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#202 5人でのんびり舟遊び

 

 まだ空けやらぬ早春のリオン湖をディーが静かにカヌーを進める。

 カタマランも良いけど、釣りをするならカヌーが良い。

 しばらくトローリングをしていなかったから、結構な釣果だ。ユリシーさん製作のスプーンとプラグを試してみたんだけど、問題無さそうだ。

 これなら、有閑貴族達のいい遊びになるだろう。まぁ、貴族そのものが今後没落しそうな感じではあるけどね。


 「そろそろ戻ろうか。10匹以上は釣れてるし…。」

 「了解です。我が家に船の針路を変更します。」

 俺がトローリングの道具を仕舞いこむのを確認して、ディーは大きくカヌーの進路を変更した。

 村からは朝食を作るためだろう、暖炉の煙突から上がる煙りで少し霞んで見える。


 庭の擁壁にカヌーが着けられると、俺は庭に降り立つ。そしてディーの渡してくれた道具と、獲物の入った籠を受取った。

 早速、井戸に獲物を持って行き、獲物の腸を抜取った。そして、あらかじめ掘っておいた穴に投げ込む。

 獲物を水でよく洗って、籠に入れると家に戻って遅い朝食となる。

                ・

                ・


 朝食が済むと獲物の分配だ。5匹程、スモーク造りに取って置き、残りの魚を籠に入れると御裾分けに出かける。


 とんとんと扉を叩くと、小さな女の子が扉を開けて出てきた。

 「しばらくだね。…これ、釣れ過ぎたんで御裾分け…入れ物はあるかい?」

 女の子は家の中から大きなざるを持ってきた。その笊に3匹の黒リックを入れてあげる。

 50cm程の大きさだから4人で食べるには十分だろう。

 「こんなに、貰って良いんですか?」

 「あぁ、構わないよ。…ルクセム君によろしくね。」

 女の子の「有難うございます。」って頭を下げる姿を後に、俺達は次の目的地をめざす。


 彼も、1年以上ハンターをやっている。そろそろ採取依頼を卒業したいとは思うけれども、無理は禁物だ。彼の働きで一家4人が暮らしてるようなものだからね。

 今は、キャサリンさんと一緒にハンターをしているけれど、キャサリンさんが結婚したら、ルクセム君は1人だよな…。

 彼と一緒に採取依頼の仕事が出来るハンターをさがしてやるか。

 そんな事を考えながら、俺達は通りを歩いてセリウスさんの家に向う。


 懐かしい家の扉を叩くと、直ぐにミケランさんが扉を開けてくれた。

 早速、暖炉の前に案内されると、そこには少し大きくなったミクとミトがコテンっと横になっている。

 「こら!…行儀が悪いにゃ。ご挨拶するにゃ。」

 ミケランさんがお茶を運びながら、双子に注意する。

 その声にパッと身を起こすと、俺達に向かって頭を下げる。

 「「お帰りにゃ、…アキト兄ちゃん。」」

 「あぁ、ただいま。はい、これはお土産だよ。」

 俺は、黒リックを入れた籠を双子に渡した。

 2人とも大喜びで魚を指でツンツンしている。それを温かな目でミケランさんが見ていた。

 

 「何時も、ありがとにゃ。セリウスから聞いたけど、大変だったみたいにゃ。」

 「それでも、何とか戻って来れました。まだ、姉貴やミーアちゃんは帰っていませんが10日位で、戻るんじゃないかと思ってます。」

 「それまで、ゆっくりすればいいにゃ。明日は私がお弁当を作るから、何処かに出かけるにゃ。」

 

 ミケランさんは俺にそう言うと、魚をツンツンしている双子から籠を取り上げて調理場に持って行った。

 ミクとミトが俺の顔をジーッ見つめる。


 「ん?…何処か行きたい所があるの?」

 「お魚を獲るとこを見たいにゃ。」

 「…見たいにゃ。」

 

 よし、カタマランなら少々な事では転覆しないから丁度いいか。

 早速、黒リックを串に刺して暖炉で炙りだしたミケランさんに聞いてみる。


 「ミケランさん。皆で、船に乗りませんか。リオン湖の村に近い辺をトローリングすれば少しは魚も釣れますよ。…確か船にはまだ乗ってませんでしたよね。」

 「そうにゃ。乗ったこと無いにゃ。ミクとミトも喜ぶにゃ。」


 という事で、明日は俺の家を訊ねて来るそうだ。

 「ちゃんと、お弁当は作るにゃ。…たくさん獲れると良いにゃ。」

 意外と、ミケランさんの方が、楽しみなのかも知れない。


 俺達は3人に別れを言って、家路についた。

 少し遅めの昼食を終えると、カラメルの長老に教えて貰った気の使い方の練習だ。庭に出て、椅子に座って体を休める。隣ではディーが俺の行動を監視しているようだ。

 

 【メル!】…左手を前にして、そう呟くと掌の上にソフトボール位の炎の球体が現れた。相当な熱量だと思うのだが、掌には熱はほんのりと暖かく感じる程度だ。そして、掌に若干の重さを感じる。

 

 此処までは、良い感じだ。俺にも攻撃魔法が使えると分かると、ちょっと嬉しくなる。

 次に、気を送り込んで、炎の球体を圧縮したいと念じる。

 段々と球体が縮小していく。それに合わせて炎の色が赤から白に変わっていく。

 

 ゴルフボール位まで圧縮された【メル】の球体の色は雪のように真っ白だ。

 だが、掌に感じる温度は変ることが無い。重さもだ。


 更に、圧縮する。…ビー球位に圧縮すると、蒼く輝く球体に姿を変える。

 「球体の温度は3000℃を超えています。」

 ジッと球体を見ていたディーが呟いた。


 次に、今度は球体を大きくするように念じながら気を送り込む。

 段々と球体は大きくなり、バレーボール程の大きさに膨らんだ。

 「球体の温度は約500度です。」

 【メル】で出現した火炎球の全体熱量に変化は無いということか…。球体の体積×球体の温度=一定、と言う事だろう。

 球体を縮小すればするほど温度は上昇し、逆に球体の大きさを膨らませれば温度は低下する。


 これを思いのままに操れるようにすれば、良いわけなんだが…。

 疲れる。肩にズンと疲れが溜まったのが判る。

 ディーの入れてくれたお茶を飲んで一休み。


 歳を取っても、皆でリオン湖越しにアクトラス山脈を眺めながらのんびりとお茶を飲んでいたいもんだな…なんて考えた。

 そして、再度【メル】を唱えて炎球を掌に出現させる。

 それを縮小させ、今度は拡大する…それを夕方まで延々と続けた。


 ぐったりと疲れて家の中に入るとテーブルにベタンと上半身を投出す。

 そこに、さっぱりとした魚のスープが出される。残りの魚は塩水で洗って家の裏に陰干ししてある。1日干して明後日にスモークをすればいい。


 ディーと2人で食べる食事は、静かだがたまにはこんな食事もいいと思う。皆が一緒だと結構煩いと思う時もあるからね。まぁ、嫌いじゃないけど…。


 食事が終ると、【フーター】でお風呂にお湯を入れてのんびりと浸かる。

 そして、ロフトに上って布団にもぐり込む。

 姉貴がいないと蹴飛ばされる心配は無いけど、ちょっと布団が広く感じるぞ。

 そんな事を考えている内に、昼間の気の使い過ぎで相当に疲れていたんだろう。段々と目蓋が重くなる。

               ・

               ・


 次の日の朝早く、カタマランを山荘から自宅に漕いで来ると、ディーと一緒に舟遊びの準備をする。籠と網とトローリング用の短い竿。それにパドルが2つだ。

 雑貨屋で手に入れた山葡萄のジュースと水を水筒に入れて、木製のカップを駄菓子と一緒に小さな籠に入れて置く。


 先に乗り込んだディーにそれらを手渡しでカタマランに積込んでいる時にミケランさん達がやってきた。

 ミケランさんが小さな籠を持って、その後を手を繋いだミクとミトが付いて来る。


 「やって来たにゃ。…これが船にゃ。何処に乗ればいいにゃ?」

 「ミクとミトはディーの方に乗せます。…おいで!」

 俺は、双子においでおいでをすると、やってきたミトをひょいと抱き上げた。

 ミトを船に乗っているディーに渡す。続いてミクを抱き上げて同じようにディーに渡した。

 双子は船の先の方に移動して水面を見ている。

 続いてミケランさんがもう片方にヒラりと飛び乗った。そして最後に俺が乗り込む。


 ディーと俺でパドルを操作してゆっくりと擁壁を離れ、リオン湖に漕ぎ出した。

 「うわぁー!」って双子が歓声を上げる。

 そして、段々とカタマランの速度を上げた。


 「リオン湖に映るアクトラスは綺麗にゃ。湖面がこんなに近いにゃ。」

 ミケランさんが片手を水面に触れながら呟いた。

 双子はジッと前方を見ている。


 さて、そろそろ始めるか…。

 トローリングの道具を取り出すと、ポチャンとスプーンを湖に投げ込み素早く糸を30m程伸ばして短い竿をディーに渡す。ディーはカタマランの船べりに開けてある穴に竿を差し込んだ。

 次はプラグだ。同じようにプラグを投げ入れて糸を伸ばすと竿を俺の乗った方の船べりに差し込む。

 後は、ゆっくりとカタマランを岸辺にそって漕いで行けばいい。


 「それは、何にゃ?」

 「トローリングと言って、大きな黒リックを釣る仕掛けです。…こうやって、岸辺にそって船を漕いでいると釣れるんですよ。楽しみにしていてください。」

 双子も興味があるようだ。2人で片方ずつ竿先を見ている。


 やがて、俺の方の竿がぐいぐいと水中に引かれる。

 急いでディーがもう片方の仕掛けを引き上げると、ゆっくりとパドルを漕いでいく。

 急いで竿を取り上げ、竿先の弾力を利用しながらゆっくりと糸を手繰る。


 俺の動作を食い入るようにミクとミトが見ていた。

 2人においでと声を掛けると、素早く2つの船を繋いだ板の上を歩いて俺の直ぐ傍にやって来た。

 しょうがないにゃ…なんて言いながらミケランさんがディーの船に乗り移る。

 少しづつ手繰り寄せると、バシャン!っと魚が跳ねる。結構大物だ。

 最後は、片手で持った網の中に竿を使って魚を誘導する。

 頭が入ったところで、網を上げると魚は網の中に入ってきた。船に網を上げるとバタンバタンと元気良く跳ねる。

 魚を掴んで籠の中に入れると双子の前に差し出した。

 「どうだい!昨日の魚もこうやって獲ったんだ。」

 双子は俺と魚を交互に見ていたが、やがて俺を尊敬の目で見てくれた。


 「凄いにゃ。…私でも出来るかにゃ。」

 ミケランさんも興味があるようだ。

 「出来ますよ。サーシャちゃんやミーアちゃんもこれで釣り上げています。今度、掛かったら取り上げてみてください。こんな針に掛かってますから、外れる事は先ずありません。」

 そう言ってプラグの針を見せる。

 そして、プラグを湖に投入して糸を伸ばし、竿を船べりの穴に差し込む。俺がパドルを持って漕ぎ出すと、今度はディーがスプーンを投入した。

               ・

               ・


 3時間程、湖の上をゆっくり漕ぎまわって数匹の魚を得る事が出来た。

 昼もだいぶ過ぎたので、ゆっくりと自宅の庭に向かってパドルを漕いでいく。

 擁壁に付くと先に庭に降りて、ディーが抱え上げたミクを受取り、続いてミトを受取る。ミケランさんは自力で擁壁に上った。そして、獲物と道具等を下ろすとディーは林の岸辺に船を移動させる。


 庭のテーブルでお弁当の準備をミケランさんが始めるのを見て、小振りの黒リックを井戸に持っていくと早速腸を抜いて鱗を取る。3枚に下ろして串に刺して塩を振る。

 「ちょっと待っててくださいね。」

 庭の隅にあるバーべキュー台に火を起すと早速魚を炙り始めた。

 「ディー。お願いできる?」

 「任せてください。焦げ無いように焼き上げます。」


 ディーが串焼きを完成させる間に、一足先にお弁当を頂く。

 「楽しかったにゃ。あんなに簡単に取れるなんて思わなかったにゃ。」

 ミケランさんは嬉しそうだし、ミクとミトも楽しかったみたいだ。

 

 「何時でも使ってください。意外と操作は簡単ですよ。」

 「今度はセリウスに漕いで貰うにゃ。」

 お茶とジュースを飲んでいると、ディーが綺麗に焼かれた串焼きを持ってきた。

 ミクとミトが直ぐに齧り付く。

 それを見ているディーも嬉しそうだ。自分で作った料理を美味しそうに食べてくれるんだからね。

 

 

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