#025 ラッピナ狩り
サニーさんは、次々に的の中心付近にボルトが立っていく様子を驚いて見ている。
「あれ程命中するものなの?」
「弓と違って簡単な照準装置が付いてますから、この距離では中心点を外さないと思いますよ」
「でも、さっきそれを調整するような事を言ってたわね」
「はい。……よく的を見ると、少し右下に集中してますよね。ミーアちゃんは中心を狙ってるはずです。そこで照準器を調整して、ボルトが中心に集まるようにするんです」
「私には、十分すぎるように思えるわ」
「弓と違って、2の矢はありませんから、急所を狙って一撃必殺が基本です」
「確かにね。」
ウンショ、ウンショってミーアちゃんが、弦を両手で引張るのを見ながらサニーさんが言った。
「アキト。ちょっと直してくれない」
姉貴の呼ぶ声に、サニーさんと別れて姉貴達の所へ行く。照準器の凹部をちょっと修正して欲しいみたいだ。
仮止めの木ネジを緩めて、少し右下に移動する。
その場で、何本かボルトを発射して修正具合を見てみる。うん。良いみたいだ。
照準器に木ネジを最後までしっかり締めて、ミーアちゃんのクロスボーは完成だ。
早速、ギルドに向かい適当な依頼を探すことにした。
また図鑑片手に依頼板の依頼書を調べる。
赤5つ前後の依頼って意外と少なく、殆どが泉の森の薬草類の採取依頼だ。
「これは、どうかな?」
姉貴の指差した依頼書と図鑑を交互に見る。
ラッピナを5匹求む。期間3日以内。1匹15Lで買取る。(肉屋)。
図鑑を見ると、ウサギモドキだ。ウサギの耳の部分に角があるけど、頭の両側に2本幅広の角があるのでウサギに見えてしまう。
大きさもウサギサイズだし、草食性で臆病って書いてある。
活動は昼!これなら問題ない。
「良いんじゃないかな。でも、何処にいるの?」
「聞いてみようか?」
姉貴はカウンターのお姉さんのところに言って何やら話し込んでる。
しばらくして帰ってきたが、何を話してたんだ?
「とりあえず場所は解ったわ。北の集落へ行く途中の野原でよく見かける話を聞いた事があるそうよ。
そうすると、あの猪を取った辺りが怪しいと思うわ」
それだけ聞くために15分は話してたぞ!とは言えないのが辛い。
「じゃぁ、明日早朝に出かけよう!」
宿に戻ると、ラッピナ狩りの話をおばさんにする。ひょっとしたら2晩は帰れなくなるからだ。
「判ったよ。……でもね、ラッピナが余分に取れたら、持ち帰ってくれないかい。ラッピナのシチューはとても美味しいんだよ。私もしばらく食べて無いしね」
美味しい話は、即OK。「是が非でも取ってきます」って請け負ったのは姉貴だ。姉貴とミーアちゃん共に目が輝いてる。
次の日の朝早く、宿を出る。
まだ、太陽も昇っていないけれど、宿のおばさんも早起きして食事とお弁当を作ってくれた。ラッピナを頼んだ手前なのかも知れないけどね。
西側の門を通って北に行く小道を歩いていたら、後ろの方から声がする。
「オォーイ! 待ってくれー……」
振り返ると、サラミスと知らない子供が2人、俺達の後を追い駆けてきた。
歩みを止めて、彼らを待つ。
「今日はこっちなんだ。俺達は今日は薬草取りをこの先でやるんだ」
「俺達はラッピナ狩りさ。ところで、やったことある?」
「一度請負って罠で取ろうとしたんだが上手くいかなかった。草原にある木に登れば結構見かけるんだが、奴ら警戒心が強くてこれでは無理だ」
そう言って、背中の長剣を叩く。
「ところで、後ろの2人は?」
「俺の兄弟さ。片手剣を持ってる奴がサイルト。弓がルーミィだ。オイ、お前ら挨拶しとけ! こいつらのお蔭でリリックを食べられたんだぞ!」
そんな事で互いに自己紹介。サラミスの弟と妹はサラミスと容姿がそっくりだ。ミーアちゃんよりは大きいかな、中学生程度に見える。
6人で少し上り坂になった小道を進む。どの当りで薬草摘みをするのか聞いてみたら、前に休憩した岩がある辺りだとのこと、そこにはラッピナもいるぞ。って教えて貰った。
大岩に着いたら休憩だ。周りの繁みを適当に切って小さな焚火を作りお茶を沸かす。
朝が早かったから少し早い昼食だ。サラミス達にも黒パンサンドを半分にして分けてあげた。
ミーアちゃんが持っているクロスボウをルーミィちゃんはしきりに気にしているが、どうやって撃つかまでは判らないらしい。
やっとサラミスがルーミィちゃんの視線の先にあるクロスボウに気が付いたようで俺に聞いてきた。
「確か、クロスボーだよな。この辺で手に入らないはずだけど……」
「あのクロスボーは俺が作ったのさ。色々組み合わせれば作れるんだ」
「見せて貰っていいかな?」
「いいよ。ミーアちゃん。サラミスに見せてあげて」
ミーアちゃんからクロスボーを受取ると、縦にしたり、斜めにしたりしてみていたが、俺を見ると一言。
「作ってくれ!」
「200L!」
サラミスがガックリと首をたれる。
「便利なようだけど、一長一短なんだ。撃つ機会は1回だけ、外れたらお終いだ。弓は最初を外しても次を撃つことが出来るしね」
「確かに、そうだけど……ルーミィは弓が下手なんだ」
「サニーさんがこれ見て言ってたぞ。弓は練習と経験だって」
俺言葉にルーミィちゃんは、ハッっと何かに気が付いたようだ。自分の弓をしげしげと眺めている。
クロスボーは作ってあげてもいいけれど、こういうカラクリは自分達で試行錯誤しながら作り上げないといいものが出来ない。壊れても直す事が出来なくなる。
休憩が終わると、サラミス達と別れた。
彼等はこの近くで、俺達はもう少し先まで行く。
少し、坂道を登った所に2本の木が立っている。
ミーアちゃんがスルスルって木に登ると周囲の偵察を始める。
その後を姉貴が登っていった。同じように偵察してるようだ。
2人であっちこっち見ていたようだが、姉貴が双眼鏡を取り出した。
何か見つけたようだ。ミーアちゃんに双眼鏡を渡して意見を聞いている。
スルスルってミーアちゃんが木を降りてきた。
姉貴は双眼鏡を持ってまだ木の上だけど……、いいのか?
俺にかまわず、ミーアちゃんはクロスボーと矢筒を肩に引っ掛けると、草原に点在する藪から藪に身を低くして移動して行った。
木の上の姉貴は、時たま腕を上げたり、下げたりしてるぞ。
姉貴の様子とミーアちゃんの様子を見てて納得した。どうやら姉貴の指示に従ってラッピナに近づいているらしい。
俺からはミーアちゃんの姿は見えないが姉貴からは良く見えるらしい。色々な動作で合図を送ってるが、何の合図かさっぱり俺には分からない。
そして、腕を振り上げ……下ろした。
今度は万歳を始めたけど、ひょっとしてミーアちゃんが仕留めたのかな。
姉貴がヨッコラショって木から降りてきた。
「やったよ。1匹目!」
そう言ってガッツポーズをしている。
そんなところへ、ミーアちゃんが走ってきた。手には胴体にボルトが刺さったままのラッピナを提げている。
「イヤー、アキトにも見せたかったよ。音もなく近寄って一撃!まるで忍者みたい」
姉貴は舞い上がってるし、ミーアちゃんは俺に頭を撫でられて顔を赤くしてる。
でも音もなくって、あれだけ離れてるから音は聞えないと思うのは俺だけか?
これで、1匹だ。
こんな感じでミーアちゃんに頑張って貰おう。姉貴のクロスボーでは威力がありすぎるし、俺だと近づくのは無理みたいだ。
しばらくすると、また2人で木に登っていった。そして、ミーアちゃんだけ降りてくる。木の上の姉貴が演じる変な踊りが終わってしばらくすると、ミーアちゃんがラッピナを提げて帰ってくる。
なんか俺って何もしてないような気がするけど、……いいのかな?
そんなことが何回か続いた時、姉貴が突然俺を呼んだ。
「アキト。左前方急いで!……ガトルがいるの」
俺は採取鎌を掴むと、姉貴が腕で指す方向に駆け出した。
ミーアちゃんは見えない。多分藪に隠れてるためだろう。
200mくらい走ったろうか、ラッピナを取り囲むように少しづつ距離を詰めているガトルを見つけることが出来た。
向うも俺に気付いたらしくガウゥと唸り声を上げて威嚇してくる。
しかし、ミーアちゃんはラッピナ狩りで気付いていない可能性が高い。ガトルには無警戒なはずだ。ここは早めにケリを付ける必用があるな。
【アクセル】と小さく呟いてガトルに迫る。
ガトルの唸り声が低くなり、動きが緩慢に見える。
最初のガトルを鎌の先で引っ掛け上空に弾き飛ばす。次のガトルは、鎌の裏で思い切り弾き飛ばした。3匹目も同じように弾き飛ばす。
4匹目はもう逃げていた。
追ってまで殺す事はない。【解除】と呟き、体を通常の反応速度に戻す。
確か、右の牙だったよな。ガトルの牙をナイフで抉り姉貴のところに戻ってきた。
「ありがとう。ここはラッピナもいるけど、ガトルもいるのよね。失念してたわ」
少し反省している姉貴がそこにいた。
そしてミーアちゃんは7匹目のラッピナを下げて戻ってきた。