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#255 ジャブロー防衛戦

 バリスタのボルトを発射すると、サーシャちゃん達は結果も見ないでジャブローに向かって走り出した。

 ドラゴンライダー部隊の真中辺りで、20個のボルトに装着した爆裂ボルトが一斉に炸裂する。

 その光景は姉貴の【メルト】がいっぱい。よりも被害半径が広い。

 分断されたドラゴンライダーの前列はミケランさんの方向に走り出した。そして後列はその場に立ち尽くしている。

 すかさず後列にアルトさんの部隊が駆け付けて、投石具で爆裂球を投げる。

 60個の爆裂球が連続して後列のドラゴンライダー部隊の中で炸裂する。


 「エイオス。どうやらドラゴンライダーが2つに分かれたぞ。」

 そう言って双眼鏡を下ろすと、ショットガンのチャンバーに初弾を装填して新たに1発をマガジンに入れる。


 「さて、救援に行きましょう。…全部隊、亀乗!!」

 俺達はエイオスの合図でガルパスに乗る。

 「投石具準備!…爆裂球をセットしろ!!」

 俺を除く亀兵隊の全員が、投石具の真中の網目に爆裂球を入れて、爆裂球の引き紐を投石具に結び付ける。

 頃合を見計らってエイオスが叫ぶ。

 

 「行くぞ!!」

 「「「オオォー!!」」」

 俺達はガルパスを全速力で南に突っ走る。


 サーシャちゃんが率いる機動バリスタ部隊とすれ違うと、俺達の亀兵隊は頭上で投石具を廻し始める。器用な連中だから、左手には次の爆裂球を握っているはずだ。

 

 横に広がって後に爆裂球を投げながら北上してくるミケランさん達とすれ違う。

 爆裂球の炸裂する後にはドラゴンライダーが迫っているはずだ。


 若干、列から左に出る。

 そして、爆裂球の炸裂するドラゴンライダーの群れに突っ込んだ。

 炸裂する爆裂球を物ともせずに、何人かのドラゴンライダーが亀兵隊に槍を伸ばそうとする。

 俺は、槍を伸ばすドラゴンライダーを1人ずつ確実にショットガンで倒していった。

 

 数秒に満たない時間でドラゴンライダーとすれ違った俺達の部隊は右に大きく迂回して北に走り抜ける。

 ガルパスの速度が落ち、先頭からエイオスが俺の所にやって来た。

 「まだ、ドラゴンライダーはジャブローに向かっています。もう一撃浴びせますか?」

 「サーシャちゃん達の作戦もあるだろう。後から挟撃するか…。」


 「3列縦隊で後に回り、その状態から北上して攻撃します。」

 「俺は列の左、真中辺りで良いな。エイオス達程まだ上手く曲れないんだ。」

 

 俺に期待してますよ。って言いながらエイオスは列の先頭に戻っていく。そして、弓を取り出すと大きく腕を左に廻す。更に拳を上げて腕を左右に振る。

 その合図で、俺達の部隊は3列縦隊になった。

 

 南に走るバジュラからは南西方向に西から進軍した敵の徒歩兵が黒い塊になって見える。

 先頭を走るエイオスの合図で一斉にガルパスの進路を東に向ける。

 小さく見える王都は黒い煙を吐いている。

 そしてエイオスが再び腕を上げると、31匹のガルパスが一斉に左にドリフトして一気に速度を上げながらドラゴンライダーを追い掛ける。


 【アクセル】…。そして【ブースト】続けざまに、2つの魔法を自分に掛けると、後続するガルパスの速度が緩く見える。

 しかし、バジュラの動きはそのままだ。…一心同体って訳だな。


 俺1人エイオス達の列から飛び出すようにドラゴンライダーの背面からショットガンを乱射する。

 速度を緩め、後続のガルパスが爆裂球付きの矢を射る最中に素早くマガジンに弾丸を詰め込む。


 前方に爆裂球の炸裂が始まるサーシャちゃん達が3段構えでバリスタを放っているようだ。

 その場に停止するドラゴンライダーに向けて俺達の部隊は矢を放つ。

 停止したドラゴンライダーは俺達の方向に向きを変えようとするが、そんな僅かな隙を突いてミケランさんの部隊が爆裂球を投げる。

 混乱した中を、西に向かって逃げ出そうとしたドラゴンライダーが向った先には、セリウスさん達が一列縦隊の陣を引いていた。

 後はセリウスさん達に任せて、そのままジャブローに向かって走り抜ける。

               ・

               ・


 「どうにか殲滅出来たのじゃ。」

 サーシャちゃんが満足そうに言いながら、次の準備をしている。

 ミケランさんの部隊も俺達がジャブローに入ったことを確かめると、急いで出入り口を荷馬車で閉じた。ジャブローの後に回りこまれないように、屯田兵達が御后様の指示の元、あり合わせの材料で一生懸命に柵を作っている。

 

 「エイオス。…点呼を取ってくれ。」

 俺の言葉に素早く隊列を往復すると、俺の元に戻って来た。

 「全員揃っています。負傷者ありません。」

 「装備の補給が済んだら、休んでくれ。…俺は広場にある見張り台の所にいる。」

 俺はバジュラを下りて広場を歩いて行く。バジュラは役目が終った事を悟ったのだろう、のんびりと天幕の中に入っていく。


 ガチャガチャと鎧を鳴らしながら、石で組んだ見張り台に上がる。元々は爆裂球の保管庫だから屋根に上がっても、2m程の高さだ。屋根だって3m×6m位しかないけど、長椅子が置いてある。

 椅子に座って、泥濘地の遥か彼方を双眼鏡で眺めると、明らかに敵軍が前進しているのが見えた。

 王都の空には、先程見えた黒煙は白い煙に変わっている。消火出来たのだろう。

 相変わらず、上空には大蝙蝠が乱舞して、それに向けて対空クロスボーが発射されているのだろう。炸裂光と遠雷のような音がここまで聞えてくる。


 「ここにおったか。」

 ガチャガチャと鎧のすれる音を立てながら御后様が俺の隣に上がって来た。

 「ドラゴンライダーの内、サーシャを追って来た者はセリウス達に殲滅されたようじゃ。アルトの方は半減らしい。追って来ずに逃走しては、如何にアルトでも追う事は叶うまい。徒歩とは言え4,000近くまで膨れておる。」


 そう言って御后様がパイプを取り出す。ジッポーで火を点けてあげると自分でもタバコに火を点けた。

 「ならば、敵側のドラゴンライダーは200を切る事になります。出てくれば叩くで、何とかなるでしょう。

 それよりも、後少しで、サーシャちゃんの地雷原にぶつかります。

 どうなりますかね。…上手く分裂してくれると良いんですが。」

 

 「婿殿も苦労性よのう…。我が夫の若い頃そっくりじゃ。」

 御后様が小さく呟いた。


 「此方においででしたか…。王宮よりの連絡です。…遊牧民の戦士に爆裂球を補給せよ。以上です。」

 「我等の数少ない味方じゃ。ぞんざいにするまいぞ。フェルミに伝え、爆裂球300を与えよ。」

 御后様の指示に伝令が走っていった。


 「リムちゃんが言ってましたね。…大きなカルートに乗ってるって。1度見たいものです。」

 「我もじゃ。この歳になってガルパスにも乗れるようになったが、カルートも捨てがたい。」

 御后様の事だ。この戦が終ったなら、絶対1匹手に入れるに違いない。

 

 そんな話をしているとフェルミが1.5倍程の大きさのカルートに跨った戦士を連れて来た。

 「是非、お願いしたいと申しまして、連れてきました。」

 

 「この場の指揮官とお見受けする。爆裂球300ありがたく頂いた。…その上でお願いするのは心苦しいが、武器を譲って頂きたい。」

 「我等もあまり予備を持たぬ。じゃが、王都の東は獣は多いと聞く。武器は直ぐに傷むじゃろう…。渡せるのは、薙刀とこれじゃが数は50に満たぬぞ。」

 御后様は笛を吹いてシルバースターを呼び寄せる。

 見張り台からヒョイって飛び下りると、鞍から薙刀とモーニングスターを取り出した。


 「村でハンターをしている時に使った武器じゃ。

 此方が薙刀。ガルパスに乗ったままこれで斬り付ける。

 そしてこれはモーニングスター。鎧ガトルは、これの一撃で倒せる。」

 そう言って、カルートから下りた戦士に使い方を教えている。

 

 「ありがたく使わせて頂く。我等の武器は槍と棍棒…。度重なる獣との戦いで、槍は使い物にならなくなってしまった。これなら十分に戦えそうだ。」

 「フェルミ。直ぐにサーシャの部隊から薙刀とモーニングスターを回収してこの戦士に渡すのじゃ。」

 フェルミさんは数人の部下を連れて西の出入り口に走って行った。

               ・

               ・


 遊牧民の戦士に武器を与えてしばらくすると、誰が告げるともなくジャブローの皆が南を眺める。

 俺達の見張り台には何時の間にか嬢ちゃんず達と双子まで上がって来ている。

 

 双眼鏡の視野には地雷に近づく大軍が見て取れた。その数は5,000を越えているようにも見える。


 そして、その大軍の先端が突然吹き飛んだ。急な停止が出来ないようで、更に爆裂弾の中に押し出されるように敵軍が進んでいく。

 土煙を上げて土砂と人が吹き飛ぶ様は、敵軍ではあるが気の毒に思える。

 やがて、ピタリと進軍が停止する。

 

 その光景を見ていた嬢ちゃんずが動き出した。

 素早く見張り台を下りると広場に駆け出していく。

 「兄さん、アルト様達は?」

 「あぁ、鬼ごっこに出かけたみたいだ。これからちょっと騒がしくなるかも知れないから、ミクとミトをガルパスに何時でも乗せられるようにここにいてね。」

 俺の言葉にリムちゃんが頷く。

 

 「婿殿、敵が動くぞ!」

 御后様の声に慌てて、双眼鏡を敵軍に向ける。

 「此方の目論見通りです。敵は大きく2方向に判れました。南と北です。」

 「さて、思惑通りに動いてくれるかの…。」

 

 「後1時間もすれば判りますよ。…御后様。3人をお願いします。」

 「うむ。任されたぞ。存分に動くが良い。東の出入り口は我が守る。」

 ヒラリと見張り台から飛び下りると、エイオス達が整列して待っている。

 「いよいよですか?」

 「あぁ、エイオス…部隊を頼む。本来は西の守備だが、俺の後に待機していてくれ。嬢ちゃん連中に任せておけば十分だと思う。ケイロスさんの部隊もいるしね。

 万が一東の出入り口に敵が押し寄せたら、西の出口から出て大きくジャブローを迂回し、東の出入り口に押し寄せる敵軍の側面を突け。

 補給がままならない。矢と爆裂球は十分持っていけよ。」

 

 「了解しました。ならば、最初から西の出入り口の北側1M程の所に布陣させてもらいます。」

 「正面から敵の攻撃を受けるのか?」

 「敵は徒歩、そして我等は亀兵隊です。…速度が違います。追って来ればケイロス様の餌食になるかと…。」


 俺はエイオスの肩を叩く。

 「この旗の働きはしてきます。」

 そう言うと彼は部隊を率いてジャブローを西に出て行った。


 エイオスを見送ると、笛を吹いてバジュラを呼んだ。

 バジュラの傍で一旦鎧を脱ぐと鎧の背中に刀と、グルカを取付ける。えびらは俺の弓の腕では必要無いだろう。再度鎧を着込むと、バジュラに乗って西の出入り口に行く。


 出入り口の近くにも石作りの見張り台がある。一辺が4m程で高さは1.5m位だが、やはり爆裂球の保管庫を兼用している。

 その上でサーシャちゃんが南を望遠鏡で見ている。


 様子を見に上っていくと、大して高くは無い見張り台ではあるが周囲の様子が良く見える。

 出入り口の広場には機動バリスタが3段構えで待機している。各バリスタの後には数本の爆裂球付きのボルトがおいてあるから、俺としては近づきたくない景色だ。

 ミケランさんが4小隊を東西に2列縦隊で待機させている。全員が投石具に爆裂球をセットしているけど、ミケランさんは相変わらず投槍を持って真中付近で部隊の指揮をしているようだ。


 アルトさんは西に大きく離れた所にいるのが見える。蔵に腰をかけて荒地の地面のうねりの影に隠れている。


 「どうじゃ。中々じゃろう…。」

 と、サーシャちゃんに言われても、俺には中々の中身が良く理解できないぞ。


 「説明してくれると助かるんだけど…。」

 「もう直ぐ、昨日仕掛けた罠に掛かる筈じゃ。そしたら、ムキになってやってくるぞ。

 あそこに今朝ミケランが柵と地雷を仕掛けている。そして、そこにもじゃ。」


 俺に、ボルトで地雷を仕掛けた場所を教えてくれたけど。教えて貰って良かったと思う。街道の両側に2段仕掛けてある。

 早い話が、街道を50m程真直ぐ進まないと地雷に引っ掛かる。

 

 ホッと胸を撫で下ろす心地で、南に双眼鏡を向けたと同時に視野に土砂が炸裂する光景を捉えた。

サーシャちゃんを見ると、ニコリと笑みを漏らしている。

いよいよか…。サーシャちゃんの肩をぽんぽんと叩くと、見張り台を飛び下りてバジュラにのり街道を真直ぐ西に向う。

 そして、ミケランさんが率いる亀兵隊に合流した。


 「アキトにゃ。来ても良いけど、敵があの柵に取り付いたら逃げるにゃ。」

 ミケランさんが30m程南にある柵を指差した。


 「大丈夫です。ミケランさん達の殿を務めさせて貰います。」

 そう言うと、肩からショットガンを下ろした。

 敵は双眼鏡を使わずとも見る事が出来る。後500m程だ。

 

 

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