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#180 第1梯団の攻撃

 

 バルバロッサ砦と森とは1.5kmほど離れている。俺が着任した急造の要害は砦の門に真っ直ぐ続く道路の上にあった。というか現在進行形で造っている。

 姉貴は半分の位置を指していたけど、どう見ても砦に近い。500m位の場所だ。

 

 要害は、道路の通行止めに使うような物で、2m位の丸太をX字に組み、2つのX字の交点を丸太を横にして縛り付けた物だ。それを砦に対して逆凹に配置している。1辺の長さは20m程あるから、70人は優に要害の中に入る事が出来る。

 

 作業場所の後方にある焚火に椅子代わりに並べてあった太い丸太に座ると、屯田兵と亀兵隊の隊長を呼んでもらう。

 やって来たのは初老と若者の2人組みに虫の羽のゴーグルを付けた若者だった。

 

 「お呼びによりやって来ました。屯田兵50を預かる、キーナスと副官のフェルミです。」

 「亀兵隊第4小隊のエイオスです。アキト殿には一度投石具でお世話になりました。」

 亀兵隊の隊長はネウサナトラムで訓練した20人の1人らしい。

 「亀兵隊の装備は分っているつもりだ。屯田兵50人の編成を教えてくれ。」

 「弓兵が20、槍兵が20そして長剣が10の編成です。私と隊長は長剣です。」

 「矢と爆裂球はどの位ある?」

 「弓兵は矢ケースに20本を持ち、60本入りの矢箱が5箱あります。爆裂球は1人2個を持ち、予備は150個です。」

 フェルミが応える。

 「我らの矢ケースには通常矢が10本、爆裂矢が3本。鞍の荷物袋に通常矢が20本、爆裂矢が5本です。爆裂球は全員5個ずつ持っています。」

 結構持って来ているみたいだ。俺は昨夜の襲撃で結構使ってるから残りは2個だけど。

 

 「指揮官殿の目論見は、バルバロッサの入口方向に廻った敵を背後から攻撃する事だ。実際の攻撃は亀兵隊の一撃離脱で行う。屯田兵は亀兵隊の後を追いかけてくる敵をここで殲滅することだ。」

 3人の顔をゆっくりと眺める。質問は無いようだ。


 「亀兵隊は要害の構築が終了したら、左右に地雷を仕掛けろ。そして、この焚火の後方に待機だ。エイオスは俺の傍にいてくれ。そして命令次第出動だ。」

 エイオスは頷くと、近くの亀兵隊を呼び寄せ何やら告げていた。


 「屯田兵は槍2人と長剣1人を1つの班にする。左右に2班、中央に6班だ。俺達は中央で待つ。そして弓兵は4人で1班だ。左右に1班、中央に3班だが、配置は長剣の後ろ10歩に位置しろ。…いいか、どれ程の敵が来ようとも1人で相手をさせるな。必ず班で当れ。」

 

 「我らは死兵と思っておりましたが、副指揮官殿を見てこれも作戦と納得致しました。更に班で相手に当れと命じられたのは初めてです。そのように戦えば強敵にも対処出来るでしょう。しかし、多数が同時に攻めて来た時は対応しきれないのではないでしょうか?」

 キーナスさんが俺に向かって問うた。


 「第1梯団の総数は約4000。全て獣です。これだけの数を1つの種で構成しているとは到底思えません。この春に起きた獣襲来でも4種の獣でした。その時に分った事ですが、一斉に突撃しても、獣の種類により走る速さが異なるために時間差が生じます。前と種類が同じなら1300匹の集団が3回に分けて砦を襲う事になり、砦は4方向に柵がありますから、1つの壁に押し寄せる獣は300から400という事になるでしょう。まして、ここは砦の真後ろです。更に少ない数になると思います。」

 

 「なるほど…どうも4000のみを私は考えていたようです。確かに敵の攻撃目標は砦でしたな。」

 キーナスさんは顎鬚を撫でながら、そう言って納得してくれた。

 「話は変りますけど…【アクセラ】を使える人はいませんか?」

 「残念ながら、おりません。【アクセル】と【サフロ】を使える者は数名いるのですが…。傷薬と毒消しは全員に持たせています。」

 【アクセラ】がないとちょっと不便だな。一度掛ければ半日は持つはずだから、ここはジュリーさんに頼んでみるか。


 「エイオス、砦に伝令を出してくれ。至急全員に【アクセラ】を掛けたい。魔道師を派遣されたし。…以上だ。」

 エイオスは直ぐに、自分の部隊に走って行った。

 「キーナスさん。魔道師が来たら全員を一箇所に集めて、【アクセラ】を掛けて貰ってください。身体機能2割増しは結構使えますよ」

 「分かった。」と力強く頷いた。

 「後は…申し訳ない話ですが、昨夜の襲撃に参加したんで寝てないんです。しばらく横になってますから、敵が来たら起こしてください。」

 呆れている彼らを尻目に、焚火の傍で横になる。今度起きた時は戦闘が始まるんだろうけどね。

             ・

             ・


 ユサユサと体を揺すられて、ボンヤリした頭で体を起こす。

 硬い地面に寝ていたからあちこちと体が痛い。大きく背伸びをすると、少しずつ頭が冴えてくるのが分かる。

 「どうした!」

 「伝令の知らせです。敵第1梯団移動開始。進軍は遅いが確実に前進している。とのことです。」

 「全員の【アクセラ】は終ってる?」

 「少し前に終了してます。全員を所定の位置に着けますか?」

 「まだ、早い。それより要害を作ったほうが良いだろう。確か、南東方向にはドラゴンライダーがいるはずだ。大きなトカゲに乗る槍使いだと聞いている。」

 

 シェラカップにスティクコーヒーをいれ、焚火の傍にあるポットからお湯を差す。砂糖は入れずにブラックだ。ついでにタバコを一服。

 砦を見ると結構な人数が櫓と櫓を繋ぐ回廊に上っている。

 双眼鏡を取出し様子を見ると、全員が東を向いている。武器も下げたままだから、まだ敵が砦からかなり離れているのが分かる。


 俺もショットガンを取り出して準備を始める。何が来るか分からないから、とりあえずスラッグ弾を纏めて装填しておく。ポケットにもスラッグ弾をたっぷりと入れて置く。

 銃剣をベルトに差しておけば取り出すのに苦労は無いだろう。

 

 再度、双眼鏡で砦を見る。

 今度は櫓の上にいる兵士が投石器を使う準備をしているのが見えた。

 そして、投石器の傍に立ち指示を待っているのが分かる。そして、投石器が黒い物体を前方に打ち出した。


 「来るぞ!全員を持ち場に着かせろ!!」

 俺は大声で怒鳴った。

 少し間が空いて、ドォン…っという低い音が連続で聞えてきた。集束爆裂球の炸裂音だ。そして砦を迂回するように黒い塊が砦の傍を通り抜ける。

 砦の周囲に設置した地雷が次々と炸裂している。

 櫓の上からは投石具で爆裂球が次々と黒い塊に投擲される。

 ドォン、ドォン…っと爆裂球が連続して炸裂する。炸裂音が止まらない。

 

 そして、砦の南側に大きな火球が広がった。あの大きさはディーの気化爆弾だろう。使いどころが難しいけど、獣の群れに向って放ったんだと思う。

 双眼鏡を覗くと、砦の上の兵士達は北側を見ている。南を見る兵士が余りいない。という事は、獣達は砦の左側を廻ってくるようだ。


 「エイオス。南から北に進みながら攻撃だ。とりあえず一撃を加えて来い。獣の速度が速いぞ。大丈夫か?」

 「問題ありません。では…。」

 そう言って彼は後に下がると、ガルパスに跨る。カチャカチャと爪音を響かせて亀兵隊が南に進んでいく。


 「こっちに来ますかね?」

 「少しは来るさ。そして今から攻撃を加える。良く見とけよ。」

 フェルミの問いにそう応えたが、俺の言葉が聞えたかはちょっと疑問だ。彼の目はバルバロッサに群がる獣の群れに釘付けになっている。

 砦の上から投げ落とされる爆裂球と【メルダム】の炸裂する音がひっきりなしに聞えてきる。


 そこに、右手からエイオスが率いる亀兵隊が急速に近づいている。

 砂塵を立ててガルパスを駆る姿は、勇壮だ。彼の初めての戦いだ。ここで部隊の無事を祈ろう。


 獣の群れは予想通り、ガトル、鎧ガトルそれにスカルタとカルートだ。

 スカルタは足が遅いから遅れてるけど、力が強いからな。

 亀兵隊の連中が右手でブンブンと投石具を振り回している。そして獣の群れに接触すると思った時に次々と投擲を開始して素早く遠ざかる。

 ドォン、ドォン…っと爆裂球が群れの中で炸裂するのを尻目に亀兵隊達は此方にガルパスを駆って来る。

 そして、亀兵隊達を数十匹のカルートが追いかけて来た。


 「来たぞ。可能な限り爆裂球は温存だ。たかが数十匹、槍と長剣で片付けろ!」

 大声で俺は怒鳴り声を上げる。

 「キーナスさん。屯田兵の指揮をお願いします。」

 「心得た。なるほど…こういうことか。フェルミ、遅れを取るなよ。」

 「大丈夫です。任せてください。」

 フェルミは俺より少し年が若いのかな。2人で並ぶとお爺ちゃんと孫に見えるんだけどね。意外とキーナスさんもフェルミを孫のように見てるのかも知れない。


 カチャカチャと爪が土を打つ音を響かせてエイオスが帰ってくる。

 素早くガルパスを横に並べて即席の要害を作る。そして、ガルパスが手足を甲羅に引き込むのを見ながらその先に丸太の要害を数人で運び始めた。

 肩から弓を下ろして矢を射る準備を済ませると、エイオスが俺に近づいてくる。

 

 「あんな所ですかね。全員無事です。再度出撃も可能です。」

 「上手く行ったね。でも、そのお土産がもう直ぐ来るぞ。後には廻らないとは思うけどそっちは任せるよ。」

 俺に礼をすると、自分の部隊に戻っていく。


 「来るぞ!構えろ。いいな、3人で当るんだぞ!!」

 ドン!っと鈍い音がする。思わず振り返ると、数匹のカルートが要害に体当たりしたようだ。たちまち槍兵がその腹に槍を素早く突き立てる。弱ったところに長剣が襲い掛かる。


 次の群れが要害に体当たりをすると、その後から次の群れが要害に倒れたカルートを上って襲い掛かろうとした時、槍兵の後方から20本の矢が飛んでいく。

 絶妙のタイミングはキーナスさんが指揮しているようだ。

 さらに上ろうとしていた2匹にスラッグ弾を素早く撃ち込んだ。


 そこに、爆裂球が飛ぶ。亀兵隊が投石具で投擲したようだ。次の群れに上手く当たると、この場所への攻撃は一段落したようだ。

 素早く周囲を確認する。


 左右から屯田兵の部隊が前進している。彼らに襲い掛かる獣の群れは乱杭に張られた地雷で接近に手間取っている。そして止まったところには【メル】と矢が襲い掛かっているようだ。

 南東方向に連続した炸裂音が木霊する。

 それは、何時までも何時までも続いていた。

 

 「何でしょうか?爆裂球の炸裂音でしょうが、あれ程連続して聞えるなんて…。」

 何となく分かったけど…とんでもない事をアルトさん達は始めたようだ。

 ガルパス40匹を使った車掛かり、狙いはドラゴンライダーだろうけど、無事な事を祈るばかりだ。

 その炸裂音は、俺が一服を終えるまで延々と続いていた。

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