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#242 ネイリー砦へ

 嬢ちゃんず達を送り出して5日後、予定より1日遅れたけど、どうやら俺達も出発出来そうだ。

 家に入る林の小道を石像の力で封印すると、何時もの姿で東門に向う。

 東門の広場には、大型の荷馬車が2台停まっている。牛が引く荷馬車には、盾が50個程乗せられているはずだ。その他には、発光信号器が10個と後はスコップ等の土木工事に使う道具類だ。

 確か杭も無いのだろう。何て言ってたから、杭やロープも沢山積んであるんだろうけど、2台とも大きな厚手の布でカバーしてるから良くは判らない。


 「ちゃんと起きたようだな。…後は御后様だけだ。」

セリウスさんは俺と同じように革の上下だ。パイプを咥えながら通りを眺めていた。

 「1人ですからね。最後に家を一回りして色々と確認してきました。」

 「お前らしいな。」

 俺も銀のケースからタバコを引き抜いて、ジッポーで火を点ける。

 まだ、朝が早いから通りにも人影が見えない。もう少ししたら、ロムニーちゃん達がギルドに顔を出すだろう。


 通りからカチャカチャと言う音が聞えてきた。

 「おぉ、婿殿。だいぶ早いのう。…セリウスもご苦労な事じゃ。」

 荷馬車に寄りかかってタバコを楽しんでいた俺達に御后様が挨拶してくれる。

 「こんな時間を出発に選んで、申し訳ありません。」

 セリウスさんが、御后様に頭を下げる。


 そういえば、強行に出立の時間を早めたのはセリウスさんだったっけ…。

 困る事が見えているのに、座して待つのはどうかと思う。何て言っていたけど、確かに困っている人がいれば助ける事が道理だろう。それが未来系であれば尚更その前に助けたいと思うのも理解出来る。

 

 「お婆ちゃんにゃ!」

 荷馬車からミクとミトが御后様の所に駆け寄ってくる。

 「うむ…、ちゃんと旅支度が出来ておるな。ほれ、ミトが前じゃ。ミクは我の後に乗れるじゃろう。」

 チビッコ達はガルパスによじ登ると、それぞれ所定の位置に腰を掛ける。

 「御后様。申し訳ないにゃ。」

 「なに、気にする事はない。我も、長距離を1人で乗るのは始めてじゃからのう。良い話し相手になるじゃろう。」

 チビッコ達を追いかけてきたミケランさんが、御后様に挨拶している。

 

 これで、全員のはずだ。

 「では、出発するとしようぞ。」

 「はい。それでは手筈通り御后様には先導していただきます。」

 「了解じゃ。ミク、ミト良いな…。出発じゃ。」


 御后様は後に乗っているミクの様子を確かめると、ゆっくりとガルパスを進めていく。

 その後には俺達を乗せた荷馬車と誰も乗っていない荷馬車が続く。

 後続の荷馬車を曳く牛の手綱は俺達の乗る荷馬車に結んであるから道をそれる事は無い。早歩き程度の速度で俺達の隊列はネウサナトラムの村を離れていく。

 

 ミケランさんは荷台の大荷物の上にちょこんと座っている。

 後の荷馬車の監視と子供を見張ってるって言ってたけど、一番眺めが良い場所だからのようにも思えるぞ。

 御后様は荷馬車の100m程先を進んでいるんだけど、たまに立ち止まって薙刀で山側の土手を突付いたりしている。それをミクとミトが身を乗り出して見ているんだけど、いったい何をしているんだろう?


 「子供達に虫を教えてくれているようだな。触ってはいけない虫も山には多い。ガルパスに乗っているだけなら問題は無いが、山歩きをするには、そんな事も覚えなければならん。」

 「危険な虫もいるという事ですか?」

 そんな事は誰も俺達に教えてくれなかったような気がするぞ。

 「触らなければ危険は無い。芋虫を手に取ろうとする大人は滅多にいないが、子供はな…、好奇心の塊だ。」

 確かに、姉貴も小学生の頃は、平気で大きな芋虫を掴んでいたけど、高校生になってからは見ただけでキャー!だからな。

 

 そんな話をしながら俺達は街道をサナトラムの町に下りていく。

 サナトラムの町の宿には、王都からの先客が待っていた。

 「お待ちしておりました。」

 宿で俺達を迎えてくれたのは、アン姫とジュリーさんだ。


 「部隊はダリオンが率いてネイリーに先行しております。王都の工房で製作した各種鎧と盾も一緒です。」

 「さても頼もしい事じゃ。ところで、外の荷馬車は?」

 「建設資材が乗っております。立木とて無いと聞きましたので…。」

 

 次の日は、荷馬車が4台になる。俺達の隊列の後にアン姫の乗る荷馬車と近衛兵の乗る荷馬車が続く。

 街道脇の休憩所で1泊して3日目の夕刻にはマケトマムの村の明かりが見えてきた。

 

 宿に皆を置いて、俺とセリウスさんはギルドに向かった。

 ギルドの扉を開き、カウンターの娘さんにギルド長を呼んでもらうと、俺達はホールの片隅にあるテーブルで待つ事にした。

 

 「久しぶりだな。ネウサナトラムのギルド長に成った筈だが?」

 そう言いながら俺達と握手を交わすのは、マケトマムのギルド長カンザスさんだ。

 「無理を言って出て来たのだ。」

 セリウスさんは苦笑いを浮かべて応えてる。

 「しばらくですね。」そう言いながら、サンディさんが俺達にお茶を配ってくれた。


 「実は、確認の為に来たのだ。俺達は大型の荷馬車を4台運んでいる。マケトマムから泉の森を通ってネイリー砦、そしてテーバイまで荷を運びたいのだが…。」

 「ネイリーまでは問題無い。森の東の荒地の開墾を行う為に森に道を作った。森を抜ける道には獣も少ないからお前達なら護衛も要らないだろう。」

 そう言うと、ホールにある暖炉まで歩いていき、パイプに火を点けて帰ってきた。


 「だが、ネイリーからテーバイは少し難があるぞ。行けない事は無いのだが細い車輪では荒地に埋もれてしまうような砂地の場所があるんだ。」

 「幅広の車輪を付けて来たが、それでもダメか?」

 「判らん。だがやってみる価値はあると思う。」

 

 「ところで、少し前に剣姫様達がネイリーに向った。その前にはミズキがテーバイに向った。…いよいよなのか?」

 「渡りバタムによりスマトルとマケルトの作物は全滅したらしい。マケルトの王も急死した。御后様とミズキは開戦が早まると見ている。」

 

 「噂では聞いているが、それ程被害が大きいのか…。」

 「テーバイの戦いが始まれば、ネイリーから知らせが届くはずだ。直接マケトマムが狙われる事は無いだろうが、泉の森の南方には入り江が沢山あるらしい。陽動的に軍が上陸する可能性があるとミズキは言っている。」

 「判った。それなりのハンターを準備しておけばいいな。…明日、村を発つならネイリーに資材を届ける荷馬車がある。荷馬車が2台にハンターが4人付く。彼等と一緒に行けばいいだろう。出発は早朝だ。前の東門があった場所の広場に集まるはずだ。連中には俺から話しておく。」


 俺達はカンザスさんに礼を言って、宿に戻った。

 宿のおばさんの懐かしい料理を食べながら、皆に明日の予定を話す。

 次の日は朝早く朝食を取って、お弁当を手に荷馬車に乗り込んで東の門の広場に向かった。

 

 ガラガラと荷馬車が広場に入ると、昔あった門が無くなっている。東に村が拡張されたはずだから、当然と言えばそれまでだが、ちょっと寂しくもあるな。

 

 「お前達がネイリーに行くハンター達だな。」

 「そうだ。カンザスから話は聞いている。セリウス達だな。俺はルミナス黒5つだ。チームの名は無いが4人で仕事を請けている。」

 「こいつはヨイマチというチームを率いているアキトだ。俺達は、…まぁ仲間だな。」

 そんなハンター同士の挨拶を交わして、広場を後にした。

 相変わらず、御后様のガルパスが双子を乗せて先行している。


 森の入口の小川の傍に新しい東門がある。門を開くと跳ね橋があり、その向こう側は森に新しく作られた道だ。俺達の乗る大型の荷馬車も楽に通れる。そして、途中には擦れ違い用の広場も設けられている。

 2時間程馬車を進めると大きな広場が道の脇に作られていた。

 

 「此処は、休憩所だ。…荷馬車ならお茶を飲み。徒歩ならここらで昼になる。」

 ルミナスと名乗ったハンターは仲間に指示して焚火を作りお茶を沸かし始める。

 俺達がお茶を飲んでいる間は、ミクとミトは荷馬車の荷物の天辺に上って満足げに周囲を見回している。

 「ところで、あの子供達も連れて行くのか?」

 「あいつ等は俺の子供だ。一応ハンター登録を済ませている。この先が厳しい所とは聞いているが、それも良い経験になろう。何、心配はいらん。今までも、あの亀に乗って狩りを見てきたんだからな。」

 「なら、良いんだが…。この荷物も一応ネイリーまでになっているが実際はテーバイだと聞く。セリウス達の目的地もテーバイだろう。早めに荷を渡して戻って来い。」

 

 ルミナスは俺達を心配してくれているようだ。有難く礼を言って、焚火の傍を離れると荷馬車に乗り込んだ。


 人が歩くよりも荷馬車は早く進む。それでも御后様の駆るガルパスが先に行ってしまうので、頻繁にガルパスを止めて俺達が来るのを待っている。

 新しく森を切り開いて出来た道では獣を見かけない。この森で最初にやったキノコ狩りを思い出したが、今でも逃げ回るキノコ「アリット」は生えているのだろうか…。


 大木が周囲を取り囲む広場で昼食を取る。

 久しぶりに味わうおばさんの黒パンサンドは、何時もの材料なんだけど妙に懐かしい味がした。

 「あまり、獣を見ないですね。」

 「ここに来た事があるのか?…一昨年前に獣の襲来があったそうだ。かなりの数だったらしいが、その後昔から森にいた獣の数が激減したらしい。森の北の奥や、森の遥か南に行けばまだまだ豊富らしいぞ。」

 

 やはり、あの獣騒ぎは泉の森の生態系を壊してしまったらしい。その上、この道を作ったとなれば以前のように獣が豊富な森にはもう戻れないのかもしれない。

 やはり、人間は罪深い生き物なんだなと少し考え込んでしまった。


 森を抜けたのは午後の遅い時間だった。まだ夕暮れには程遠い。

 そして、綺麗に整地された道を進んでいくと遠くに砦が見える。あれが、新しいネイリー砦のようだ。前の砦は森から3km程にあったが、今度の砦は10km以上東に移動して建てられている。

 

 砦に近づくにつれその全貌が見えてきた。

 砦に至る道路は将来の街道を見据えて大型の荷馬車が擦れ違える程の道幅を持ち、真直ぐに東に伸びている。

 道の南側は畑と灌漑用の水路が作られ、屯田兵達が忙しそうに働いていた。

 

 砦は、少ない木材と石材を組み合わせて作られており、周囲は3重の柵で守られている。柵の内側には3階建て位の高さを持つ見張り台と十数棟の木造の建物があった。

 周囲を高い柵で囲んでいないけれども、屯田兵の兵力と亀兵隊の機動力により堅固に守られていると言えよう。

 砦まで1km位に近づくと、国境の柵が見えてくる。南北に連なる低い杭が横木1本で結ばれている。そして、約1km先に同じような柵が見えた。

 あの柵の間が警告区域として将来は機能するんだろう。


 ネイリー砦の東門に着いた。

 当直の兵が誰何するのを御后様が応えている。兵の1人が吃驚して木造の館に走っていった。

 そして、館の玄関から転げるように走ってきたのはダリオンさんだった。

 ルミナス達はそんな俺達を不思議そうな眼で見ていたが、荷馬車を所定の位置に置くと仲間を連れて近くの2階建ての家に入って行った。


 「お早いお着きで吃驚しました。さぁ、此方にいらしてください。アキト、セリウスご苦労だったな。お前達も一緒だ。」

 ダリオンさんの案内で俺達は館に歩いて行く。

 「ここが、前の戦場だったのか…。隠れる場所とて無い、良くぞ10倍を越える敵に勝利したものだ。」

 セリウスさんはそんな呟きを漏らしながら歩いている。

 

 館の広間で俺達を迎えてくれたのは、屯田兵500を束ねるアイアスさんとミーアちゃんにリムちゃんだった。

 形式的な挨拶が終るとミーアちゃんが早速俺達に報告してくれる。


 「ミズキ姉さんとディー姉さん、それにアルトさんとサーシャちゃんは亀兵隊100人、屯田兵100人を連れて、貯水池と用水路を作っています。

 ディー姉さんが光の球を地中に発射したら、噴水見たく水が噴出してたちまち池が出来たと言ってました。」

 

 レールガンで水脈まで一気に掘ったみたいだな。結構な水量だとテーバイにも有効に使えるだろう。

 「ネイリー砦の残った兵力を使って、テーバイまでの発光信号器を使った情報伝達用の狼煙台を建設中です。4個作る予定ですが、まだ1つしか完成していません。今日、マケトマムから来た荷馬車も狼煙台の建設資材です。」

 

 短期間だが結構計画通り進んでいるようだ。明日は、新しく出来た池に行って姉貴と情報交換になるだろう。


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