ると、右手を粘土に押し付けたような窪みが現れた。

 確か、地下にあった船もこんなのが付いてたよな。

 そんな事を思い出しながら右手をくぼみに合わせると、指にかすかな痛みを感じる。

 そして、スイッチに明かりが灯った。

 

 ○の付いたスイッチを押すと、かすかな機械の音が塔の内部から聞えてきた。

 「扉が開くのじゃ。」

 アルトさんの声に俺達は扉から遠ざかって、塔の影に隠れる。

 恐る恐る顔を出して扉を見ると、ゆっくりと扉が上に開くのが見える。

 半分近く扉が開いたのを見て、中を覗いてみた。

 

 心配していた警護ロボットはいないようだ。

 扉が完全に開いたのを確認すると、全員で塔の内部に入って扉を閉める。

 「扉が開かなくなったら大変なのじゃ。」

 「外の骨をちょっと調べたんだけどレグナスよりも大型の奴がいるみたいなんだ。閉めといた方が安全だ。開かなくなったら、ディーのレールガンで吹き飛ばす。」

 心配するサーシャちゃんに、そう言って安心させる。


 扉を入った場所は20m程の丸い広間だった。

 床に丸い切れ込みが2つある。どちらも直径8m程の大きさだ。

 壁伝いに観察していると、ディーがなにやら見つけたみたいだ。

 「なんじゃ、これは?」

 「情報端末です。早速中央にアクセスしてみます。」

 

 俺と姉貴はフラットディスプレイとキーボードだと直ぐに分かるが、アルトさん達には何と説明すればいいのだろうか…。

 目にも留まらぬ速さでディーがキーボードを指先で叩いていく。

 嬢ちゃん達は呆気に取られてその指先を見ている。

 だが、俺と姉貴そして御后様は、刻々と画像が変わるディスプレイをジッと見ていた。


 10分位見ていただろうか。不意にその画面はこの塔の断面図に切り替わった。

 「私のコード番号で記憶槽のライブラリを閲覧可能です。現在我々は衛星通信塔の出入口ホールにおります。」

 ディスプレイには平面配置図と断面図が左右に並んでいる。

 通信塔の階高は8階そして、地下は…矢印の先にコア部と表示されている。

 

 「ディー。コア部とは何だ?」

 「バビロンの中心部の複合構造体です。」

 そう言いながら、キーボードを操作すると、9個の球状体が立方体の頂点と中心に位置したような配置の図形が現れた。

 「これが、バビロンの姿です。地下2,000mの地に、居住区、生産区、動力区等に分かれて、交互に繋がれています。」

 「質問だ。バビロンの居住者を確認できるか?…また、バビロンの動力が健在なようだが俺達を排除する機能又はロボットのようなものが作動しているか?」

 「調べてみます。」

 また、ディーの指先が高速でキーボードを操作する。


 「最初の質問。バビロンの居住者は確認出来ませんでした。記憶槽にアクセス又は通信塔の出入口の操作ログは1,400年前の物が最後です。」

 「次の質問。バビロン内部に排除機能はありません。機能停止状態の警備ロボットを24体確認しました。全て機能停止キーを2重に差し込まれていますから、我々が操作しない限り覚醒することはありません。」


 「バビロンのコアに有害な物質の滞留及び人体に有害な細菌、バクテリア等の痕跡は?」

 「人体に害のあるガス、流体、細菌類の痕跡はありません。どちらかと言うと無菌に近いです。現在も、10年程度の間隔でコア部の浄化が行なわれています。直前では2年前に実施されています。」

 

 「制御室まで行けそうか?」

 「この部屋の先にリニアエレベーターがあります。それを使って下りていけば可能です。」

 

 俺は皆を振り返った。全員が俺の顔をジッと見ている。

 「どうやらバビロンに行けそうだ。まだ動力があり、バビロンの都市は機能を停止していない。今なら、昔何が起こったのかを知る事が出来る。」

 「なら、早速に出かけるのじゃ。ここにいても詰まらぬ。」

 「知る事が必ずしも良いとは限らぬが、知る機会を逃す事も無かろう。」

 姉貴も頷いている。


 「じゃぁ、バビロンの本体部に下りよう。…ディー、案内を頼む。」

 「こちらです。」

 ディーは広間の奥を目指して歩いて行く。俺達はぞろぞろとディーの後に付いて行った。

 

 

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