#024 ミーアちゃんのクロスボー
次の朝。
早々とテントを畳むと簡単な朝食を取って、村に急いだ。
村の東門には、朝早くから門番が立っている。
「おはよう!」って互いに挨拶を交わして門を通る。小さい村だし、普段からの挨拶は重要なんだ。
でも、その後で、「あまり、吃驚させるなよ。」って言われてしまった。昨夜の太陽が俺達だって知ってるのかな?
ギルドの扉を開けると、お姉さんがカウンターからこっちを見てる。
何となく、報告しづらいけど一応依頼は完遂したんだから報告の義務がある。報酬もあるしね。
ホールのテーブル席からも、何人かのハンターがこっちを見てるような気がする。
ちょっと気拙い中を勇気を出して、お姉さんの所に歩いていった。
「マゲリタ退治終了しました」
姉貴が、簡単に報告すると、ミーアちゃんがバックの中の包みをカウンターに置いた。
お姉さんは、その包みを解くと、ちょっと驚いたみたいだ。何ていっても27匹分の尾っぽだし……。
「ホントに一晩でこれだけ退治したんですか?」
「はい! ミーアちゃんが丸焼きにしました」
「カンザスさんから、報告は聞いていますが……、そんな狩りの仕方があるんですねぇ。
実はその狩りの仕方で問題があるんです。通常ではマゲリタ狩りは上手くいっても数匹程度が良いところなので、依頼者側も報酬をあまり準備していませんでした。一応、100Lは準備したとのことなので、残り22匹についてはギルドで買取ります。
通常討伐価格の1匹15Lになりますがよろしいでしょうか?」
「元々ミーアちゃんのレベルアップが目的ですから、依頼主も農家の人でしょう。全部15Lでかまいません」
すまなそうに姉貴に説明するお姉さんに、事情を察した姉貴が値引きしている。農家にとって、マゲリタは厄介だけど畑の収入を越えるような報奨金を払うのは大変だと思う。
おねえさんから405Lを受け取ると、ミーアちゃんのレベルを確認する。
赤4つに上がっていた。後少しで目標の5つになる。
最後にお姉さんから、マゲリタ狩りの方法をギルドを通して伝えるって聞いたけど、あのやり方が出来るかどうかは少し疑わしい。大きな光球を作れるかどうかが問題だ。
宿に帰ろうとしたら、姉貴が途中で方向を変える。
「武器屋さんによって欲しいの。ミーアちゃんがクロスボウを使えればいいな。って思うのよ」
そんな訳で、武器屋に行くと、この間のおじさんがカウンターでパイプを煙らせていた。
「あのう……、こんな形の武器はありますか?」
姉貴が背中のクロスボウを見せると、しばらくジッとおじさんは睨んでた。
「弓なのか?……でも見たことが無い武器だ。弓なら色々揃ってるがな」
おじさんはカウンターを出ると、陳列棚から数種類の弓を取り出した。
「誰が使うんじゃ?」
「この子なんですけど……」
「お嬢ちゃんはこの間、片手剣を買ったんじゃなかったか?」
「そうなんですが、やはり遠くから敵を倒すほうが安全ですから」
「初心者なら、この辺じゃないかな?」
おじさんの選んだ弓は、なるほどミーアちゃんも簡単に引き絞ることが出来る。
でも、姉貴は不服のようだ。
「もっと強いのが良いんですけど……」
「だが、お嬢ちゃんが引けなくなるぞ。……これの上だとこっちかな」
今度はミーアちゃんが苦労してる。顔を真っ赤にしてるけど引くことは無理みたいだ。
俺もちょっと引かせてもらった。なるほど、強い。内の洋弓部の連中が使ってるアーチェリーより強いぞ。
「これにします。後は矢を10本と矢を入れるものをください」
「良いのか?……まぁ、こっちは売る分には問題ないんだが」
弓と矢それにポシェットみたいな革製の矢を入れる矢筒を姉貴は購入した。
宿に帰ると、2日程休憩します。っておばさんに宣言すると、早速部屋に入って装備を降ろす。
そして、姉貴は俺の前にさっき武器屋で購入した弓矢を置いた。
「これを材料にクロスボウを作って欲しいんだけど……」
やはり、ミーアちゃんが片手で引けない辺りから気が付いてはいたんだけどね
「やってみるけど、姉さんみたいな物は作れないと思うよ」
「それでもいいからやってみて」
「じゃぁ、 軍資金頂戴!」
姉貴は銀貨3枚を取り出した。全部使うと食事にも事欠きそうなので、2枚だけ受け取ると、部屋を出てカウンターのおばさんのところに行く。
「あのう……、この辺にテーブルなんかを作る家具屋さんはありますか?」
「専門のお店は無いけど、……このテーブル何かはオルディが作ったものだよ。家はこの先の2件目だよ。腕はいいから皆頼んでるようだね」
おばさんは直ぐに教えてくれた。お礼を言って早速出かけてみる。
家は直ぐに見つかった。家の周りに沢山の板や柱が置いてある。
扉を開けると、8畳位の仕事場があり、お爺さんが何やら木を削っている。
俺は、カウンター越しに声をかけることにした。
「こんにちは。木工細工をお願いに来たんですが……」
「なんじゃ? 見かけん顔だな。仕事の依頼か?」
お爺さんは此方をチラって見ながら言いました。
「そうなんです。少し変わったものが欲しくて、宿のおばさんから聞いて尋ねてきました。」
「宿のおばさん?……メイか。しょうがない奴だ。娘の紹介じゃ断るわけにもいくまい。それで、何を作るんじゃ?」
お爺さんは「どっこいしょ。」って言いながら椅子から立ち上がるとアキトの方にやってきました。
注文を書き留めるメモとペンをカウンターから取り出して俺の対面に立った。
「ちょっと、それを貸してください」
説明するよりも絵に書こうと思い、筆記用具を借りて、大まかな絵を描く。
「大体こんな感じのものです。この上面はこんな形の溝にしてツルツルに仕上げてください。後は、ここにこれ位の穴とこっちにはこれ位の穴を開けてください」
「変わった形っじゃのう。じゃが、それ程難しい物ではないの。何時までに欲しいのじゃ」
「早ければ早いほど……。そうだ、これは、出来るだけ丈夫な木材でお願いします」
「了解じゃ。明日の朝、取りに来い」
お爺さんはそう言うと、仕事場を出て行った。材料でも探してるんだろうか?
でも、これで台座の目処は着いた。次は、武器屋かな?
武器屋に行って、金具類を手に入れようとしたけど、「それは雑貨屋だ!」と言われて、雑貨屋に顔を出す。
「こんにちは。……釘ってあります?」
「あるぞ。種類は余り無いがな」
カウンターのおじさんが長さの違う数種類の釘を取り出した。
その時、俺はとんでもない物を見てしまった。木ネジが釘に混ざっていたのだ。
「あのう。これの小さいのはありますか?」
木ネジを摘んで聞いてみた。
「これの小さいのだと、これしかないよ」
丁度いい。その木ネジを数本と管を取付ける薄い金属サドル、針金、細い紐と接着剤を購入した。
後は、トリガ部分だけだな。
そんなこと考えながら宿に戻ると、2人が心配顔で迎えてくれた。
「どうだった?」
「トリガ部分を考えないと……」
弦を受止め、引金を引くと弦が離れる。前の世界でも2千年前からあった武器だからそんなに複雑なものではないはずだ。
姉貴のもクロスボーだが改造しすぎている。シンプルに作るにはどうするか……!
ゴム銃のトリガーでいいはずだ。輪ゴムの張力でトリガが引かれており、手前に引けば上が先端の方に倒れていく。となれば、金属を加工できる人に作ってもらえる可能性がある。
姉貴にノートの紙を1枚貰って、ボールペンでトリガの形を書く。S字状の金属の真中に金属棒を突き刺せばいい。
早速、おばさんに鍛冶屋を紹介してもらい、大急ぎで頼み込んだ。
これで、すべて材料が揃うはずだ。
次の朝。早速オルディさんの所に品物を取に行く。帰りは鍛冶屋さんによって宿に戻ると、姉貴達が興味深々で俺を待っていた。
「工具がマルチプライヤーのみだから少し無骨になるよ」
「工具セットならあるわよ!」
姉貴はザックの中から、日曜大工セットを取り出した。小型だけど、中身は充実している。金属加工少しなら出来そうだ。ヤスリが3本入ってる。
先ず、弓の部分だ。真中から切取り、長さを元の3分の2程度にする。これを台座の先端に付けるわけだが、これは配管の取付け金具に接着剤を付け木ネジでしっかり固定する。
次に、トリガの取付けだ。あらかじめ穴を開けた所に鍛冶屋さんで作ってもらった金具を落とし込む。その上から、貰ってきた木材を削って接着材で蓋をする。ここは金具を落とさなければ良いので、意外と楽な場所だ。
そして、弦だけど、最初の弦は長すぎるので弓がゆるく張る位に長さを再調整する。次に、台座の先端部分に太い針金を三つ編みにした足踏みを作って、台座にしっかりと固定する。
最後に、接続部分に接着剤を塗ると細紐で幾重にも重ね巻きすれば、クロスボウの出来上がりだ。
矢は長さを半分に切って、羽を付け直す。台座の滑走面との相性も良いみたいだ。矢は10本造り、矢筒に入れる。半分の長さだから、落とさないように矢筒の上に布を被せられるようにした。
さて、照準だけど……、マッチ箱位の木材に鉄板で凸板を鉄板で作って木ネジで取付けた。それを台座のトリガ後部に接着剤と木ネジで取付ける。
凸板は木ネジで仮止だ。試射しながら調整すればいい。
「ミーアちゃん。持ってみて!」
クロスボウを渡すと、姉貴を見てたのかそれなりに構える。
「重くない?」
「軽くはにゃいけど……、大丈夫。」
試射してみよう!って事になったけど、何処ですればいいんだ?
姉貴の「ギルドに聞けば判るかも!」の声でギルドに行って、何時ものお姉さんに相談する。
「ギルドの裏にある練習場なら、ハンターなら誰でも利用できますよ!」
お姉さんの指差す方向に扉がある。そこから行けるのだろう。
ギルド裏の練習場……。そこには大きな的と壊れかけた案山子が立っていた。
「あの的で練習しようか?」
姉貴の言葉にミーアちゃんは頷いた。
その時、ふと感じた視線を追うと、そこにサニーさんが弓を持って立っている。ついさっきまで練習していたようだ。
「すみません。乱入してしまって。ミーアちゃんのクロスボウを作ったものですから、照準の調整に来たんです」
サニーさんの所に走って行くと、一応断りを入れた。親しき仲にも礼儀有りって言うし、意外と大事な事だよね。
「照準って、弓の狙いの事よね。練習と経験で狙うんじゃないの?」
「俺が作ったのは、照準器が付いてるんですよ。簡単なものですけどね。 それで、目標を定めて、バシ!って撃つ訳です。姉貴が使ってるような高級品じゃないから長距離は無理ですけど……。
50mぐらいなら、10cm以内に当たるはずです」
「50mって?」
「俺の身長の25倍ってとこ。10cmは掌くらいの大きさです」
「見てていいかしら?」
「良いですよ」
サニーさんが興味を持ったようにミーアちゃんに近づいていく。
ミーアちゃんもサニーさんに気づいたみたいで姉貴と一緒に軽くお辞儀をしている。
針金で作った環に足を入れて、両手で弦を持ち引っ張る。どうにかトリガーまで引くことが出来たようだ。
クロスボウを斜め下に落とし、台座の滑走面に矢を置く。トリガー近くまでスルって滑らせると、トリガーの上に張り出したストッパに矢が固定される。これで、発射準備完了だ。
左手を上げて、右手でトリガの金具と台座を軽く握る。
右目で照星が照門に重なるように狙いを定めて……、トリガーを引く。
ヒュン!って矢が勢い良く滑空して的の中心に深く突き立った。
「大体は合ってるみたいね。あと数本撃って確かめて見ようね」
今度は少し離れて撃つみたいだ。
さっきの動作をミーアちゃんが繰り返すのをジッと姉貴が見ている。