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#231 次世代軍師はサーシャちゃん?

 村の南門は、3年前は荷馬車が1台通れるだけの粗末な作りだったが、何時のまにか荷馬車2台が楽に通れる程の広さになっている。

 良く観察してみると、当初よりも南に100D(30m)程広がっている。門の内側にはちょっとした広場まで出来ていた。


 広場に立って東を見ると、長屋風の建屋が1軒建っている。

 あれが、織機を10台収める織物工場らしい。サーミストから来た職人が村の御婦人方に織り方を教えているそうだ。


 そして西側には長屋が2軒と宿屋が建っている。更に西に広げられるから、長屋はあと数軒建設できるだろう。

 だんだんと、村が広がっていくようだ。これに、次世代を担う王子達の評議会がこの地にやってきたら、もはや村では無く町になるような気がするぞ。

 

 南門を抜けると、農家の人達が収穫の真っ最中だ。段々畑の刈り取りが済んだ所とこれからの所がパッチワークのように見える。

 シャロンさんの話では、南の畑の最下段辺りでキャサリンさん達とアルトさん達は狩りをしているようだ。

 キャサリンさん達はラッピナ狩りで、アルトさん達はシャザク狩りらしい。


 南に下がる農道を下りていくと、段々畑と荒地の境に岩が点在している。

 その岩の1つに登って荒地とその下に続く林をツアイスで観察する。


 2組のハンターが東の小川に近い所で薬草採取をしているようだ。更に西の森の方にもハンターがいる。

 キャサリンさんは…いたいた。どうやら、ルクセム君がブーメランを投げた所をロムニーちゃんがクロスボーで仕留める作戦らしい。そんな2人をキャサリンさんが見守っている。

 狩猟期まで2人の狩りを見守って、この村でのハンターから身を引くんだろうな。せっかく幸せになるんだから、村の憂いは無くせるものなら無くした方がいい。

 ツアイスを別な方向に向けると、…やってるぞ。4方向同時攻撃でシャザクの退路を断ちながら殲滅している。

 あの攻撃がシャゲルに通用するかが見物だけど、どうやらシャゲルはいないみたいだ。前回は落とし穴を使ったからな。出てくると厄介かも知れない。


 しばらく、そんな狩りを見ていたが、どうやら何とかなっているみたいなので、村に戻る事にした。

 村に着くと、自宅に戻る前に、ユリシーさんの所に行ってみる。

 

 事務所の扉を開けると、何時ものようにチェルシーさんが帳簿を付けていた。俺を見ると暖炉際の長椅子を指差す。

 そこには、何時ものようにお茶を飲みながらパイプを楽しんでいるユリシーさんがいた。

 

 「おぉ、珍しいの。…面白い依頼を持って来たか?」

 「ちょっと、ご相談です。出来れば作っていただきたいのですが…。この周辺諸国で見かけることがありませんでした。あってもゴツイ物ばかりでして…。」


 「何じゃ。良く分からんの。」

 「これなんです。」


 俺は、バッグから釣針を持ち出した。大きさは大、中、小の3種類。大きい物は海で数十cmの底物も釣れる物だし、小型はマケトマムの小川でリリックを釣る物だ。中型は、その中間位の魚を対象としている。とりあえず、この3種類があれば、色んな釣りが出来るだろう。


 「前にプラグとか言うものを作った時の釣針よりも小さいのう…。」

 「アトレイム王国に皆で遊びに行きました。王都の南方にサラブという漁師町があって、そこで釣りを楽しんだんですが、そこの漁師達が釣針に興味を持ちまして…。」


 ユリシーさんが俺の持ってきた釣針をじっと見ている。

 「確かに、これを作るのは難しかろう。お前は知らぬだろうが、この釣針は数打ちの剣よりも錬成されているようだ。だが、作れぬものでも無い。ある程度試作したら実際に漁師に具合を確かめてもらう事が必要だ。」

 「それについては、当てががあります。」

 「なら、試作してみよう。この釣針は預かってもよいか?」

 「えぇ、いいですよ。よろしくお願いします。」

 俺は、ユリシーさんに頭を下げると、今度こそ自宅に戻る事にした。


 自宅の扉を開けると、テーブルに5人いる。

 「おや、婿殿。遅かったの。」

 「「お邪魔しています。」」

 姉貴の前に座っていたのは、御后様とイゾルデさんそしてジュリーさんだった。

 早速、姉貴の横に座ると、ディーが俺にお茶のカップを渡してくれる。


 「キャサリンさんの後任のロムニーちゃんとアルトさん達の様子を見てきました。皆頑張ってるようです。それに、今年は早々とハンターが集まってくれたお蔭で、依頼掲示板にも余裕があります。」

 「それは、何よりじゃ。去年は大変じゃったからのう…。まぁ、それはそれで面白かったが。」

 

 「それで、今日はどのような…。」

 「例の、寄贈書の顛末を話にな…。面白かったぞ。あの寄贈書を我が王宮に持って行き、臨時の政務会議で報告した所、その場で数家の貴族が名乗りを上げた。我が一族が責任を持って開発いたしますとな。

 その場で開発の条件を提示したのじゃが…穀物生産量が10年後にあの程度の量じゃ。次の日までに8家が是非にと申し出おった。

 国王は渋々許可を下したぞ。そして、開発許可証を国王と貴族の両者で署名を行なった。その後は、王都がお祭り騒ぎじゃ。ハンターの奪い合いじゃよ。高額の報酬を約束されてかなりのハンターが貴族に従って西に旅立った。

 じゃがのう、貴族達は鍬を持たずに小さなスコップと熊手を購入して行ったそうだ。それからして、奴等が何を企んでいたかが良く分かる。

 欲に目が眩んだ者達じゃ。我が王国にはそのような輩は必要ない。半数近くの貴族が残ったが、まぁ、あやつ等ならばトリスタンでも制御できよう。」


 行ったのか…。事実上の放逐だな。でも、自ら選んだ道だからそれも仕方が無いのかもしれない。

 だが、それだけの貴族が自らの財力に物を言わせてあの荒地と砂漠を、8つの貴族が協力して当るならば、場合によっては緑の野原にする事だって出来るかも知れない。

 そういう意味では、単なる罠とは言えないと思う。モスレムを出て行った貴族が何を目指すのかが問われる事になるわけだ。


 「お蔭で、今年の狩猟期には高レベルのハンターが来ないような話しをセリウスさんがしてましたよ。」

 「さもあらん。…じゃが、それはそれで良いではないか。1つの祭りとして継続するがよいと思う。」

 御后様はしたり顔で俺に応えた。


 「でも、今年もやるんでしょう?…今年は是非私もとアンが言っておりました。私も年に1度位は王族という立場を離れて羽根を伸ばしたいですわ。」

 「その点はご心配なく。私としては更に1台、屋台を増やしたいと思っています。」

 姉貴がそう応えると、イゾルデさんが笑みを漏らす。


 「それはそれで楽しみじゃの。…ところで、イゾルデよ。今年の衣装は進んでおるのか?」

 「はい。王都の工房で鋭意製作中です。アンが持ってくる手筈です。」

 それを聞いて御后様がうんうんと頷いているけど、去年だってとんでもない衣装だったぞ。さらに衣装を作るとは…どんな思考をしてるのか疑いたくなってきた。


 「話は変わりますが…。やはり軍縮は半分程度になります。出来れば三分の一まで落としたかったのですが、同時攻撃に耐えることが出来ません。」

 「それでも半減できるのだな。具体的にはどのようになるのじゃ。」

 姉貴の話に御后様が水を向ける。


 「各国の兵力を5,000人から2,000人にします。兵種は弓兵が800、槍兵と剣兵が500人それに魔道師が100人、輸送部隊が100人です。」

 「完全に、防御主体じゃな…じゃが、それで良い。我等は世界を統一しようとは思わぬからな。」

 

 「そして、亀兵隊を大幅に増員します。現在200人の規模ですが、最終的には1,000人以上にしたいと考えております。」

 「即応部隊じゃな。確かに機動力に優れておる。…場合によっては2方向への派遣を行なう必要があるということで1,000以上ということか…。」

 

 「でも、国軍を半減したりすれば、多くの兵士が路頭に迷う事になります。その対策は?」

 「各国の王宮で考える事です。私にそこまで期待しないで下さい。…でも、モスレムにはマケトマム東方の開拓がありますし、サーミストは漁業と海運。エントラムズは南西部の開墾、アトレイムはたぶん貯水池を作って大規模に西の開拓を進めるでしょうね。」


 「兄が穴掘りを始めた。と言っていたのは、こういう事だったんですね。」

 さすが、アトレイム王。あの粒金で早速大掛かりな事業を始めたようだ。


 「サーミストは試行錯誤を繰り返しているとアンが言ってました。大型船は容易に作れても、沿岸の漁に適した船が難しいらしいです。」

 「外洋の荒波でも転覆しない船というのであれば使えそうな構造を教えてもいいでしょう。この夏それで楽しんできましたから。」

 イゾルデさんの話に俺が応えた。


 「ふむ…。それぞれの国で軍縮をしても、路頭に迷う兵士は出ないようじゃな。当座はこれで進めるとしようぞ。

 となれば、いよいよテーバイ独立の後押しの計画を具体化せねばなるまい。商会としても、応援をしたいと言うておった。

 各国から30人、合計120人の部隊を作りたい。全て亀兵隊じゃ。将来的には先程の機動部隊の中枢となるであろう。」


 という事は、テーバイの緊急事態に駆けつける部隊は亀兵隊約300人、屯田兵

約300人という事になるな。合計600なら、テーバイ軍約2,000人と合わせれば結構有利に戦えるはずだ。

 

 「そうすると訓練はどうなるんですか?…この村は狩猟期が終れば、直ぐに冬になります。アルトさん達に訓練をお願いするのは無理ではないかと…。」

 「その為の、教導隊じゃ。何とかなるじゃろう。だめなら、来春にアルト達の世話になるしか無いじゃろうのう…。」

 意外と簡単に考えているようだ。


 「そうなりますと、自走バリスタ部隊をもう1つ作れます。…縦深防御で王都決戦を防ぐ事も可能と考えますが…。」

 「そうね…。更に兵種を増やす事も出来そうね。」

 姉貴とディーは怪しい話をしている。


 「一応統合軍としてテーバイを応援する形を取りたい。統合軍の指揮は、ミズキ頼んだぞ。」

 「先の国境紛争で約束していますから、今回の指揮は何とかしますけど…。指揮官の養成も必要ですよ。」

 「それが頭の痛いところじゃ。皆頭が固くて融通がきかん者ばかりじゃ。」

 姉貴の言葉に御后様が溜息をつきながら応えた。

 確かに、テーバイとの国境紛争の20倍の敵を前にした作戦を考える事が出来なかったらしいからね。

 お寒い作戦本部みたいだな。というか、過去の例に囚われ過ぎて新たな発想というのが無いようだ。

 それに比べれば昨年の狩猟期のサーシャちゃんの作戦は中々目の付けどころが良い。自分達と敵と狩りの対象を良く研究している感じだな…ん!。


 「それなんだけど、サーシャちゃんはどうかな。去年の狩猟期だって、ガルパスで狩りをしていたよね。アンドレイさん達は驚いていたよ。あのように、状況判断ができれば良いわけでしょ。」

 

 「その話は、私も聞きました。まさかそんな狩りが出来るとは思いもよりませんでしたわ。」

 ジュリーさんが俺に続けて言った。

 

 「ふむ…。もうしばらく、サーシャをミズキ達に預けて将来に備えようかの…。イゾルデもそれで良いな。」

 「はい。将来が楽しみです。」


 という訳で、サーシャちゃんを将来の軍略家にするための計画が持ち上がってしまった。

 まぁ、悪い事にはなりそうも無いから、それはそれで良いような気がする。

 軍略家のサーシャちゃん…。だとすれば、一軍を率いてサーシャちゃんを補佐するのはミーアちゃんになるのかな。


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