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#248 裏の裏は…

 

 「報告します!…監視所から王宮への通信を確認しました。…沖への3撃を確認。敵船被害10。箱舟接近中。以上。」

 弓兵が大型天幕の入口を跳ね上げるようにしてやって来たかと思ったら、俺達の所で報告をすると去って行った。


 「手段は分らぬが、ディーを使って攻撃を加えたという事じゃろう。じゃが、このまま行けば夜明けに戦闘は避けられぬぞ。」

 「それは、姉貴も承知しているでしょう。俺としては、最初の攻撃兵力が少ないのが気になります。」

 「3カ国の兵力は3万近い。スマトル王の事じゃから、全軍を率いて来たはず。確かに少し気になるのう…。」

 

 俺達はテーブルに広げられた地図を眺めながら、さてどうなる事かと考えていた時だ。

 「王都から監視所への連絡を確認しました。…監視所から西方150M(22km)で敵船団の状況を確認せよ。以上です。」

 弓兵がそれだけ報告すると、素早く天幕を出て行った。

 なるほど、ジャブローのチビッコ通信兵の働きは優秀だ。後で御褒美を考えなきゃならないぞ。


 「ミズキも案じておるようじゃな。西方だけでなく東方へも物見を放ったと見るべきじゃ。」

 「という事は…。」

 御后様の言葉にアン姫が身を乗り出す。

 「大掛かりな陽動という事でしょうね。」

 「そうなるな。じゃが、それが敵の狙いであれば少し困った事態になるのう…。」

 ジュリーさんの言葉に御后様が呟く。

 「連合軍正規兵の到着が未だ…。という事ですね。」

 俺の言葉に御后様が頷く。

 

 バサっと天幕の布が開いて弓兵が入ってくる。

 「王都から機動バリスタ部隊への指示です。…接近する敵船を攻撃せよ。攻撃後速やかに退避。以上です。続いて、突撃部隊に指示です。…出動待機。以上です。」

 そう言って素早く天幕を出て行った。


 「その場で敵船を全て撃破すれば良いと思いますが…。」

 「そうも行くまい。これがおる。」

 アン姫の問いに御后様が地図をパイプで差し示す。そこには2つの大蝙蝠のフィギアがある。

 「ミズキは夜明けに敵が上陸して王都に攻撃してくると考えているようじゃ。その時に支援部隊として、こいつらが空から攻撃を加える事もな。

 サーシャ達がその場で上陸部隊を撃破すれば、大蝙蝠の部隊はサーシャ達を攻撃する。

 意外と微妙なタイミングでサーシャ達は攻撃と撤退を行う事になるのう…。」

 

 確かにタイミング的には微妙になるな。機動バリスタの移動速度は最速で通常のガルパスの半分位までしか出すことが出来ない。敵を殲滅するのに気を取られていると大蝙蝠の餌食になりかねない。何と言っても積んでいるボルトには爆裂球が付いてるからな。


 改めて従兵が俺達にお茶を入れてくれた時だった。

 またしても、俺達のテーブルに弓兵が走って来た。

 「監視所から当方への連絡です。…大型の箱舟5艘が陸地に向かって移動中。以上です。」

 

 アン姫が消しゴム位の木片に「箱大」と書き込んで地図上に5個並べる。

 「ほほう…。裏の裏を掻きよるか。じゃが、これではミズキの思うつぼではないか…。」

 「何故でございましょう。…ミズキ様は正面を陽動と考え左右に物見を出しております。これは、正面の敵を王都の部隊で対処し、左右をテーバイ正規軍と連合王国正規軍で対応する考えだと思っておりましたが…。」

 

 「我もそう思っておった。たぶんミズキでなければ今頃左右に軍を展開しておった。…もっとも凡庸な指揮官ならばこのまま正面の敵を潰すことじゃろうが…、そう言うことか。裏の裏を掻くとは傍目では凡庸に見えるのう。」


 「御后様。後学のために、私にも分るように説明して頂きたいのですが?」

 ジュリーさんと御后様の会話に付いていけなくなったアン姫が御后様に頼み込んだ。


 「良いか…。王都への夜間攻撃は陽動じゃ。この6艘を秘密裏に上陸させるためのな。

 まだ、この6艘が我等に発見されている事をスマトル軍は知らぬはずじゃ。ディーの攻撃で沈んだ船は1艘もない。たぶん故意に外しておるはずじゃ。

 明日の夜明けに6艘から上陸した兵員は大蝙蝠の部隊と呼応して王都を攻撃する。

 しかし、これも陽動じゃ。海岸の左右に兵を上陸させるためのな。

 これを使って、テーバイ軍が左右に散開したところを大型箱舟で上陸する軍で一気に王都に押し寄せる所存だと我は考えておる。」


 「でも、その計画は破綻してますね…。」

 「さすが、婿殿。…その通り、破綻しておる。

 その1つが既に正面の陽動を行う部隊が発見されておる事。そして、もう1つが監視所から正面を目指してくる大型箱舟5艘を発見しておることじゃ。」

 

 弓兵が1人走ってきた。

 「サーシャ様から王都宛の連絡です。…位置に着いた。その後、…了解。を王都に向けて送信しました。」


 アン姫が機動バリスタ1と2の2つの駒を入り江に配置した。

 「アンよ。たぶん位置はそこではないと思うぞ。」

 御后様が従兵を見張り台に走らせた。

 やがて帰って来た従兵の報告は、発光信号は王都の南ではなくやや西に寄った場所を示していた。

 そこに、屯田兵の伝令が走ってきた。

 「伝令です。ミケラン殿が対空用クロスボーの借用を望んでおります。」

 「貸与いたせ。朝には返してくれるはずじゃ。」

 御后様の了解を得て屯田兵は、天幕を走って出て行った。


 「なるほど、ミケランがジャブローに未だいるという事は、…サーシャはバリスタ2隊のみを率いてこの場所に行ったようじゃな。」

 「でもこの位置では引き返すのに時間が掛かります。大蝙蝠に狙われないとも限りません。」

 サーシャちゃんの位置は入り江の西側の岬付近に変えられた。

 そして、おもむろに御后様がミケランさんの駒をジャブローの南方、泥濘地帯の南側に置いた。


 「たぶん、この位置を取るはずじゃ。サーシャめ、攻撃と誘いをするようじゃの。」

 「でも、対空用クロスボーは人が抱えて発射するには重過ぎます。」

 「それも、考えておるはずじゃ。この位置にはこの先の泥濘地を示す杭が多数打ってある。それを利用するつもりじゃろう。」

 

 屯田兵の伝令が再度訪れ、ミケランさんが出発した事を報告する。

 「さて、夜明けが待ち遠しいのう。」

 そう言って御后様はパイプにタバコの葉を詰め込んだ。そして燭台の蝋燭でパイプに火を点ける。

 腕時計をポケットから取り出すと未だ2時だ。この季節だと後2時間程で薄明が始まる。

 サーシャちゃんの攻撃は夜明直前だろうから、もう直ぐ始まるな。


 弓兵が勢いよく走ってきた。

 「報告します。西の狼煙台から王都への連絡です。…西200M(30km)に敵部隊上陸。部隊数約2000。後続あり。…以上です。」

 アン姫が駒を取ると2000と書き込み地図上に置いた。


 「これは意外な数じゃな。単なる陽動でも無さそうじゃ。」

 御后様がパイプを咥えたままで腕を組んで考えている。

 

 また、弓兵がやって来た。

 「西の狼煙台への指示です。…突撃部隊は南10M(1.5km)に前進して散開せよ。攻撃を許可する。強襲部隊はジャブロー西10Mに前進せよ。…以上です。」

 アン姫がセリウスさんとアルトさんの部隊をそれぞれ配置する。


 「…さて、スマトル王は何を狙っておるのじゃろう。…そして、我等を何処まで知っておるのじゃろうのう…。」

 「我が国が義勇軍として派兵した事は知っているでしょう。でも、兵種までは知るすべはありません。まして、今回の秘密兵器とアキト様達の事等は判らないと思われます。」

 「亀兵隊は知っているという事じゃな。しかし、その機動性については信用しておらぬじゃろう。あれは、誰もが驚く。それだけ、使役獣として皆の頭に染み付いておるのじゃ。

 それに、我が兵力は知らぬはずじゃ。…もっとも、連合王国の正規軍については、ある程度の情報が流れておるやも知れぬな。」


 「でも、これだけの兵力を西に上陸されては、ネイリーが脅かされませんか?…更に増援が上陸する可能性もあります。」

 「ネイリーなら、500人の屯田兵の家族が守っておる。トリスタンもラザドムより正規軍を派遣するじゃろう。…それに、ミズキは正規軍の増援部隊には何一つ指示を出しておらぬ。ミズキは西の敵軍を恐れてはおらぬという事じゃ。」

 

 「それにしても、軍略家同士の戦いは傍目で見ると、参考になるのう。我も一流の軍略家の仲間入りをした気分になれるぞ。そして、婿殿。そろそろ準備をした方が良いぞ。」

 「そうですね。では支度をしてきます。」


 俺も気になっていた。御后様もそう考えていたなら、もうすぐ連絡があるはずだ。

 早速、寝起きしている天幕に向かって、大鎧の箱を取り出すと、エイオスに手伝って貰って、装備ベルトをしたままで鎧を着込む。

 胴丸と違ってやや角ばった感じのする鎧だな。

 背中に刀を差して、M29が片手で取り出せる事を確認する。持っていく銃はkar98だけだ。サーシャちゃんを追って来る大蝙蝠の狙撃が俺の任務の筈だ。

 最後に兜を被ると、鉄製だけあってズシリと重い。

 

 「結構重いな…。」

 「重いですが、その重さは全て防御の重さです。それだけ生還出来る可能性が高いと皆は申しております。」

 「なら良いんだけどね。」

 そう言って背中に箙を背負う。俺は左利きだから矢の向きは左肩だ。

 弓と戈はエイオスに言ってバジュラの鞍に乗せておいて貰う。


 「これが無いと話の外です。」

 そう言ってエイオスは俺の背中に旗指物を取付ける。その柄は、六文銭だった。

 ぶっちゃけ、源平時代のコスプレだぞ。自分で作っておきながら少し可笑しくなってきた。


 そのいでたちで大型天幕に入ると、アン姫とジュリーさんが目を見開いて俺を見た。

 「見事な丈夫ますらおぶりじゃ。…先程王宮より連絡があった。ディーと共にミケランの前方に位置せよ。という事じゃ。」

 

 姉貴にしてはアバウトな指示だな。俺の裁量に任せてくれるって事かもしれないけどね。

 「その丸6つはエイオスより聞きました。アケロン川の渡し賃を描いた物だと聞きましたよ。」

 「アケロン川は4Lだと思いましたが…。」

 「2Lは渡し守へのチップと言ってましたね。死んでも感謝の気持ちを忘れないとは、私も感心しました。」

 アン姫とジュリーさんが何か言ってるけど、気にしないぞ。


 天幕の入口の布が勢い良く捲られると、十数本の矢を入れた矢筒を背負ったディーが剛弓を持って現れた。

 相変わらず着ている物は革の上下だが、今夜は頭にバンダナを巻いてるぞ。

 

 「では行ってきます。朝食前には戻れるでしょう。」

 「うむ。…頼むぞ。場所は…。」

 俺は、地図上のミケランさんとサーシャちゃんの中間点を、やや左にずれた場所を指差す。

 「良い場所じゃ。」

 御后様が頷いたところでディーと共に天幕を出る。

 笛を吹くとバジュラがカチャカチャと爪を鳴らしながらやって来る。 

 鞍に跨り、ディーを鞍の後に乗せると、一気にジャブローを飛び出した。

 

 西側から泥濘地を大きく迂回する。

 「ミケラン様が手を振っています。」

 ディーが教えてくれた位置に向かって俺は手を振る。でも俺には全く見えないぞ。

 でも、ミケランさんがあの位置にいるとなれば、俺の向かう場所はもう少し南側になるな。

 

 こんな所か…。俺はバジュラから下りると、kar98を肩に担ぐ。

 「ミケラン様とサーシャ様の丁度中間です。やや東によっています。」

 「ここで、待伏せだ。」

 ディーにそう言って、タバコを取り出して一服を楽しむ。

 サーシャちゃん、ミーアちゃん、それにミケランさんは隠密行動だけど、俺は発見されても問題ない。むしろ発見される方がこの場合良いと俺には思える。

 

 少し白んできた空を見上げながら南を見ていると、突然に前方で爆裂球が炸裂する光が見えた。しばらくすると連続した爆裂球の炸裂音が聞えてくる。

 また、爆裂球が炸裂する光が見える。意外と間隔が短い。サーシャちゃんは、3段構えでバリスタを発射しているようだ。


 そして突然に炸裂音が止まる。

 「ディー上空の監視を頼む。」

 「了解しました。サーシャ様が移動を開始しました。移動方向。此方を目指しています。」

 そう言いながらも、ディーは背中から爆裂球の付いた矢を引き抜いて片手に弓を握る。

 俺も、肩から銃を下ろすと、ボルトを引いて初弾をチャンバーに装填した。

 少しずつ辺りがモノトーンの世界に変わっていく。そして、前方から機動バリスタを率いて走ってくるサーシャちゃんが見えてくる。距離は後300m位だ。


 「来ます!…距離800。方向真南。数は20。」

 銃の照準は300mに合わせてある。素早く撃つ為に照準器は外してある。

 バジュラの鞍に銃を押し付けるように固定して、大蝙蝠を待つ。


 俺の傍を40匹のガルパスがガチャガチャと音を立てて通りすぎる。

 「敵、距離350!」

 俺の目にも上空から降下して爆裂球を投下しようとする大蝙蝠の姿が見えてきた。

 ターン!っと第1弾を発射して素早くボルトを操作する。そして次の大蝙蝠に狙いを付ける。

 ドォン!っと音がした。ディーの発射した矢の爆裂球の炸裂音だ。

 更に俺が1弾を撃つと、またディーの放っ爆裂球の音がする。


 5弾放つと大蝙蝠は俺達の射撃圏外に去っていった。

 そして、空の一角が突然弾けた。

 ミケランさんの対空クロスボーが放った爆裂球が一斉に炸裂したのだろう。


 「敵、大蝙蝠。残数6。更にサーシャ様を追っていきます。」

 更に前方で小型の爆裂球が広い範囲で炸裂する。

 「敵、大蝙蝠。残数2。左に迂回しながら引き返していきます。」


 空には沢山の爆裂球が炸裂したが地上での炸裂は1発も無かった。どうやら、サーシャちゃんの率いる機動バリスタは無事だったようだ。


 「帰ろう!」

 ディーに声を掛けると、ディーは首を振った。

 「未だ、エナジー残量が50%程あります。浜辺で一撃を加えて王都に直接戻ります。」

 そう言って俺から離れていく。

 ディーを見送ると、俺はバジュラを駆ってジャブローに戻る事にした。

 

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