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#026 スラバ狩りはクラスター爆弾で始まる

 色々あったけど、ラッピナ7匹を確保すれば、依頼とおばさんの頼みは完了ってことで、村に戻る小道をトコトコと歩いてる。

 ラッピナの足を1匹づつ紐で縛った後で7匹を纏めてくくる。担いでるのは俺だけど、結構重い、次は獲物専用の袋を買ってほしいものだ。

 

 岩の所まできたら一休み。

 岩の上から、サラミス達を探してみたが見つからなかった。たぶん、村に帰ってるのだろう。

 水筒の水を一口飲んで、ラッピナを担ぐ。村まで、まだ距離があるけど日が傾き始めた。下り坂なのがせめてもの救いだ。


 村に入ると、早速肉屋にラッピナを持ち込んだ。75Lを受け取って、依頼書に完了のサインを貰う。

 次はギルドでガトルの牙を換金して、3人のレベルを再確認。

 俺と姉貴が赤6つ。ミーアちゃんが赤5つ。どうやら、グレイさん達が言っていた村を離れる目安まで達したみたいだ。


 「皆さん赤5つになると、村を離れる方が多いのですが、……皆さんも他に移られますか?」

 「今のところは、この村に滞在したいと思っています」


 お姉さんの問いに、姉貴が答える。


 「各町村のギルドはその町村内に所在するハンターを常に把握する必要があります。他に移られるとき、別の町村に入った時は必ずギルドに報告して下さいね」

 「了解です」


 そう答えて、ギルドを離れる。後は、宿に帰るだけだ。


 宿のおばさんは飛び上がって喜んだ。


 「これで、美味しいシチューが作れるよ。今晩の宿代はタダでいいからね」


 何か得した気分。1匹15Lが2匹だから、……半額で泊れるって事になるのかな。最も夕食代と朝食は別だから儲けは在るみたいだけど。


 そして、結論から言おう……ラッピナシチューは絶品だ。

 俺的にはリリックより美味しい気がする。早々と平らげたけど、お代わりは断られてしまった。


 仕方がないので、まだ半分位残っているミーアちゃんのお皿を見てたら、俺の視線に危険なものを感じたのか、左手で隠されてしまった。

 ふと姉貴を見ると、険悪な表情で俺を見てる。いたたまれずに席を立ち、宿の外で一服を始めた。


 ガトル暴走の調査の時は半月だった月が、今は満月を通り過ぎてる。

 最初は2つの月に驚いたけど、もう慣れっこになって月見をしてる。以外と順応性があるのかも知れない。


 「何してんだ。こんな夜に?」


 声がした方向を見てみると、グレイさんとマチルダさんだ。


 「いや、……お月見ですよ」

 「月見なんて、老人がするもんだぞ。若い者は「酒」そして「女」だ!」


 そう断言したグレイさんだったが、話の後のほうで、ポカリ!ってマチルダさんに杖で叩かれていた。


 「それより、2人ともどうしたんですか?」

 「お前達にちょっと相談があってな。ミズキ達もいるんだろ?」


 「ええ。食事中ですけど……」

 「じゃぁ、中に入ろう。話はそれからだ」



 宿に入ると、姉貴達の食事が終わったところだった。2人でお茶を飲んでいる。

 俺達にもお茶を貰うと、早速、グレイさんが話を始めた。


 「最初に聞きたいんだが、この匂いはラッピナのシチューだよな。俺達も、さっき食堂で食べてきたんだ。

 この宿で匂うということは……、お前達が仕留めたのか?」

 「昨日、ラッピナ5匹を依頼書で探して、今日、7匹仕留めました。仕留めたのはミーアちゃんですけど……。

 それで、残り2匹を宿のおばさんに届けたんです。お蔭で、今夜の宿代はタダです」


 グレイさんとマチルダさんはタメ息をついた。


 「やはり、そうか。……普通はラッピナ狩りは罠を使う。一日で取れる量は多くて3匹程度。今回はどうやったんだ?」

 「私が木の上からミーアちゃんに指示を出して、ミーアちゃんはその指示に従って藪を前進。

 30m位まで近づいたらミーアちゃん専用クロスボーで一撃!というようにやりましたけど……」


 「猫族の隠密性とクロスボウの射撃精度か……。他にはマネができないな」 

 「ところで、今夜の御用は?ラッピナ狩りの話じゃないですよね」


 「そうだった。明日の予定が無ければ、俺の依頼を共同で請負って欲しい。スラバを2匹だ。村の南の畑で目撃された。早急な討伐が必要だ」

 「ちょっと待って下さいね」


 姉貴は素早く、腰の大型ポーチから、図鑑を取出して調べ始めた。


 「これね……」 


 ちょっと驚いている。姉貴の見ている図鑑を覗きこむと……。

 蛇だ。しかも大きい。スラバの絵の隣に描かれている人間のシルエットと比べると3倍はあるぞ。

 6m以上ということだ。胴周りは30cmはあるだろう。そして驚くべきことに双頭なのだ。

 注意書きには「毒を持ち、うごきが素早く敏捷である」って書いてある。


 「凶暴なんですか?」

 「極めて凶暴だ。目撃は2匹だが、それ以上いる可能性が高い。

 生憎、カンザス達は町から来た銀2つと共に、タグの巣穴の調査に向かってる。今この村のギルドにいる黒は俺達だけだ。

 しかし複数のスラバとなると、ちょっと手が出せない。そこで、黒レベル並みのお前達に協力してほしいのだ」


 「お話は判りました。でもそれだと、ミーアちゃんが危ないような気がしますが?」

 「マチルダと後衛だ。メルが使えると聞いたぞ。そして2人をミズキが守ってくれれば問題ないと思うが」


 「それなら、問題はないかと……。ところで前衛2人で大丈夫なんですか?」

 「援護しだい……。というところだ」


 「判りました。待合わせ場所と時間は?」

 「明日早朝。西の門で待っている。弁当は用意して来い」


 俺達が頷くのを確認して、2人は帰って行った。

 それにしてもファンタジーな世界だ。こんなのがいるんだな。って図鑑を見てみたら、表皮は弾力性に富むって書いてあった。

 そうすると、採取鎌では困難ということか・・忍者刀。使ってみるか。

 俺達はおばさんに明日も早朝発つことと、お弁当をお願いして部屋に戻った。


 次の日、朝早く西の門に出かけると、グレイさん達が俺達を待っていた。


 「来たか、出かけるぞ!」


 西の門を出て、少し歩くと、南の街道へ繋がる道がある。その道を真っ直ぐ南に歩いて行く。

 道の両側は何処までも畑が続いている。途中、何箇所かある十字路は左右の畑に農作業の馬車が行く道だ。


 畑には麦みたいな植物が育っている。

 グレイさんに聞いたら黒パンの原料だって言ってたから、ライ麦?みたいなものかも知れない。


 しばらく長閑な畑の小道を進んで行くと、前方に立木が見えてきた。道には一定距離に立木が立っているみたいだ。この世界の1里塚ってとこだろうと思う。

 立木を素通りして更に進む。

 そして、次の立木がある所で休憩を取る。もっとも、休憩と言っても水筒の水を飲んで少し休む程度だけどね。

 

 また、畑の道を南に歩いていき、幾つかの十字路を過ぎた時、グレイさんは十字路を左に曲がった。

 今度の道は、あまり人が歩かないのか草で覆われているが、両側の畑の作物が植えられていないことからどうにか道だと判る。それでも、道幅は荷馬車が通れる位あるから立派なものだ。


 草に足をとられないように進んでいくと、遠くに小川が見えてきた。

 更に進むと、北からの小川が西からの川に合流している事が判ってきた。


 「見えてきたぞ。あの合流地点の葦原がスラバの目撃場所だ」


 グレイさんの指差す場所には確かに葦原がある。かなり大きな葦原だけど、何処にいるか判らないんじゃないかと心配になってきた。


 「ギルドから葦原の焼却許可は得ている。マチルダの【メルト】で焼き払ってスラバの姿を確認したら俺とアキトで仕留める。いいな!」


 そして、畑の末端まで来た。なだらかな土手が川の方に続いている。

 畑と川の段差は、数m以上ありそうで、天然の堤防みたいだ。

 葦原は土手の下から川まで続いており、川の流れに沿って数百mは続いている。


 「少し早いが、昼食を取る。その後、スラバ狩りだ」


 土手の藪から枯枝を取り小さな焚火でポットのにお湯を沸かす。

 おばさんに作って貰った黒パンサンドをお茶を飲みながら食べていると、グレイさんが聞いてきた。


 「今回は流石に杖みたいな鎌は持ってこなかったな。その曲がった片手剣を使うのか?」

 「相手が素早いと聞いてますし、皮膚の弾力もありそうなので、今回はこれです」


 俺は背中の忍者刀をポンポンって叩いた。


 「前から気にはなってたんだが、……随分幅の狭い両手剣だな」

 「サラミス達が使うような両刃ではなくて片刃ですからね」


 「使いづらくないか? 俺の片手剣でさえ両刃だぞ」

 「でも、俺のグルカナイフは片刃ですよ。慣れもありますし、かえって両刃だとどう使っていいか判りませんよ」

 

 そんな話をしていると、姉貴も加わってきた。


 「ところで、葦原を焼いて追い出すんですよね。私にやらせてくれませんか?」

 「私は、構わないけど……。【メルト】を覚えたのよね?」

 「そうなんです。実戦で一度使ってみたくて!」


 「そうだな。練習で上手く行っても実戦で・・って事もあるし、焼くだけだ。構わないぞ」


 グレイさんとマチルダさんはOKしてるけど、大丈夫だろうか?

 そんな俺の心配をよそに話はまとまってしまい、姉貴のメルトによる焼討ちでスラバ狩りが開始されることになった。

 

 食事が済んで、スラバ狩りの開始だ。

 俺とグレイさんは葦原を見下ろして立っている。俺達の真ん中に姉貴は立つと右手を高く上げた。

 姉貴の後ろで心配そうにミーアちゃんが見てるけど、俺だって同じ気分だ。

 そして、姉貴は上空に掲げた右手を見上げて【メルト!】と高らかに声を上げる。

 姉貴の右掌の上、30cm位にドッジボール程の紅蓮に輝く球体が現れた。1つ・・2つ・・3つ。


 「「何だ(それ)!!」」


 驚いている2人を無視して姉貴は魔法を続ける。


 「行っけー!!」


 姉貴の右手を振り下ろす動きに合わせて、3つの怪しい球体が左、真ん中、右の方向に飛ん行った。

 そして葦原の1m位上で、その球体は突然10個程に分裂すると、葦原に着弾した。

 

 ドドドドドドドドドドォーン!!


 まるで、クラスター爆弾が爆発するみたいに、葦原全体が一気に炎に包まれてしまった。


 俺と、グレイさんはあまりの驚きに顎を落とした。

 マチルダさんは顔面蒼白だし、ミーアちゃんはそんなマチルダさんの後ろに隠れている。


 「おいおい……冗談じゃねえぞ。一体如何したらこんなマネが出来るんだ!」

 「一気に焼き払おうと思って、(メルト)をいっぱい作れないかな……って思ったらこんなことになってしまいました」


 姉貴が「えへ。」って舌を出して笑っても、俺達の驚きの方が上だと思うぞ。

 

 「驚いたわ……。前に(メルダム)の魔法を一度見たことがあるけど、これほどの範囲で火災は起こせなかったわ。でも、一度に沢山は盲点ね。そんな事を考える人はいなかったわ」

 

 まあ、過程はどうあれ葦原は炎上している。結果的には問題ない。

 「今日の魔法は終わりだよ!」って姉貴は後ろに下がったけど、後ろの2人の護衛はよろしくお願いします。と心の中でお願いした。


 葦原は、季節的に生い茂っている盛りなので、葦自体に水分が多い。強制的な炎上が無ければ他への延焼はないはずだ。

 その葦原の炎がだんだんと下火になってきている。

 川の縁まで此処から見通せるな……そう思っていた時、スラバが現れた。


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