表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/541

#212 漁師町

 別荘は少し海に突き出た岬の上にある。

 朝早くに、石畳の庭の南端まで歩くと、岬に沿って岩礁がずっと先まで伸びているのが分る。そして、この先は…広い水平線だ。擁壁に寄りかかって左右を見ると、右手に漁師町が見える。

 このテラス状の庭の脇から砂浜に下りる階段があるから、それを下りて行けば1時間程で町に歩いて行けそうだ。

 

 そんな漁師町を見ながらタバコに火を点ける。

 昨日、馬車で走った道は一箇所分岐していた。俺達はその分岐を右に進んだけど、あの分岐をそのまま進めば、あの漁師町に着けるのだろう。

 漁師町はモスレム王国のラザドム村とさほど違わない。

 砂浜を少し上がった所に東西に伸びる道の両脇に綺麗に並んでいる。村の北側にはちょっとした段々畑がある所までそっくりだ。

 そして、砂浜には数隻の小船が置いてある。

 あの大きさだと、大きく広がった岩礁地帯を抜けて外海には出られないと思うが、岩礁地帯が大きく取り囲んだ内海なら、波も静かだろうし岩場には魚も豊富なのだろう。


 ミーアちゃんとリムちゃんが俺を探しているようだ。「お兄ちゃん!」って呼ぶ声が近づいて来る。

 建物の陰から2人が姿を表したので、「此処だよ!」って手を振った。


 とことこと2人が俺のもたれ掛かった擁壁まで走ってくる。

 そんな2人に、俺は擁壁の向こう側を指差した。


 「「わぁ…綺麗!」」

 擁壁にしがみ付きながら2人は大きく広がる風景を見詰めている。

 「朝食が終ったら偵察に行ってみよう。…もう皆起きてるの?」

 「うん。ディー姉さんに、アキト様を探して下さい。って頼まれたの。」

 これは早めに戻ったほうが良さそうだ。3人で手を繋いで別荘の食堂に向かった。

 

 食堂は鎧戸を開けると水平線が見える。

 白いパンに野イチゴのジャムを付けて食べるのも新鮮だ。俺としては、もうちょっとジャムが甘ければと思うのだが、砂糖は高級品だ。さりげなく朝食の食卓に出てくるだけでも、アトレイムの財力を知る事が出来る。

 そして、薄味のスープの具は貝だった。アサリに似た貝なんだけど、味はいい。

 何となくボンゴレが作りたくなったぞ。


 さっぱりとした酸味のあるお茶を飲んでいると、ブリューさんが口を開いた。

 「申し訳ありませんが、私達姉妹は一旦王宮に戻ります。父上に報告する事もありますし…。」

 「でも、ゆっくりしていてくださいね。直ぐに戻ってきますから。」

 シグさんが、姉の言葉に付け足した。


 「海で遊ぼうと思いますが、この海に危険な魚はいませんよね?」

 念のため姉貴が確認する。

 「ザンダルー、それに砂蛇が危険ですね。どちらも岩場の外側の外洋に生息してますから、環礁の中なら安全ですよ。」

 

 そして、王女達は俺達の乗ってきた馬車で王都に向かって行った。

 俺達は…漁師町の探検だ。


 別荘の管理人は、イゾルデさんの元教師らしい。耳が少し尖っているからハーフエルフだと思う。名前を訊ねたら、ディオンと教えてくれた。


 「下の町に出かけるのですか?…あの漁師町はサラブという名の町です。此処にいる侍女達もあの町から来てるのですよ。」

 そうなんだ。新鮮な魚介類は彼女達が出掛けに仕入れて来たのだろう。道理で美味しいはずだ。


 庭先から砂浜へ伸びる階段はそれ程、勾配は無いけど転んだらりしたら大変だ。

 一番前を俺が歩いていれば、嬢ちゃんず達が転げ落ちても俺が止められるだろう。

 

 砂浜に俺達7人が揃った所で、東に伸びる道伝いに漁師町に歩いて行く。

 俺達の暮すネウサナトラムの様に周囲を囲む塀が無い。

 一番外れの家から数軒先にギルドがあった。

 

 この町に泊まってる訳ではないからギルドに報告する義務は無い、とアルトさんは言っているが、一応挨拶しておいた方が良いだろう。それに猟師町の依頼ってどんなのがあるのかちょっと楽しみだ。

 ギルドの扉を開けると、奥のカウンターに姉貴が歩いて行く。別荘に滞在している事を報告する為だ。俺達は依頼掲示板の方に歩いて、掲示板の依頼書を眺める。


 「やはり海辺なのじゃな。モスレムでは聞かぬ名前が多いのじゃ。パッチンを7匹とあるが…パッチンとは何じゃ?」

 「アルト姉様。砂兎があるのじゃ。ラッピナと同じじゃろうか?」


 確かに色々とある。しかも、それらが俺達の知らない名前だと言う事に問題がある。掲示板に張ってある位置と依頼書の表示では赤のレベルではあるのだが…。

 

 「どう、面白そうなのは見つかった?」

 姉貴が後から聞いてきた。

 「面白そうというか…聞いた事が無い名前ばかりだ。姉貴の図鑑で判るかな?」

 姉貴は図鑑を取り出すと嬢ちゃんずと一緒に依頼書の確認を始めた。

 ギルドには俺達だけだから、掲示板のところで大騒ぎをしている姉貴達をとやかく言う者もいないはずだ。

 あの騒ぎはしばらく続くだろうと考えて、ディーと一緒にテーブルでのんびりとタバコを楽しむ。

 

 テーブルでのんびりと、ディーが買って来たお茶を飲みながら姉貴達の騒ぎを見ていると、突然扉が開いて、リムちゃん位の男の子がカウンターに走って行った。

 カウンターのお姉さんと話をしていたが、やがてガッカリしたようにギルドを出ようとした所を、お姉さんが呼び止める。

 そして、カウンターを抜けると、俺の方にやってきた。


 「失礼ですが、高レベルのハンターですよね。…ひょっとして、【サフロナ】の魔法を御持ちでしょうか?…あの少年の父親がザンダルーに襲われて…。」

 「姉さん!」

 俺は大声で姉貴を呼んだ。

 全員が俺に振り返って、此方にやってくる。


 「どうしたの?大声出したりして。」

 俺に問うた姉貴へ、簡単な説明をする。カウンターのお姉さんも補足してくれた。


 「この町に滞在しているハンターが【サフロ】を直ぐに掛けてくれました。表面の傷は癒えたのですが、牙に傷つけられた内臓はどうしようもありません。」

 「私が【サフロナ】を持っています。アキト、皆で此処で待っていて。…さぁ、案内して!」

 姉貴が少年を促がす。 

 少年は嬉しそうに姉貴を見て頷くと、姉貴を連れてギルドを出て行った。


 「ザンダルーに襲われた漁師で助かる者は少ないんです。助かったとしても手足が無くなったり、さっきのサミー君の父親のように長く苦しむことになります。」

 カウンターのお姉さんの話を聞くと、ザンダルーってさめみたいな奴かな…。


 ツンツンと俺のシャツをミーアちゃんが引張る。振り返った俺に図鑑を見せてくれた。

 図鑑に描かれたザンダルーは鮫と言うよりはわにに似ている。大きく突き出た口には鋭い歯が上下に並んでいる。鰐には絶対無いはずのえら穴があるから魚なんだろうけど…確かにこんな奴に襲われたら腕1本と引換えに助かるだけでも運が良いといえるだろう。


 「これは、ちょっとね。…なにか、簡単で面白そうな依頼は見つかったの?」

 「我等には意外と難しいものばかりじゃ。多くが海の中に住んでおる。釣りをするか潜って狩るかの何れかじゃな。

 じゃが、まだ海に入るには少し早いのじゃ。しばらくは、砂兎を荒地で狩って時間を潰すしかなかろうと思う。その間に船を手に入れて欲しいのじゃ。」

 

 アルトさんの言うことも、もっともな話だと思うけれど、何処で船を調達するんだ?ここには、ユリシーさんがいないから簡単には作ってくれないと思うぞ。


 「後で町をひと回りしてみるよ。新品じゃなくても、環礁の内側で使える船なら問題ないと思うからね。」

 そう言った俺に、嬢ちゃんずが全員で頷く。ここは、頑張って探すしかなさそうだ。


 「ただいま!」という声に扉の方を見ると、姉貴が帰ってきた。

 「どうだった?」

 「とりあえず、問題なし。内臓の方も治ったと思うわ。後は美味しい物を食べて、体力が回復すれば、また漁に出られると思うよ。」

 俺にそう応えると、嬢ちゃんず達を従えてギルドを出かけるようだ。


 「何処に行くの?」

 「せっかく来たんだもの、もっと色々と見ていかなくちゃ。アキトはどうするの?」

 「船を捜してみるよ。依頼を受けるにしろ、遊ぶにしろ船は必要だ。漁師達に船を造っている人を探してみる。…ディー、姉貴達を頼む。」

 「了解しました。」

 姉貴達には、ディーがいれば護衛の問題は無いと思う。俺は、1人で大丈夫だろう。

 ギルドで二手に分かれると、俺は浜辺に行く事にした。


 砂浜は波も殆ど無い。遠くにある環礁が外洋から打ち寄せる波を吸収してしまうのだろう。

 砂浜に持ち上げられた船は、単胴の丸木舟みたいな船だ。ラザドムにはカタマランがあったから俺達でも容易に船を使えたけど、単胴では操作が難しいと思うぞ。特に海に飛び込んでから戻ってきた時に、船に入り込もうとして船のバランスを崩して転覆させる可能性が高い。


 「…船が欲しいのか?」

 俺が船を見ながら考え込んでいたからなのだろう、恰幅のいい男が俺に聞いてきた。

 「そうなんです。…でも、この船だとバランスが悪いからどうしたものかと考えてたとこなんです。」

 「確かに、この船で転覆した者は多い。お蔭で獲物を捨ててしまったなんていう事も良く聞く話だ。」

 俺の言葉に男が相槌を打った。


 「この町の人ですよね。船大工を紹介してくれませんか?船を1つ大至急で作って欲しいんです。」

 「船なんぞ、簡単に作れるものでも無いが、俺も船大工の端くれだ。普通の船ではダメなのか。それなら1艘あるんだが…。」

 

 これと同じものがあるとなれば、改造するか…。カタマランだと時間が掛かりそうだからアウトリガーを着ければいいだろう。ついでに簡単な帆柱と三角帆を付けてみるか。

 

 「こんな形に改造できませんか…。」

 俺は改造点を男に言いながら砂に簡単な絵を描いた。

 

 「それ程、難しくは無いな。初めて見る形だが、これで安定するのか?」

 「環礁を出て外洋に出てもこれなら転覆しません。このアウトリガーを結ぶ腕木の強さが決め手になります。できれば腕木2本の間に網を張って貰えるとありがたいですね。」


 「判った。俺が作ってやろう。1週間だ。俺はメイクと言う、メイクの仕事場と町民に聞けば教えてくれるはずだ。」

 「判りました。俺はアキト。あの別荘に厄介になってます。」


 「それでは!」とメイクさんに別れを告げて、今度は雑貨屋を探す。

 町並みに戻ると、通りを歩いている人に雑貨屋を教えて貰う。ギルドの数軒先に、俺の目指す雑貨屋があった。


 「こんにちは!」と開かれた扉を入ると、若い店員が「いらっしゃい。」と挨拶してくれた。

 「布の細工と柱の細工をお願いしたいんですが、何とかなりますか?」

 「形と大きさによりますね。」

 早速、紙に簡単な絵を描く。3角形の布、その1辺には半D(15cm)位の金属の輪を付ける。更に直角に交わる1辺には太めの棒にしっかりと布を固定する。

 「こんな形のものです。出来れば布にはウミウシの体液を塗っておいてください。」


 「目的は判りかねますが、この位なら可能です。5日で可能ですよ。」

 「メイクさんに頼んだものに取り付けますから、1週間後に取りに来ます。どの位用意すれば良いですか?」

 「そうですね。銀貨1枚…2枚までは行かないでしょう。」

 「では1週間後に。俺はアキトと言います。別荘におりますから…。」

 

 これで何とかアウトリガー付きのヨットが手に入りそうだ。

 姉貴達は何処にいるかは判らないので、1人で別荘に向う。昼を過ぎた辺りだから、姉貴達も戻って来るだろう。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 屑王女、簡単に船用意せー、なんてほざいて人に命令するだけで己は何もせん。 口だけのカスだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ