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#257 王都への救援

 

 王都の上空には10個以上の光球が空を照らしている。更に、数個の光球が王都の南の方に上がっている。

 夜半を過ぎて王都の攻防は激しさを増しているようだ。

 上空を舞う大蝙蝠も一時期よりは減ったように見えるが、まだまだその脅威を減じてはいない。

 炸裂光が王都を幻想的に包んでいるけど、美しさに見とれてはいけない。あの光の一つ一つが何人かの命を奪っているはずなのだ。


 そんな光景を見て天幕に戻ると、テーブルには数名しか揃っていない。御后様とミーアちゃん、それにエイオスと俺に3人程の小隊長達だ。

 「どうじゃった?」

 「何時もよりも攻撃が激しいように思えます。光球の数も何時もより多くなっています。」


 「やはり、兵力が減っているとは言え、予定通りの攻撃を行なうか…。切れ者と思っておったが、凡庸じゃのう…。」

 御后様はちょっと失望したような口調で言った。


 「そうせざる得なかった…。と言うのが正しいのでは?」

 俺の言葉に、ウム?って御后様が俺を見る。

 

 「俺の国に、こんなことわざがあります。…大男、総身に知恵が回りかね。…スマトル王国の現状を良くこの言葉は表してますよ。」

 「大きい人は動きが鈍い。って事にゃの?」

 ミーアちゃんが俺に聞いてきた。

 そんな意味だから、ミーアちゃんにウンと頷いた。


 「大軍である故、命令が伝わり難くなるのじゃな。面白い諺よのう。確かに状況はそのように見える。」

 「多分、スマトル王はまだ海上です。これだけの大軍を上陸させてもね。軍略家ではあるのでしょうが、その命令伝達方法に少し問題があるようですね。」


 「我が軍は、夜間であれば遠距離でも言葉を交わす事が出来るが、敵には出来ないという事じゃな。」

御后様の言葉に俺は頷いた。

 「ちょっと興味がありますね。敵の情報伝達の方法が…。」


 「王都からの緊急要請です。…爆裂球、ボルト、矢が不足。以上です。」

 弓兵が天幕の入口で、俺達に大声で告げると足早に去って行った。


 「荷馬車は使えるか?」

 エイオスに聞いてみた。

 「夕方の戦いで障壁代わりに使いましたから…何とも。急ぐのであれば、我らのガルパスで運んでは如何でしょうか?…我が部隊は30。かなりの量が運べます。」

 

 「至急、手配してくれ。爆裂球、屯田兵のボルト、そして弓兵の矢だ。ディー用の矢があればそれも送るぞ!」

 エイオスは2人の小隊長を連れて天幕を出て行った。


 「婿殿…。ジャブローは敵に知れたが、ここにはミーア達もおる。王都の防衛戦に行ってまいれ。如何にミズキが戦術に優れておろうとも、数の力はそれを超える時もあるのじゃ。」

 「しかし、一斉攻勢の最中です。敵が王都の西の楼門に殺到しないとも限りません。」

 

 「楼門には来るじゃろう…。じゃが、西の城壁伝いに北に抜ける事は不可能じゃ。我等がここにおるからの。我等に任せて王都に行くのじゃ。エイオス達を連れてな…。」


 それでは、と席を立つとミーアちゃんが小さく手を振ってくれた。片手を上げて応えると天幕を出る。


 広場ではエイオス達がガルパスの鞍の後に大きな袋を括りつけていた。

 「俺も一緒だ。」

 そう言って、笛を吹いてバジュラを呼ぶ。

 「バジュラにも荷を括りつけてくれ。王都までは20M(3km)も無い。少しぐらい多めに積んでもガルパスは応えてくれるだろう。」


 直ぐに俺の所にも大きな袋が届いた。

 「爆裂球付きの矢と通常の矢です。入るだけ詰め込みましたので、走りが遅くなるかも知れません。」

 そう言って鞍に括り付けてくれた。

 全員がガルパスに亀乗した時、ミーアちゃんが走ってきた。

 

 「王都からの連絡。…北の楼門から入るように。って!」

 「ありがとう。ミーアちゃんも無理しないでね。」

 俺が左手を上げるのを合図に、エイオスは部隊を進めていく。俺達が見えなくなるまでミーアちゃんは手を振っていてくれた。


 ジャブローを抜けると、早足位の速度で一路東に進む。そして暗闇の中に王都の城壁が浮き出てきた時、エイオスは進路を北に取った。

 城壁を回り込むようにしてひたすら北の楼門を目指す。


 北の楼門の手前で通信兵がガルパスに乗りながら発光式信号器で楼門に合図を送ると、3m程の幅で大きな門が開いた。

 すかさず、俺達は王都の中に走りこんだ。

 北の楼門前の30m四方の半円形の広場にガルパスを止めると、やって来た屯田兵に荷物を渡す。

 その1人を捕まえて、姉貴のところへの案内を頼んだ。


 低い石作りの建物の先に2階建ての大きな建物がある。案内してくれる屯田兵は、その建物の中に入っていく。モスレム王宮からすれば規模は小さく、そして荒削りではあるが広い回廊と少し高い天井が王宮の雰囲気を出している。


 「ここです。ここがテーバイ王国の指揮所に成っています。」

 テーバイの近衛兵は俺の鎧姿に驚いていたが、屯田兵の話を聞いて扉を開けてくれた。


 「ジャブローからの援軍指揮官。アキト殿のお成りー…。」

 列柱が部屋の中の左右に数本ある真中に大きなテーブルを置いて、そこに姉貴はテーバイ女王と共に座っていた。


 ガチャガチャと鎧を鳴らしながらテーブルに近づく。

 「アキトが来たって事は、西の敵部隊に目処が立ったという事かな?」

 憔悴した顔で俺を迎えてくれると思ってたけど、何時もの笑顔だ。でも、この笑顔は危険だぞ。


 「サーシャちゃんの仕掛けた地雷原に嵌まって敵は南と北に分かれた。ジャブローの西の出口である程度殲滅した。3割は減らせたと思う。現在の状況は…。」

 俺は、テーブルに広げられた作戦地図に地雷原、柵を記入する。そして、セリウスさんとケイロスさんの部隊の駒の位置を修正した。


 「アキト殿、先ずはそこに座って欲しい。」

 女王様が姉貴の隣の席を指差した。


 テーブルを回りながら集まっている連中の顔ぶれを見る。

 そして、俺が座って兜を脱いでテーブルの上に置くと、後から従兵が冷たいお茶を出してくれた。


 「とりあえず、ガルパス30匹に乗せられるだけの物を持って来た。ジャブロー防衛戦で荷車を障壁として使ったから痛みが激しい。修理次第別部隊が荷を運んでくるはずだ。」

 「補給所で戦ったとなると我が市民達の被害は如何程になったのでしょうか?」

 俺の話を聞いていた年老いた指揮官が聞いてきた。


 「避難した市民へ敵兵が近づかぬようにジャブローに誘導しました。敵兵1人たりとも避難民には近づいておりません。」

 俺の応えに指揮官は感心してくれているようだ。


 「という事は、1,000人以上の敵をジャブローで迎え撃ったの?」

 「そうなるね。サーシャちゃんの仕掛けが面白いように上手く働いたよ。それでも広場に突入してくる敵兵にガルパスを並べて対応した。」


 「その鎧の血は返り血という事ね。誰も怪我してないよね。」

 「その点は大丈夫。…この鎧のお蔭でまだ重傷者は1桁だ。死亡者はいない。」

 

 「それで王都の状況は?」

 「うん…。落城一歩手前って感じね。南の城壁は無くなったわ。南の楼門前の民家を潰して仮の城壁を2段に作っているから何とか侵入を防いでいるけどね。

 大蝙蝠の襲撃は少し少なくなったけど、まだ脅威に違いは無いわ。対空クロスボーも20台を切っているわ。破損した物を王都のドワーフ達が修理しているけどね。それでも10台は増やせないと思う。」

 姉貴の声に覇気が無いな。

 

 「それに人的被害も大きいの。爆裂球で重傷を負った人達の救援が間に合わないのよ。ジュリーさん達が頑張ってるんだけど、息を引き取った人には【サフロナ】も効かないわ。」

 「ディーが見えないけど…。」

 「ディーには、王都の南でレールガンを使うよう指示してあるわ。3弾発射して戻るように言ってあるからもう直ぐ戻るはずよ。」

 

 「俺の部隊を連れて来たけど…。」

 「亀兵は弓兵よね。しかも爆裂球を300D(90m)は投げられるから…、この中央通りに面したこの建物の屋根に配置して。

 大蝙蝠の爆裂球には気を付けるのよ。そして、王宮の前のこの建物が救護所になってるからね。

 そして、アキトは王宮のテラスで大蝙蝠を減らして頂戴。」


 「判った。直ぐに出かける。…ディーが来たら、ディー用の矢を渡してくれ。」

 そう姉貴に伝えると席を立った。

 従兵を呼びとめ、王宮テラスへの案内を頼む。

 

 指揮所を出て回廊を巡る。丁度指揮所の北側に2階への階段があった。階段を上りと破壊された2階に出る。

 元々は女王の私室なのだろう。調度品が贅沢な物である事が判るけど、これ程破壊されては再使用も出来ないと思う。

 そんな調度品の中のひっくり返った小さなテーブルを窓枠のところに立てかけて銃座を作る。

 時間は3時を回っている。もう少しで夜が明けるけど上空には光球に照らされた大蝙蝠が舞っている。


 腰のバッグからkar98を引き出してニコンのスコープを取付ける。狙撃するには十分な明るさだ。

 銃身をテーブルに押し付けて銃を固定し、スコープのT字ターゲットに入るのを待つ。

 スコープの中を黒い影が横切る時にトリガーを引くと、乾いた音が木霊して空からクルクルと回りながら大蝙蝠が王都の南に落ちて行った。

 突然、視界が真っ白になる。と同時に轟音が当たりに鳴り響く。

 【メルダム】を誰かが放ったのだろう。

 

 その光が収まると、低空を飛んでいた大蝙蝠の半分が消えている。

 低空の蝙蝠は魔道師部隊に任せて、遥か上空を飛ぶ大蝙蝠を狙撃する。

 高さは300m程あるかもしれない。俺の腕の限界近いけど、相手は大きいから何とかなるだろう。

 そんな気持ちで距離環を300mにセットして、再度テーブルに銃を押し付ける。

 ターンと乾いた音を響かせて俺は狙撃を続ける。


 「「「ウオオオォォーー!!」」」

 王都の南で敵兵の蛮声が木霊している。さぞや激戦なんだろうけど、ここからでは見えない。

 ひたすら、大蝙蝠の狙撃に専念する。

 クリップを4個消費した所で、朝を迎えた。上空を舞う大蝙蝠の数はかなり減って見える。

 低空を飛ばずに500mを越える高さを舞っているから、ちょっと手が出ない。

 

 「アキト様。ミズキ様がお呼びです!」

 屯田兵が俺を探しに来た。

 「分かった。直ぐに行く。」

 そう応えると、急いで銃を袋に戻して階段を下り、指揮所へと走る。


 指揮所入口の近衛兵に片手を上げると、扉を開けてくれた。

 急いでテーブルに走っていく。

 

 「呼んだ?」

 姉貴に訊ねると、空いている席を姉貴は指差した。座れって事だよな。

 俺が座ると、侍女がナンのようなパンとカップに入ったスープを運んできた。


 「食べながら聞いて。

 ジュリーさんの話では、かなりの数の大蝙蝠を昨夜落としたと言っていたわ。次の攻勢で数が減っていれば、いよいよ打ち止めって事ね。

 南の城壁は何とかディー達が防いだわ。現在西の部隊と合流中だから、次はとんでもない数が来るはずよ。

 ということで、私も出ます。」


 最後の所で危うくスープを噴出すところだったぞ。

 「姉貴が出るという事は…、【メルト】がいっぱいを多用するって事かな?」

 「6回は出来るけど…。4回までにするわ。後は王宮の前に陣取るからね。」


 まぁ、1度言い出したら聞かないのは分かってるから、俺が何とかしないといけないのかな…。

 「我等も弓を使う事は出来る。王宮の前に最後の陣を作ろうぞ!」

 女王様もそう言って腰を上げる。何時の間にか鎖帷子を着込んでいる。


 「我等もお供せねばなるまい。」

 老いた指揮官が腰を上げるとテーブルの全員が立ち上がる。

 

 俺はテーブルから兜を取り上げると、鎧姿に薙刀を装備した姉貴の後に付いて指揮所を出ていく。

 指揮所の南側は回廊から横20m程の階段が数段続いて、車寄せに出る。その先は直径30m程の池がある。これが水場だな。

 水場は周囲を石で囲まれており広いロータリーになっていた。

 そのロータリーの南側には南に向かって15m程の道路が延びている。

 だが、1M(150m)程先は道路を瓦礫が塞いでいる。


 「あれが3つ目の阻止線よ。あの先に2つあるからここまでやってくるのは大変だと思うんだけどね。」

 俺にそう言うと、後を振り返って女王様に顔を向けた。


 「女王様達はこの階段の上に陣を張ってください。テーブルを階段側に倒しておけば、階段を利用することも出来ます。そして、天井が大蝙蝠の爆裂球から守ってくれるでしょう。」


 そう言って、俺と2人で南に歩き出す。

 「2人で歩くなんて、久しぶりだね。」

 「そうだね。何時も皆と一緒だったから…。」

 

 「良い、絶対に無理はしないこと。そして、敵を侮らない事。」

 「判ってるよ。」

 

 何時の間にか前方にエイオスが立っている。

 俺達はエイオスの案内で路地を通りながら最前線を眺められる民家の屋根に出た。

 

 南の楼門だった場所の広場にはディーが1人で立っている。その後にある民家を潰して道路を塞いだ障害にはテーバイ兵が槍を持って待ち構えていた。更に民家の屋根に屯田兵達がクロスボーを構えて南を見つめている。


 「全員、朝方にジュリー様より【アクセラ】を掛けて頂きました。迎え撃つ準備は万全です。」

 「俺はディーの後に付く。姉貴はエイオス達と魔法で援護してくれ。」

 

 そう言って、自分に【アクセル】と【ブースト】を掛け、民家の屋根から飛び下りる。

 第1の障害をよじ登り、ディーの所に行くとディーが俺に振り向いた。


 「動きだしました。後900mです。部隊規模不明。大軍です。」

 「距離500で敵に向かってレールガン発射。3連した後、距離100で集束爆裂球を投摘。…後は切り捲れ。そうだ。気化爆弾は使えるか?」

 「使えます。」

 「俺が使えと言ったら城壁の300m先を狙って気化爆弾を使え。」


 「了解しました。…敵との距離、残り800。」

 俺は後を振り返って大きく手を振った。

 

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