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#019 泉の森の岩屋

 

 村の東の門を抜け、泉の森に向かう一本道を8人でテクテク歩いてる。

 たまに、道の左右に広がる畑に残されたガトルの足跡を確認しているけど、確かに方向的には泉の森の方向、東から真っ直ぐに来ている。


 何時もなら畑に向かう農家の荷車にでも乗っけてもらうのに、ってサラミスがブツブツ言ってるけど俺達はまだ乗せて貰った事などない。時間帯が違うのかもしれないな。


 十字路を過ぎ、橋を渡ると泉の森が見えてきた。

 アリット採取の時と同じように、森の手前にある広場に差しかかるとグレイさんが片手を上げて俺達の歩みを止めた。


 「少し早いが、此処で昼食だ」


 俺達は焚火跡に輪になって昼食を取る。と言っても、黒パンを齧り、水を飲む程度なんだけどね。


 「畑に残された足跡から判断すると、どうも小川の下流部を渡ったようだ。橋を渡ってからは道の右側にだけ足跡が残されている。

 泉の森の深遠部は上流側だから、クルキュル等には出くわせないと思うが、道を外れて進むからこれからは注意しろよ」


 カンザスさんの言葉に俺達は頷く。

 黒パンを食べ終えて少し休憩したら出発だ。今度はカンザスさんが先頭を歩く。


 道を右に逸れて、下流に歩きガトルが小川を渡った場所を探す。

 リリック釣りをした反対側を通り過ぎしばらく行くと、その場所が分った。

 小川が広い浅瀬になっており流れもそれほど速くない。大型犬並みの体形を持つガトルなら流されること無く川を渡れるだろう。岸辺には浅瀬に向かって沢山の足跡が残されていた。


 「此処から森に入る。後ろは任せたぞ、アキト!」


 カンザスさんにそう言われて少し緊張しながら列の最後に付いて行く。

 森の中は鬱蒼とした木々が前方の見通しを悪くしている。それに結構藪が多い。足を取られないように注意しながら前を歩く姉貴に続く。


 藪をよく見ると、枝や葉が折れているものが多い。カンザスさんはこの跡を辿って進んでいるみたいだ。


 不意に姉貴の歩みが止まり、皆姿勢を低くしている。慌てて俺も同じように姿勢を低くする。


 「何かいるみたいだよ」


 姉貴が小声で教えてくれた。

 前のほうにいるマチルダさんが俺達のほうに向かって、こっち!って指先で方向を示す。


 その方向をよく見ると、鹿のような獣が数頭ばかり草を食べている。

 しばらく待っていても、鹿は動かない。

 俺達は姿勢を低くしたまま、静かに移動を開始した。


 姿勢を低く保ったまま進むのは苦労するし、疲れる。その上俺は後ろの注意もしなければならない。やっと皆が立ち上がって歩き始めた時は、ちょっと止まって背筋を伸ばした。


 また俺達の歩みが止まる。


 「今度は休憩だって」

  

 姉貴が後を振り向いて、小声で教えてくれた。

 皆で一塊になって座り込んでいるところにカンザスさんがやってきた。


 「俺と、サニーで野宿場所を偵察してくる。後はグレイに任せるから彼に従って進め。いいな!」


 俺達が頷くのを見て、2人は前方の繁みに消えていった。


 「この森には何箇所か野宿に適した場所があるんだ。彼らは一番近くの場所を見にいったのさ。もう直ぐ着くから、あと少しの辛抱だ」


 そう言って立ち上がるグレイさんに続いて俺達も腰を上げる。

 人数が少なくなったためか、今度は最後尾の俺にも、先頭のグレイさんが見える。


 しばらく、ゆっくりした足取りで進んでいたが、グレイさんの手による指示で歩みを止めて、姿勢を低くする。

 ガサガサと藪を押しのけて現れたのは、カンザスさん達だった。グレイさんと短い遣り取りの後で列の中に入ると、再び俺達は森を進む。


 いつの間にか周囲の藪にガトルの通過したが跡が見当たらない。

 それでも、グレイさんは前方に歩いているし、カンザスさんも黙認している。

 更に進むとその理由が解った。前方が開け、ちょっとした草原になっている。そして、その真ん中には大きな石を組み合わせた石室みたいなものが建っていた。見た感じ、石舞台みたいだ。


 「あれって古墳の石室みたいだね」


 姉貴も同じように感じたんだろう。

 俺に振り返ると、小さな声で言った。


 「今日は此処で野宿だ。獣に備えて焚火をする。グレイ、サラミス、アキト。薪を集めて来い」


 姉貴に採取鎌を預けて、グルカナイフを抜く。

 枝打ちには結構これが役立つ。

 始めて見る俺のナイフの形状に驚いた者もいたが、気にせずに森に入って立木の枯枝を落としはじめた。

 生木も少しは混じってるが気にしない。適当に薪の束を2つ作ると、ナイフを仕舞って薪を担いだ。


 「こんなもんで良いですか?」


 岩屋の前にある焚火跡の傍に薪の束を降ろす。

 カンザスさんも近場で探したらしく、薪が置いてある。


 「ああ、いいだろう。……火を点ける。中からマチルダを呼んできてくれ」

 「火なら、これで……」


 俺は枯草を丸めると、ポケットから100円ライターを取出して、カチッ!って火を点けた。

 吃驚したカンザスさんだったが、長剣のケースに付けたパイプを取出して一服し始めた。

 

 カンザスさんの隣で焚火の番をしていると、グレイさんとサラミスが大きな薪の束を担いで帰ってきた。

 一番大きな束を岩屋の前に置いて柵代わりにするみたいだ。


 「さて、夕食の準備だ」


 カンザスさんの一言で、マチルダさん、サニーさんと姉貴が鍋を持ってきた。サラミスが慌てて自分の袋を開けて調理用品を取出す。

 マチルダさん達の鍋は鉄製で1リットル程度の鍋だが、俺達のは容量的には同じだけどチタン製だ。少し黄色を帯びた銀色の鍋を皆が見てる。


 「鍋まで俺達とは違うのか。・・そんな金属初めてみたぞ」


 サラミスが自分の鍋を火に掛けながら言った。


 「気にしないで下さい。私達の国では皆使ってましたから」


 姉貴は微笑んで言ってるけど、そんな話は始めて聞いたぞ。キャンプでもしない限り使わないと思うけどね。


 お湯が沸くと、アルファ米をシェラカップに1杯入れて、乾燥野菜とビーフジャーキーを適当に切って入れる。

 再沸騰したらチューブの味噌を加えて出来上がりだ。

 皆の料理が終わるまで、遠火で鍋を暖めておく。

 

 マチルダさん達はお湯が沸くと、少し萎びた野菜を入れて乾燥肉を入れている。味付けは塩のみだ。

 サニーさんとサラミスは萎びた野菜の代わりに、何か雑草みたいなのを入れてたけど……。

 煮立ってきたらそれでお終い。木の深皿に柄の付いたお玉みたいなので掬って、硬そうな黒パンを添える。


 俺達の夕飯は汁の多い雑炊モドキだ。シェラカップ3つに分けて、俺と姉貴それにミーアちゃんで食べる。


 「それ、泥水みたいだけど・・美味いのか?」


 サラミスが聞いてきたので、少し分けてあげたけど、食べた途端、彼の顔が顔が驚きの表情に変わった。

 

 「お前達、何時もこんなのを食べてるのか?」


 姉貴と俺は顔を見合わせると、ウンと頷いた。


 「村に帰ったら、造り方を教えてくれ。この味は塩だけじゃないよな」

 「基本は塩と磨り潰した豆を発酵させたものかな。あと少し薬草みたいなのが入ってるけど……」


 豆を発酵させるなんて……。そんなことをサラミスは呟いてたけど、この世界では味噌なんて無いんだろうなぁ。


 「俺は、その大型ナイフの方が気になるぞ。見せてくれないか?」


 カンザスさんにグルカナイフをケースから引抜きぬいて手渡す。

 ジッとナイフ見ていたが、立ち上がると片手で少し振り回わす。納得して座り直すと今度は鍛造された刀身を自分のナイフで小さく叩いて音を確認している。


 「これを作った鍛冶屋を紹介してくれ!」


 俺にナイフ渡した後、カンザスさんが言った。


 「ダメだ。俺も頼んだが、亡くなったそうだ」

 「残念だ。……実に残念だ」


 「そんなに凄いの?」

 「ああ、音が違う。俺の長剣よりも遥かに錬成されている」


 サニーさんがカンザスさんに聞いてる。どうやら、カンザスさんとサニーさんはチームを組んでいるみたいだ。それに、グレイさんとマチルダさんも確か同じだったような気がする。ひょっとして、フリーなのはサラミスだけ?


 「私は、ミズキの弓の方が凄いと思うわ。昨日だって、ガルド3匹を1本で仕留めたのよ。凄い貫通力だわ」

 「あの弦が3本ある弓か?」


 「ええ……でも、弦は1本って言ってたわ。それに使う矢は私の3分の1の長さも無くて太いのよ。殆ど即死だわ」

 

 そんな話をしながら食事を終えると、ポットを火にかけてお茶を飲む。

 俺達はタバコやパイプを咥え、姉貴達は姉貴がキャンディーを分けていた。

 

 「さて、今夜は此処で野宿となる。男が4人で女が4人。男は2人ずつ、女は4人で焚火の番をする。

 女達が最初だ。その後はグレイとアキト。最後は俺とサラミスだ。

 番をする時は、岩屋と焚火の間に入れ。薪はこれだけある。夜は焚火を小さくしないように、……いいな!」


 俺達は早速カンザスの指示に従って食器類を片付けると、岩屋の中に入って寝ることにした。

 カンザスさんが小さなランタンを入口近くの岩棚に置くと岩屋の中が急に明るくなる。

 装備ベルトを一旦外し、ポンチョを引き出す。ポンチョを広げると、中に入れていた食器類を一纏めにシートに包む。

 そして、装備ベルトを再度身に付け、ポンチョを毛布代わりに体に巻きつけて横になった。


 傍らのサラミスは大きな袋から薄い毛布を引っ張りだすとそれに包まった。

 カンザスさんとグレイさんは肩のバッグを下ろし、その中から厚手の布を取り出して包まる。

 あんなのがあるんだ。と思いながらも何時の間にか寝入ったようだ。


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