#023 マゲリタ狩りと地上の太陽
ボン!……ボン!って後ろの方から音がする。
姉貴の指導の下でミーアちゃんが【メル】の練習をしてるんだけど、目標に命中させるのに苦労してるみたいだ。
石投げだって最初からうまく当らないから、練習あるのみ!って姉貴は言ってたけど、どうなることやら……。
そんなことから、俺一人で依頼を受けたサフロン草20本のノルマをせっせとこなしている。
小川の土手に結構間まとまって生えてるんだけど、こんなに簡単に依頼を達成できていいのだろうか?とっくに20本を越しているような気もするけど……。
固形燃料でポットにお湯を沸かして、お茶を飲みながら一息入れていると、姉貴達がやってきた
。
「手伝えなくて、ご免ね。依頼の方はどんな感じ?」
「あぁ、とりあえず終了。そっちの方は?」
「にゃんとか出来るようにゃった。当るまで目を離さなければいい。速さも変えられるし、途中で方向も変えられる」
何かリモコンみたいで面白そうだ。今度魔法を覚える時は是非自分の物にしよう。
姉貴達もポットからお茶を入れる。此処で一休みして、今日の仕事は終了だ。
次の日、俺達は早速覚え立ての魔法を使って討伐依頼を行うべくギルドの掲示板とニラメッコをしている。
何を狩ればいいのか問題で、討伐対象名を図鑑で調べながらの作業となる。
「これは、どうかしら。困ってるみたいだし……」
姉貴の広げた図鑑にある獣は「マゲリタ」とある。でも、その姿はどう見てもモグラだ。しかし、体長は子犬程の大きさだけどね。
依頼書には畑のマゲリタ退治とある。期日は3日間、数は3匹以上で討伐確認は尾っぽで行うとある。尾っぽ1つが20L。
依頼書の注意事項は、(畑がめちゃめちゃだ何とかしてくれ!)とあるだけだ。図鑑では、(群れを作り、動きはそれ程でもないが、力は強い。)としか書かれていない。
「何とか成るんじゃないかな。ミーアちゃんのレベルアップにも丁度良さそうだし」
「そうだよね。じゃ、決まり!」
姉貴は、掲示板から依頼書を引剥がしてカウンターに持っていった。
泉の森への道を辿り、十字路を右に曲がってしばらく歩くと目的地に着いた。
思わず、「こりゃ、凄い!」って叫んでしまった。
100m四方の大きな畑が3つ、モコモコと大きなモグラのトンネルが縦横無尽に作られている。モコモコの高さは50cm位だから、子犬程のモグラってことになる。なるほど図鑑は正確だ。
「あっちに、にゃにかあるよ!」
ミーアちゃんの指差す方向には、大きな堆肥の山がある。森から落葉を集めて堆肥にしてるようだけど、その堆肥の山から四方にモコモコが伸びている。
皆で近くによってみると、結構大きな山だ。高さ2m程で10m四方はある。最もこの位ないと畑にバラ撒くことは出来ないのだろうけど。
「マゲリタいるのかな?」
姉貴が槍でブスリって堆肥の山を突刺したけど、特に変わった変化は無いみたいだ。
近くのモコモコを採取鎌で崩してみると30cm位のトンネルが現れた。
早速、ミーアちゃんが堆肥の山に繋がってるトンネル内に、【メル】を打ち込んだけど、ボン!っていうくぐもった音がして堆肥の山から少し煙が出てきた。
それでも、変化が見受けられない。
「オオーイ!……何やってんだ?」
遠くから聞き覚えのある声がする。
声のした方を見ると小川の方から、サラミスが長い棒を担いでやってきた。
近づいて来た彼の姿をよく見ると、長い棒には糸が付いている。どうやら、リリック釣りをしていたようだ。背負っている籠の中から、串焼きの良い匂いがしてきた。
モグラ退治の方法に行き詰っていた事もあり、畑の隅で彼を交えて一休み。
彼の方は大漁だったらしく、俺達に気前良くリリックの串焼きを提供してくれた。
早速、小さな焚火を起こし再度炙って、お茶と一緒に頂いた。
「そうか。マゲリタ狩りねぇ。……俺もやったことあるけど、姿を見るのが難しいんだ。それに、奴らの行動は夜だぞ。奴らは肉食だから適当に餌を置けばやってくる。そこを狩るんだ」
「昼間はダメってこと?」
「先ず無理。夜と餌。これが決めてだな」
目から鱗の話だ。確かにモグラの活動は夜だ。姉貴に図鑑を確かめてもらうと、やはり(夜行動する。)って書いてあった。
情報の礼を言うと、「こっちも貰ってるからその位は教えるよ。」って、サラミスは言うと、村に帰っていった。
さて、どうしよう。……夜には間があるし、餌は無いし……。
「アキト、とりあえず魚をいっぱい釣りなさい。今夜は此処でキャンプです」
姉貴の宣託が下った。
小川に行って場所を決めると、とりあえず昼食を取る。例の黒パンサンドを齧りながら、ハムを皆から少しづつ頂戴した。餌に必要だからだ。
釣り道具を取り出して、竿を伸ばしながら仕掛けを付け、ポチャンって仕掛けを投入すると、直ぐに当りが出た。
ミーアちゃんが駆けつける。釣り上げた魚をミーアちゃんに渡すと、岸辺に生えていた葦みたいな茎に鰓から口へと差し込んだ。
今日は、リリック以外に鮒みたいなズングリした魚も釣れる。美味しいのかは不明だけど、ミーアちゃんは選別して葦の茎に差していた。
20匹位釣れた所で終了だ。今回は炙らずに生のままである。餌だしね。
畑の一角に、ポンチョを組合わせて、簡単なテントを作った。
テントの前の土を掘り、小さな焚火を作る。ミーアちゃんは姉貴の許可を得て自分だけリリックを炙りだした。猫族だから魚には目が無いのかも……、俺と姉貴は今回は自粛した。
姉貴達に夕食を任せて、獲ってきた魚を畑のあちこちにバラ撒くと同時に数匹の魚には生木の皮で作った紐を枯枝に結び付けた。うまくいけばガサガサと音を立てうだろう。
夕食の少し黒ずんだシチューモドキを食べながら、作戦を立てる。
「ガサガサって聞こえたら、【シャイン】を使えばいいのね」
「それでいいと思うよ。たぶん何匹かは地上にいると思うから。後は、逃げようとするのを俺が阻止。行き場を失ったマゲリタをミーアちゃんが仕留めればOK」
「【メル】で攻撃すればいいんだよね」
ミーアちゃんはやる気満々だ。
後は、深夜を待つだけとなった俺達は食器を片付けると、テントにもぐってその時をひたすら待つことにした。
どれぐらい待っただろうか、テントの外を窺っていた姉貴が俺をつついた。
「何かいるみたい。ガサって音がした」
テントの布を少し捲って聞き耳を立てる。何かが枯枝を引き摺っている小さい音が聞こえた。
俺達の気配でミーアちゃんも起きたようだ。両手で、顔をゴシゴシしていたが、ふと気付いたように俺達の間に割って入ると、同じように聞き耳を立てて様子を窺う。
「にゃん匹だろ。こっちは近くで、あっちの方は少し遠いよ」
さすが猫族、しっかりと方向、距離まで把握できる。
「皆準備は良い?」
姉貴は呟くような声で言った。俺は頷いて、テントの布の下を持つ。
「オリャー!」
掛け声と共に勢い良く、テントを捲り上げる。
「【シャイン】!!」
姉貴が空に向かって光球を飛ばす……はずだった。
いや、飛んだのは飛んだんだけど、……デカイ。途轍もなく大きな光球だった。
目の前でいきなり車のヘッドライトを見たような感じの眩しい光が辺りを照らし出す。
畑の上空にいきなり現れた太陽の下では、子犬程の動物が痙攣している。どうやら、光りのショックで麻痺しているらしい。
「ミーアちゃん。今だ!」
両手で目を塞いでいたミーアちゃんは直ぐに、行動を開始した。
「【メル!】……【メル!】……」
立て続けに火炎弾を連発する。
俺も、走り出してモコモコのトンネルに逃げようとするマゲリタを採取鎌に引っ掛けて阻止しようとしたが、スタングレネード並の光球の出現で皆ショック状態でその場にこん倒してピクピクしている。
俺に出来るのは、遠くでこん倒してるのを集める位のものだった。
姉貴も途中から合流して一緒にマゲリタ集めをしている。最初はちょっと吃驚したが、結果的には畑に出ていたマゲリタを一網打尽に出来たらしい。
ようやく、ミーアちゃんの【メル】攻撃が止んだ。
確か、討伐の印は尻尾だったはず……。ということで、尻尾をスコップナイフでチョンって切り取って残りは畑に穴を彫って埋めることにする。
折りたたみスコップで深い穴を掘っていると、ミーアちゃんが報告してきた。
「全部で27匹分とれたよ!」
「良かったね。レベルが上がると良いね。それと、此処にマゲリタを運んでくれないかな?」
「うん。いいよ」
3人で手分けしてマゲリタを穴に投げ込む。ちょっと、可哀相な気もするけど、畑の害獣だし仕方が無いのかな。
「オォーイ……何やってんだー!!」
この声は、たしかカンザスさん?
十字路から続く畑の道を2人程走ってくるのが見える。
「ここでーす!」
俺達は手を振って2人に知らせる。
はあ、はあ……って息を整えてる2人は、やはりカンザスさんとグレイさんだった。
「お前達か。いったいあれは何なんだ!!」
グレイさんは上空の光球を指差す。
「あれですか、ちょっと大きい【シャイン】です。……ちょっと意気込みが強すぎたのと、加減がわからなくて」
2人はシャインだと聞いて吃驚してる。やはり普通はあんなに大きい訳ではないんだ。
「村からもはっきり見えたぞ。いきなり、泉の森の方向に太陽が現れたって言うんで俺達が調査に来たわけだ」
「それより、何してたんだ。魔法の訓練でもなかろうに?」
「マゲリタ討伐です。ほら、この畑のあちこちにモコモコトンネルが見えるでしょう」
2人に姉貴がマゲリタ狩りの方法を説明し始めた。
その間に、携帯燃料でポットにお湯を沸かし、人数分のお茶を入れる。
「しかし、そんな方法良く思いついたな。27匹か。……俺が知る中では最高記録だ」
「普通は夜に餌を撒き、匂いで地上近くのトンネルに上がってきた所を棒で突付きながら追い出して仕留めるんだ。強い光で気絶するのか。参考になるな」
俺は2人にお茶の入ったシェラカップを渡す。ミーアちゃんが炊きつけた焚火を囲み、お茶を飲みながらタバコを一服。
「あのう……村の人には穏便に」
「判ってる。だが、マゲリタ狩りの方法は村人には伝えるぞ。一網打尽に出来るなら誰も今日のことに文句を言う奴はおるまい」
「お前達は、帰らないのか?」
「今夜はここで野宿します。大分遅いので宿も迷惑でしょうから。」
それじゃぁ。って2人は帰って行った。
それにしても、黒レベルが様子を見に来るとは……。つくづくとんでもない光球だったようだ。
俺達も寝ることにしよう、という事で倒れたテントを直すと3人で潜りこんだ。
外には、まだ光球が輝いてるし、村にも近いことから獣に襲われる恐れはないだろう。そんなことで朝まで3人ともぐっすり眠り込んでしまった。
次の朝、最初にしたことは光球の確認だった。まだあるかもしれないと恐る恐るテントから首を出すと、朝の光だけで光球はもうどこにもなかった。