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#184 バルバロッサ炎上

 

 段々と星の輝きが薄明の中に消えようとしている。

 夜中にネコ族に先導されて、敵第2梯団を構成する傭兵部隊への狙撃を行うために、南の部隊に近づいた。距離250mでガルパスの鞍に銃杷を当てて敵陣をスコープで睨む。

 数人の歩哨が陣の周りに立って警戒しているのは、俺達に対してではなく第1梯団の生き残りが彷徨っているからなのだろう。俺達も同じように獣を警戒している。


 タァーン!っという乾いた音が荒地の静寂を破る。そして、歩哨が1人その場に崩れ落ちた。

 続いて、2撃目を撃つ。…何事かと、敵陣が慌しく蠢き始める。

 その中で傭兵達に指示を発している人物を素早くスコープに入れると、トリガーを静かに引いた。

 何人かが、発砲音を頼りにこちらに駆けて来る。残り2弾をそいつらに素早く打ち込むと、少年の駆るガルパスに跨った。

 一気にガルパスが加速して先頭を走る。2人の傭兵に急速にガルパスが近づくとM29でマグナムを傭兵に打ち込む。

 そのまま、4人で混乱している敵陣に接近すると3個の爆裂球を陣に投げ入れる。後は南に進路を変えて逃走を図った。


 1km程荒地を駆け抜けたところで、進路を東に変える。

 敵第3梯団は天幕を張って野営中だ。20箇所を超える朝食を作る焚火の煙が、僅かな西風にたなびいている。

 ゆっくりと慎重に敵陣に近づくとガルパスを下りて、鞍にkar98の銃杷を押し当てる。

 距離は約300mだが、人混みを狙えば誰かに当るだろう。焚火の傍で鍋を掻き混ぜている人物の腹に狙いを定めて、静かにトリガーを引く…。

 タァーンっという音と共に標的が鍋に倒れこむ。鍋の中身が焚火にぶちまけられて、もうもうと白煙が立ち上り周囲が混乱し始めた。素早くボルトを操作して次弾を送り込む。そして、静かにトリガーを引く。


 「こちらに気付きました。急いで下さい。」

 エイオスが俺に怒鳴る。

 シーラムの駆るガルパスに跨ると同時に3個の爆裂球が投擲された。ドォン!っという連続音を立てて炸裂し、辺りに砂塵が舞う。

 俺達は南に3km程走って、遅い朝食を取る。


 周囲を監視しながら、硬い黒パンを水で喉に流し込む。少し丘陵になった場所だから周囲の見通しは良い。

 「5人にしては十分な戦果ですが、痛手にはならないでしょう。これが戦局に影響を与えるのでしょか?」

 「とんでもない影響を与えるよ。敵は見えない相手が荒地にいることを知ったんだ。そして、その相手は前方から襲ってくるとは限らないって分ったはずだ。対処するために歩哨は増やすだろうし、安心して眠れなくなるはずだ。…となれば士気はどんどんと落ちてくる。厭戦感が増した状態でバルバロッサを攻撃すれば莫大な損害を被るだろう。それが敵の指揮官に分れば、王都からの援軍を待たずしてこの戦は終ると思う。」

 エイオスの問いに俺は応えた。

 「倒す敵は10人程度でも、その影響は部隊全体に広がると言う事ですか。」

 エイオスの呟きに頷くと、銀のケースからタバコを取り出し、ジッポーで火を点ける。

 「もうちょっとしたら、再度傭兵を叩きに行くぞ!」

 俺の言葉に4人が力強く頷いた。

              ・

              ・


 俺達が帰ったのは昼過ぎだった。

 傭兵を叩いた後に、大きく南に進路を取ってから森に向かう。森の際を北上して、キーナスさん達の篭る陣に着いた。

 要害の直傍に高さ3m程の急造の監視台が立っており、3人の屯田兵が監視を行っている。


 焚火の何時もの場所に陣取ると、同じように座り込んでいるキーナスさんと目が合った。

 「傭兵と背後の正規軍の両方をかく乱してきました。」

 「無事で何よりじゃ。こっちは、変化が無い。アルト様達は地雷を仕掛けると出て行きました。」

 

 「バルバロッサより伝令がやってきまーす!」

 見張りの兵士が俺達に向かって叫んだ。

 この時間に伝令が来るということは…敵がうごいたのか?

 双眼鏡で砦の櫓を見ると、亀兵隊が投石器の天蓋を取外して発射の準備を始めており、櫓間の回廊にも沢山の弓兵が並び始めた。

 「始まりますよ…。」

 「いよいよか。」

 

 「アルト様、サーシャ様部隊帰陣しまーす!」

 俺達の会話に見張りの兵の大声が割って入った。

 敵の動きを見て急遽帰還したようだ。南北に砂塵が舞い上がるのが見て取れた。


 「伝令!…敵第2梯団、鶴翼陣で前進開始。敵第3梯団は鋒矢ほうし陣で前進開始。両陣の距離2M(300m)。」

 伝令の言葉を地面に薪の1本を使って描いてみる。

 2100の傭兵で砦を囲み、正面の柵を兵力の差で突破することを考えているようだ。

 となれば、早期に両翼の屯田兵を西の柵まで撤退しなければならないだろう。撤退後は砦の南北の柵に群がる敵兵を砦と連携して倒していけばよいのだが…。


 ドオオォン!っという炸裂音が連続する。投石器による集束爆裂球の攻撃が始まったようだ。続いて20発以上の炸裂音が重複して聞えてきた。

 

 「砦の亀兵隊達も頑張っておるようじゃな。」

 「あれを使ったと言う事は、1M(150m)付近まで来てるって事だ。次は、【メルト】と【メルダム】の嵐だな。」

 アルトさんが俺の隣に座る。サーシャちゃんはその隣だ。

 

 「我等はこの後、どうするのじゃ?」

 「そうだな。…屯田兵がもう直ぐ西の柵まで下がる。そしたら、北から攻撃してくれ。近寄らずに…200Dは離れた方がいい。矢を放って、近寄れば爆裂球だ。」

 砦から敵を引き剥がすのじゃな。了解じゃ。」

 アルトさんの問いかけに、応えるとサーシャちゃんがちゃんと意図を理解してくれた。


 「俺は、南から攻撃する。…キーナスさん。城から伝令があると思います。もし来るとすれば、増援の依頼ですから、その時は50人を率いて砦に向かってください。ここはミーアちゃんに任せてください。」

 「分かった。砦も大変じゃろう。我等は50人じゃが、砦にすれば十分な援軍じゃ。」

 キーナスさんは顎ひげを撫でながらそう言った。


 「両翼の屯田兵。西の柵に撤退して来まーす!」

 見張りの兵の大声が聞える。

 

 「では、我等は北より襲撃する。近寄らぬようにする故、心配は要らぬぞ。」

 そうアルトさんは言うと、サーシャちゃんを連れて後方に下がる。そこには2人の部隊が待機しているはずだ。

 やがて、ウォー!!っと言う雄叫びを残して砂塵と共に亀兵隊は北に向かって行った。


 「俺も出かけます。後をよろしくお願いします。」

 キーナスさんに頭を下げて、エイオス達の待つ後方に歩いて行く。

 「爆裂球の補充は終りました。直ぐに出ますか?」

 「夕方まで南から圧力をかける。行くぞ!」

 シーラムの駆るガルパスの後に跨ると、4体のガルパスは南に向けて走る。

 10M(1.5km)程南進して、今度は東方に向きを変えた。

 砦の東側まで見通せる場所までガルパスを進めて、今度はゆっくりと北に進む。

 敵の監視兵を警戒しての事だが、そんな兵は全く見つけることが出来なかった。砦に全力集中って感じだ。

 双眼鏡で状況を見ると、砦の東の柵に数個の梯子が掛けられている。

 しかし、梯子を上る兵は、砦の回廊に立った弓兵や魔道師達の矢や【メルト】の魔法で上れずに手をこまねいている。

 投石器の攻撃を避けるため、傭兵達は砦の柵に張り付いている。だが、そこは頭上からの爆裂球の攻撃範囲にあるようで、見る間に負傷者が増えているように思える。

 そして、一瞬の光の矢が敵陣に突き刺さる。

 ディーのレールガンによる攻撃は後続の正規軍を狙っている。狙いは正確だ。閃光が走るたびに10人近くの犠牲者が出ているに違いない。

 

 双眼鏡を仕舞うと、更に敵陣に近づく。距離約300mでガルパスを下りて、kar98の銃把をガルパスの鞍に押し付けて固定する。

 ボルトを操作して初弾をチャンバーに送ると、スコープを覗きT字を標的に合わせる。そしてゆっくりとトリガーを引く。

 タァーン!っという乾いた音が辺りに響いたが、敵は密集して砦に取り付いているから、全く気が付かない。

 ゆっくりと狙撃を継続すると、場所を変える。

 数回繰り返すと、最後は敵陣に近づき投石具で爆裂球を投擲して帰路に着いた。


 俺達が陣に着くと、ミーアちゃん達の部隊が見張り台に立っていた。

 焚火にはミーアちゃんがポツンと座っている。

 「ただいま。…キーナスさん達は砦なの?」

 「少し前に砦から伝令が来て出かけた。アルトさん達はまだ戻らにゃい。」

 

 俺はミーアちゃんに状況を説明した。地面に簡単な絵を描く。

 「…というような感じだ。敵第2梯団と第3梯団が南側に取り付いている。アルトさんはこっちから攻撃を仕掛けてるはずだ。俺はこの辺りから攻撃をしてたんだ。」

 「今夜の夜襲…。どこを叩くの?」

 「砦から連絡があるはずだ。それまでは休んでていいよ。」

 ミーアちゃんからお茶を貰い、一服を楽しむ。そして見張り台の上に上って、西の柵の状況を見る。


 西の柵には傭兵が近づかないようだ。柵から屯田兵が少し離れて、左右の柵共に弓で矢を放っている。

 相変わらずに炸裂音が聞えてくるが、爆裂球ではなく【メルト】のようだ。日が西にだいぶ傾いてきたので、敵側が少し引いたのかもしれない。

 日暮すれすれにアルトさん達が帰ってきた。

 疲れた姿で焚火の傍にやって来ると、ポットからカップにお茶を注いでフーフー言いながら飲み始めた。

 「だいぶ頑張ったようですね。」

 「北の柵はほぼ制圧したと言って良いじゃろう。じゃが、今晩にも南から回ってくるかも知れぬのう…。」

 「東側には梯子が何個かあったよ。南には無かったけどね。」

 「という事は、我等の方も殲滅したのではなく東に回ったと見るべきか…。」

 

 思わず2人で砦を見る。

 東の柵では熾烈な戦いが現在進行形で続いているのだ。砦の上には何時の間にか光球が数個浮んでおり、魔法攻撃の炸裂音が相変わらず此処まで響いてくる。

 

 「何じゃ、あれは?」

 サーシャちゃんの呟きに再度砦を見る。そこには敵軍から放たれる火矢が流星のように砦に降り注いでいる。

 「拙いぞ…拙いぞ…。至急、左右の屯田兵の指揮官を集めろ。」

 俺の言葉に俺達の後に控えていた亀兵隊が駆けて行く。

 「何が拙いのじゃ?」

 「砦が落ちる…。砦は木造だから火に弱い。そして落ちれば明日には此処が総攻撃される。」

 

 俺の言葉に周囲の者達の顔色が変る。

 やがて集まって来たのは、アイアスさんにガリクスさんだ。共に200人の屯田兵を率いている。

 焚火の周りに皆が集まったところで、俺は話を始めた。


 「バルバロッサを見てください。火矢の洗礼を受けています。あのままでは明日まで持ちそうもありません。ですから此処に急造の砦を作ります。砦と言っても柵を張り巡らすだけですけどね。今ある要害にそって杭を打ち、ツタで連結するだけでも十分です。ただし、柵は3重にしてください。柵の間隔は10D(3m)。柵の長さは150D(45m)以上欲しい所です。柵の間にも杭を打って柵とツタで結んでください。足が取られるだけで敵は勢いが無くなります。」

 俺の言葉が終るとガリクスさんが手を上げる。


 「柵については了承した。早速取り掛かる。…だが、砦の救出はしなくとも良いのか?」

 「今日、此処の屯田兵50人を率いてキーナスさんが砦に出かけました。負傷者の運搬や資材の運搬には20人の亀兵隊がいます。それでも足りなければ、アルトさんにお願いします。柵作りの警備はサーシャちゃんとミーアちゃんにお願いします。」

 

 ばたばたと皆がそれぞれの作業に取り掛かる。

 俺はジッと火の手が上がり始めた砦を見つめていた。

 すると、西の扉付近で点滅する光がある。


 (…EKUSODASU ENJYO KOU…)

 エクソダス エンジョ コウ…ってことは、全員退避って事かよ!しかも援軍を出せってどれだけ被害があるんだ!!


 「アルトさん。砦に急いでくれ。」

 後を振り返ってアルトさんに告げる間も無くアルトさんは自分の部隊に走って行った。

             ・

             ・


 「あ~ぁ…。私の城が燃えていく…。カサンドラの気持ちがよく判るわ。」

 俺の隣でバルバロッサが炎に包まれていくのを見て姉貴が呟いた。

 そんな軽口を言っているんだったら、姉貴はまだ大丈夫だ。この戦いを放棄していない。

 

 砦の部隊は100名以上居たけどそれ程酷い怪我はしていない。というか、【サフロナ】使いが2人もいるから、即死しない限り怪我で済んでいるみたいだ。

 20人の亀兵隊は嬢ちゃんずの部隊に再編されて29人ずつになった。5人は俺達の後で伝令役になっているけど、いざとなれば投石具で爆裂球を300D(90m)は投げられるから頼もしい存在でもある。

 

 広域探知の可能なディーがいるのもありがたい。敵の奇襲は事前に知ることが出来る。

 ジュリーさんの魔道師部隊もまだまだ十分に働けそうだ。アン姫の弓兵達も2人の犠牲者を出しているが残った者達の士気は高い。

 

 サーシャちゃん達の警戒する中、突貫工事で柵作りをしているが、果たして明日までに間に合うのかな。

 姉貴は、亀兵隊達となにやら話しながら荷車から荷を下ろしている。

 俺は、ショットガンにスラッグ弾を詰めて、ポケットにも弾を入れて置く。ついでに、装備ベルトにマグナム弾の弾丸ホルダーを装着した。爆裂球のポーチにもちゃんと5個入っていることを確認しておく。

 準備を終えると、燃え盛るバルバロッサをジッと見つめた。

 

 

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