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#194 生きていた超磁力兵器

 

 ケイロスさんの執務室は王宮の1階、練兵場に隣接した所にある。

 副官を先頭に歩いていくと、喧騒が廊下に響いてきた。

 

 「みっともない話だが、謁見広間でのミズキ殿の言葉で、あれ以来あの通りだ。毎日、残された1人の枠を巡って各部隊の隊長と投槍自慢の者達が押しかけてきよる。」

 そう言いながらケイロスさんがタメ息を付いた。


 「誰も来ないよりは遥かにいいじゃないですか。それだけこの国の兵力が充実していると考えるべきです。」

 「そうとも取れるか…。だが、流石に毎日では、気が滅入る。アキト殿を此処に招いたのは、その対処を図って欲しいからなのだ。」

 「まぁ、少しはお役に立てると思いますよ。」

 

 副官が部屋の扉を開けると、途端に喧騒が止んだ。

 ケイロスさんと俺が続いて部屋に入る。

 部屋そのものは、教室より少し小さいくらいで、窓際に大きな机と本棚が1つある。そして、部屋の中ほどには10人程度が座れる丸いテーブルが合った。

 陳情団はそのテーブルのそばに立って、ケイロスさんを注目している。


 「まぁ、座れ。アキト殿は知っておるな。今回はアキト殿を交えて残りの枠をどうするかを決めたい。」

 侍女が部屋にお茶を運んでくる。それを見て副官が窓を開けに行った。

 

 俺はお茶を1口飲む。

 「皆さん、何れも腕に覚えのある方とお見受けします。枠に誰が入るかを決める前に、俺達がどうやってザナドウを倒したかを説明します。先ず、それを聞いてから再度名乗りを上げてください。」

 俺の言葉に全員が注目する。銀持ち10人が倒せなかったザナドウをどうやって倒したか。興味津々である事は間違いないみたいだ。


 副官に大きな紙と筆記用具を用意してもらう。

 用意してくれた紙に丸を3つ描く。


 「中心がザナドウになります。ザナドウの周りに描いた円の直径は、100Dと200Dです。」

 

 ザナドウ狩りを段階毎に説明する。

 第1段階は、人員配置とザナドウの目の狙撃

 第2段階は、3方向からの攻撃

 第3段階は、爆裂ボルトによる足の破壊。

 第4段階で爆裂球を使用した口内破壊、そして止めを刺す。


 「という感じですね。」

 俺が、概略を説明し終えると、全員が黙ったままだ。

 ちょっと気不味いので、お茶を飲みながらタバコに火を点ける。


 「ちょっと、いいか?…色々と問題がありそうな気がするぞ。先ず、目を潰すのは理解できる。どうやって潰すのだ。我らの弓ではそれだけでも何日か掛かるだろう。」

 「俺の持つ魔道具を使います。300Dなら間違いなく破壊できます。」


 「投槍を100Dで使用しても効果はあるんですか?」

 「ザナドウの皮膚の下は分厚い筋肉の塊です。厚さは1D以上と考えて下さい。先程、特注の投槍を注文しました。それを使います。」

 「アキト殿の注文した投槍は長さだけが通常の投槍だ。穂先は片手剣より長い。」

 ケイロスさんが補足してくれた。


 「それを、100Dの距離から投げるんですか!届いても刺さりませんよ。」

 1人が声を荒げて俺に言った。


 「いいですか。ザナドウに接近する事は命を無くす事に他なりません。辿りつけない楽園とまで言われる所以ゆえんがそこにあります。100Dの距離で特注の投槍をザナドウに叩き付けられる者が、残りの枠に入る事になります。」

 俺の一言に、全員が驚愕する。

 

 「では、ザナドウを狩るために長剣で挑むのは無理なのか?」

 「自殺志願者としか思えませんね。」


 「という事は、100D以上投げられる事が条件となる訳だな。…そこまで条件を付けるアキト殿はどの程度の飛距離を得ているのだ。」

 「…300D。」

 ケイロスさんの言葉に俺は呟くように応えた。

 途端に部屋が喧騒に包まれた。


 パンパンとケイロスさんが手を叩く。

 「実際にザナドウを狩った者が言っておるのだ。悪戯に騒ぐでない、見苦しいぞ。」


 「実は、皆さんもその位は投げられるはずです。道具を使えばですけどね。」

 魔道具を使うのか…等と言う人がいるけど、とりあえずスルーする。


 「たぶん参加を希望される方は多いでしょう。そこで、選考会を開いて優秀な者を選抜したいと思います。飛距離、正確さ、刺さる深さ…これを総合的に評価すれば誰もが納得するでしょう。5人選びたいと思います。」


 それならといろんな評価方法を集まった者達が言い出し始めた。

 勿論提案する者に都合がいい評価基準ではあるが参考にはなる。

 当然判定方法とその基準を決めるのはこの面子では至難の業だ。もめにもめたテーブルを叩いてケイロスさんが場を静かにさせる。


 「そこまでだ。後はワシの権限でやらせてもらうぞ。…だが、今日の議論は今までで一番建設的ではあった。少なくとも投槍を100D投げられない者は論外な訳だから各自練習に励むのが良いだろう。そして、この案は王の裁可を得た後にギルドに表示をする。いったい何人の猛者が来るかは分らぬが、その者達に後れを取るなど許されぬ事だ。…もしも、5人の中にお前達が1人もおらぬような時には近衛兵の兵科から投槍を削除する。好いな!」

               ・

               ・

       

 そして、3日後にギルドのホールにある太い柱に2つのポスターが貼られた。

 2つともザナドウ狩りの勇者募集のポスターだ。投槍と水魔法の使える魔道師を募集する。一時選考を行い上位5人には金貨1枚が与えられる事。そして、選考会の日程が記載されていた。その日程は後5日後だ。

 見学者の抽選日も書かれている。これは意外と、この国始まって以来のイベントになりそうな気配が濃厚だぞ。


 そんなお祭り騒ぎは王様達に任せておいて、俺達は客間でディーの作成した地図を睨んでいる。

 ディーの報告と、描き出された地図そして、ザナドウの情報は俺達の予想とは大きく違っていた。

 ディーの情報とは、南西部の山岳地帯に広がる地磁気の異常である。

 磁石が効かないどころではなく、ディーの活動にも支障のあるレベルで磁場の強弱があるらしい。その強さは金属体に電流を生じる程のものだと言っている。人体には影響が無い微弱な電流ではあるが、ナノマシン集合体であるディーにとっては、ナノマシン同士の結合や情報伝達にノイズが入る事になるため重大な問題になる。

 

 「この範囲での活動は、身体機能維持にエナジーを多大に使用します。通常の25%程度の活動となってしまいます。」

 「それって…。」

 「レールガンは使用出来ません。生体探知も30%程度の距離がやっとです。」

 姉貴の問い掛けにディーが応えた。

 

 そして、ディーが活動制限を受ける範囲にザナドウが生息している。

 ディーが確認したザナドウは11匹。3つの群れを作っている。群れ相互の連携は無さそうだし、連携を取るにしても5km以上群れが離れている。

 一番小さな群れは2匹だ。そしてそれは、山脈の一番深い谷底にいた。


 「一番近い村から30kmも距離があるわ。」

 「直線ではね。尾根伝いに歩くとなれば…50kmはあるよ。」

 結構な距離だ。3日は掛かるような気がするぞ。

 「ディーには弓を担当して貰いましょう。あの弓は引けるの?」

 「5本程度なら問題ありません。」

 それだけでも大量のエナジーを必要とするのか…いったい何が山脈にあるんだ?


 改めてディーの描いた地図を見る。

 平野部から一気に険しい山が聳え、その裏側に盆地があるのだ。だが、良く見るとこれって大きなクレーターに見えるぞ。丸い盆地に外輪山…そして中心部は平らだ。盆地には川すらない。比較的低い尾根を越えながら、道を見つけながら進む事になる。


 でも、クレーターならもっと大きな被害半径になるような気がする。大きな山脈の裾野に何かが落下して出来た…いや、爆発して出来た地形に見える。

 

 「ディー。この地形は最終戦争に関係していると思う?」

 「超磁力兵器が爆裂せずに弱燃状態を保っていると想定されます。」

 「それって、どんな兵器なの?」

 「超磁性体にパルス状の電磁波を与えて周辺の磁場を急変させます。それによりマントル対流を一気に加速あるいは停止させます。但し、停止した対流はその後急速に元に戻ろうとするため…。」

 「地殻変動が誘発されるんだな。」

 ディーは頷く事で俺の言葉を肯定する。

 「では、この地形は…。」

 「高々度からの複合型超磁力兵器が投下されたものと推察します。1つは炸裂。そして次発目が冷温炸裂。未だに広範囲に高い磁力線を回転させているようです。」

 「生命体に影響は無いのかな?」

 「渡り鳥が磁力異常の上空を飛んだ場合は、目的地への飛行は出来なくなると推察しますが、通常の生命体であれば不快感を覚える程度でしょう。原子核のスピンにまで影響を及ぼす事はありません。」


 俺達は直接磁力線を感じる事は出来ない。だが、磁力線の中では誘電率の高い物質の流れに影響が及ぶ可能性がある。血流の流速が変わる恐れもあるのだ。それによる影響…こればっかりはその場に行かないと分からない。

 ザナドウ狩りの生存者が3人いたという事だから、ケイロスさんに調査をお願いしよう。それに、あの山脈に近い村ならば言い伝え何かも残っている可能性がある。それの調査も合わせて行なう必要があるだろう。

               ・

               ・


 モスレム王国からの馬車がエントラムズの王宮に着いたのは、選考会の前日だった。

 到着の知らせが王宮よりパロン家にもたらされ、俺達は早速王宮にお邪魔する事になった。

 王様と食事を取った部屋に案内されると、そこには御后様とイゾルデさんそれにサーシャちゃんとミーアちゃんがテーブルに着いている。


 「良く私達を思い出してくれました。今年最高の狩りが出来ます!」

 イゾルデさんはヤル気十分だ。

 「ほんに退屈とは無縁になったものじゃ。」

 御后様は嬉しそうだ。

 「今度は、大丈夫!」

 これは、サーシャちゃんだ。ミーアちゃんも頷いてる。

 

 「申し訳ありません。エントラムズ国王との約束でこんな事になってしまいました。」

 俺は、御后様達に頭を下げた。


 「よいよい。王宮は退屈じゃ。…エントラムズ王子は退屈ではなかったかも知れぬが我等には平穏はどうもな…。丁度良い具合にイゾルデも帰ってきたので早速にな。我が王も、トリスタンも納得済みじゃ心配はいらぬ。」

 御后様は侍女の入れてくれたお茶を優雅に飲んでいる。


 「所で、出発は何時ですの?私達は何時でも大丈夫ですよ。」

 イゾルデさんがソワソワしながら言った。まるで早くしないと誰かにとられてしまうような言い方なんだけど、誰にも取れないから大丈夫だと思うぞ。


 バタンと扉が開いて、エントラムズ国王夫妻が入ってきた。ケイロスさんも一緒だ。

 「遠路遥々とすまない。出発は何時か?と聞いていたようだが、実は…。」

 王様が参加者の空き枠に参加希望者が殺到している事を話した。


 「それで、明日に選考会を開く。投槍を使える者5人と水魔法を使える魔道師を5人選ぶ。その中から、1人ずつ我等で選びたい。」

 「兄上も面白い事を考え付いたものよ。当然賭けが行なわれるのじゃろうが、程ほどにせぬと御后より愛想を付かされるぞ。」

 エントラムズの御后様が、ほらね!って顔で国王を見ている。


 「実はその事で、お話しすることがあります。ディーに先行偵察を依頼しました。その結果がこれです。」

 テーブルに地図を広げる。


 「良くこんな地図を短時間で作ったな…この小さな赤い丸がザナドウなのか?」

 「そうです。確認出来たザナドウは11匹。3つの群れを作っています。前回は単独のザナドウを狩りましたが、今回はこの2匹を同時に狩る必要があります。」

 全員が地図を睨み俺の説明を聞き入る。


 「そして、問題が更に出てきました。この地形です。何かが地面に突き刺さってその後に大爆発を起こしたような地形です。それなら、過去のアルマゲドンの遺物として考えればいいのですが…。この時、爆発すべきものが爆発せずにゆっくりとその物理現象を継続している事が分かりました。」


 「我等に分かるように言ってほしいのだが…。」

 王様の言葉に全員が頷く。


 「ここでは大森林のような磁石が役に立ちません。地磁気が強力で且つ変動しているのです。ディーの場合は深刻です。活動制限が掛かって、レールガンが使えません。周囲の探知能力も半分以下です。俺達にも何らかの異常が起こる可能性があります。」


 「生存者の話を聞いてきたぞ。3人とも言った事は同じだった。ザナドウのいた場所では、何故か体がだるくなる。そう言っていた。」

 ケイロスさんが俺の言葉を補足してくれた。


 「長時間の戦いが無理な状態で2体のザナドウを狩るのじゃな…。」

 「じゃが、一度ザナドウを倒しておるのも確かじゃ。ここは、選考会で選んだ5人をそのまま連れて行く事を前提に作戦を立てるべきじゃ。」

 確かにアルトさんの言う通りなんだけどね。

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