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#186 傭兵の襲撃 2nd

 

 傭兵部隊の襲撃が失敗に終って、数時間が経過したがその後の襲撃は無い。

 だいぶ日も傾いて、もう直ぐ南の森に沈むだろう。

 先ほど、少し早めの夕食を取ったが、硬く焼しめた黒パンを熱いお茶で食べるという、いささか栄養学的に問題がありそうな食事だ。それでも、少しでも食べていないと今夜を乗りきる体力が持たない。兵隊達も文句を言わずに齧っていた。

 もっとも、嬢ちゃんずは村に戻ったら食べる料理をかわるがわる披露して食べていた。それを聞いていた者達がたまにニコリと顔が緩むのは、自分達も同じ事を考えていたのだろう。


 そして今は再度、熱いお茶を貰い皆で焚火を囲んでいる。

 「とうとう来ませんでした。やはり、夜襲になるのでしょうか?」

 アン姫が姉貴に問うた。

 「来るでしょうね。でも、来るのは傭兵だけだと思うわ。そして…深夜が怪しいわ。」

 「大部隊の夜襲は未明時を狙うのがもっとも効果があると思われますが…」

 アイアスさんが姉貴に異論を挟む。

 

 「本来ならそうするでしょうね。…でも、現在敵対している相手は少し違います。最初は素人なのかなって思ってましたけど、敵の狙いが少し見えてきました。敵は傭兵部隊を磨り潰す積りのようです。」

 俺達は唖然とした表情で姉貴を見た。

 

 「今日の朝までと、傭兵の撤退後では敵第3梯団…正規軍の配置が少し変化してます。今朝の配置はこうですが、今はこのようになっています。」

 姉貴が地図上に配置した正規軍は1つの部隊を2つに分けて2重の鶴翼陣を成している。

 その配置は、砦の直ぐ東方に集結した傭兵部隊を300m程離れて取り囲むような形だ。


 「これはいったい…。」

 「誰かが傭兵部隊を引き連れて、この戦いを主導した…。と考えられますね。新興国としてどの様なメリットがあったかは不明ですが、例え敗れても新興国を国として国境を接する国に認めさせることが出来る事と国境を定めることが出来る訳ですから、口車に乗った形で参加したと考えられますね。…とは言え、ドラゴンライダーは壊滅、大蝙蝠の空軍も見る影もありません。正規軍は厭戦気分がいっぱいの筈です。」

 

 「それでも、この戦いを継続する利点は…。西ですか?」

 ジュリーさんが素早くモスレムの国情を分析して姉貴に問うた。


 「ほぼ確定です。この戦いが継続している内はモスレムの軍隊を2分して当らねばなりません。…敵の計算ではモスレムの軍隊は、3分して対応する事になると考えていたようですけど、北はアクトラス山脈の冬を理由に動かなかったようですね。」

 

 「だけど、それならもっと長く戦えるように森に移動しないのかな。森ならゲリラ戦を続けられるから、モスレムの軍隊を長期に引き止められるよ。」

 「それよ!…でもね。考えると単純なの。傭兵に弓兵がいないでしょ。どう考えても不自然なの。傭兵とハンターの厳密な境って無いのよ。ある意味傭兵はハンターでもあるわけ。絶対に武器はばらばらになるわ。でも、あの傭兵達はある意味揃って連携してるでしょ。あの傭兵は正規軍よ。…カナトール王国のね。」


 全員の視線が姉貴に集まる。

 「カナトールは何を企んでいるのでしょうな。…西は100M(15km)の領有を巡っての争いだと聞きましたが…。」

 「その100Mに何かがあるんでしょうね。これだけの企てをするからには…。私達は地下資源、金か銀の鉱脈を見つけたんだと思ってるんだけど…。」

 ガリクスさんの呟きに姉貴が後を続けた。


 俺はタバコを咥えながら、気になったことを聞いてみる。

 「傭兵達は振興国が戦争を嫌ってるのを知ってるのかな?」

 「知らないでしょうし、気にも留めないでしょうね。後ろを囲んでいるのさえ、ミーアちゃんの夜襲から守ってくれてると思ってるはずだわ。」

 「それって…。」

 「新興国の指揮官は頭が切れるって事よ。戦の流れを良く読んでいるわ。昨夜の夜襲だって、我々に対する示威行動だと思えば中々のものよ。」

 

 「だとすれば交渉の余地があるということですか?」

 ジュリーさんが聞いてきた。

 「はい…。明日の昼にはそうなると思います。その為にも、今夜の夜襲は徹底的に行う必要があります。…でも万が一、正規軍が柵に取り付いたら、躊躇うことなく森に退避してください。」

             ・

             ・

 

 夜も深けた頃、柵の前後に焚火をして、姉貴は全軍を200m程森に下がらせた。

 敵の夜襲が柵のどちら側になるか判明しない事と、敵の大蝙蝠が10匹程度残っている為だ。姉貴は空からの攻撃は無いだろうって言ってるけど、念の為らしい。

 

 冷えた体を焚火で温めながら、コーヒーを姉貴と飲んでいる。伝令の亀兵隊にも分けてあげたら苦そうな顔をして飲んでいた。

 何本目になるか判らないけど、手持ち無沙汰をタバコで紛らわせる。ショットガンの弾丸は20発を切ったから、今夜は接近戦になるだろう。

 姉貴もグレネードを先ほどランチャーにセットしたようだし、今はパイソンのシリンダーを確認している。

 ディーは、昼間と同じように収束爆裂球を足元に置いている。

 

 「敵軍に動きがあります。第2梯団砦の左より前進。第3梯団の三分の一が右側を前進中。」

 「引き続き全体監視をお願い。」

 ディーの突然の報告に姉貴が即応した。

 

 「第2梯団が砦西の柵に到達しました。引き続き前進中です。…第3梯団前進部隊は南に展開しながら西の柵を越えました。第3梯団本体が北に移動しています。」

 どういう事だ? 思わず姉貴の顔を見た。


 「傭兵狩りの準備をしてるのよ。南に展開したのは弓兵達ね。たぶんここから200m位の距離で停止するわ。北の部隊はこの後、前進するけど砦の西より先には出ないはずよ。」

 俺にそう言うと、後の亀兵隊の1人に伝令を頼む。

 「屯田兵の4部隊を北の柵に展開。前衛は三位一体、後列は弓兵で。アルトさんとサーシャちゃんは柵の外れで機動防御。魔道師部隊は弓兵と交互に交戦する事。…以上お願い。」

 急いでガルパスを走らせる伝令を見ながら、次の伝令を頼む。

 「屯田兵の1部隊を南の柵に展開。ミーアちゃんは現状待機。…以上お願い。」

 2人目の亀兵隊も急いで部隊に走って行った。

 

 姉貴が3個光球を3重に柵の上空に放つ。北の柵の上にも数個の光球が上がっている。

 「敵第2梯団、距離250で前進中。敵第2梯団北側部隊砦の西の柵に到達後停止しました。南側部隊、距離300で前進中。」


 ディーはそう告げると、ヒョイって柵を飛び越え集束爆裂球のロープを持つ。

 しばらく前方を見ていたが、やおらロープを握るとブンブンと廻し始め…爆裂球を敵の真中に放り投げた。


 ドオオォン!っと集束爆裂球が炸裂して宙高く傭兵が吹き飛ばされる。

 続いて、亀兵隊達の投石具による爆裂球が一斉に投擲される。

 先程より炸裂する威力は小さいが、数が多い、それに広範囲に投擲されているから、ある意味醜悪な感じがする。


 ウオォー!!それでも雄叫びを上げて傭兵が柵に突っ込んできた。

 だが、その軍勢に向って【メルト】と【メルダム】が襲い掛かる。そして、更に長剣を掲げて殺到する用兵に向って矢が放たれた。

 数本の矢に貫かれても傭兵の突撃は止まらない。

 

 「アキト、お願い!」

 姉貴の言葉に、俺は北の柵に向かって走り出した。

 ショットガンを柵を乗り越えようとしている男に向って発射する。

 柵に倒れこんだ男を足場にして次の男が柵を乗り越えようとする。その男に向って次弾を放つ。

 更に次の男が乗り越える。

 槍が男の腹を両側から抉る。その槍は直ぐに引き戻されて、次の男に突き刺さる。

 爆裂球を投げて後続を断っても、直ぐに次の傭兵が柵に取り付いてくる。


 ドォン、ドォン…っと【メルト】が連続して炸裂すると後列が断たれて少しの間休息が出来る。

 ショットガンに最後の弾丸を装填する。素早く4発を柵越えを図る傭兵達に打ち込む。

 後に下がって、ショットガンを仕舞いこんで刀を引抜く。

 もっと北の方では激戦のようだ。


 ちらりと姉貴を振り返ってみると、雨のように火矢が降り注いでいた。

 だが、少し距離が足りないような気がする。 火矢は柵の外側に落ちて姉貴のいる柵の内側には1本も落ちてこない。

 姉貴の思惑通りなのか?そんな事を考えながら北に向かう。


 ドォン…っと【メルト】が炸裂し、数個の爆裂球がそれに続いて炸裂する。

 ジュリーさんとサーシャちゃんの部隊が柵の切れ目のところで奮戦していた。

 ガルパスを一列に並べて即席の陣地を作っている。

 その後に隠れ、残り少ない矢と爆裂球で対処している。

 

 ガルパスを乗り越えようとした男の脇腹にボルトが食込んだ。

 陣に転がり落ちると、投槍がその男に突き刺さる。胸のストラップからパイナップルを取ると右手で傭兵達に真中に投げ込んだ。


 「伏せろ!」

 俺の言葉に亀兵隊の全員が地面に伏せた。そして手榴弾が炸裂する。

 

 「もうダメかと思ったのじゃ。」

 サーシャちゃんがしがみ付いてきた。

 「もうちょっと、みたいだ。はい!」

 俺はそう言って、サーシャちゃんの手に3つの爆裂球を渡す。

 「無くなって、困っていたのじゃ。」

 サーシャちゃんはそう言ってにっこりと笑うと部下の元に走っていく。


 部下の所で、3個を部下に渡すと自らは腰のバッグから爆裂球付きのボルトを取り出す。…一杯持ってるぞ。

 「来まーす!」

 ガルパスの向うから、100人以上の傭兵が先を争うように押し寄せてきた。

 

 ドオォン…と【メルダム】が炸裂して紅蓮の炎が傭兵達を巻き込む。

 それでも炎の中を傭兵が飛び出してくる。


 傭兵に走りより長剣を刀の背で受止めると、回転してグルカで男の首を狩る。

 殺気を感じて刀を後に突き出すと、振り向きながら男の腹から刀を抜き出した。

 

 姉貴やディーみたいに舞うように刀を振る事は出来ないが、確実に倒す事は出来る。

 「お前にはみやびが無いのう…。」

 姉貴の祖父によく言われたけれど…それは悪い事ではない、とその後に言われた事を思い出した。

 

 数個の爆裂球が傭兵の中に投げ込まれ、炸裂が連鎖する。

 更に爆裂球付きの矢が傭兵に向って放たれる。

 アルトさん達が機動攻撃を開始したのだ。一撃離脱で矢を放つと素早く立ち去る。

 その攻撃をものともせず傭兵がガルパスを乗り越えようとした時、再び【メルダム】の爆炎が傭兵を襲う。


 火達磨になってガルパスを飛び越えてくる傭兵に亀兵隊の投槍が突き刺さる。

 既に矢を射つくしたようで、亀兵隊の全員が投槍で武装している。

 傭兵1人に2人掛かりで対処しているようだ。


 それでも傭兵は柵の切れ目であるこの場に集まってくる。

 屯田兵の弓兵が50人程何時の間にか俺達の後で援護を始めてくれた。

 ジュリーさん以外にも2人の魔道師が来てくれる。


 ガルパスの北東30m付近は、【メルト】が連続して炸裂する。

 倒れる傭兵の高さは何時の間にかガルパスの甲羅よりも高くなっていた。

 更に救援に駆けつけた100人の屯田兵が一斉に爆裂球を投擲して、その炸裂で互いの姿が一瞬見えなくなる。

 砂塵が薄れた時、あれ程いた傭兵の姿が消えていた。


 「傭兵が敗走していきます。」

 ネコ族の亀兵隊の1人が大声を上げる。

 ウオー!!俺達は誰ともなく大声で叫んだ。

 

 

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