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#222 西の集落を統べる者

 

 夜も更けるにつれて酒場の客が増えてくる。

 俺とボルスさんはカウンターの端に居座り、客たちの話を聞いていたが、テントの外が騒がしくなってきた。

 酒が入って、大金を手にしているから、皆気が立っているのだろう。ちょっとした事で直ぐに喧嘩が起きるようだ。

 治安維持部隊の隊長も大変な気がするな。


 そんな時、遠くで銃声が聞えた。

 「どうやら、出番みたいだ!」

 オヤジに銀貨を1枚放ると、ボルスさんと一緒に通りに出る。

 そこに2発目の銃声が聞えた。かなり西の方だ。


 「かなり西に行ってるな。走りますよ。」

 ボルスさんと自分に【アクセル】を掛けると、西に向かって通りを走る。

 大勢の人が通りをふらふらと歩いているから、その間を避けながらひたすら走ると、前方に人垣が出来ていた。


 「退いて、退いて…。」と言いながら人垣を掻き分けて中に入っていく。

 案の定、そこには姉貴とディーがいた。

 そして、姉貴達の前に数人の身なりのいい人物が立っており、その後には20人以上の取巻きが姉貴達を取り囲んでいる。


 「姉さん。どうしたの?」

 とりあえず状況説明をお願いする。

 「アキト。来てくれたんだ。…こいつ等がしつこいのよ。俺達の宿に来いってね。」

 「マスター。殲滅許可を…。」

 成る程、貴族のぼっちゃんの何時もの事か…。

 身なりの良い人物達のところに歩いていくと、そいつ等は俺の事をジロジロと見つめる。

 「何だ、お前は。貴族に口出すなど平民には許されんぞ。」

 1人が俺に怒鳴り声をあげる。


 「そうですか。」と言いながら、そいつの首筋を掴んで持ち上げて、手を離すと同時に蹴りを入れる。

 通りに投出された貴族のぼっちゃんは、砂を払いながら立ち上がる。

 「おのれ、平民風情が…。」

 長剣を抜いて俺に向かって来たところを、ボルスさんが走り込み素早い動作で片手剣で男の腹を凪ぐ。

 男は革鎧の腹部から溢れ出る血潮を呆然と見ていたが、やがてその場に崩れ落ちた。


 「相手は4人だ。後悔しても、仲間を殺した以上許す事は出来ん。全員殺せ!」

 「ディー、手加減無用だ。姉貴を頼む!」

 相手の声に続いて素早くディーに姉貴を託す。


 「ボルスさん。姉貴達は気にせずに、向かってくる奴等をお願いします。」

 「分かった。だが良いのか…、そういう訳か。」

 俺の言葉に、姉貴達を見ていたボルスさんだったが、2人がたちまち数人の男を血祭りに上げた状況を見て理解したようだ。

 

 「正直、今でも姉貴には勝てそうもありませんし、ディーを倒すには軍隊を動員しても可能かどうか疑わしい所です。俺達は彼女達の言い訳作りの為にいるようなものです。」

 そう言いながら、近づいてきた男の腹にM29を撃つ。ドォンと言う音と共に男が2m程後に飛ばされた。

 「か弱い娘を俺達が助けた事になるわけですか…。」

 そう言ってボルスさんも向かってきた男に剣を振るっている。


 野次馬が少し後に下がり、敵が明確になる。

 後に隠れながら男達をけしかける貴族に向かってディーがブーメランを投げる。

 フュルフュル…と音を立てて飛んでいったブーメランは、後に隠れた貴族の首が跳ねると、再びディーの手に戻ってくる。

 2人の貴族が逃げようと野次馬に向かって走るところを、後から姉貴がパイソンで打ち倒した。

 残った男達も次々とディーに刈り取られる。

 

 そんな中を「退け、退け!」って言いながら治安維持部隊の連中が駆けつけてきた。

 ちょっと遅かったみたいで、最後の男をディーが大剣で両断した所だ。


 「やぁ、また貴方達ですか…。今度も絡まれたんですか?」

 「いや、俺の姉貴達を宿に無理やり連れ込もうとした。貴族がどうのこうのと言い始めたから蹴りを入れたら、いきなり斬り付けて来てこの始末さ。」


 「それなら、問題はありません。子供の不始末は親の責任…。結構取り潰されるか、降格される貴族が増えるでしょう…。後始末は我々にお任せください。」

 「よろしく頼む。それと、お前の書く顛末書を後で見せて貰いたいんだが、構わないか?」

 「…これは、ボルスさんでしたか。貴方の立場を国王より直々に伺っております。明日にでも別荘をお尋ねします。」


 後を治安維持部隊の隊長に任せて、姉貴達と一緒に別荘に戻る。

 「ネウサナトラムの村もいいけど、この集落も活気が有って良いわね。」

 「でも、毎日どこかで喧嘩だよ。俺は、村の方がのんびりしてて良いな。」

 姉貴の呟きに俺が応える。


 「ところで、見つけたの?」

 「見つけたわ。…明日の隊長さんの顛末書を見せて貰ってから、今後の計画を皆に教えるね。」

 遠くに別荘の明かりが見えてくる。後1時間程で別荘に着けるだろう。

               ・

               ・


 次の日、マリアさん達はディオンさんに引き連れられて、別荘の東に広がる荒地を開墾に出かけた。

 工兵隊が作った2つの貯水池近くに、苗木を植えるための穴を張り始めるらしい。

 工兵隊は2つの貯水池を連結する為の土管を埋設している。後1週間で水が送れるぞ。と隊長のドワーフが言っていた。

 

 今食堂に残っているのは、カストルさんにボルスさん、俺と姉貴にアルトさん、それにブリューさんの6人だ。

 後の連中は近衛兵に守られて、敷地内の粒金を採取している。

 近衛兵の半数20人が、敷地境界を監視しているから、彼女達の邪魔をする者は入って来ないだろうし、入ってきたとしてもディーがいれば安心だ。

 そんな事なので、俺達はのんびりとお茶を飲みながら、治安維持部隊の隊長が来訪するのを待っていた。


 「失礼します。治安維持部隊長がアキトさんを訊ねて参りました。」

 「直ぐに通して頂戴。」

 姉貴が侍女に応えると、俺達はテーブル2つをくっ付けて、一緒に話し会える場所を作った。


 「失礼します。」

 治安維持部隊長は、副官を連れて2人で来たようだ。早速、テーブルに着かせると、俺達全員に侍女がお茶を運んでくる。


 「これが、現在までの顛末書です。」

 そう言って、テーブルに副官が紙の束を置いた。

 「見せて貰うぞ…。」

 そう言って、カストルさんとボルスさんが次々に顛末書を読み始め、傍らの紙にメモを取っていく。一通り読み終えると、メモをブリューさんに渡した。


 「そうですか…。王都の貴族の三分の一が何らかの形で不始末をした事になりますね。しかも、世継ぎを失った貴族もいます。」

 「そろそろ、此処に親が来るかも知れませんな。それと、この顛末書を何とかして奪う事も考えられます。」


 ちょっと、話しが見えないんだが…。

 「あのう…。どういう事なんですか?」

 姉貴がたまらずにブリューさんに質問した。


 「国王は、この国でアキトさん達一行に格段の待遇を与えています。貴族の上に立つとね。でも、これは虹色真珠の保持者であれば誰もが認める事ですから、さほどの待遇を与えた事にはなりません。」

 「だが、もしもこの布告を国王が宣言した後で、アキト殿と私闘をした場合、特に貴族と私闘をした場合に問題が発生する。私闘の結果は全て貴族の責任。その原因が厳しく追及される。冤罪によりアキト殿が貴族を殺した場合は情状酌量の余地はある。だが、一方的に貴族側にその原因がある場合は、その原因の軽重により貴族が裁かれる事になるのだ。軽くて、降格…重いと判断された場合は貴族家の断絶となる。」

 

 ボルスさんはそう言うと、パイプを取り出して暖炉に行った。


 「この、顛末書を読む限り、アトレイム王国の貴族の三分の一が断絶します。」

 「しかし、貴族の中で一番権勢を誇っている者がいないのです。…絶対に、この金騒動を見逃す輩ではありません。」

 ブリューさんに続いてカストルさんが話を続けた。


 「しかし、デムラン家の者は誰一人、集落で見かけておりません。国王の考えを知って今回は関与しないのではありませんか?」

 治安維持部隊長が言った。


 姉貴を見るとじっと考え込んでいる。

 「それでは、今回の顛末書を国王に送って早急に貴族の処置を…。」

 「ちょと待ってください。一番疑わしい貴族が何処でこの騒動に加担するか。それを見極めた方が良いと思います。」

 ブリューさんの言葉を途中で止めさせて姉貴が介入してきた。


 「昨夜、ハサンの闇の交換所に行きました。交換比率は7割…。王国の交換所が税引きで6割5分ですから、ほんのちょっと闇の交換所が交換比率がいい事になります。

 そして、王国の交換所に集まった金はまだ5G(10kg)にも達していません。でも、昨夜持ち込んだ私達の金は約2Gです。その金を見てもハサンは動揺などしませんでした。取引量としてはそれ程多くないと見たようです。…ということは、10Gを越える金がハサンの闇取引所には集まっているはずです。」


 姉貴はここで言葉を区切った。

 「ここで、疑問が生じます。商人なら金より金貨のはず。大量の金をどうやって使うのか…。」

 何か思いついたのかブリューさんがハッと顔を上げる。

 「デムラン家は外洋船を持っています。ひょっとして、密貿易…。」

 「可能性は高いでしょうね。決算は金…。これならどの国とでも密貿易が可能です。」


 成る程、密貿易用の資金を集める為に此処で闇の交換所を作ったわけだな。

 だとすれば、集めた金を持ち出す時に捕まえればいい訳だ。


 「今朝、集落を見ると、集落より東で金を探す人があまりいませんでした。金を求めて西に向ったのでしょう。となれば、一段落ついたと見ることができます。たぶん2、3日の内に金を運び出すでしょう。」



 「ハサンの馬車かどうかを街道で調べる事は困難です。あの集落には水も食料も、薪すらありません。このため昼夜を問わず、馬車がこれらを運んでいます。」

  

 また、姉貴が考え始めた。

 「アルトさん。ディーを呼んできてくれないかな。」

 「了解じゃ。アルタイルで行けば直ぐに戻ってこれるぞ。」

 そう言って、アルトさんが食堂を出て行った。


 「問題は、金の運搬が極めて容易で、且つ探し難い事ですね。」

 治安維持部隊長、カストルさん、ボルスさんが頷いた。

 「荷物を全部下ろして片っ端から調べるとなると、1台を調べるのに時間が掛かりすぎます。そうなれば、彼らは別の道を探すでしょう。」


 そんな事を話していると、ディーがやって来た。

 「お呼びでしょうか?」

 「うん。ちょっと確認したいんだけど、ディーはX線で透視できる?」

 

 「1cm程の金属で覆われていない限り可能です。スキャン速度は、10mを1秒で行なえます。」

 ディーの言葉に姉貴がニコリと微笑んだ。

 「X線でスキャンする為に必要なエナジー量は多いのかな。一晩に50台位馬車に金が積まれているか調べたいんだけど…。」


 「その位であれば、一晩のエナジー消費量は10%にも達しません。私の前を馬車が通過するだけで判定は可能です。」

 「ありがと。後でちょっとお願いするわ。」

 

 どうやら、姉貴の作戦が見えて来たぞ。

 集落を出る馬車全てをディーにスキャンさせるみたいだ。そして、金を積んだ馬車を見つけたら、その馬車が何処に行くかつきとめるつもりと見た。

 馬車より早いガルパスを駆る嬢ちゃんずもいることだし、発見さえしてしまえば意外と簡単に貴族を捕らえる事が出来そうだ。


 

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