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#021 タグが原因らしい

 

 タグの襲撃を退けた後、焚火の番をカンザスさんとサラミスに交替して俺達は岩屋で一眠りってことになったけど、興奮がなかなか冷めないのか明け方まで起きていたような気がする。


 でも、またしてもミーアちゃんに起されたことから考えると、少しは睡眠をとったみたいだ。


 どうやら最後まで寝ていたみたいだ。岩屋の中にはもう誰もいない。

 顔をゴシゴシ擦りながら岩屋を出ると、昨夜の惨状が広がっていた。

 

 「ほら、これ飲んで、これ食べて……」


 姉貴が、呆然と辺りを見渡していた俺にシェラカップを渡してくれた。

 グビッって飲んだら、濃いコーヒーだった。しかも砂糖もミルクも入ってない。

 

 思わず「苦が!」って呻いたが、頭はすっきりだ。

 皆が囲んでいる焚火の姉貴の隣に座ると、ミーアちゃんが硬そうな黒パンを1個くれた。


 「ありがと!」と言って齧ると、ビスケットみたいな感じでたべることが出来る。でも、粉が結構こぼれるぞ。

 

 「皆そろったな!……今日は、タグの方向を逆に辿るつもりだ。

 早朝、グレイが先行偵察した話だと、ガトルの来襲方向と同じということだ。昼前には森を抜けることが出来ると思うが、タグがいないとも限らん。 昨日と同じで先行は俺とグレイで交互に替わる。後はアキトで問題なかろう」


 今にも出発しそうなので、俺は慌てて黒パンを飲み込むと濃いコーヒーで流し込んだ。

 立ち上がろうとすると、グレイさんに裾を引っ張られて戻された。

 

 「まあ、待て。タバコでも吸って休息しておけ」


 俺がケースからタバコを取出すと、姉貴がコーヒーを追加してくれた。

 

 「草原の調査は状況次第だ。俺としては、ガトルとタグの方向が判れば今回の調査は終了と考えている」

 「原因まで調べないんですか?」


 「泉の森に原因は無い。それも立派な調査だ。草原地帯の調査は俺達の手に余る。銀レベルが欲しい」

 

 銀レベルって上級者クラスってことだよな。

 黒レベルでは、まして赤レベルがいるこのパーティでは無理、ってカンザスさんは言ってるみたいだ。


 自分達の能力を過大評価しない。石橋を叩いて渡るってのがリーダーには必用なのかも知れない。そうすると、カンザスさんって良いリーダーってことになる。

 

 「さて、出かけよう。荷物を纏めて、焚火には土を被せておけ!」


 食器類を纏めてシートに包み、ポンチョに丸め込んで、装備ベルトに付いてる専用ベルトで横にしっかり固定する。杖代わりの採取鎌を持てば俺の準備は出来上がり。


 姉貴も同じように装備ベルトを身に付け、サスペンダーの具合をみていた。ミーアちゃんはさっさと焚火に土をかけて火を消すと、片手剣のベルトを肩にかけて終了だ。姉貴がミーアちゃんの斜めに背負った剣のベルトをずれないように調整している。


 「タグも換金部位があるんだって。全部纏めてカンザスさんが持ってるわ。彼のバックは私と同じように、魔道具で5倍程度の収納力があるんだって」

 「タダ働きなのかなって思ってたけど、良かったね」


 でも、姉貴と同じようなものがあるんだったら俺も欲しいぞ。


 俺達は1列になって先頭のグレイさんの後を付いて行く。

 最後尾は俺で、俺の前は姉貴ではなくサラミスだ。最後尾の俺に合わせて一緒に歩いてくれている。


 周囲を互いに警戒しながら、小さな声で世間話をしてると、森を進む退屈さも紛れる。


 サラミスは単独で赤7つまでレベルを上げたようだ。14歳から始めて4年間で此処まで上げたということは随分と頑張ったに違いない。

 薬草採取で得た金でガイドを雇って討伐をした時に、ガイドが使っていたのが長剣だったそうで、それ以来長剣を使ってるそうだ。

 確かに、長剣はハンターとして見た目がいいもんな。でも、振った後に隙が出やすいのが難点なんだけど……これはサラミスも同意した。


 もう少し、金が出来たら町に出かけて誰かに教授して貰うんだと言ってるけど、もう遅いような気がする。

 一旦、自分なりの戦いが出来るようになると、その癖を直すのは大変な努力がいる。


 偶に、繁みがガサガサって音がして小動物が逃げていく。あれって、グレイさんが言ってたキャナルなのかも知れない。

 

 不意に歩みが止まる。俺は直ぐに腰を落とすと周囲を見渡した。……特に何もない。


 「休憩だって。でも、直ぐに出発するから、荷物は降ろさないようにって言われたわ」


 姉貴が俺と、サラミスにクッキーを1枚づつ配りながら言った。

 サラミスはクッキーの甘さに吃驚してたみたいだけど、疲れには甘味が良いんだよね。


 前列が立ち上がるのを見て俺達も立ち上がって先へ進んでいく。

 タグは大型の昆虫だが、森を進むときの痕跡は極僅かなものだった。偶に、藪の枝が折れている程度で、ガトルのほうがずっと痕跡を残してる。


 先頭に交互に立つ2人は、この僅かな痕跡を追っているんだろうが、俺にはまだ無理な気がする。


 そして、段々と前が明るくなって木立も疎らになり、繁みも少なくなってきた。

 列もバラけて、散開したような形で前に進んでいる。


 さらに進むと、突然前方が開けた。疎らに低木はあるが、森の形はなしていない。その向うにはずっと草原が続いている。


 草原の方向に進み、もうこれ以上先には低木すらない。という所で休息を取る。


 「サラミスとアキトで森に戻り枯れ枝を集めろ。カラカラに乾いてるヤツだけだ。

 サニーはお嬢ちゃんを連れて先方の確認。グレイは、タグとガトルの痕跡を調査する」


 早速、森に戻ると枯れ枝を集めた。昼食のお湯を沸かすだけだろうから、そんなには必要ない。直ぐに両手出抱えられるだけの枝を集め、サラミスと皆の所に戻った。

 

 「草原は遊牧民の縄張りだ。煙が出ないように昼食の準備をしとけ」


 カンザスさんの指示で焚火を始めた。確かに乾いてる小枝を燃やすと煙は余り出ない。

 水筒の水をポットに入れて焚火の横に置く。マチルダさん、カンザスさん、サラミスも小さなポットや小鍋を焚火の周りに置いた。


 グレイさんが戻ってきた。


 「タグもガトルも草原方向から来たようだ。この場所から南に行ったところに両方の足跡が土に付いている」

 「タグに追われて暴走した……と考えられるか」


 確かに、ガトルよりタグの方が強そうだし、襲われたら普通逃げるだろう。

 でも、どうして急にガトルを襲いだしたのかが気になるところだ。それなら、過去に何回かガトルの暴走があったろうけど、ギルドのお姉さんは緊急招集は過去発生していない。って言っていた。


 お湯が沸いて少し経った頃、サニーさんとミーアちゃんが帰ってきた。


 「草原の先にタグの巣穴の1つが有りました。出入り口も数箇所見つかました。どうやら、今回の暴走はタグが原因ですね」

 「タグの巣別れが原因か・・今までこんな近くまで巣穴を作ったことは聞いた事も無いが、巣穴の攻撃は俺達の仕事ではない」

 

 サニーさんの報告でカンザスさんは少し納得したみたいだ。あとで、図鑑を調べてみよう。

 サニーさんがミーアちゃんの頭をナデナデしながら「偉いよねー」って言っている。


 何でも、巣穴周辺の監視をしているタグの接近を感知して逸早く撤退できたそうだ。ネコって勘が良いって聞いてたけど本当なんだなと思ってしまう話だ。

 

 「食べながら、聞いてくれ。……とりあえずは調査は終了した。森に少なくともガトルはいないようだ。

 これから帰ることになるが、泉の森の南側を通ることになる。野宿箇所は小川の近くだから、昨晩のようなタグの襲撃は無いとは思う。だが、用心にこしたことはない」


 カンザスさんの言葉をお茶で焼き固めた黒パンを流し込みながら聞く。


 「草原地帯での長居は無用だ。食べたら直ぐに出発するぞ」


 俺は頷きながら、喉に詰まった黒パンを慌ててお茶で流し込んだ。


 今度はカンザスさんが先頭に立って森のはずれを歩いて行く。

 低木ばかりで、見通しは良いし、足を取られる事も無い。結構な速度で歩く事が出来る。


 大きな石が前方に見えてきた。

 石のところから、森に入る。今度は薄暗く、途端に見通しが悪くなる。周囲の小さな音にも気を取られ思わず振返ることを繰り返しながら歩いて行く。

 

 しばらく進むと、小さな流れがあった。

 リリック釣りをした流れに比べ、遥かに小さい流れではあるが、小川には違いない。

 小川に沿って先に進む。


 「この流れは森に入る前にあった橋の小川から森の中で別れてるんだ。この流れに沿って進めば森から必ず出られるんだ」


 サラミスが教えてくれた。

 俺達が歩いている所も、昨日歩いた所と違って少し踏み固められている。森の中で採取や討伐を行ったハンターが使ってるみたいだ。

 

 少し進んで一休み。そして、更に進むと、この流れの本流とわかる小川があった。少し広くなった川原とその上に張り出した大きな木に洞が空いている。

 その周りには立木もなくポツリと独立して立っているのが印象的だ。

 カンザスさんは此処で立止まって、俺達の方に振り向いた。

 

 「今夜の野宿場所だ。ここは、森の中でも野宿の一等地だと思っている。普段なら襲われる可能性は殆ど無い。しかし、今が普段ではない事は昨夜のことで判ってる筈だ」


 俺達は早速昨晩の分担で作業を始めた。

 薪の束を俺が持ち帰ったころには、サラミストグレイさんはとっくに帰ってきていた。

 まだ日が高く、夕暮れにも間があることから、真直ぐな枝ぶりの木を切ると早速釣りを始める。


 「此処でも釣りをするのか?……目標は8匹だ。頑張れよ!」


 グレイさんの励ましとミーアちゃんの監視の下で、小川の流れがゆるい所に仕掛けを投げ込んだ。

 

 2、3匹釣れると、ミーアちゃんが焚火に持っていく。

 興味を持ったカンザスさんとサラミスが後でパイプをふかしながら見物してるのが気になるな。

 

 「しかし、簡単に釣ってるな。リリックは高級魚だぞ。これ専門に暮せるぞ!」

 「おれにも、ちょっと貸してくれ!」


 カンザスさんは関心してるし、サラミスは行動に移した。仕方なく釣竿を貸すと、直ぐに1匹を釣り上げた。

 俺専用のものは別にあることだし、この仕掛けはサラミスに進呈することにした。


 「ホントに貰って良いんだな。これで、家族にも食べさせる事が出来る。ありがとう!」


 非常に喜んでいたが、釣針さえ出来れば簡単だと思うんだけどね。

 でも、小さな釣針を作るのは以外と難しいのかも知れない。


 焚火に戻ると、姉貴が鍋でシチューモドキを作っている。乾燥野菜とビーフジャーキーを千切ってお湯に入れ、焼き締めた黒パンを砕いて混ぜ合わせた物だ。


 美味いかどうか非常に気になるが、スプーンで味見をしてる姿を見る限り、問題なさそうにも思える。

 ミーアちゃんは塩をまぶしたリリックの串焼きが気になるようで、グレイさんが火加減を直すために串を移動する度に、その手を追ってみている。


 サニーさんとマチルダさんも野菜や豆を煮て乾燥肉を入れたスープを作っているようだ。サラミスも自分で同じようなものを作っているが、最後にさっき釣ったばかりのリリックをぶつ切りにして鍋にいれた。


 おいしそうな匂いが焚火の周りに立ち込める頃には、もうすっかりあたりは暗くなっていた。

 早速、食事をとる。

 姉貴が携帯食器に入れてくれたシチューは黒い。……黒パンだしなと思いながらスプーンで食べてみると、意外に美味しい。

 今日はそれに1人1本のリリックの串焼きもある。

 ミーアちゃんは一番大きいのを貰って大満足だ。

 

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