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#226 漁師の元締め

 

 日差しが眩しい。

 砂浜は暑いけれど、その中でサレパルと焼きイカを齧っているところに、メイクさん達がやってきた。一緒に来た男達はガタイが良いことから、たぶん漁師なんだと思う。


 「いや~、驚いた。2人であれほど簡単に操れるとはな…。ところで、こいつ等があの船を操ってみたいと言ってるんだが構わないか?」

 「どうぞ、あれはメイクさんの船ですから…。でも、沖に出る前に少し、帆と船の進行方向について話さなくてはなりません。2人ともよろしいですか?」


 2人の漁師は俺の隣に座ったのを見て、簡単に風の向きと帆の向き、それに進行方向の関係を話す。

 風で進む船だけど、風上に向うことも可能で、その為にはジグザグに進行方向を変えなければならない事も話しておく。


 「だいたいこんな感じですけど…分かりましたか?」

 「何となくだ。どうしようもない時は、パドルで漕いで帰れば問題ないだろう。」

 確かにベクトル合成を話しても理解は出来ないよな。それよりはパドルを船に持ち込む方が現実的だと俺も思う。


 「外洋に出ても大丈夫だとは思いますが、帆の操り方を学ぶのは内海の方がいいですよ。では頑張ってください!」

 そう言うと、2人の漁師は砂浜に引き上げた船を再び海に浮かべるべく、他の漁師達と船を押して行った。


 「どうぞ!」ってミーアちゃんが焼いた甲イカをメイクさんに渡すと、豪快に丸齧り

でムシャムシャと食べている。

 そして、直ぐに弟子に仕事場から酒を取って来させた。

 「何時もの塩焼きよりも味が良いな。そして、これを食う時はこれに限る!」

 そう言って、小さな酒樽から木のコップに酒を注いで飲み始めた。俺と姉貴、それにディーにも酒の入ったコップが渡される。


 それを見た、漁師仲間が獲ったばかりの獲物を持ち込んで酒盛りに参加する。それからは、遊びに来ている若者達も巻き込んで酒盛りの輪が広がる。

 嬢ちゃん達は年の頃が同じ者達と別の焚火を焚いて獲物を焼いていた。手に持っているコップはジュースだと思うけどね。


 「しかし、これだけのコイルを獲るとは、お前さん何処の漁師なんだい?」

 集まった漁師の1人が聞いてきた。他に数人の漁師も頷いている所を見ると、甲イカを獲るのは難しい漁なのかも知れない。


 「これで釣ったんですよ。」

 そう言って、俺が作った甲イカ釣りの仕掛けを漁師に見せる。

 「こうやって持つと、仕掛けが一気に底まで下ります。錘で底を叩くように仕掛けを上下させると、コイルがこの餌木に飛びつきます。俺はそれを乗ったと表現しますが、少し重く感じるんです。そしたら、糸を緩めないように船まであげてくればいいんです。」


 俺の話を漁師達は真剣に聞いている。

 「この、針みたいなところがコイルに刺さって、逃げられなくなるのか…。」

 「俺に少し貸してくれないか?…俺達にも出来るか試してみたい。」

 1人漁師が名乗り出た。

 「どうぞ。もう1つありますから、他にどなたか試してみませんか?」

 とたんに、俺も俺もと手が出てくる。

 「待ちな!…みっともない。カイレム…。お前がやってみろ。お前がこの中では一番若い。お前で釣れるなら俺達にも出来るはずだ。」

 早速2人は、俺の渡した道具を持つと砂浜を駆けて行った。

 2人で小さなカタマランに乗ると沖の環礁を目指していく。


 2人の船を見ていると、遠くに帆を張った船が華麗にターンを切っているのが見えた。やはり漁師だけあって船の操作はお手の物らしい。


 「ところで、先の話に戻すがお前さん…何処の漁師なんだい?」

 先程、場を仕切った男が俺に聞いてきた。

 「こいつは、この漁師町の漁師の元締めを務めるデクトスって言う奴だ。気は荒いが、根はいい奴だ。教えてやれ…。」

 メイクさんはかなり酔ってるようだけど…。

 

 「俺は漁師ではなくハンターですよ。モスレム王国にあるリオン湖の辺の村に住んでます。」

 漁師達は皆吃驚している。メイクさんは、ワハハ…と笑っている。

 「ハンターだと!」

 デクトスさんは大きな声で俺に迫った。

 俺は、帽子を取ると、耳のピアスをデクトスさんに見せる。


 「そ、それは、虹色真珠…。確かハンターの最上位の者にカラメルが授けると聞いた事がある。…という事は、お前は間違いなく、ハンターだという事だな。」

 「はい、ハンターで間違いありません。ここには遊びに来ただけです。でも、根が釣り好きなので色々と工夫を凝らしているだけです。」


 「だが、俺達は大助かりだ。あの小さな浮き舟を船に取付けるだけで、転覆した船は一艘も無い。内海用の2艘を並べた船もそうだ。物も見れば子供でも考え付くような代物だが、今まで誰もそんな事を考えた奴はいねえ。もう、ザンダルーに脅える事が無いだけに家族も喜んでいる。」

 「それは、良かったですね。」


 「お前が釣ったコイルは俺達でも滅多にお目に掛かれない。俺達は潜って銛で突くんだが、場所が場所だけに命がけだ。もし、釣りで釣れるならこんなに美味いコイルだ。王都に持って行けば高値が着くだろう。」

 「実は、コイルを俺の村の皆で食べたいと思ってるんですが、何かいい方法はありませんか?」

 

 「コイルは無理だな…。いい所で王都までだろう。だが、これに良く似たザラメという奴がいる。それなら、開いて乾燥させれば半年以上持つぞ。」

 「こんな、姿の奴ですか?」


 砂地に簡単なイカの絵を描いた。

 「知っているのか?…確かにその姿だ。大きさはこの位だ。」

 そう言って、両手で広げた大きさは約50cm。

 

 「ザラメを釣るのは昼ですか。それとも夜?」

 「夜だ。明かりを点けると集まってくる。」

 

 「それでしたら、さっきの仕掛けに餌木を沢山着ければ同じように釣れますよ。」

 「なら、さっきの仕掛けをしばらく俺達に預けておけ。明日にはメイクに戻しておく。」


 俺は頷くと、手に持っていたコップの酒をグイって飲み干した。すかさず、漁師の1人が俺のコップに酒を継ぎ足す。


 「コイルも珍しいが、俺はこれが一番だと思うぞ!」

 そう言って取り上げたのはアルトさんが釣り上げた黒鯛だった。

 焚火から自分の獲物が取り上げられたのを目聡めざとく見つけたアルトさんがタタターっと走ってきて、「これは我の獲物じゃ!」って言いながら取り返して行った。


 「本当か?」

 黒鯛の塩焼きを取り上げられた漁師の言葉は、アルトさんを怒るのではなく、アルトさんの我の獲物じゃをいぶかしんでいた。


 「本当です。…あれを釣ったのはこの仕掛けです。」

 そう言って、簡単な仕掛けを見せる。しかし、漁師達は目を見張って見ていた。

 「「この小さな釣針は何処に売ってるんだ?」」


 猟師達が一斉に聞いてきた。

 「昔、俺のいた国で作ってました。今は手に入りませんが、作れば、売れますかね?」

 「多分、何処の漁師も買うだろう。作れるのか?」

 「リオン湖に戻ったら、試作してみましょう。」


 それから後は宴会だ。漁師達の取ってきたのは海老や貝だった。

 姉貴がどきどきしながら貝の蓋をそっと開けてるのは、真珠目当てだな。

 俺は、大きな伊勢海老みたいな海老をナイフで解体しながら頂いている。この大きさなら焼くんじゃなくて、お刺身にしたい感じだけど、此処は生食は余りしないからね。残念で仕方が無い。


 「オーイ!」って、声が俺達の所に届いた。

 ヨットを操っていた漁師が帰ってきたようだ。数人が浜辺に走っていった。

 砂浜に船が引き上げられると、たちまち海水浴客が集まってみている。

 

 「外洋すら問題なく進める。しかもあの船の安定性だ。俺は直ぐにでも作ってもらうぞ。」

 帰ってきた漁師は興奮気味に漁師仲間に説明している。

 

 そして、コイル釣りに出かけた2人も帰ってきた。

 「見てくれ!…これはいいぞ。」

 魚篭びくの中には数匹のコイルが入っていた。

 「後は、その餌木の作り方だな。…木片に鉛を入れているな。針は、針金を曲げて研いだのか…そして、このガラは、糸を巻いたのか!」

 「そこまで分かりますか。針金は曲げた後に火に入れて真っ赤にした後で水に入れます。そうすることで針金が硬くなるんです。糸はなるべく派手な物を使います。ガラは数種類作ったほうがいいでしょう。そして、最後にウミウシの体液を塗って固めました。」


 「これだけの事を俺達に教えてくれたんだ。何か礼がしたいが、欲しい物はあるのか?」

 「乾燥させたザラメを30枚。俺の住んでいる所に送って下さい。代金は…。」

 「代金なんていらん。干したザラメなぞ欲しがるやつは余りいないんだ。商人が二束三文で買い上げて遊牧民との交易に使っているらしい。」

 

 苦い顔でデクトスさんが言った。

 「いや、客を選ぶと高く売れますよ。」

 そう言って、魔法の袋からザナドウの肉片を少し切出して焚火で炙ってデクトスさんに差し出す。


 「食べてみてください。似てるでしょ。」

 胡散臭げにデクトスさんは口に入れて食べた。

 

 「コイルに似ているな…それにザラメにも似ている。だがこんな物を食べた事は今までに無いぞ。何の肉だ?」

 「ザナドウです。」

 俺の一言で、デクトスさんとデクトスさんに肉片を分けてもらった漁師仲間が、アングリと口を開けた。


 「ザナドウだと!…辿り着けない楽園のザナドウか?」

 俺は小さく頷いた。

 

 「ザナドウを3匹狩りました。そして、その肉が極めて極上で且つ酒に合う事を王族は知っています。…高く売れますよ。」

 「だが、此処に来る商人は貴族達、ましてや王族に面識なぞあるはずが無い…無理だろう。」

 「そこは、俺に任せてください。名産品として、この町が一躍有名になると思いますよ。…そして、俺の方にもよろしくお願いします。」


 「分かった。しかし、この歳になって、ザナドウとはな。爺さんに聞いた昔話の世界だけだと思ったが、…いるんだな。」

 

 何時の間にか、姉貴とディーとでテントを畳んでいた。

 ディーの担いだ籠にいろんな物を詰め込んでる。

 水着の上に簡単にシャツを羽織っているようだ。そろそろ、今日の遊びは終了なんだろう。

 俺は、デクトスさんに別れを告げると、姉貴達と別荘へ向って歩き始めた。

 嬢ちゃんずも遊び疲れているようだが別荘までは持つだろう。

 意外と、今日はこれでお終いの言葉に抵抗するかと思ったけど、嬢ちゃんず達もそれなりに楽しんだと思う。それに明日もあるしね。

 


 

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