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#020 巨大アリの襲撃

 

 ユサユサって体を揺り動かして、寝入っていた俺を起こしたのは、何時も通りのミーアちゃんだった。

 ミーアちゃんの仕事になってきているよな気がするけど、朝普通に起きるんだったら、ちゃんと自分で起きれるぞ。


 「交替の時間だよ。って言ってた」


 姉貴に頼まれたようだ。


 「ありがと!」


 ミーアちゃんの頭をごしごしって撫でると、タタターって逃げられた。

 体を起こして、装備を確認する。

 ポンチョは姉貴達が使うと思い、食器の入った包みと共に置いておく。

 ファーってあくびをしながら、両手を大きく回して眠気を取ると、岩屋の外に出た。

 夜の森は真っ暗で、広場の上には星空が広がっている。森の木立に仲良く2つの月が引っ掛かっているように見える。


 「姉さん。替われるよ」

 「それじゃ。後はお願い。ミーアちゃん、寝るわよ」


 俺が交替出来ることを確認すると、姉貴はミーアちゃんを連れて岩屋に入っていった。


 姉貴とすれ違いに、グレイさんが大きなあくびをしながら岩屋から出てきた。

 「アキトはもう交替してるのか。早いな!」

 「グレイが中々起きないからでしょ!」


 後から岩屋を出てきたマチルダさんに怒られてる。

 これで、次のメンバーが揃ったことから、先に焚火の番をしていた女性陣は岩屋に入ってお休みとなる。


 薪の束をバラしてその上に座ると、周囲を一通り見渡した。

 広場は焚火で明るく照らされているが、森の中は真っ暗な闇に包まれている。

 ふと、焚火の左手に薪が積まれているのが目に入った。


 「ああ、それは襲撃された時に燃やす焚火だ。ちょっとした柵代わりだな」

 怪訝そうに薪を見ている俺に、グレイさんが教えてくれた。


 「野宿者を襲う獣は多いんですか?」


 「時期にもよるな。俺達を襲うとすれば肉食の奴らだ。

 森に獲物が多い時期はあまり気にする必要はない。しかし、冬とその前後は気を付けた方がいい。それと、森に異変がある時だ。

 今回もこれに近いかも知れん。獣達の気が立っているから肉食獣以外の獣も俺達を襲う可能性がある」


 グレイさんがパイプを煙らせながら教えてくれた。そんな話を聞かされると、今にも森から獣が飛び出してくるような気がしてくる。

 しきりに辺りを見回していると、グレイさんが笑いだした。


 「そんなに心配するな。ほれ!あそこに目が光ってるだろう。あれはキャナルと言って夜行性の小さな草食獣だ。

 他の獣が来れば直ぐ逃げ出す程臆病な奴だ。あいつが近くにいる限り肉食獣は近くにいない」

 「そうなんですか」


 グレイさんの指差す方には、確かに藪の中から小さく光るものが見える。動物の目は光を反射するんだなって始めて知った。


 グレイさんに付き合って何本かのタバコを吸いながら世間話をしていると、森の東側の木立に引っ掛かっているように見えた月が中天近くにまで達している。


 大分時間が経ったようだ。そろそろカンザスさん達と交替する時間かなとグレイさんの方を見ると、姿勢を変えずに目だけで周囲を観察している。


 「少し、おかしくなってきたぞ。何時でも反撃できるようにしておけ。ゆっくりとだぞ!」


 何か異変を感じ取ったようだ。ついさっきまで俺達を見ていたキャナルもいなくなっている。

 傍らの採取鎌をゆっくりと掴むと、グレイさんに頷いた。

 グレイさんはいつの間にか小さな玉を持っている。右手に持って、玉に付いた紐の先にある輪を指に掛けていた。


 「何が出るか解らないが、とりあえずこの爆裂弾で牽制する。

 マチルダの【メルト】より威力は低いが、結構な音だ。全員が目を覚ますだろう。

 俺は右、アキトは左だ。焚火より前に出るな。それと少し薪を追加しろ、ゆっくりだぞ!」


 俺は右手で数本の薪を取ると、焚火に投げ込んだ。

 焚火の火勢が上がり周りが少し明るくなる。


 すると、森の闇の中にうっすらと光るものが見えた。だんだんと光るものが増えてきたとき、それが何かの目であることは解ったが、動物にしては少し大きすぎる。


 「おいおい……こんな所にいるのかよ。アキト、あれはタグの目だ!」

 「タグって何ですか?」


 「タグも知らないのかよ。森の向こうの草原地帯に大きなタグ塚を作って生息している昆虫だ。飛べないし、毒も無い。だが奴らの牙は何でも切り裂き群れで行動する」

 「戦闘で注意する点は?」


 「奴らの表皮は硬い。お前のぶん殴り攻撃はたぶん利かん。目と腹部の表皮にある境目が唯一の弱点だ」


 だんだんと大きな目が広場に近づいているように思える。俺は、さらに焚火へ薪を投げ入れた。


 そして、森の中から最初のタグが現れた。

 それは、巨大なアリだった。大きさは2mぐらいで口元には短剣状の牙がカチカチと俺達を威嚇するように噛み合い音を立てている。


 たちまち数匹が後に続いて森を出てくる。更に後続がいるようだ。

 グレイさんは爆裂弾をタグの群れに座ったままで投げ入れた。


 ドォン!

 爆裂弾が爆発して群れの中に火柱が立ち上がる。2匹が巻き添えになり炎に身をもだえさせている。


 「来るぞ!」


 俺達は立ち上がると、打合せ通りに焚火の左右に分かれて武器を構える。

 俺は採取鎌だ。グレイさんの忠告は受けたが、目を鎌で攻撃すれば何とかなると思っている。


 音に驚いて皆が次々と岩屋を出てくる。

 目の前のタグに驚いているようだが、カンザスさんが直ぐに配置を告げる。


 「サラミスはミズキと一緒にアキトへ行け。マチルダは此処で魔法攻撃。俺とサニーはグレイ側だ。お嬢ちゃんは焚火を絶やさないようにしろ」


 マチルダさんはタグへ攻撃する前に、【メル】っと呟き、俺の前に積んだ薪に火を点けた。


 「大きいアリさんだねぇ」


 暢気な声の姉貴だが、しっかりとクロスボーの先にある金属の輪に足を掛けて両手で弦を引いている。


 「サニーさんはとんでもない威力だと言ってたが、タグ相手に使えるのか?」

 「たぶん大丈夫だと思うよ」


 サラミスの疑問にそう答えると、俺はタグの群れを眺める。

 ドドォン!、ドドォン!

 マチルダさんの【メルト】が続けざまにタグの群れを襲う。確かに爆裂弾より威力は上だ。たちまち数匹のタグが火炎に包まれる。


 焚火の右側にタグが集中する。左側の俺達の方はマチルダさんが点火してくれた焚火のお蔭で侵入してこない。タグって火を恐れるのかも知れない。

 カンザスさんとグレイさんで襲い掛かるタグの足止めをしている。


 片手剣と長剣でタグに立ち向かっているが、表皮が相当硬いせいか、折ることは出来ても切り取るまでには至っていない。それでも、前足を折られたタグは顎の牙だけの攻撃を仕掛けているが、2人は容易にかわしているようだ。

 其処に、サニーさんの放つ矢がタグの複眼に突き立つ。

 軽く突き立つ矢では利かないみたいだ。動きに変化が現れない。しかし、次の矢は半分近くもタグの複眼に深く刺ささると、タグは体を痙攣させたかと思うと、その場に倒れ落ちた。


 目が急所って言ってたのは、目の奥にタグの脳幹があり、それを狙えってことだと理解した。

 突然、俺達の前に一匹のタグが前足を振り上げて襲ってきた。

 咄嗟に鎌のような前足の一撃を体を回して避けると、その勢いを利用して複眼に鎌先を叩きこむ。


 ズブッ!っという鈍い手応えで、鎌先が複眼の奥深くまで入り込む。

 すると、タグは後ろ足だけで棒立ちになり体を痙攣させてドタッ!っと倒れた。

 採取鎌はタグの立上がる時にズルッと抜くことが出来たが、あまり言い感触ではない。


 ちらりと姉貴を見ると、グレイさんが相手をしているタグを狙っている。

 パシュッ!っと発射されたボルトはタグの複眼を貫通して別のタグの腹部に突き立った。

 タグの最後を見ずに姉貴は次の発射準備をしている。近くのミーアちゃんはせっせと焚火に薪を追加していた。


 俺の後ろの方では、マチルダさんが【メル】と呟きながら火炎弾をタグにぶつけている。タグの群れがバラけてしまったため、個別の攻撃に切替えたみたいだ。


 「アキト!」


 サラミスの叫びが上がる。タグの前足を1本長剣で折り取ったようだが、別のタグが攻撃に加わったらしい。

 慌てて、手傷を負ったタグに走りより飛び上がって複眼に鎌先を叩きこむ。


 急いで鎌先を抜き取り、サラミスの援護に回る。タグの注意をこちらに向けさせ、サラミスの接近を気付かせないようにすると、タグの隙をついてサラミスが飛掛かり複眼に長剣を突刺した。


 「ダメだ。支えきれん!!」


 グレイさんの方に数匹が同時に攻撃を仕掛けたようだ。マチルダさんが急いで火炎弾を放とうとするがグレイさん達とタグがあまりにも接近しすぎて躊躇している。


 「アキト!」


 余りの光景にボーっとしていたようだ。姉貴の声で、我に返ると腰のホルスターからM29を引き抜き両手でしっかりと構える。


 ドォン!、ドォン!……。

 1発、1発確実にタグの頭を狙ってトリガを引く。

 シングルアクションだから1発毎に撃鉄を親指で起さなければならないのが難点だ。

 44マグの弾頭はタグの頭に大きな穴を開けて貫通した。まるで内部で爆発したようにも見える。


 6発の弾丸を発砲すると弾倉をスライドさせて薬莢を抜取り、素早く弾丸ポーチから予備の弾丸を補給する。弾倉を持って銃に確実に弾倉を戻す。

 そして、再度構えて発砲しようとしたが、もうそこには動き回るタグはいなかった。


 親指で撃鉄を少し引き、デコッキング動作をゆっくりと行い内蔵された安全装置を作動させる。そして、素早く銃を腰のホルスターに納めた。


 「今のは、何だ!」


 サラミスが詰め寄ってくる。


 「俺の切り札さ。クルキュルもこれで倒した」

 「俺にも出来るか?」


 「出来るかも知れないけど、1回だけだ。そして2度と剣を握れなくなるぞ」


 剣を握れなくなるってことが響いたらしい。その後の追求は無くなった。


 どうやら襲撃を撃退できたらしい。皆で焚火で沸かしたお茶を飲みながら、休息を取った。


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