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#210 最年少ハンターの誕生

 

 今日も朝から嬢ちゃんずは新兵の訓練だ。

 大分動きが良くなってきたとアルトさんが言っていた。教導隊の考えは御后様も持っていたようで、その中心となる人物としてカインとベアルを呼んだと言う事だ。此処で教えるのも今年が最後になるじゃろう。って御后様が言っていた。


 そんな御后様はミケランさんとミクとミトそれにリムちゃんを連れて薬草採取に励んでいる。

 口の悪いアルトさんは、何時もそうしていてくれると助かる。何て言ってるけど、自分達の訓練方法を邪魔されたくないだけだと言う事は俺も姉貴も知ってる事だ。


 姉貴は家のテーブルで地図を見ながら首を傾げてる。

 何を悩んでるのか聞いてみたら、どうやら編成を考えているみたいだ。亀兵隊は増員して200人になる。屯田兵も周辺諸国から応募者を募るらしい。総勢800人にはなるんじゃないかと姉貴は見ている。

 そんな感じで皆が動いているから、どうしても俺とディーが手持ち無沙汰になってしまう。

 

 「まぁ、それは仕方のないことだ。アキトはお前にしか出来ない事をしているのだからな。」

 ギルドのホールでセリウスさん相手に、チェスをしながらそんな話をしていた。

 ディーは、カップのお茶を熱いお茶に交換してくれた後は、カウンターにもたれかかってシャロンさんと何やら話をしている。そんなところは歳相応の娘さんみたいに見える。

 少しずつ俺達に溶け込んできているのだろうか。


 「しかし、学校とは面白い事を考えたものだな。俺も仕官学校は出ているが、読み書きは親に教えて貰った。それに計算もだ。士官学校では、過去の戦の経緯と武器の使い方ぐらいしか教えないからな。」


 「読み書きと計算。これを教えるとしたら、子供達は集まって来るでしょうか?」

 「季節と生活力によるだろう。アキトが考えているとなれば学校は無償を前提にしているはずだ。親達の経費は掛からない。

 しかしだ。春の耕作と種蒔き、それに秋の刈り入れの季節は子供の手も欲しい時節となる。それに、その日の食事すら満足に取れない村人も少なくない。子供の日々の小さな労働力も彼らの生活には必要なのだ。

 お前達が始めた陶器の製作と会社はかなりの成果を生み出したが、まだその恩恵にあずかれない者達がいることは確かだ。」


 「その為の、綿織物の生産です。マケトマムの屯田兵との連携になりますが…。」

 「俺の方も1つ新しい仕事が出来たぞ。…麻のロープだ。育ちの良い麻は紙の原料にせずにロープにする事にした。会社で雇えない者達に仕事を廻している。」

 

 麻は確かに良いロープの材料だ。ケルビンさんは麻で布を作っていると言っていたが、ロープも副産物として作ってはいるのだろう。だが、ロープと布では商品価値がまるで違うから、麻のロープは品薄なはずだ。作れば作るだけ売れるに違いない。


 「ところで、南西の造成は進捗しているんですか?」

 「アキトの言う、長屋が2軒出来た。新居が8軒出来るから年頃の連中は喜んでいるぞ。宿も1軒作った。既存の宿と軋轢を生じないように、宿からの紹介で泊めるようにした。紹介手数料を宿に払うことで納得して貰った。まぁ、これは仕方が無い事だろう。新しい宿の運営に数人の村人を雇う事が出来ただけでも作った甲斐がある。」


 そんな話をしていると、扉が開いてワイワイと賑やかな一団が入ってきた。

 この声は?とカウンターの方を2人で見ると、案の定、御后様達だった。薬草採取を終えて帰ってきたみたいだ。

 とことことミケランさんが俺達の方にやって来る。


 「セリウス。ミクとミトをハンター登録するにゃ。」

 「そうだな。2歳のハンターは初めてだろうが、今年で3歳。今からハンターなら銀は確実かも知れんな。だが、10歳までは採取のみだぞ!」

 「十分にゃ。私がじっくり教えるにゃ。」

 ミケランさんはそう言ってカウンターに戻って行った。


 うん?…それで良いのか。俺的には問題ありまくりだぞ。

 「何を悩んでるんだ?」

 「いや、幾らなんでも早いんじゃないかと…。」

 俺が頭を抱えてるのを不思議そうに見て、セリウスさんが聞いてきた。

 面白そうに顔を緩めるとパイプを取り出して俺のほうに向ける。俺もタバコを取り出して、セリウスさんのパイプに火を点けた後で自分にも火を点けた。


 「アキトにそう言って貰えるのは嬉しい限りだ。…しかし、自分の子供を早くからハンター登録しておく事は、親がハンターで定住地を持たない場合は良くある話なのだ。

 ハンターの指導はハンターが行なう。ある意味暗黙の了解事項だ。アキト達はミケランをガイドに雇ったが、ガイドを雇わずとも途方に暮れた顔でギルドにいたならばグレイ達が色々と教えてくれたはずだ。

 ハンターは狩りで命を落とす事が多い。子供をハンター登録しておけば採取等の依頼で最低限暮らしは立つはずだ。」


 なるほど、互助会みたいな感じなんだな。

 そういえば、ルクセム君を皆で助けてるのも同じ考えなんだろうと思う。ハンターがハンターを助けるのは当たり前。だから誰も俺達の事をとやかく言わないのかも知れない。

 

 俺の所にとことことミクとミトがやって来る。

 首から真新しいカードが下がってる。

 「うん。良く似合うぞ。頑張ってお父さんより強いハンターになるんだぞ!」

 そう言って2人の頭をゴシゴシと撫でてやる。

 俺の次はセリウスさんの所に行った。セリウスさんは何も言わずに頭を撫でてお終いだけど、双子の顔は嬉しそうだ。


 「それじゃぁ、また。」

 そう、セリウスさんに言うと、急いで家に戻った。

 ミクとミトのハンター登録。これは早いとこ姉貴に知らせた方が良いだろう。

 

 家の扉を開けると、4人がテーブルに着いている。御后様とリムちゃんはとっくに家に着いてたみたいだ。

 ふんふんとリムちゃんの報告を姉貴がお茶のカップを片手に聞いているけど、早く飲んだ方がいいぞ。

 「ただいま。」と声を掛けると、ようやく皆が俺のほうを見る。扉が開くのに気が付かないとはセキュリティ上問題があると思うぞ。もっとも、賊が入ったところで困るのは賊の方かも知れないけどね。


 「婿殿大分遅かったの。」

 「ちょっとセリウスさんの意見も聞いとこうと思ってね。」

 姉貴が何のこと?っと不思議そうな顔をしている。

 「ミクちゃんとミトちゃんがハンターになったの!」

 リムちゃんの一言で姉貴はお茶を噴出した。

 慌てて、ディーがテーブルを布巾で拭いている。

 「それって、どういうこと?…アキト。ちゃんと説明しなさい!!」

 まぁ、そうなるよな。

 俺は、さっきのセリウスさんの話を姉貴にしてあげた。


 「そうなんだ。…ハンター同士の横の繋がりって訳ね。…でもリムちゃんは私達の妹だからね。」

 そう言ってリムちゃんの頭を撫でている。

 「ミクやミトの両親に何かあっても2人で生活出来るようにしておこうと言う訳じゃな。王都の孤児院は確かに遠いし、知らぬ者同士…。この地で慎ましく暮すにはその選択はあるやも知れぬのう。」

 「それに、ハンターになってもやる事は薬草採取の真似事だ。ミケランさんが指導して行くんだろうね。」 

 「ちょっと、心配だよ。アリット見たいなことにならないと良いんだけど…。」

 確かに、最初の依頼はミケランさんの選んだアリット採取だったけど、あれは簡単で高額って頼んだのが問題だったはずだ。幾らなんでも最初からアリットはやらないだろう…多分だけど。


 「それ程の心配は無いじゃろう。現に我等と何時も行動しておるのじゃ。我もいることじゃからそれ程気に病む事は無い。」

 そう言ってくれた御后様の心遣いが嬉しかった。


 夕方帰ってきた嬢ちゃんずも姉貴と同じように驚いていたけどね。

 何かそれぞれに思うところがあるらしく、指導は任せておけって言ってたけど、俺としては御后様に任せといた方が無難なような気がしないでもない。


 夕食時の会話では、亀兵隊の訓練は、ほぼ終了に近いと言う事だ。

 「例のバリスタの発射訓練に移りたいのじゃが、完成品は何台あるのじゃ?」

 「3台は何とか出来てるんじゃないかな。」

 「では、明日はユリシーの所に行ってから訓練じゃ。」

 「対空用クロスボーも出来てると思うわ。高度の測定はディーに頼むと良いわよ。目標は1M(150m)手前で300D(90m)以上の高さだからね。」

 「了解じゃ。それも合わせて行う事にするのじゃ。」


 「出来れば10人ずつ分けて行なえないかな。もう1つユリシーさんに頼んでる武器がある。その訓練もお願いしたいんだけど…。」

 「何を頼んだんじゃ?」

 「と言う武器だよ。ガルパスに乗って切り込むなら絶大な威力を発揮するかも知れない。」

 「戈って、古代中国の?」

 「そうだよ。騎馬による戦いで廃れたけど戦車戦の全盛時代には絶大な威力だった。ガルパスに乗って戦うのは騎馬というより戦車戦に近いような気がするんだ。」

 

 「何だか判らぬが、使えるなら良いぞ。合わせて取って来るのじゃ。」

 亀兵隊達の訓練期間は、後5日。教える事は沢山ある。


 次の日、早速訓練風景を姉貴と見に行った。

 御后様やセリウスさん。ミケランさんと双子もリムちゃんと一緒に離れて見ている。

 

 バリスタ3台は、ガルパスの背中に乗せられており、ちょっと遅めの速度で演習場を走っていた。

 少し、離れた所に3つの的が立ててある。俺の作った簡易距離計で距離を測りながらバリスタの射出高さを調整して、早速発射した。ブゥーンっと投槍を少し短くしたような槍が飛んでいくと、的には当らなかったが的の近辺には着弾した。


 「中々当らぬものだな。」

 「まぁ、測定誤差はありますし…でも、ほら。2射目は命中しましたよ。」

 「最初にしても、的は軍船じゃ。あれ位の近さなら命中しておるじゃろう。問題は射撃間隔じゃな。射撃間隔が投石器並みじゃ。」

 「一度に放たれる矢は10個を想定しています。半数が当たれば甚大な被害となるでしょう。」

 

 続いて、対空用クロスボーを見る。

 杭にセットして動作自体はクロスボー並みに発射出切るようだ。

 バシ!っと音がして、上空で爆裂球がドンっと炸裂する。

 「水平距離、400D(120m)。高度500D(150m)。」

 ディーの声が聞えて来た。


 「結構上がるものじゃな。これも、数台使うのか?」

 「5台で連携しようと考えてます。30台あれば王宮の守りにも転用出来ますから主力兵器になるものと…。」

 「運用は屯田兵に任せると言っていたが、問題はないか?」

 「例の2人に任せます。十分に教授出来ると思いますよ。」


 そして、次はミーアちゃんの教えている強襲訓練だ。

 例の戈を小脇に抱えて、麦藁人形が左右に数体立っている演習場にチロルに乗ってやってきた。

 「アキト、あの槍は曲ってるぞ!…ユリシーめ。安易に鍛えたな。」

 「あれで良いんです。良く見ててください。」

 そう、言って憤慨しているセリウスさんを宥めた。


 ダダダーっとミーアちゃんがガルパスを駆る。そして藁人形に戈を叩き突けた。

 そのままガルパスは走りぬけると藁人形が切り裂かれる。そして次の人形に戈を叩き突ける…。


 「恐ろしい武器よのう…。武器を振るう事無くガルパスの勢いで敵を切り裂くのじゃな。」

 「力量に頼らずとも、相手に叩き突ければ後は切り裂かれるのか…。」

 「じゃが、判らんのう…。あれ程の武器が何故廃れたのじゃ。」

 「戦場の兵種が変わったからです。あの武器を原型に槍や姉貴達が使っている薙刀に変化したと聞いた事があります。」

 「戦の戦法、そして兵器も進化すると言う事か…士官学校での授業をお前達に任せたくなって来たぞ。現にこの間の戦いを説明出来ずに困っておる教師達が大勢いて困っておるらしい。あれは無かった事にしよう。なぞと言う輩もいると聞く。その方が問題じゃ。」

 

 確かに600対8000の戦いを勝利に導く方法を考えよ。何て言われたら頭を抱えるしかないと思う。

 その内、王都から軍の作戦参謀連中が尋ねてくるかも知れないな。

 そんな時の例題を今の内に作っておくよう、姉貴には言っておこう。


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