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#216 貴重なもの…それは水

 

 「こんにちは!」って言いながら、メイクさんの仕事場にお邪魔した。

 「おぅ!やって来たか。…出来たぞ。」

 メイクさんが、台に乗ったアウトリガーカヌーをポンポンと叩きながら言った。

 隣の台では、次のカヌーのアウトリガー取付けが始まっている。


 「確か、柱を立てると言っていたな。それは前の砂浜に引き出してからになる。何時使うんだ?」

 「ちょっと、別件が入ってしまってしばらく乗れないんです。…せっかく作って頂いて申し訳ありません。」


 メイクさんは俺にこっちへ来いって、仕事場の脇にある小さなテーブルとベンチに誘った。

 俺達が席に着くと直ぐに弟子がお茶を運んでくる。


 「お前もハンターだ。仕事が入れば、そっちが先になるのは仕方がねぇ。…遊びを優先する連中もいるがな。あいつ等は自分の暮らしがどうして成り立つのかを理解もしていねぇ…。」

 メイクさんがパイプを取出しながら呟く。


 「何かあったんですか?」

 「…朝早くにな、この船を譲れと言ってきた貴族がいた。目新しい船なのは確かだ。それで海に乗り出したかったようだが、かなり駄々を捏ねていたな。…まぁ、この船が別荘からの注文と聞いて、最後には諦めたがな。」


 何処の貴族も似たりよったりな感じだな。王政が1000年近く続くと色々と弊害が出てくるみたいだ。

 「でも、船の調子は専門である漁師さんに一度乗って確かめて貰いたい所ですね。小さな女の子もいますから、万が一にも転覆すると大変です。…起こらないとは思いますが、ちょっと心配です。」


 「わははは…ハンターでも心配性はいるのだな。いや、悪気は無いぞ。常に最悪を想定しておく事は悪い事ではない。だが…、ハンターが、それでは困るんじゃないか?」

 「まぁ、何とかやってます。それじゃぁ、10日位は来れないと思いますので、何かあれば別荘に来て下さい。」


 「分かった。…そういえば別荘に厄介になっていると言っていたな。別荘の連中が金を見つけたと酒場の連中が話していたが…。」

 「小指の先程の粒金でしたね。見せて貰いましたが、見つけた場所は教えて貰えませんでしたよ。別荘の東は近衛兵の人達が調べてましたが、彼らは何もいってませんでしたから、たぶん…。」


 「別荘の西の荒地という事だな。…誰もあそこは見向きもしなかった場所だ。大勢が押し寄せて来るな…。食料、水、薪も無い場所だ。小さな集落が出来るかも知れんな。

それじゃぁ、警備を頑張れよ。」


 最後にそう言って俺の肩を大きな手でドンっと叩いた。

 メイクさんの励ましかも知れないけど、柔な男だったら鎖骨にヒビが入るぞ。

 席を立って、よろしくと礼を告げると、メイクさんの仕事場を後にした。


 雑貨屋に行くと、見覚えのある若い店員がいた。

 「この前頼んだ布は出来てますか?」

 「はい。此方になります。」

 そう言って、店の壁に立て掛けてある大きな巻いた布を見せてくれた。

 「130Lになります。」

 「悪いんだが、それをメイクさんに届けてくれないかな。アキトからだと言えば判ると思うんだ。」

 革袋から代金を支払いながら告げると、相手は了承してくれた。

 「ところで、お酒を買いたいんだけど何処に行けば買えるか教えてくれない?」

 「それでしたら、この先の宿屋の1階が酒場になってますよ。そこで買えるはずです。」


 町の中間付近に宿屋がある。早速扉を開けると、まだ昼だと言うのに大勢の男達がテーブルで酒を飲んでいた。

 カウンターのおばさんに酒の樽を頼む。

 「中位のだと、銀貨2枚になるがいいのかい?」

 「20人が飲むんだから、それ位でいいや。これで…。」

 カウンターに銀貨2枚を並べる。

 「20人と言ったら、別荘の兵隊さんかい。宴会には少し足りないけど、何だったら、家の連中に運ばせようか?」

 「それなら、もう1樽頼むよ。」

 更に、カウンターへ銀貨を乗せた。

 

 「羽振りがいいねぇ…。金を見つけたって噂だけど、本当みたいだね。」

 「西の荒地を少し掘ったら出て来たそうだ。俺にも場所は教えてくれなかったけど、小指の先位の粒金を見せて貰った。」

 「そうかい。でも、そのお蔭で酒が飲めるんなら、あんたも少しは余禄にありつけたわけだね。」

 「まぁ、そうだろうね…。そうだ、これは運び賃に…。」

 そう言って、もう1枚銀貨を重ねる。

 「夕方までには届けるよ。」

 おばさんの言葉に、じゃぁお願いと言って、扉を出ようとすると、俺の前に男が立ち塞がる。


 「兄ちゃん、ちょっと俺達のテーブルに来て来んないかい?」

 言葉はそれなりに丁寧だが、俺に威圧感を与えて従わせようとしている。


 「いや、先を急ぐんでね。」

 そう言って、男の脇を通り過ぎようとすると、いきなり俺の肩を掴んだ。


 「そっちは急いでも、俺達はのんびりだ。レイズ様がお会いになるそうだ。さっさと来い!」


 俺は無言で左手でグルカを抜くと体を回転させながら俺の肩を掴んだ腕を刈り取った。

 ボトリと腕が落ち、慌てて腕を拾おうとした男の腰を蹴飛ばすと酒場の扉を越えて通りに男は転がり出た。

 革袋から銀貨を1枚取り出して、おばさんに放り投げる。

 「すまない。店を汚してしまった。」

 そして、俺もゆっくりと通りに歩き出した。


 「待て!俺の従者に手を出してただで済むと思っているのか?」

 後から大声で俺を呼ぶ声がする。

 無視して歩き出すと、ドンっと背中に衝撃が走る。チクリと鈍い痛みがその後に伝わった。片手で背中を探ると、矢が刺さっていた。

 引抜いて、通りに投げ捨てると犯人を捜す。


 後に5人程いた。更に後にいるのは野次馬なんだろう。

 【アクセル】と呟き、身体機能を上げる。どう見ても1戦やりたそうだ。2人は長剣を抜いて俺の両側に移動しているし、もう1人は弓に矢をつがえて俺を狙っている。痩せた男が魔道師の杖持ったローブの男とゆっくりと此方に歩いてくる。


 抜きかけたグルカをケースに戻すと、腰のM29を掴んでハンマーを引いた。

 タン!っという弓鳴りの音に片足を引いて体位置を素早く変える。そして、2の矢を放とうとしている奴を狙って、M29のトリガーを引いた。


 ドォン!っという音と共に弓を持っていた人間が後に吹き飛ぶ。

 そして、両側から俺に切り込んできた男達に1発ずつ44マグナムを至近距離から放つ。

 魔道師が俺に【メル】を放った。咄嗟に顔を片手で被い火炎の直撃をやり過ごす。そして、魔道師の腹にドォン!っとマグナム弾を放った。


 最後に俺に向かって細身の長剣を振りかざして迫ってきた身なりのいい痩せた男の顔面にマグナム弾を発射すると、衝撃で奴の頭がスイカのように四散した。


 周囲を覗いながらシリンダーをスイングさせると薬莢を排出して弾丸を装填する。

 カチリとシリンダーを戻して、誰も襲ってこない事を再度確認して、ホルスターにM29を戻した。


 あっという間に5人を、見たことも無い武器で倒したからか、野次馬の声も出ない。

 俺は通りの真中をゆっくりと歩いて別荘へと向った。

               ・

               ・



 別荘の食堂にテラス側の扉から入ると、1つのテーブルに姉貴と2人の王女様、それに近衛兵隊長のガストルさんだ。

 姉貴が俺に気が付いて、テーブルに呼び寄せる。そして、俺のTシャツに血糊が付いているのに気が付いたシグさんが、【クリーネ】で汚れを落としてくれた。


 「大分派手にやってきたみたいですね。」

 カストルさんは、俺の姿を見て直ぐに私闘を演じてきたと気が付いたらしい。

 

 「ごろつきが数人。これは片腕を奪ってきました。最後に貴族と思われる人物が率いた数人。すべて抹殺しました。…しかし、すべて相手が先に手を出したものです。最後の貴族らしい者に至っては私の背に矢を突き立てましたからね。」

 「国王より、貴方達の立場は聞いております。たとえアキト殿が先に手を出しても、我が国は、罪に問いません。」

 

 「それより、町の様子はどうだった?…やはり噂で持ちきりなの??」

 「あぁ、その噂があの結果さ。乏しい噂だから何処でも情報を欲しがってる。とりあえず姉貴に教えられた通りに、別荘の西側と言う事は教えといたよ。」

 

 冷たいジュースが銀のコップに入れられて俺達の前に並べられた。

 ちょっと後に下がって、タバコに火を点けながらジュースを頂く。色は茶色なんだけど、味はパインみたいだ。


 「その件で、ボルス達の隊はアキト様達の領地の境界杭を打ちに行っています。西に20M(3km)以上離れて金を探すのは勝手にやらせておけばいいのです。

 それに、あの地は、立木1本ありません。水場も無いでしょう。どうやって砂金か粒金か知りませんが探し続けるのか、興味がありますね。」

 

 「害獣も多いんでしょう?」

 「はい。西の海は直接外洋ですから、岸辺まで砂蛇やザンダルーがやってきます。荒地にはガトルの群れも多く見られますし、大型のサソリやサンドワームの話も聞いた事があります。」

 姉貴の質問にガストルさんが淀みなく応えた。


 「荒地には独特の生態系があります。陸の寒暖の差が激しいので海霧が多く発生します。その霧の水分で地衣類や苔が僅かばかりの緑を作ります。その緑を砂兎が食べ、それをガトルが食べ…頂点に立つのがサンドワームだとディオン先生に教えて頂きました。」


 地衣類の群落なんか、ゴールドラッシュで直ぐに無くなりそうだ。

 そして、餌が無くなったガトルの襲撃何かは直ぐに起きそうだぞ。


 「皆さん、水を問題にしますけど…、【フーター】でお湯が出ますよね。それに【シュトロー】で氷を作って冷やせば飲み水に困る事は無いと思うんですが…。」

 俺がそう言うと、姉貴以外の3人が一斉に俺を見る。

 ちょっと罰が悪いけど、何か不味い事を言ったかな…。


 「だって、【フーター】はお風呂の水ですよ…。余程困らない限り、飲む人なんておりません。」

 「【フーター】の水って汚いんですか?」

 「それ以前の問題です。何と言ったら良いのか…。

 だって、お風呂に入って喉が渇いたと言ってお風呂の水を飲む人はいないと思います。 

 それに【フーター】の水は飲まないと言う事は暗黙の了解事項なのです。」


 何か困った顔でブリューさんが説明してくれたけど、ちょっと納得できない所がある。禁忌ではなさそうだから、これは此処までにしておこう。


 「でも、そうだとすると、金を探す者達は何処から水を調達するんでしょうね?

 アルトさん達がみつけた水場はまだ誰も知らないはずです。

 東の水場は、使わせるつもりは毛頭ありませんし、漁師町の水にしたって井戸ですから、そんなに多くは汲めないでしょう。」


 「たぶん、此処に水を要求してくるか、さもなければ街道の途中にある宿場町まで行くか…。あの宿場町も井戸でしたから、これはある意味頭の体操ですね。」

 

 「でも、別荘の水も井戸ですよ。自噴井戸ですけどね。…貯水槽を使用して今の人数でも対応が出来るようにしてますけど、無制限に水を与える事は出来ませんわ。」

 

 これは、少し楽しみな状況だな。どうやって水を確保するのか。そして、荒地の害獣にどうやって対処するのか。燃料の問題をあわせて考えると、この3つの命題を解ける位なら、別な道に進んでも十分にやっていけそうな気がするぞ。

               ・

               ・


 夕方近くになって、町の酒場から酒が2樽届いた。

 丁度、帰ってきたアルトさん達に工兵隊のキャンプに届けて貰う。

 夕食後に1つのテーブルに集まって、アルトさんの報告を聞くことになった。


 「ディーの発案で、サンプリング調査と言うものをしたのじゃ。地図の升目にそって、この大きさの枠に中に何個粒金があるのかを調べたのじゃ。」


 アルトさんがそう言うと、サーシャちゃんが簡単な四角の枠を見せてくれた。1辺が1.2m位かな…。


 「これが結果じゃ。5個以上が赤、3個が濃い黄色、1個が緑じゃ。調べたが無かった所は青で示した。」

 そう言って色が塗られた地図をテーブルに広げた。


 俺達の所領の北西の方向から始まって、南東方向にうねるように横幅50D(15m)程の赤の帯が続く、そして最後はこの岬にぶつかって終わりだ。

 ダイダイ色は赤の領域から100D(30m)に広がり、緑は波打ち際から陸側に200D(60m)の範囲で広がっている。


 「この場所から先には無いんだな?」

 俺が赤い帯の始まりの場所を指差して言った。

 「陸地の地下深くは不明です。しかし、地表から30cmの深さまでには存在しません。」


 「でも、波打ち際近くにはあるんだね。」

 「はい。10km先まで調べましたが分布に大きな変化はありません。」


 「じゃが、この波打ち際は危険じゃ。大きな口に歯を持った魚が直ぐ近くにまで来ておる。危うくパクリとやられる所じゃった。」

 「この分布から、海の中にまで同様に粒金が散在していると判断できます。でもそれを採取するのはかなり危険です。」


 「アキト。明日また町に行って、この青をリークしなさい。アルトさん、今日の戦果は?」

 気が付いたか…そんな顔をしながら腰のバッグから革袋を取り出した。

 テーブルの上にドサリと粒金が乗せられると、姉貴は目分量でそれを半分にする。

 そして、その1つの山を別の袋に移すと、王女に渡した。

 

 「王国の取分です。収めて下さい。」

 ブリューさんは軽く頭を下げて革袋を受取る。

 残りの山から数個の粒金を選ぶと俺にそれを渡した。

 

 「これで、買い物をして来なさい。何でもいいわ。そして…。」

 「波打ち際だろ。…分かった。」

 俺のお財布である革袋に紙で粒金を包んで入れた。

 

 彼らにすれば、これで場所が確定する。早ければ明日の昼には別荘の西に乗り込んでくるだろう。

 

 

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