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#208 古参と新兵

 

 商人達がそれぞれの王都に帰ってから、2日程経った昼下がり。

 俺は姉貴達とのんびりとお茶を飲んでいた。

 嬢ちゃんず達は王女様達を誘ってカタマランでトローリングを楽しんでる。

 

 「黒リック10匹の狩りを受けるものがいない様じゃ。ギルドの依頼を他の町に廻すなぞ、許せるものではない!」

 朝方、アルトさんがそんな事を叫んで、ディーを連れてさっさと出掛けてしまった。

 俺達も行きたかったけど、生憎と誘ってもらえなかった。姉貴だって恨めしそうに見ていたし…。

 

 そんな訳で、のんびりとお茶をしているんだけど、俺達の前には色んな落書きをした紙が数枚置いてある。

 例の対空兵器を考えているんだけど、中々良い案が浮かんでこない。

 高度、飛距離、利便性、威力…。これらを形にするとなると途端に難易度が高まる。

 ディーの計算から、爆裂球の紐を引いてから落とす場合の最適投下高度は約100m。

 どう考えても弓兵には無理だ。仕方なく、強弓を2本束ねて使う小型のバリスタを考えたんだけど、意外と大掛かりになってしまう。


 タバコを1本咥えて、家の外に出る。

 こんな時は、ジッと考えるよりも歩きながら考えた方が良いアイデアって生まれるような気がする。

 咥えタバコでリオン湖を眺めると、遠くの方に黒い点が浮かんでいる。アルトさん達が岸辺沿いにトローリングをしているようだ。

 カチャカチャと特徴的な爪音に後ろを振り返ると、赤地に黒の十字を描いた旗竿をガルパスの鞍に差した亀兵隊が2人やって来た。

 ガルパスからヒラリと飛降りると俺の方に歩いてくる。


 「お久しぶりです。亀兵隊第3小隊のカインです。我が隊長は在宅でしょうか?」

 「私は、第2小隊のベルアです。同じく隊長はおられるでしょうか?」

 ベルアの旗印は赤地に白の十字だ。この2人が言う隊長って、ミーアちゃんとサーシャちゃんだよな。


 「今は狩りの最中だ。たぶんもう少しで戻るはずだが、中で待ってるかい。」

 そう言って家の扉を指差した。

 2人はとんでもないと言うように首を振る。

 「では、宿舎に戻ります。明日には新兵が来るでしょう。我等2人は、新兵の訓練の御手伝いに新しい砦からやってきました。」

 そう俺に言うと、ガルパスに跨って去って行った。


 扉を開けて中に入ると、早速姉貴に報告する。

 「確か、20人の新兵を鍛えて欲しいって言ってたわよね。そうか、来たんだ。」

 「これで、アルトさん達の仕事が出来たね。通常の訓練が終った後でバリスタの操作訓練をやれば良いと思う。それまでには試作器が完成してるだろうしね。」

               ・

               ・


 「2列縦隊。回れ右!…整列しました。」

 ベルアが新兵を並ばせている。そして、その前には嬢ちゃんずの3人が難しい顔をしているんだけど。普通の顔で俺は良いと思うぞ。


 「良いか。お前達の残された時間は15日じゃ。此処にいるベルアとカインが出来た事をお前達に出来ぬ訳がない。厳しく行くぞ。…じゃが、我はおのれに出来ぬ事は決して押し付けぬ。我が要求する事は出来て当たり前の事だけじゃ。良いな!!」

 「「「オー!」」」

 新兵が一斉に声を上げる。

 カインが亀に乗って、沢山の亀を引き連れてくる。何となくシュールな光景だ。

 「先ずは訓練場に行く。気に入った亀に乗るのじゃ。」

 新兵は思い思いの亀に跨ったけど、選ぶ基準ってあるのかな?


 アルトさんは新兵を見渡して、全員が亀に乗ったのを確認すると、自らも亀に跨って山荘の庭を後にした。

 その後をサーシャちゃんとミーアちゃんが着いて行く。その後はベルアが新兵を引率して、最後はカインが俺に手を振って出て行った。


 「今度は、心配はしておらぬ。前の婿殿の助言があるからの。」 

 俺と一緒に閲兵の様子を見ていた御后様が、ニコリと微笑んで俺を見る。

 「でも、今回は少し変わった武装です。ちゃんと出来るまでは油断は出来ません。」

 「まぁ良い。どれ、我も王女達の練習成果を見るとするかの。」

 そう言って、御后様はリムちゃんとガルパスに乗って訓練場に走り去った。


 「さて、俺達は…。」

 「対空武器を考えなくちゃね…。」

 どんな珍プレーが続出するか見てみたいけど、ここは諦めが肝心だ。

 姉貴と一緒に家路を急いだ。


 試行錯誤で強弓3本を束ねると、爆裂球を付けた矢を200m程垂直に飛ばせる事までは確認した。ディーのような通常の爆裂球ではなく爆裂ボルトに使うような小型の物ではあるけど、四散した破片で大蝙蝠の飛膜を損傷させればいいのだから、問題は無いだろう。

 

 「やはり、大型のクロスボーになるわ。構造は簡単だけど、弦を引くのがロクロではね。連射するわけにはいかないわ。」

 「何かに引っ掛けて、2人で鉤つきが付いたロープを引けばいいんだ。弓は片手で引くんだし、幾ら3本の弓を束ねても2人掛かりで引けば何とかトリガーまで弦を引けると思うよ。」

 「そうすると、後はどうやって弓を固定するかだよね…。」

 姉貴と2人でアイデアを出し合い、それをディーが図面として仕上げる。

 最終的に纏ったのは珍妙な武器だった。

 

 姿は大型のクロスボーだ。だが照準器は付いてない。敵が来るのは夜だし、100mも離れてるから目で追う事が出来るのはネコ族位だ。

 これを杭に固定したY型の台に乗せて使う。Y字の枝の部分は更に二股に分かれており、クロスボーの弓をこれに挟んで上下に動けるようにする。左右の動きはY字の台を横に振る事で可能だ。

 弦はクロスボーと弦の両方向からロープで引いてセットする。


 「これだと、1つのクロスボーに2人が必要だね。でも、移動は楽そうだから、前もって杭だけ打っておけば使う前に台座を縛り付けるだけで良さそうだ。」

 それに、通常の爆裂球を先端に付けて王都に押し寄せてくる敵兵にも使用できる。45度の角度で発射すると200m位飛ばす事が可能だ。


 これを40個程作って屯田兵に持たせれば、完全に大蝙蝠を防ぐ事は出来ないが、そこそこ打ち落とす事が出来るだろう。打ち落とす事が出来れば相手も容易に襲っては来ないはずだ。


 そして、次は距離計だ。

 バリスタの発射角度を変えれば飛距離を変える事が出来る。しかし、相手との距離が不正確だと、中々当てる事は出来ない。

 そこで、簡易な距離計を考案した。1mの棒の片方に90度の角度で棒を接続する。そしてもう片方にも棒を付けるのだが、この棒にはクロスボーの簡単な照準器が付いている。棒を回転させ照準器に相手を捕らえた時の角度が距離の三角関数になる。

 計算するのは面倒だから、棒に距離を目盛っておいた。これでも20m位の精度で距離が測れる。測定距離は10m~500mまでだ。


 何とか図面を作り終えると、夕暮れに近い。

 嬢ちゃんず達は、兵の訓練という事で山荘で食事を取ると言っていた。その上、給料は1日で1人銀貨1枚。俺が代わりたいと思ったけど、ガルパスを駆る事が出来ない以上諦めるしかなかった。


 姉貴と俺とディーの3人だから、久しぶりにリゾットを作って食べる事にした。この世界にも米や味噌があれば面白いのにと思いながら、故郷の味を堪能する。


 「ところで、綿の方は上手く行ったの?」

 「あぁ、バッチリだ。麻を紡ぐ技術があったのは嬉しい限りだよ。何も聞かずにユリシーさんが糸車を作ってくれた。綿スキ器は少し面倒だけど、結果はまぁまぁだから問題はないと思う。」

 「そうすると残りは織機だね。」

 「それも、あるにはあるんだ。麻織物があるからね。ユリシーさんが1台取り寄せるって言っていた。それで、ついでに聞いてみたんだ。俺達の頼んだ試作機の費用はどうするのかってね。…そしたら御后様が金貨100枚を前渡ししているって言っていた。モスレムの暮らしを良くするのは王族の役目って言ってたらしい。」

 「だったら、変なのを頼んじゃダメよ。」

 「分かってるって…。」


 姉貴が風呂に行き、俺は外に出てタバコを楽しむ。

 カチャカチャと爪の音が聞えてきた。嬢ちゃんず達が帰ってきたようだ。

 「お帰り!どうだった?」

 嬢ちゃんずに声を掛ける。

 「奴等はダメじゃ…。ガルパスを理解しておらん!」

 ちょっとしたデジャブーを覚える。

 あの時も同じ言葉をアルトさんから聞いたような気がするぞ。

 トボトボと家の中に入っていく4人を見てそう思った。

 

 お茶の入ったカップを片手にもって、3人がテーブルに突っ伏している。リムちゃんは、そんなお姉ちゃん達の苦労が分からないのだろう。お茶を飲みながら不思議そうな顔をして3人を見ていた。


 「あら?…どうしたの。」

 「お姉ちゃんみたいにガルパスを走らせられないの。色々やったんだけどダメだったみたい。」

 リムちゃんが第3者的な視点で姉貴に報告する。

 それを聞いた姉貴が、ゴシゴシと頭をタオルで拭いていた手を止めると、俺を見る。


 「大丈夫。その為に、遥か遠くの砦からあの2人が来たんだ。今頃は酒を飲みながら何故ガルパスは走れないのかを説明してる筈だ。…明日にはとんでもない速さで走ってると思うよ。」

 

 俺の言葉を聞いて、ガバって3人が顔を上げる。

 「本当か…。我等が色々と手を尽くしても走らせることが出来なかったのだぞ。」

 アルトさんの言葉に、サーシャちゃんとミーアちゃんがうんうんと頷いている。


 「去年の兵隊達もそうだったね。だけど、ある日を境に急に上達したはずだ。」

 「そうじゃ。その前の晩にアキトが明日は良くなるって言っておった…。一体何をしたのじゃ?」

 そういえば…と思い出したように俺に聞いてきた。


 「亀と思うな。友達になれ!そして、名前をつけろ。って言ったんだ。

 ガルパスとアルトさん達は仲好しだ。友達だよね。

 …でも、新兵達は未だ亀としか思っていない。ガルパスは乗り手の思考を読んで思い通りに動かす事が出来る。でも、未だ兵隊達とガルパスは意思を交換していない。」


 「今夜は、兵舎に行ってくれぬのか?」

 「あの2人が今頃話してくれてるよ。その為に彼らは遠くの砦からやってきたんだ。」


 来年は新兵が此処に訓練に来る事は無いだろう。ガルパスを如何に操るか…。それをきちんと後輩に伝える事が出来るのか。それをあの2人は学んでいるのだ。あと10人も揃えば教導隊という科目が亀兵隊の中に出来ると思う。

 でも、それは早めに作ったほうが良いのかも知れない。

 ガルパスに乗って戦う機動戦は新たな戦法だ。武器は見慣れないものばかりだし、その使い方も特殊なものだ。この先、亀兵隊の規模がどうなるか判らないけどね。

 

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[気になる点] 糞王女、自分の出来ん事は押し付けん、言うたけど、できん奴のことを全く理解できん屑だった。 ホンマに屑過ぎて主人公には相応しくない
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