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#218 西の集落

 

 夕食後に姉貴達の戦果を見せて貰った。

 大きな革袋に3つ程粒金が詰められている。参加者全員が気に入った粒金を2個ずつ貰ったみたいで皆満足そうな顔をしている。

 でも、1日で3kg位集めたようだから、大きくて頑丈な箱を注文せねばなるまい。

 

 「別荘の敷地境界から西に200D(60m)には、もう残ってないわ。昼過ぎに沢山人が出て来たけど、アキトの方は上手く行ったみたいね。」

 「我等の方にやって来たが、近衛兵が目を光らせておるので、近づけんようじゃった。」

 来たら、唯じゃ置かないって顔をしてアルトさんが言った。ミーアちゃんとサーシャちゃんも頷いているところを見ると、やる気十分だったようだ。

 

 「馬車や牛車が集まって、たちまち小さな集落になってしまいました。明日の朝見ていただけると分りますが、別荘から西に30M(4.5km)程離れた場所です。」

 シグさんが面白そうな顔をして俺に告げる。

 「たぶん、数日でホントの村になるんじゃないかな…。」

 そう前置きをして、町での出来事を皆に話した。


 「娼婦のマリアですか…。そして、彼女が悪徳商人と罵った相手は、ハサンでしょう。」

 ディオンさんが思い出すように呟いた。

 「知っているのですか?」

 

 「はい。昔の生徒です。…今でこそ娼婦を束ねていますが、元は裕福な貴族の娘。王宮の貴族間の政争に敗れて一気に没落しました。同じように没落した貴族の婦女子や夜逃げに取り残された女達を集めて今の商売をしているようです。」

 そう言って、冷めたお茶を飲む。

 

 「ハサン…については、いい話を聞いたことがありません。1代で今の財を築いたと言う事ですが、裏の顔は別者だと聞いた事があります。」

 「その話は私も聞いた事があります。貴族と繋がってやりたい放題だと…。我等も、調査はしたのですが尻尾を掴む事さえ出来ませんでした。」

 ディオンさんの話に、カストルさんが続けて話す。


 「となると…。アトレイム国王の思惑は、ハサンとそれに繋がる貴族の粛清にあるという事じゃな。王女を餌にと言っていたが、別の餌に群がって来よる。次はどうするのじゃ?」

 アルトさんが面白そうに姉貴を見ている。


 「しばらくは現状維持です。西に出来た集落は明日は更に大きくなります。人も大勢押し寄せてきます。それを当て込んだ商人達もね。たぶん臨時のギルドも出来るんじゃないかな。」

 姉貴は、新たにディーが入れてくれたお茶を美味しそうに飲んだ。


 「彼等の興味が西に向いた頃に、敷地内の粒金を採取します。それまでは、敷地の境界から西の渚で採取を継続します。」

 「じゃが、人が増えておるぞ。リムもおるしちょっと心配じゃな。」

 「明日は、ボルスさんの隊にお願いします。…結構気が立っているはずですから、十分注意して下さいね。そして、リムちゃんをよろしくお願いします。」

 

 「心得た…任されよ。」

 ボルスさんが自分の胸を叩きながら姉貴に応える。

 「アキトは明日は西に行って。集落の様子を見てきて欲しいの。それと、ディオンさん。明日からいろんな人達が水を求めてやってくると思います。絶対に渡さないで下さい!」

 「漁師町の連中にもやらぬという事で良いのじゃな。了解した。…何、それで帰らぬ場合はカストル殿の手を借りますよ。」

 

 となれば、西の集落は厳しい水不足が見えている。

 近くの水源は別荘と漁師町、それに俺達が探し出した水源地だ。早速にも遠くから水を運ばねばなるまい。そして、定期的に水を得るものだけが西の金を探し続けられるのだ。

                ・

                ・


 次の日、朝食を終えると姉貴達は西の浜辺に下りて行く。

 「今日は引き潮だから、沢山見つかるかも知れないわ。」

 姉貴が喜んでいたけど、俺達の目的は金じゃなかったような気がするぞ。嬢ちゃんず達が薄着で帽子を被り熊手と小さな木桶を持ってる姿は見てると微笑ましくなるが、腰にはしっかりとグルカを着けている。

 その後を姉貴達が追いかけて行った。

 西の敷地境界にはボルスさん達の隊が先行しているはずだから、リムちゃんがいても安心だ。


 テラスに出て双眼鏡で西の集落を見てみる。

 荒地から列を成して馬車や牛車が集まって来ている。数十人程度の集落だと思ったけど今日中に人口は300人を超える可能性がありそうだ。

 ディオンさんにGI水筒の水を満タンにしてもらって、杖代わりの鎌を手に俺も西の斜面を下りて行く。

 西側は斜面の傾斜が緩いので階段にはなっていない。九十九折の小道を下りて砂浜に出る。

 

 ぬれた砂浜は砂が硬く締っているから歩きやすい。テクテクと歩きながら渚を見ると、直ぐ近くに大型魚の魚影が見える。

 あれが、ザンダルーとか言う肉食魚なんだろう。魚だから陸に上がってこれないのが唯一の救いだけど、不用意に海に入ればたちまち餌になりそうだ。


 遠くに姉貴達が見える。座って熊手で砂を掘ってるところはまるで潮干狩りそのものだ。

 近づくと、海際にディーが立って、周囲を監視している。たまにリムちゃんに金のありかを教えているようだ。ディーの隣に姉貴が並び、そして嬢ちゃんずとリムちゃんが並んでる。陸側の奥は王女達で、10人の近衛兵が彼女達に近づく者を牽制している。後の10人は少し陸に入ったところで土を掘っていた。

 

 「どう…見つけた?」

 リムちゃんに聞くと小さな木桶を見せてくれた。4つの粒金はキラキラと輝いている。

 嬢ちゃんずの桶には、もう少し多く入っているみたいだけど、これは3人共凄い勢いで砂を掘ってるからかな。


 「じゃぁ、行ってくるね。」

 姉貴に声を掛けて、遠くに見える俄か作りの集落に歩き出した。


 「こぉら!…そこは俺んとこだ。砂が崩れる!」

 「この辺りはワシの物じゃ。掘るんならもっと西へ行け!」

 集落近くの砂浜は大勢の人達で溢れていた。

 各自ばらばらで砂を掘っているから歩き辛いことこの上無い。数歩歩く度に怒鳴り声が起きる。

 それでも、馬車や荷車で出来た集落傍まで来ると途端に人がいなくなる。

 粒金の分布範囲がある程度分ったようだ。


 東西に北側と南側に馬車が並んでいる。通りは馬車2台がすれ違える程に広い。新たに集落に到着した馬車は列にそって西側に伸びていく。

 馬車を並べて、丈夫で大きな布で馬車を覆えば、大きなテントが簡単に作れる。

 そんなテントの店が3つ程目に付いた。

 1つは酒場のようだ、大声で話す声が通りまで聞こえてくる。もう1つは、王都から来た金の交換所のようだ。いかめしい顔つきの男がテントの奥まったカウンターで俺を睨みつけていた。

 そして、最後の1つは、雑貨屋のようだ。

 薪の束を幾つも通りに面した場所に積上げている。


 さて、状況を聞くのに良い場所は…、やはり酒場だろう。

 入口の布を跳ね上げてテントの中に入ると、そこは教室位の大きさがある。真ん中の太い柱で、テントの屋根を支えているようだ。テーブルが5つほどあり、奥のカウンターは馬車の荷台だった。


 俺が入った途端、煩く聞こえたざわめきがピタリと止んで、皆の視線が一斉に俺に集まる。

 カウンターの禿げたオヤジの所に歩いていくと、カウンター近くの椅子に腰を掛ける。

 

 「蜂蜜酒をくれ!」

 そう言って、オヤジに銀貨を1枚放ると、「ほれよ!」っと言いながらカウンターの上を真鍮で出来たカップを滑らせてきた。

 右手でパシ!って受取ると1口ゴクリと飲む。…酷い味だ。

 顔を顰めると、にひひひ…とオヤジが笑う。

 「此処ではそんなもんだ。…どうだ。少しは儲けたか?」

 「最初に見つけたのが俺達だからな。たんまり持ってるよ。…あまり、長く店を開かないほうがいいぞ。直ぐに金は掘りつくすだろうし…。」

 

 「それが、そうじゃないらしい。王都からも貴族の連中がどんどんやって来よる。更に西に金はあるみたいだな。」

 オヤジが俺の所に椅子を持ってきて座ると、パイプを咥えてそんな事を話し始めた。

 俺も、銀のケースからタバコを取り出す。

 「ところでマリアの店が何処か知らないか?」

 「はん!あのアマっこも、此処に来るじゃと!…さぞや王都は静かになることだろうよ。」

 オヤジは持っていたパイプを振り回しながら毒づいた。

 

 「おい、兄ちゃん。その話は本当か?」

 遠くのテーブルから、トランプのようなカードで遊んでいた男の1人が聞いてきた。

 「あぁ、本当だ。昨日漁師町で話したから間違いない。」

 俺の応えを聞くと、男達が低い声で話し合いを始めた。

 

 どうしたんだ?と言うような顔をオヤジに向ける。

 「なぁ~に…、護衛の仕事を売り込む気なのさ。どんどんと人が増えればそれだけ場所が荒れる。用心棒はそれなりに需要があるさね。」

 そう言って上手そうにパイプを吹かす。

 「あんたも、ハンターじゃないのかい?…やはり用心棒の口か?」

 「今は別件を受けてますから、用心棒は出来ませんね。最も今の仕事も用心棒と余り変わりはありませんが…。」

 

 「あんた、腕は立つのかい?」

 「ネウサナトラムの狩猟期を2年連続で首位になりましたよ。」

 「モスレムの山村でやる祭りじゃな。連続首位は大した者じゃ。なら、レベルは銀…。惜しいのう、幾らでも稼げるにのう。」

 「それでも、金には適わないでしょう。もう直ぐ革袋3個程になります。10人近くで探すと結構採れますよ。」

 俺は苦笑いを浮かべてオヤジに言った。

 立ち上がって出て行こうとする俺にオヤジが声をかける。

 

 「ちょっと待った。あんた、此処には長くいるんだろ。水場は近くに無いのかい?」

 「別荘ならあるでしょうが、譲ってはもらえないでしょうね。一番近くだと漁師町ですが、あの町は井戸ですから、これ程大きな集落には配布出来そうもないですね。王都に行く途中の町や村で貰うしかなさそうですね。」


 「やはりのう…。」というオヤジの呟きを無視して、通りに出る。

 更に西に向かって通りを歩こうとした時だ。


 「兄ちゃん、待ちな。…俺達に少し分けてくれねえか?金を3袋とは集めたもんだが、俺達には2袋でいいぞ。」

 そう言って3人の男が近づいてくる。

 「生憎と、持ち合わせていないんですがね…。」

 「なら、有り金全てになるなぁ…それに、その変わった片手剣もだ。」

 

 話が通じる相手でも無さそうだ。

 鎌を構えると、相手も長剣を抜き放つ。

 2人が俺の左右に走りこみ、素早く俺を取り囲んだ。慣れているように見えるのはこれが最初では無いからなのだろう。

 

 しょうがないか…そう小さく呟くと、鎌を通りにポロリと落とす。

 そして、M29のハンマーを引きながらホルスターから抜くと、左の男の腹に向けてトリガーを引く。ドォン!っと通りに銃声が響き、残りの2人が一瞬驚いて身を強張らせる。

 そこに2発目を撃つと、右側の男が崩れ落ちた。

 そして、最後に大きく口を開けて驚いている男の膝を狙ってトリガーを引く。

 ドォン!と言う銃声と共に男の片足が千切れ飛ぶ。

 男は、叫び声を上げながら片足を両手で押さえ転げまわっている。


 「相手を見てから、襲うんだな。」

 吐き捨てるように男に言うと、鎌を拾って通りを西に歩き出した。

 大勢の野次馬が俺と男を交互に見ている。

 ちょっと、決まったかな…何て考えたけど、これ位の決め台詞セリフは一度は言ってみたいのが男の子だと思う。

 

 そんな事を考えながら通りを歩いていると、馬車の陰から誰かが手招きしている。

 辺りを見渡すと、遠巻きで野次馬が見ているだけだ。俺は、手招きに応じて、馬車の陰に入って行った。


 グイって細い手が伸びてきて、俺の腕が馬車の奥に引き込まれる。

 そして俺の顔を見たのは、30代のまだ若いおばさんだった。


 「あんた、強いようだけど、さっきのゴロツキの後には貴族様が付いてるんだよ。悪い事は言わないから、このまま裏から逃げた方がいいよ。」

 どうやら、俺が仕返しされないかと心配してくれているようだ。


 「そしたら、その貴族を討つまでです。幾らなんでも、これを持つハンターと真っ向から喧嘩をするほどバカではないでしょう。」

 そう言って、耳の虹色真珠を見せる。

 おばさんは、ハットして俺のイヤリングを見た。


 「話に聞いた事があるよ。虹色真珠を持つ者と貴族が争ったら、国王は貴族を切り捨てるってね…そういう訳かい。なら、少しはこの国も住みやすくなるかも知れないね…。」

 おばさんに忠告の礼を言って、俺は再び西に向かって通りを歩き出した。

 


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