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#260 テーバイからの帰還

 

 テーバイ独立戦争が一応の決着をみた事から、俺達義勇軍はモスレム王国に引き上げる事になった。

 俺達はジャブローの周辺に集合しながら部隊を整え、順次出発している最中だ。


 「では、アテーナイ殿、我等はエントラムズに向います。」

 「久しぶりの戦は老骨には応えるじゃろう。エントラムズではゆるりと休まれるが良い。」

 御后様の言葉を笑い流すとケイロスさんは連合王国軍の正規軍を率いてジャブローを去って行った。

 総勢400と聞いたけど、広場に勢揃いした兵達の数は300程度だ。最終戦でやられたんだな…。

 アン姫とジュリーさん達も荷馬車で一緒に帰って行った。


 ケイロスさん達を見送って天幕に戻りお茶を飲む。

 「次はどの部隊じゃ?」

 「我等屯田兵が、今日の午後に発つ手筈です。…ところで、対空クロスボーをテーバイに残しても大丈夫ですかな?」

 御后様に応えたのは、フェルミのお祖父さんであるキーナスさんだった。


 「どれだけ残ったのじゃ?」

 「最初の30に追加の15…45台中残ったのは18台です。専用のボルトは130発位は残っているでしょう。」

 

 御后様はしばらくカップのお茶を見ながら考えていた。

 「スマトルが手出しをせぬとは断言出来ぬ。…残しておくべきじゃろう。…ミズキはどうじゃ?」

 「残すべきです。使い方は覚えたでしょう。…バリスタを残せと言われれば困りますけどね。」

 御后様は満足そうに姉貴を見ている。

 「王都防衛で魔道師と同等以上の活躍を見せたと聞く。彼等も対空クロスボーを持つ事で安心出来るなら無理に我等が持ち去る事はせずとも良いであろう。」

 「分かりました。我らはテーバイの通信候補生の到着を待って出発いたします。」

 「うむ。…前回と合わせて屯田兵には大分犠牲が出ておる。彼等への補償と再編は滞りなく行なうのじゃぞ。課題があれば王宮に連絡致せ。王宮が動かずば我に連絡じゃ。良いな。」

 キーナスさんは深々と御后様に頭を下げるとフェルミを伴って天幕を出て行った。

 

 「我等は何時出発なのじゃ。毎日池で泳いでいるのも退屈なのじゃ!」

 アルトさんが痺れを切らしたみたいだ。

 「まぁ、もうしばらくの辛抱じゃ。明日にはセリウスが連合王国の亀兵隊を率いてエントラムズに帰る。ミケラン2ヶ月程セリウスを借り受けるぞ。亀兵隊の規模を拡大するためじゃ。」

 

 セリウスさんは吃驚してるけど、12小隊を率いて戦った以上、御后様の考えに巻き込まれるのは仕方が無いと思うぞ。2ヶ月で済むなら良い方だ。これからずっとという道もあるからね。ミケランさんは良いにゃ、って言ってるから問題無さそうだ。あるとすればシャロンさん位だろうけどね。


 そんな話をしていると、亀兵隊が天幕に走ってきた。

 「テーバイ女王がいらっしゃいました。」


 俺達が席を経って待っていると、数名の従者を連れたテーバイ女王が天幕に訪れた。

 「ようこそ、我がジャブローへ、…帰還の指揮を取っておった所なのであまり歓迎する事も出来ぬが、先ずは席に着かれよ。」

 御后様は向かい側の席を女王に勧めた。従者として随行してきた指揮官にも席を勧めたが着座したのは女王と年老いた指揮官の2人だった。残りの従者は女王達の後ろで控えている。

 

 「あまりに早いご帰国に驚きました。軍の指揮官達が訝しんで、その真意を確認したいと…。」

 老いた指揮官が女王の言葉に頭を下げて御后様をジッとみた。


 「他意は無い。…そもそもこの地はテーバイ王国の地じゃ。我が軍が駐留する期間が長ければ、感謝の念が憎悪に変わるのは必定。ならば、感謝の念がまだある内に引き上げるのが後々の国交を図る上では重要と判断したまでじゃ。」

 「あれだけ多大な貢献をしながら戦費の要求もせずに帰られるのですか?」


 「我が軍だけで撃退したならそれもあるじゃろう。じゃが、東の敵軍を押さえたのはテーバイの勇士達じゃ。そして、テーバイの大通りを守った者は、我が国の軍人ではない。たまたま我が国にいたハンター達じゃ。我がテーバイに要求できる道理はない。」


 「ひょっとして、将来の我が国の産業が目的ですかな?…それではスマトルと同じ事と言えますが。」

 「そこまで邪推せずとも良い。我がモスレムを含めた隣国4カ国で、今までとは違った国作りを始めようとしておる。我等も多忙なのじゃ。そして、隣国ならば気心が知れた隣国が良い…。」

 

 御后様の言葉に老いた指揮官がテーブルに頭をこすり付けるように頭を下げた。

 「申し訳ありませぬ。…我等あまりにも迫害を受け過ぎたようです。施しは疑う癖が付き過ぎました。真に申し訳ありませぬ。」


 「良い。我にも好き嫌いはある。じゃが、相手の立場になって考えられるようになってきたのも最近の事じゃ。」

 そうかな?…あんまり俺とかセリウスさんの事は考えてないような気がするぞ。


 「まぁ、それはさて置き我も謝らねばならん。このジャブローじゃが、井戸を掘ろうとしたんじゃが、地下水脈にもろに当ってしもうた。ジャブローは撤収出来ても水場だけは元に戻せん。良い畑になった土地が泥濘になってしもうた。」


 最初は何の事かと心配していた女王だったが、水場と泥濘地の話で安心したようだ。

 「先程、お嬢さん達が泳いでいる池を見ました。しばらく目を丸くして見ていたんです。泥濘地についても心配は無用です。泥濘地でなければ育たない植物を育てる事が出来ます。収穫率が極めて高い植物ですから国民は喜びます。」


 「ひょっとして、稲を作れるんですか?」

 「スマトル、マケルト、カイラム全て稲は国外持ち出し厳禁の筈。絹の秘密にも匹敵する我等の秘密ですが、何故に知っておられるのですか?」

 「前にも話したように、俺の国では米を食べていたんです。そして大人達は米で作った酒を飲んでいました。稲は麦と違って確かに収穫率は高いんですが、もみを直接播いてるんですか、それともある程度育ててから植えるんですか?」

 「ある程度育ててからです。」


 女王は溜息を付きながら俺に応えてくれた。

 御后様達はどういう事じゃって俺を見ている。

 姉貴がはぁって溜息を付くと腰のバッグから袋を取り出すと、中をゴソゴソと漁りだした。

 そして、一握りのアルファ米をシェラカップの中に入れた。


 「これが、お米です。私とアキトが育った国での主食なんです。」

 「このまま食べるのか?」

 セリウスさんが胡散臭そうに聞いてきた。

 「タグ討伐の時に食べた物じゃな。結構美味かったぞ。じゃが、あれからは食べておらんのじゃ。」

 アルトさんは覚えていたみたいだ。今度何か作ってあげよう。


 「そうです。それが稲の実である米になります。」

 「しかし、桑、蚕、そして稲…。何故に我が南方の国々の秘密を知っておられるのか?」

 女王様の言葉に老いた指揮官が付け加えた。


 「私の故郷は遥か東の島国です。日本とかジャパンとか言われてます。…コンロンより東になりますね。」

 「我が国の産業技術はコンロンよりもたらされたという伝説もあります。それならこれらの技術を知るのは不思議ではありますまい。しかし、コンロンの東ですか…。」

 姉貴の言葉に老いた指揮官は納得したようだった。


 「じゃが、それ程収穫率が高ければ我が国で栽培する事も可能なのじゃろうか?」

 「2つ問題があります。水と気温。…元々稲は水生植物ですから生育にたっぷりと水が必要です。それと、南方の植物ですから春から夏にかけての気温が高いことが条件になります。夏に少し気温が下がっただけで収穫量が皆無になることさえあります。」

 御后様の質問に俺が応えた。


 「難しい植物よのう…。じゃが、あの泥濘地が利用出来るのは幸いじゃ。

 それと、このジャブローじゃが、このままの状態で我等が引き上げても良いじゃろうか。王都の民家を大分壊したようじゃ。この天幕を始め、5つの大天幕がある。夜露を凌ぐ事は可能じゃろう。それと、食料等も今更逆に移送するのも面倒じゃ。」

 「よろしいのですか?どちらも助かります。」


 御后様はついでにといった感じで、ジャブローの引継ぎを始めた。

 どうやら俺達は荷物を残したままで引き上げる事が出来るらしい。

 そして、最後に荷車に積んだ箱を女王様に渡した。

 「遊牧民の戦士にも世話になったと聞く。彼等には何らかの褒賞を渡さずには行くまい。これを使うが良い。我らの土地には必要ない品じゃが、鎧ガトルには絶大な威力と聞く。彼等もこれなら満足するはずじゃ。」

 50個近いモーニングスターだけど、亀兵隊にはまだ20個程残っているようだ。

 ネイリー砦に駐屯する部隊には必要になるかも知れない。

               ・

               ・


 あくる日、ジャブローに残っているのは亀兵隊のみとなった。

 午前中にセリウスさんの部隊がムカデの旗をなびかせて出発した。

 そして、午後に俺達が出発する時、テーバイ女王達と遊牧民の戦士が現れた。

 カルートに乗った遊牧民の戦士は鞍にモーニングスターを括りつけている。

 

 「テーバイが落着いたら是非遊びに来て下さい。」

 「これは役に立つ。何人かの戦士が倒れたがこの褒賞で十分だ。」

 女王と戦士が俺達に簡潔に別れを告げる。

 「必要なら呼んで下さい。それでは国作りを頑張ってくださいね。」


 そう言ってバジュラを西に進める。

 俺達の姿が見えなくなるまで、女王達はジャブローで手を振っていてくれた。


 俺のバジュラにはディーが後に乗っている。姉貴はリムちゃんと一緒だ。

 ミクとミトでまた揉めたけど、ミケランさんと御后様が論争に勝利したようだ。

 嬢ちゃんずはそれぞれの部隊を率いている。当然先頭はアルトさんの部隊が進んでいる。

 全力疾走ではないけど、結構飛ばしてるな。

 「意外と揺れないんだね。」

 俺の隣を走っているクローディアから姉貴が俺に声を掛ける。

 「あぁ、だからミーアちゃん達もガルパスから正確な射撃が出来るみたいなんだ。」

 「ねぇ、帰ったら何をするの?」

 「とりあえず、ゆっくり寝る。後の事はそれからだ。」


 「だったら、バビロンに行って見ない?」

 「あの双子山から見た光が気になるんだろ。だけど、レグナスみたいなのがうじゃうじゃいるような気がするぞ。」

 

 「海から行けばいいのよ。確か、クオークさんが船乗りの伝説を調べてみる、って言ってたよね。商船は無理でも、アトレイムのメイクさんが作ってくれたようなヨットなら近づけるんじゃないかと思うんだけど…。」

 

 確かに、船乗り達なら商船で沖合いを通っている筈だ。しかし、付近が岩礁地帯ならセイレーンみたいな伝説もあるかもしれない。

 だけど、小さなヨットなら、喫水が浅ければ岩礁地帯を抜ける事も出来るだろう。


 「このまま、モスレムの王都に行ってみる?…クオークさんのその後の調査も気になるし。」

 俺の提案に姉貴が頷く。

 だけど、誰を連れて行くかで揉めそうな気がするぞ。


 その話はネイリー砦について夕食を取っていた時に再燃してしまった。

 リムちゃんがアルトさん達にバビロンって何?と聞いたらしい。

 「我等も行くぞ。…バビロン、何と言う言葉の響きか…どんな宝があるかも楽しみじゃ。」

 「ディー姉さんみたいな人がいるかもしれない。」

 やはり、こうなったか…。まさか?と思って御后様を見ると残念そうにこっちを見ている。

 「我も行きたい事は確かじゃが、4カ国連合も有るしのう…。王都についてから王と相談じゃ。」

 王様負けるなよ。と心の中で声援を送る。


 「でも、まだ行くと決めた訳じゃないの。クオークさんの調査次第になるわ。そして場合によっては船を作らないといけないのよ。」

 「大丈夫じゃ。サボっておれば我が制裁を加える!」

 なんて言いながらモーニングスターを振り回しそうな雰囲気だ。それは鎧ガトル用であって、クオークさんの制裁用じゃないぞ。


 「という事は、全員モスレムの王宮で良いな。何、せっかくの機会じゃ王都で羽根を伸ばし買い物をするのも良いじゃろう。亀兵隊達の志願兵も集まっておる筈じゃ。退屈はせぬと思うぞ。」


 という訳で、全員の王宮行きが決まってしまった。

 何か流されていくような気がしてならない。

 

 

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