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#181 第1梯団の攻撃 2nd

 

「エイオス行けるか!」

 バルバロッサの櫓の上で、こちらに手を振り北の方に腕を伸ばす弓兵を望遠鏡に捉えて、隣で戦いの全容を見ている亀兵隊の隊長に聞いた。

 「大丈夫です。アルト殿も頑張っておりますし、今日の戦がここで終っては顔向け出来ません!」

 では、…と言う事で、彼に攻撃方法を指示する。右の屯田兵200の部隊を森側から迂回してバルバロッサの北の柵に群がる獣を攻撃。攻撃方法は投石具で爆裂球を投擲する事。2回攻撃した後に屯田兵の前を掠めるようにしてここに帰還する。

 

 「どうだ?」

 「屯田兵と獣の間を掠めるのは楽しそうですね。当然獣側への攻撃は許可して頂けますよね。」

 「勿論だ。ガルパスの速度が速いから、爆裂球付きの矢を撃ちながら走り抜けた方がいいぞ。」

 それを聞くとニコリと笑ってエイオスは亀兵隊のところに走っていく。

 「亀兵隊が出るぞ!…要害を移動しろ!!」

 俺の怒鳴り声で、後ろに並ぶ弓兵が要害の撤去に走っていく。


 亀兵隊が後方から北に迂回していくのを見ていると、お茶の入ったカップが目の前に出された。

 受取りながら相手を確かめると、キーナスさんが同じようにカップを持って立っている。

 「全員無事です。あのように戦うなら持ち応えられますよ。」

 「もう直また来ますよ。今度は少し多いかも知れません。砦からの指示で亀兵隊をバルバロッサの北に送りました。砦はかなり苦労してるみたいです。」

 砦の投石器は3回程使われた後は動いていない。と言う事は、1M(150m)以内に獣が密集しているのだろう。個別に放つ【メルト】や【メルダム】それに爆裂球の炸裂音が疎らに聞こえてくる。

 現在までの攻撃の主流はガトルとカルートだ。スカルタは少し遅れているようだけど、スカルタは力があると聞いている。スカルタ襲来まで姉貴は爆裂球の温存を図っているようだ。


 キーナスさんとフェルミが俺の隣に来る。

 「左右の屯田兵が前進してます。このまま行けば持ち応えられるでしょう。」

 「兵の疲れと士気の維持が問題ですね。…これから夜を迎えますが、第1梯団の全部を倒すまでは敵の攻撃は終りません。獣使いは攻撃指示を出しますが、退却は指示しません。我々が第1梯団を全滅させるまで、この戦いが続きます。」

 

 「昼過ぎから続いていますが、どれ位倒したんでしょうか?」

 「1000体位でしょうかね。これから夜戦ですよ。焚火の準備と着替えを使って人形を10体位作ってくれませんか?…空から爆裂球を落とされる可能性があります。夜になったら我々は西に下がります。」

 キーナスさんの目配せでフェルミが後に下がっていった。弓兵を何人か捕まえて話し込んでいる。早速準備に入ったようだ。


 砦の右手からドォン、ドォン…と炸裂音が連続して聞えてきた。

 双眼鏡で砦の櫓を見ると弓兵が両手で頭の上に〇を作っている。目論み通りの攻撃が成功したようだ。そして、2回目の炸裂音が聞えてくると、砦の右手の柵の方向に砂塵が上がる。砂塵の前方向に数発の爆裂球が炸裂する。

 

 「来るぞ!…準備を急げ!!」

 俺の怒鳴り声に周囲の屯田兵が慌てて持ち場に戻っていく。

 砂塵を立てて亀兵隊がガルパスを駆っている。そして、その後には100匹程の獣が後を追っていた。

 要害すれすれに亀兵隊が前方を通過して、右に回り込むと俺達の後方に廻る。


 やってきた獣はガトルと鎧ガトルだ。ズン!っと鎧ガトルが要害にぶつかり、ガトルは要害を飛び越えようとジャンプする。

 ガトルが空中で槍串刺しになり、鎧ガトルは槍の石突きで横に薙ぎ払われると長剣で腹を突き刺された。

 素早く、3匹の鎧ガトルにスラッグ弾を打ち込んで、ポケットの弾を急いで装填する。

 弓兵が数個の爆裂球を獣の群れに投げ込むと、炸裂音が鳴り響いた後には動く獣の姿は無かった。


 エイオスが後から俺の傍にやって来た。

 「砦の周囲は獣の屍骸が山済みです。更に重なると厄介な事になりそうです。」

 「全員無事か?」

 「何人かが爪で傷をおっていますが、攻撃に支障はありません。」

 「次は夜戦だ。装備を整えて傷の手当てをしろ。弓兵に何人か【サフロ】を使えるものがいる。」

 エイオスが直ぐに後に下がっていく。

 

 「やはり、夜戦になりますか…。」

 「続きますよ。この状態で明日を迎えそうです。…所で、光球を使える者は、この部隊におりますか?」

 「私とフェルミが使えます。確か弓兵に使える者がもう1人いた筈です。」

 「夜間は欺瞞の焚火を焚きます。それで、襲撃が見えれば良いのですが、見えない場合は躊躇無く光球を放ってください。」

 

 だいぶ日が傾いてきた。

 フェルミを呼ぶと、交替しながら食事を取らせるよう指示を出す。

 「砦の櫓で何やら光っておるようじゃが…。」

 キーナスさんの呟きにつられて、砦を見ると…モールス信号だ。


(…TEKIHANGEN YASYUーNiTYUーI ARUTO・SA-SYANIGOーRYUーSEYO…)

 え~と…。テキハンゲン…ヤシューニチューイ…アルト・サーシャニゴーリューセヨ…後は繰り返しだ。

 焚火から燃えた枝を取ると大きく砦に向って振る。すると砦の光が消えた。俺が確認した事が判ったみたいだ。


 「砦から俺への指示でした。内容は、第1梯団の獣は半減したそうです。そして夜襲に注意せよと言っています。後は、アルトさんとサーシャちゃんがここに合流してきます。」

 「更に40人が増えるとは心強い。」

 「エイオスが今日やったことを、明日は3人がやるんですよ。とんでもなく忙しくなりますから、今夜は兵を十分に休ませてください。夜の見張りは5人ずつ出せば十分でしょう。」

 「判った。…だいぶ暗くなってきたが、そろそろ下げるのか?」

 「下げましょう。欺瞞用の焚火と人形を置いておいてください。」


 森の方に1M(150m)程下がると、小さな焚火を囲んでビスケットのような黒パンをコーヒーで流し込む。一切れのビーフジャーキーがおかずとは情けない限りだ。

 「アキト殿。ネイリーの上空に2個の光球が上がりました。」

 「砦の櫓に光が瞬かなければ、姉貴とアルトさんの作戦なんだろう。俺達への指示は砦からだけだ。砦に光が瞬いたら教えてくれ。」

 

 とは、言ったけれど…。アルトさん達がこっちへ来るってどういうことだ?

 確か、グレイさん達がネイリーに助太刀に行った筈なんだが…。

 タバコを掌で隠すように持って吸う。意外と夜はタバコの火は遠くからでも見える。しかし、食後の一服は捨てがたいし、コーヒーを飲みながらだと尚更だ。


 突然、砦の傍に一瞬の輝きが現れる。ビーン!っという高い音が聞えてきた。

 ディーのレールガンの発射音だ。直ぐに次の発射音が聞える。そして更にもう1発…。

 都合、3発を発射すると、砦を襲う獣の呻き声が低くどろどろと聞えてくる。


 今夜も月が出ない。満天の星空だ。

 適当に星座を作って楽しんでいると、砦の上空で爆裂球が炸裂した。

 右手の屯田兵の陣にも爆裂球が炸裂している。

 

 「焚火を消せ!爆裂球が落とされるぞ!!」

 用意してあった砂が焚火の上に被せられる。そして上空を見るが、何も見えない。

 気の流れを探り敵の場所を見つける。気の乱れが急速に俺達の方に2個近づいてくる。そして、前方の焚火の上で反転すると去っていく。

 ドォン、ドォン…っと焚火の周囲で閃光と炸裂音が響き渡る。

 どうやら、欺瞞は成功したようだ。それ以降、俺達に近づく気の乱れはない。

 ドドドォン!っと【メルダム】が砦の上空で炸裂すると、その後の炸裂音は無くなった。

 砦に何個の爆裂球が落ちたかは判らないけど、昨晩よりは遥かに少ない。そして、今夜落とされた大蝙蝠も何体かはあったはずだ。

 大蝙蝠の攻撃は少しずつ先細りになって行くだろう。その間、なるべく無駄な攻撃を砦の周囲の欺瞞陣地に仕掛けさせ、砦への攻撃を少なくしなければならない。

 

 「とりあえず敵は去った。焚火は絶やすなよ。」

 周囲の兵に告げると、急いで消した小さな焚火に再び火を点ける。

 傍にあるポットから温いお茶をカップに入れて飲む。

 「大活躍じゃな…。」

 聞きなれた声に振り返ると、アルトさんが立っていた。俺の隣に腰を掛けると、サーシャちゃんがその隣に座る。

 フェルミが急いで熱いお茶のポットとカップを運んできた。

 そして、焚火を挟んだ対面にキーナスさんと座る。


 「ネイリーはグレイに預けてきた。敵はネイリーには殆ど寄り付かぬ。あれならグレイ達だけで対処出来るし、イザとなれば脱出路がある。」

 ポツリポツリとアルトさんが話し始める。

 「我等はサーシャと共にひたすらドラゴンライダーを相手にした。隊に数人の【アクセル】持ちがおったのでそれで全員の身体機能を向上させて、車掛かりで投石具を使って奴等に立ち向かったのじゃが…。予想以上に素早い。」

 アルトさんは言葉を切った。サーシャちゃんも俯いている。


 「我等のガルパス程では無いが、それなりに即応できるのじゃ。100Dの距離で投擲した時には後続の兵が4人やられた。200Dで1人やられた。都合5人を失ってしもうた。…残念じゃ。」

 「後は弔い合戦じゃ。300Dで狙いは不正確じゃが、数を投げつけてどうにか半減まで持って行った。じゃが、その後の戦で更に3人を失ったのじゃ。」


 アルトさん達は敵の5割を減らす為に2割を失ったのか…。

 「しっかりしてくれ。敵は強大だ。犠牲をゼロには出来ないと思う。砦の方も空から爆裂球を落とされて少なからず被害が出ている。今日の敵第1梯団の一斉攻撃も、今は小康状態だが今夜の襲撃もあるはずだ。砦を背後から支えている屯田兵の被害も無視できない。戦はまだ始まったばかりだ。これから彼らの仇を討つ気持ちで望んで欲しい。」

 焚火を見ながら俺は呟いた。

 

 「そうじゃな。是が非でも敵は討たねばならぬ。サーシャ、明日も行くぞ!」

 「後、半分なんだね。…ミーアちゃんの知っている兵隊もいただろう…。今夜、仕掛ける!但し、全滅には出来ないから、後はアルトさんに任せるよ。」

 「夜襲か?我等も行けるぞ!」

 「いや。アルトさんは明日にしてくれ。ミーアちゃんの部隊は全員ネコ族だ。昼と同じように夜の荒野を見ることが出来るんだ。もうそろそろ起きだして来るだろうから、そしたら出掛けてくる。ゆっくり明日まで眠ってくれ。今日頑張っていた事はここまで聞えてきた炸裂音で判ってるよ。」

 

 アルトさん達は自分の部隊の休んでいる方に帰っていった。

 早速、LEDライトを取り出すと砦の櫓に向って信号を送る。

 (DRAIDA- NO ITISIRASE…)

 Dライダーノイチシラセ…何度か信号を送ると、点滅信号が送られてきた。どうやら了解して貰えたようだ。

 

 一服しながらジッと砦を見つめる。2本目のタバコを焚火に投げ入れた時、砦から返信が帰ってきた。

 (…TEKI DRAIDA- ITI TORIDE NANTOー 1.5K KAZU 163…)

 テキ Dライダー イチ トリデ ナントー 1.5Km カズ163…。LEDライトを3回点灯させて了解した事を知らせる。

 意外と近い場所にいるという事は、今夜の夜襲に参加する積もりなのだろうか。


 

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