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#203 1人増えた?

 

 村に戻って10日程過ぎたギルドの昼下がり、俺とセリウスさんはテーブルでチェス盤を囲んでいる。

 去年は春先にガトルで悩まされたけど、今年はそんな話も聞かない。

 先程、キャサリンさんがルクセム君と採取依頼の完了を報告に来ていた。


 そんな、2人に俺達は片手を上げて挨拶してたんだけど、ふと気になった事をセリウスさんに聞いてみた。


 「所で、キャサリンさんのお相手って…誰なんですか?」

 俺の言葉にセリウスさんは、盤から顔を上げる。

 「そうか…お前は知らないか。」

 そう言いながら、シャロンさんにお茶を頼むと、パイプを取り出した。

 ジッポーでセリウスさんのパイプに火を点けてあげると、俺もタバコを取り出す。


 「サイモンという男だ。近衛兵の1人だが、ようやく10人隊長になったばかりだ。マケトマムの状況を知らせに御后様の所にやってきた所で、キャサリンに合って一目ぼれってやつだな。」

 一目ぼれねぇ…。まぁ、そういう事もあるんだろうけど、そんなんでいいのかな?って思う。でも、こんな事を考える奴は馬に蹴られるって言うから、姉貴達が帰ってきたら早速報告するだけに止めておこう。


 「サイモンは下級貴族の出ではあるが、性根は腐っておらぬ。幸せになる事だろう。アキトもその時には祝ってあげる事だ。」

 「セリウスさんが認めるなら問題ないでしょう。喜んでお祝いします。姉貴達も喜ぶでしょう。」

 「だが、問題もある。」

 「ルクセム君ですね。」

 「そうだ。ルクセムはまだ13歳。1人で依頼をこなすのは無理だろう。採取系であっても、この村では獣が出てくる可能性がある。かといって村の近場では得られる報酬も少ないだろう。」

  

 やはり、セリウスさんも気にしていたみたいだ。

 近衛兵の仕事場は王宮が主だ。確かにこの村にも何人かはいるけど、それは御后様の警護が目的だから、数人位しかいない。ホントはもっと大勢が必要なんだろうけど、御后様だからね。近衛兵の任務もどちらかと言うと荷物持ちと雑用だ。

 10人隊長が必要とも思えないから、キャサリンさんは王都に行く事になるはずだ。

 となれば、今後のルクセム君を指導する者がいなくなってしまう。


 「やはり、アキトも問題と思うか…。そこでだ。ダリオンに手紙をしたためた。赤5つ程度のハンターを紹介しろ…とな。どんな奴を寄越すかは分からぬが、そいつにルクセムを託したい。だが、来るとすれば、そのハンターはお前達の名声を聞いて来るはずだ。そいつ等の世話をよろしく頼むぞ。」


 「分かりました。たぶんアルトさん達が厳しく指導してくれるでしょう。」

 そして、俺はクイーンを摘むとセリウスさんのビショップを取った。


 「はい。これで、チェックメイトです。これで今年4勝目ですよ。」

 「う~む。確かに…。」

 チェス盤を見ながら呻いているセリウスさんをカウンターからシャロンさんが笑ってみている。

 

 ガタン!っと扉が開いて、ギルドのホールに入ってきたのは、ミーアちゃんとサーシャちゃんだった。ちょっと小さな女の子が一緒だ。

 ホールを眺めて俺がいるのを見咎めると、早速俺達の所に歩いて来た。


 「ディー姉さんが、ギルドに行ってるだろうって言うから急いで来たの。アトレイムからエントラムズに戻り、パロン家のサンドラさんにこの子を託された。」

 「ミーアの妹は、我の妹じゃ。…リム。お前の新しい兄様じゃ。」

 「リムディアと申します。どうぞ良しなに…。」

 

 女の子が俺に向かって丁寧に礼をする。

 「アキトでいいよ。ここには怖いものは何もいないし、もし出て来たら俺とこっちにいるセリウスさんがやっつけるから、もう大丈夫だ。」

 そう言って女の子の頭をぽんぽんと軽く叩く。

 金髪の巻き毛はアルトさんみたいだけど、ずっと小さいな。着ている服はミーアちゃん達と同じ革の服だけど、こじんまりした姿は西洋人形みたいだぞ。

 

 「さて、我等はリムのハンター登録で忙しいのじゃ。」

 サーシャちゃんはそう言うとリムちゃんの手を引いてカウンターに行ってしまった。

 「では、私も…。」

 そう言ってミーアちゃんもカウンターに行ってしまった。


 「だれだ?」

 3人がカウンターに行ったところで、セリウスさんが俺に聞いてきた。

 「カナトールの末の王女ですよ。革命でエントラムズに脱出したようです。そして此処で暮らせるようにと御后様が配慮したみたいです。」


 「確かにカナトールは滅んだ。そして、王族、貴族の連中は皆、民衆の裁きに合ったと聞く。…そうか、末の王女は脱出できたのか。せっかく助かった命。確かに、この山村で慎ましく生きるのも良いかも知れぬ。だが、アキト。あまり他人にはこの話をするなよ。どんな陰謀に巻き込まれるとも限らん。」


 「判っています。では、また…。」

 そう言って、ギルドを後にする。ミーアちゃん達はとっくに引き上げたみたいだ。

 雑貨屋によって、ジュースを購入すると、のんびり家路に着いた。


 「ただいま。」

 扉を開けながらそう言うと、テーブルで1人お茶を飲んでいたディーが「お帰りなさい。」と返事をしてくれた。

 あれ?帰ってないのかな。そう思っていると、扉がバタンっと勢い良く開いてミーアちゃん達が戻ってきた。

 「遅くなりました。」と言いながらミーアちゃん達がテーブルに着く。

 俺はディーに葡萄ジュースの入った筒を渡すと、早速、ディーはカップに入れたジュースを3人の前に並べる。

 俺には、コーヒーを出してくれた。


 「ご苦労様。イゾルデさんの用事は問題なかったのかな?」

 「母様は喜んでおったぞ。たぶん大丈夫じゃ。」

 「王様が宴会を開いてくれました。その席で、イゾルデ様があれを贈り物だと言って…。」

 何となくその後の騒動が予想出来た。

 「大変だったね。」

 俺の言葉にミーアちゃんが頷く。…やはり、そうみたいだ。


 「王様は我を玉座に座らせてくれたのじゃ。我が姪御であると重鎮に言っておったぞ。」

 ザナドウ狩りを成功させたハンターの2人が身内なんだから、王様も自慢したいんだろうな。それに、サーシャちゃんが可愛いからもあったんだろうけどね。


 「その宴席でにゃんだけど、王様には王女様が2人いるの。ハンターのリーダーは幾つじゃ。と言う話ににゃって、今年20歳だと思いますと言ったら…王様が、2人の王女に向かって…婿にせよ!って命令を下したわ。」

 「2人とも、はい。って返事をして目を輝かせていたのじゃ、その内やってくるかも知れんぞ。」

 サーシャちゃんがそう言って、ニヒヒ…って笑っている。

 そんな笑い方をしてると、エントラムズの王子に嫌われるぞ!…でも、そんなことになったら姉貴とアルトさんに何をされるか判ったものじゃない。

 なにか、いい考えを思いつかないと大変だ。


 「ところで、リムちゃんでいいよね。ギルドカードを見せてくれないか?」

 ミーアちゃんとサーシャちゃんの間に座って大人しくジュースを飲んでいた女の子が胸元から金属片を取り出した。

 はい。って俺に渡してくれる。

 銅板だから赤だよな。レベルは穴が1つ…ギルドレベルは赤1つと言うわけだ。

 名前は、リム・ヨイマチで所属チームはヨイマチだ。

 出身地は、エントラムズになっている。

 特殊技能は無い。

 典型的な、初心者だぞ。どうしよう…ちゃんと指導できるんだろうか。


 「武器とか魔法は使えるの?」

 「近衛兵から片手剣の使い方を教えて貰いました。魔法は【メル】と【サフロ】が使えます。

 そう言うと椅子から下りて、大きなバッグを持ってきた。その中から、片手剣を取り出すと俺に差し出した。

 受取って、鞘を払い刀身を見てみる。かなりの業物だ。直ぐに鞘に戻してリムちゃんに返す。

 「剣は大事に仕舞っておいた方がいい。ここでは全て俺達が面倒を見る。姉貴が帰ってきたら色々と準備してくれると思うから、それまではのんびりしてていいよ。」

 

 その日の夕食はちょっと豪華だった。

 ディーがラッピナのシチューを作ってくれたし、何と言ってもスモークがある。

 ミーアちゃん達の土産話を聞きながら楽しく食事が出来た。

 そして、アルトさんがいないから、3人は一緒の部屋で寝ることになった。これも頭の痛い問題になりそうだ。

               ・

               ・


 それから5日後、明日は久しぶりにトローリングに行こうと、ルアーの針を砥石で研いでいると、扉がバタンと開いてアルトさんが姿を現した。

 「邪魔をするぞ。」

 そう言って御后様も入ってくる。最後は、「あぁ、疲れた。」って言いながら姉貴が入ってきた。

 「ご苦労様!…ディー、お茶を頼む。」

 早速、3人は俺の前に座る。


 「どうだった?…5日程前にミーアちゃん達は帰ってきたけど…。」

 「女王様は喜んでたわ。そして、泣き崩れていたわ。」

 「今まで、そのような恩義を受けた事が無いのじゃろう。我も言うて来た。隣国を頼れとな。…新興国ではあるが、皆国造りに一丸となっておる。良い国になるじゃろう。」

 「時間が掛かったのは、テーバイの王都をどのように造るか、ミズキが相談を受けたためじゃ。1つの水場を囲むように王都が出来る。周辺には他の水場が無いから、攻めるには大変じゃ。」


 王都造りの設計をしてきたようだ。それなら時間も掛かるだろう。

 「それで、絹の方は何とかなりそうなの?」


 「来年の絹糸、再来年の絹…。2割をスマトルの購入価格で売ってくれるそうよ。そして、スマトルの現国王が崩御次第、全ての絹は商会と交渉によって値段を付けたいと言っていたわ。さらに、向こう10年間はザナドウの肝臓の代金として反物を10巻、商会に収めてくれるそうよ。」

 女王にしたって、国造りの為に幾らでも予算は必要だろうに…。

 

 「そんなに貰っていいの?」

 「テーバイにすればPRを兼ねてるのよ。その辺は確認してあるから大丈夫。」

 そうなんだ。でも、また狩る事があれば進呈しよう。



 「ところで、1人増えているようじゃが…誰じゃ?」

 アルトさんが暖炉の傍でサーシャちゃん達とスゴロクをしている少女に気が付いて俺に聞いてきた。


 「例のカナトールの王女です。リムディアと名乗っていました。今はリム・ヨイマチとしてギルドに登録してあります。」

 「サーシャ達が連れてきたのじゃな。アキト、くれぐれも頼んだぞ。カナトールの王妃は我が幼い時の良き友であり、我が病気がちな頃は良く見舞いに来てくれたものじゃ。友のただ1人残った子供じゃ。ここで見守ってあげるのもあの頃の恩を返す事になろう…。」


 病気がちってのが、ちょっと信じられないけどそんな話なら納得する。

 「それで、一応片手剣を使えるみたいなんだけど、持ってる剣が業物みたいで分相応には見えないんだ。格好もあんなだし、姉さん、後で揃えてやってくれないかな?」

 「うん。いいよ。…これで寂しくなくなるね。」

 

 姉貴はそう言うと席を立って、暖炉の傍の女の子に声を掛けている。

 そして、4人で家を出て行った。たぶん雑貨屋に向ったんだと思う。


 「一応、セリウスさんには話してありますが、他の者には話すなと念を押されました。陰謀がどうのと言っていましたが…。」

 「あやつは心配性じゃ。それが利点でもあるのじゃが、それ程心配には及ばぬ。王女を担ぎ出そうとする貴族の粗方は革命時に命を亡くしておる。亡命貴族の多くが、マケトマムに向かっておるそうだ。あちらは積極的に王が梃入れしているからのう。そして、その多くが下級貴族じゃ。王女の顔を覚えておるものはいまい。」


 「しかし、昨年の狩猟期を過ぎてから、何かとても忙しかったような気がします。御后様はお疲れでは無いんですか?」

 「まだまだ現役じゃよ。じゃが、今はカナトールがどうなる事か見ていれば良くなった。モスレムを取巻く他の国々は、テーバイの立国のお蔭で絆を取り戻したようにも見える。やはり、隠居の場を急いで作る必要があるやもしれんのう…。」

 そう言って御后様はニコニコ顔で俺を見ていた。

 

 

 

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