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#209 自走バリスタ

 「う~む…。」

 その光景に思わず唸ってしまった。

 御后様のガルパス、シルバースターの鞍を外して、新たに試作したバリスタを乗せてみたのだ。

 バリスタの架台は、ガルパスの甲羅のお腹の下側を通すようにして前と後でクッション材を入れてしっかりと固定してあるからぐらつく事はないし、亀兵隊が乗れる用にバリスタの前にはちゃんと鞍は付いているんだけど、バリスタの大きさが結構あるから、珍妙なスタイルだ。

 御后様が試しに乗って見ると架台の三分の一程まで体が架台の中に入る。なんか、籠に入っているようにも見える。


 「シルバースターを駆る事は出来ても、この位置では攻撃は無理じゃ。…少し走ってみるぞ。」

 そう言って御后様はガルパスをゆっくりと走らせ始めた。…そして、どんどん加速していく。

 だが、何時もの速度までには達していない。自転車より少し速い位の速度で頭打ちだ。やはり重かったのかもしれない。


 「やはり、速度が上がれば振動が出るか…。アキト、あの速度が限界じゃ。」

 御后様の走りを見て、ユリシーさんが俺に告げる。


 「やはり、普段のようには行かないみたいですね。それでも、前回の投石器よりは比べ物にならない速さです。…姉さん。俺には十分に思えるけどね。」

 ユリシーさんにそう応え、最後は隣の姉貴に言葉を掛けた。


 「通常移動速度の7割ってとこね。…ディー、どの位出てる?」

 「最大で、時速25km程度ですね。アルト様達の通常速度は35km程ですから…。」

 「あれだけの物を乗せてるんだし、最初から同じ速度で動けるとは思って無かったわ。」

 「じゃぁ、次は射程の確認をするぞ。」


 そう言って、俺は御后様に手を振った。

 シルバースターを操って御后様は俺達の方に走ってくる。


 「やはり何時もの速度は出んのう。」

 「姉貴は問題ないと言ってますよ。走ってみての課題は速度だけですか?」

 「そうじゃな…。後はバリスタの位置を少し下げられんかの。シルバースターが曲がり難そうじゃった。」

 「それ位は容易いことじゃ。」

 御后様の話を聞いて、ユリシーさんが請け負った。


 今度は、バリスタの弦を引くため、バリスタの滑走架台の後部に小さな箱を取付ける。箱の中には、ロクロとラチェット機構が収まっており、箱の横に付いたレバーを引いて戻すを繰り返すと箱から伸びている鉤付きのロープが引かれる仕組みだ。

 早速、弦にロープの鉤を引っ掛けてガチャガチャとレバーを動かしていく。

 カチャンとバリスタのトリガー部に弦が引っ掛かると、箱に付いた小さなレバーを下げてラチェット機構を開放する。弦から鉤付きロープを外して箱も取外した。


 「最初に最大飛距離を確認します。」

 皆にそう告げると、模擬の矢をバリスタにセットして45度の発射角度に固定した。

 俺達がいるのは村の南に広がる段々畑の更に南の荒地だけど、ハンターや村人が模擬の矢が到達する場所にいないとも限らない。

 ディーが滑るように弾着予定箇所に移動すると、俺に発光信号で異常無しを告げる。


 「発射します。」

 勢い良くトリガーに結びつけたロープを引く。バシュ!っと言う音と共に模擬の矢が飛んで行った。

 

 「結構な飛距離じゃな。ミズキは船を狙うと言っておったが、陸上で使うても威力はありそうじゃ。」

 御后様が、感心したように呟いた。

 そこに、ディーが模擬の矢を持って戻ってきた。

 「飛距離、383mです。」

 「アキト、模擬の矢は爆裂球を付けた重さなんだよね。」

 ディーの報告を聞いた姉貴は俺に聞いてきた。

 「もちろん。」

 俺の言葉に頷いた姉貴はユリシーさんに振り向く。

 「ユリシーさん。先程の改良点を考慮して、バリスタを20台お願いします。」

 「オォー、任せとけ。3日後には3台作ってやろう。20台だと少し時間が掛かるが訓練にはそれで対応してくれ。」

                ・

                ・


 西の門の北側の荒地は、現在亀兵隊達の練習場になっている。20日間を御后様が村から借り受けたと言っていた。1日銀貨1枚って言っていたから村にとっても良い収入になっているのだろう。

 西の門から森へと延びる小道はハンター達が行き来しているけど、彼らの通行の邪魔にはならないからね。

 もっともハンター達は、亀兵隊の訓練の方に興味があるみたいで、たまに立止まって訓練の様子を見ている者もいる。

 

 今日は俺も様子を見にやってきたんだけど、アルトさんの指示の元に皆頑張ってるみたいだ。

 新兵はカインとベルアを小隊長に10人ずつ分けられている。そして、サーシャちゃんの指示でカイン達は流鏑馬をやっており、ベルアは左右に数本ずつ並べられた案山子の真ん中を走りながら強襲模擬した訓練をしている。。

 流鏑馬はまぁ判るけど…強襲訓練なんて必要なのかな?

 ガルパスに乗って全体を眺めているアルトさんに聞いてみた。


 「強襲訓練は前回の戦いを踏まえて取り入れたのじゃ。ドラゴンライダーとの戦いでも、爆裂球が無くなった時には強襲じゃった。士気は高かったのじゃが錬度が足りぬお蔭で、亡くなった者達もいる。」

 アルトさんなりの反省なんだろうけど、兵を死なせたくないから訓練なのじゃ。という事かな。少し俺も協力してやるか…。


 その足で、ユリシーさんに会いに行く。

 ログハウスの会社の事務所では、丁度休憩時間らしく、チェルシーさんとユリシーさんそれにドワーフの若者が2人お茶を飲んでいた。

 早速、俺もお茶を頂く。


「この取っ手は良いですね。持ちやすいと評判で、商人から大量の注文を受けました。」

「エントラムズのサンドラさんには贈りましたか?」

「はい。そしたら、10日後に20個の注文を受けました。特注品で意匠案も付けられて…。今。私が製作しています。1個20Lで買うと言ってますし、通常品の7倍近いですよ。」

若いドワーフが俺に笑顔で言った。


 「ところで、まだバリスタが出来ていないところに御主が来たということは、何ぞ、新しい案でも持ってきたのか?」

 ユリシーさんがパイプを持ちながら俺に聞いてきた。

 「実は…。」

 ポケットから紙を取り出して小さなテーブルに広げた。

 「何じゃ、これは?…槍の穂先が曲っとる。」

 「俺の国で2000年以上前に使われた武器なんですよ。その後廃れてしまったんですがと言いう武器です。すれ違いざまに敵に穂先を打ち込むと、刃に沿って敵を刻みます。」

 「打ち込んで終わりじゃろうが…。そうか、嬢ちゃん達の武器じゃな。あの速度で敵に打ち込めば…そういう武器じゃったか。何個欲しい?」

 「亀兵隊達に直ぐにでも練習させたいです。」

 「5日は必要じゃ。…これはワシが鍛えよう。…もう1枚は何じゃ?」

 ユリシーさんは俺のポケットからチラリと覗く紙片を指差した。


 「これは、暇な時に作ってもらおうと考えてたもので、この世界に合うかどうかは判りかねます。」

 とりあえず紙を広げる。

 「鎧の一種じゃな。見たことも、聞いた事も無いが綺麗じゃのう…。」

 「小さな鉄片を紐で結んで作るんですね。紐の色を変える事でこのような模様が描かれるんですな…。」

 「兜も変わってますね。こんな突起は見たことがありません。」

 「実用性はどうなのじゃ?」

 ひとしきり紙に描いた大鎧を眺めていたが、最後にユリシーさんが聞いてきた。

 「重いですからガルパスから下りたら問題ですが、ガルパスに乗っている限り有効です。その鎧は弓矢の戦いに特化したもので剣を使った戦いでは鎖帷子の方が効果的だと思います。」

 「それなりに使えるのじゃな。これを着て弓矢で戦い、隙を見て戈を構えて突撃か…。王都の細工師に頼んでみよう。これは直ぐには間に合わんぞ。嬢ちゃん用に3点作って嬢ちゃんにダメ出しをして貰う。それで良いな?」

 「判りました。それで十分です。」

 俺は、ユリシーさん達に別れを告げて、自宅に帰ることにした。


 家に帰ってみると、テーブルで御后様とリムちゃんそれにディーで硬貨を分けている所だった。

 「おや、婿殿ではないか。あまりふらふらと出歩くものではないぞ。少なくともこの村の筆頭ハンターなのじゃ。デンっと家におるか、ギルドでパイプを楽しんでおればよい。」

 そんな事を言われても、本人に自覚はまるで無い。

 何か無いかな?と何時も村をふらふらしているのが日常だ。でも、ちゃんと1日に1回はギルドに出かけて依頼書の状況は見ているぞ。

 狩りは我等がやるのじゃ!ってアルトさんに状況確認を依頼されてるしね。


「大分硬貨が溜まりました。こんなにあります。」

リムちゃんが袋から銅貨を取り出した。確かに100枚以上ありそうだ。

「銅貨は1枚1Lじゃ。銀貨は100Lじゃから、交換してやろう。」

御后様がそう言って、リムちゃんに銅貨を数えさせている。


 銅貨って確か10L銅貨もあったような気がするけど、余り数を見ない。絶対量が不足しているのかな。

 10枚ずつ硬貨を重ねている光景を見てると微笑ましくなる。

 数の数え方って色々あるから面白い。

 そういえば、大森林では姉貴が硬貨で歩数を計っていたな。

 雑貨屋の女の子はもう娘さんになったけど、数点の品物の代金の計算を硬貨を並べてやっていた。

 算盤って無いんだろうか?

 御后様とリムちゃんの硬貨の交換が終わった所で、御后様に聞いてみた。


 「算盤…。聞かぬ名じゃのう。確かに計算は面倒なのじゃ。王宮でも専門の役人を用意して事に当たらせておる。商人は硬貨を並べながらやっておるようじゃが…。」

 「簡単に計算が出来る仕掛けを作ったら売れますかね?」

 「商人がこぞって買うじゃろう。会計を司る部署も欲しがると思うぞ。何ぞ良い考えがあるのか?」

  

 簡単な算盤の形と使い方を説明する。

 「足し算と引き算は判るが、掛け算と割り算とは何じゃ?」

 「御后様は九九を習う事が無かったのですか?」

 「どんなものじゃ?」

 俺は、1の段から9の段まで暗誦してみせた。

 「なるほどのう。あらかじめ数字と数字を掛けると幾つになるのかを無理やり覚えさせるのじゃな。」

 確かに無理やり覚えこまされた気がする。


 「じゃが、それは使えるのう…。婿殿はどうやって覚えたのじゃ。」

 「どうやって…と言われても、学校でですが?」

 「学校とは何じゃ?」

 

 そんな話を繰り返して判った事は、モスレムと周辺諸国には学校と言うものが無い。

 教育は貴族等は個人的に師がついて教えるものらしい。

 庶民は親が読み書きと簡単な計算を教えていると言う事だった。

 

 御后様は俺の世界の教育システムを知りたがった。

 古くは寺子屋による読み書き算盤。そして俺が受けた義務教育とその後の教育、その学科…と色々だ。


 「なるほどのう…。士官学校はあるが、あれは戦を教える所じゃ。我が国もそのような教育機関が将来は必要になるじゃろう…。じゃが、とりあえずは婿殿の言う寺子屋で良いかも知れぬ。本を読み、そして文字を書ける。更に計算が出来るとなれば、色々な職業に付く事も可能じゃろう。これは大神官に話を持ち掛けてみようと思う。彼も暇なはずじゃ…。」


 大神官って暇なのか?ちょっと問題発言だけど、御后様にはそう見えるのだろう。

 ちょっと可哀相な気もするけど、モスレムの発展の為だ。我慢して貰おう。



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